

バンク角20度未満ではハンドル操作より体重移動が効きません。
バイクが一定速度で一定の円を描きながら走る状態を「定常円旋回」といいます。このとき、バイクには外側へ引っ張ろうとする遠心力と、内側へ押し込もうとする向心力が同時に働いており、この2つの力が完全に釣り合うことで安定した旋回が可能になります。
興味深いのは、バンク角が同じであれば遠心力もほぼ同じになるという点です。つまり高速で大きな半径を旋回している時も、低速で小さな半径を旋回している時も、バンク角さえ同じなら車体にかかる力は変わりません。これは遠心力が車両とライダーの質量、旋回半径、角速度の二乗に比例するためです。
バンク角が一定ということは、ライダーが余計なハンドル操作をしていないということでもあります。コーナリング中にフラフラする場合は、手に余計な力が入っている可能性が高いです。定常円旋回はスロットルもパーシャル(中間開度)で、速度が一定の時にきれいな円弧を描きます。
参考)【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを…
この物理現象を理解すると、サーキット走行だけでなく一般道でのコーナリングでも応用できます。タイヤのグリップを感じ取りながら適切な操作をすることで、雨天時の滑りやすい路面でも安定した旋回が可能になるのです。
元ヤマハエンジニアによる定常円旋回中のバランスと遠心力の詳細解説
バイクが曲がる際に重要な役割を果たすのが「キャンバースラスト」という横方向の力です。これはタイヤが傾くことで自然に生まれる力で、タイヤの外径は直進時が最大で、バンクするほど小さくなる特性を利用しています。
キャンバースラストの仕組みはこうです。路面が無ければアウト側に丸く軌跡を描くタイヤ表面が、実際には路面に押し付けられて無理矢理真っすぐにされます。弾性体であるタイヤに反発力が生まれ、タイヤを回転軸方向のイン側に押す力が発生するのです。
この横押しの力がキャンバースラストです。
バンク角が20度以下の低横G領域では、バイクの旋回はほとんどキャンバースラストによって行われています。これは体重移動よりもタイヤの傾きによる物理的な力の方が支配的であることを意味します。ラジアルタイヤはサイドウォールが柔軟なため、バイクをバンクさせてもサイドウォールが潰れるのが先で、キャンバースラストの効果が弱くなる傾向があります。
定常旋回中はこのキャンバースラストと遠心力が釣り合うまで車体は傾き続けます。アクセル操作がラフになると遠心力も変化するため、フラフラしたり最悪の場合は転倒することもあります。
スムーズなアクセルワークが基本です。
ブリヂストン公式によるタイヤの役割とキャンバースラストの解説
「セルフステア」とは、バイクが勝手に曲がろうとする自然な動きのことです。ライダーが意識的にハンドルを切らなくても、車体を傾けるだけで前輪が自動的に曲がる方向へ向くという二輪車特有の現象を指します。
参考)【質問箱】バイクの旋回について知っておきたい事とセルフステア
セルフステアが発生する流れはこうなります。車体が傾くと、車体の回転軸が左右に回ります。車体前方に接続しているフロントフォークへ車体の回転が伝わり、フロントフォークも同じ方向へ捻じれます。その結果、ホイール(タイヤ)がゴロンと横を向いて旋回が始まるのです。
参考)[バイクを倒す]ことで[セルフステア]を理解する - TEA…
後輪の傾きと曲がり方を追いかけるように、勝手にハンドル(前輪)が切れて旋回を強めていくというのがセルフステアの基本的な仕組みです。
この動きを邪魔すると危険な状況になります。
ハンドルを真っ直ぐ固定するとバイクを傾けても曲がれず、逆ハンドルを切ると曲がらないどころかバンク角がどんどん深くなり転倒してしまいます。
参考)ライテクをマナボウ ♯18 バイクはどうやって曲がっている?…
定常円旋回の練習では、このセルフステアを体感することが重要です。体重移動によって車体を傾け、前輪の接地点をイン側へ移動させると、重心三角形(前後輪の接地点と重心からなる三角形)と重力ベクトルにズレが生じ、バイクを引き起こすモーメントが発生します。
つまり旋回中のバランスが崩れます。
セルフステアを意識したライディングは、急な回避動作やタイトなコーナーでも有効です。バイクの動きに背いてハンドルを操作していないか、常に確認する必要があります。
ヨーモーメントとは、バイクが鉛直軸周りに回転しようとする力のことです。定常円旋回が成立するのは、前輪の横力が発生させるヨーモーメントと後輪の横力が発生させるヨーモーメントの釣り合いが取れた時、すなわちヨーモーメントが消失した時です。
この状態を「ニュートラルステア」といいます。一方、ヨーモーメントが消失しない時にはアンダーステアやオーバーステアという軌道の特性が生じます。アンダーステアの状態では後輪が優勢であるため後輪の横力を抑制して旋回を行い、オーバーステアの状態では前輪が優勢なので前輪の横力を抑制して旋回することになります。
定常円旋回中にバランスを変えたい場合、アウト側グリップを押すかイン側グリップを引くことで前輪の接地点をイン側へ移動させます。すると重心三角形と重力ベクトルにズレが生じ、バイクを引き起こすモーメントが発生するのです。
ジャイロモーメントもバランス制御に関係しています。前輪が回転していると、慣性モーメントと回転速度によってジャイロモーメントが発生し、車速が上がるほどバイクは安定します。モトGPで転倒してライダーを振り落としたバイクだけが走り続けるのも、前輪のジャイロモーメントによる二輪のプリセッション特性によるものです。
定常円旋回の技術を向上させるには、同じところを正確に廻り続ける練習が効果的です。一見単調に見えますが、ドライバーの操作の正確性が厳しく求められます。タイヤグリップを感じ取り、滑り過ぎたら調整し、スライドが止まりそうになったら対処するという繰り返しです。
実際のサーキット走行でもこの技術は役立ちます。雨天でタイヤグリップが低下した状態でも、定常円旋回の練習で培った感覚があれば、カウンターステアとアクセルコントロールで危機を脱することができます。結局のところ、タイヤを感じ取るドライバーに全てが委ねられているのです。
練習時の注意点として、アクセルコントロールが重要です。定常円旋回している時にアクセル操作がラフになると、それに合わせて遠心力も変化するため車体がフラフラします。スロットルをパーシャル(中間開度)で一定に保つことが基本です。
ライディングの上達には、ハンドル保舵トルク(ライダーがハンドルを保持している力)を適切にコントロールすることも必要です。コーナリング中にフラフラする場合は、手に余計な力が入っている可能性があります。リラックスした状態でセルフステアに任せることが、安定した定常旋回への近道です。
参考)山形自動車道(その3)
現代のバイクは強いブレーキでクルッと回る設計が多いですが、古いバイクでは定常旋回している時間が長めになる走り方の方が適しています。自分のバイクの特性を理解して、それに合った走り方を見つけることが大切です。まずは低速での小さな円から始め、徐々に速度と半径を変えながら感覚を掴んでいきましょう。
参考)定常旋回長い短いの話
ライド・ライク・ア・プロによる定常円旋回の実践トレーニング動画