

脱落防止爪を付け忘れると、走行中にクランクが抜けて転倒事故につながります。
クランクの外し方は、クランクの「種類」によって大きく異なります。使う工具も、手順も、まったく変わってきます。これが基本です。
現在のロードバイクで最も一般的なのが、シマノの「ホローテック2(ホローテックⅡ)」です。右クランクにシャフトが一体化されており、左クランクをボルト2本とキャップで固定する構造になっています。2000年代後半以降に発売された中級グレード以上のロードバイクは、ほぼこのタイプです。
一方、少し古いロードバイクや、エントリーグレードの完成車には「スクエアテーパー(コッタレス)クランク」が使われていることがあります。BBの四角いシャフトにクランクを圧入する仕組みで、専用の「コッタレス抜き工具」が必要です。工具なしで外そうとすると、クランクのテーパー穴を傷めてしまうので注意が必要です。
また「オクタリンク」や「ISIS」というタイプも存在します。シマノが過去に採用していたもので、8本または10本の溝がある特徴的な形状です。見た目がほぼ同じでも「コッタレス抜き工具」だけでは外せず、専用のアダプター(SHIMANO TL-FC15など)が必要になります。
まずはクランクを裏側から覗き、BBシャフトの形状を確認しましょう。四角ければコッタレス、シャフトが見えずクランクにボルトとキャップがついていればホローテック2です。種類を間違えると工具が無駄になるだけでなく、クランクを傷める原因にもなります。
| 種類 | 特徴 | 主な必要工具 |
|---|---|---|
| ホローテック2 | 現行主流。シャフトが右クランクと一体 | 5mm六角レンチ、TL-FC16 |
| コッタレス(スクエアテーパー) | 四角穴。古めのバイクや廉価グレードに多い | 8mm六角レンチ、コッタレス抜き(TL-FC10) |
| オクタリンク / ISIS | 多溝タイプ。古いシマノ・FSA製品 | コッタレス抜き+アダプター(TL-FC15) |
シマノ公式の工具情報はこちらも参考になります。
クランクの種類と対応工具について詳しく解説されています(ホーザン株式会社 メカニカルアドバイス)。
https://www.hozan.co.jp/mechanic/mechanical_advice/crank/page3.html
現行ロードバイクの大半を占めるホローテック2の外し方を、順を追って説明します。難しそうに見えますが、必要な工具を揃えれば初心者でも十分対応できます。
まず最初に、チェーンをインナートップ(フロント最小ギア×リア最小ギア)にシフトしておきます。チェーンのテンションが最も低い状態にすることで、クランクを外す際にチェーンが邪魔になりにくくなります。チェーンが張っていると右クランクを引き抜く際に引っかかり、フレームを傷つける原因になります。
ペダルを外す必要がある場合は、クランクを取り外す前に済ませておきましょう。クランクを外してしまうと、ペダルを外すときに十分な力が入らず、作業がやりにくくなります。これは意外と見落とされがちなポイントです。
次に、左クランクの根元にある2本の固定ボルトを5mmの六角レンチで交互に少しずつ緩めます。完全に抜く必要はありません。この「交互に少しずつ」というのが重要で、片方だけを一気に緩めると、クランクに偏った力がかかってシャフトを傷めることがあります。
ボルトが緩んだら、TL-FC16などのクランクキャップ外し工具を使ってキャップを取り外します。このキャップはベアリングの軸方向のガタを抑える役割があります。そのため、取り付け時に締めすぎるとクランクの回転が重くなりますし、緩すぎると走行中にカタカタとガタが出ます。適切なトルクは0.7〜1.5Nmで、指先だけで締める程度が目安です。
キャップを外したら、左クランクの根元の隙間にマイナスドライバーを差し込んで「外れ止めプレート(脱落防止爪)」を持ち上げます。これはシャフトにある溝に引っかかることで、クランクが走行中に抜けないようにする、安全上非常に重要な部品です。絶対に紛失しないように注意してください。
外れ止めプレートを持ち上げたら、左クランクを真横に引っ張って外します。スポッと外れるはずです。固くて外れない場合は、外れ止めプレートがまだしっかり持ち上がっていない可能性があります。
左クランクが外れたら、チェーンをBBのシェル部分に落としておきます。そのうえで右クランクのシャフトを左側から手のひらや、プラスチックハンマーで軽く叩いて押し出します。このときに金属ハンマーを使うと、BBのベアリングを傷めるリスクがあるので、必ずプラスチックハンマーを使いましょう。
シマノ公式のホローテック2着脱手順はこちらで確認できます。
初心者向けにホローテック2の取り外し〜取り付けまで写真付きで解説されています(jitensha.net)。
https://jitensha.net/remove-shimano-hollowtech-crank/
コッタレスクランクの外し方は、ホローテック2とはまったく異なります。「コッタレス抜き工具」を使った圧入解除の作業が中心になります。これが基本です。
まず、クランクの中心にあるボルトを外します。カバーが付いている場合はマイナスドライバーで外し、四角頭のボルトであれば14mmのボックスレンチ、六角穴のボルトであれば8mmの六角レンチを使います。ボルトを完全に取り外してください。
ボルトを外したら、コッタレス抜き工具(SHIMANO TL-FC10など)の外側(赤色部分)をクランクの穴にねじ込みます。ここで重要なのは「しっかりと最後までねじ込む」ことです。不十分なままで内側のネジを回すと、工具がクランクの穴ネジを舐めてしまい、以後一切工具が使えなくなります。この失敗は修理費用が数万円規模になることもあります。確認が必要です。
工具を正しくセットできたら、内側のボルトをモンキーレンチや工具付属のハンドルで時計回りに回します。回していくと、内側の部分がBBのシャフトを押し始め、圧入されていたクランクが少しずつ外側に押し出されてきます。ある程度のところで手で引っ張れば外れます。
コッタレス抜き工具は、アダプターを変えることでオクタリンク・ISISにも対応できます。シマノ製ならTL-FC10の内側にTL-FC15のアダプターをセットするだけです。複数種のクランクを扱う方は、セットで持っておくと便利です。
なお、コッタレスクランクはBBのシャフトに圧着されているため、取り付け後1〜2回の走行でボルトが緩むことがあります。初回走行後に一度増し締め(35〜55Nm)することが、シマノのマニュアルでも推奨されています。見落とされがちな工程です。
コッタレスクランクの種類と外し方について詳しくまとめられています(ちゃりすき)。
クランクを外したら、取り付け前のグリスアップが欠かせません。多くの人が省略しがちですが、ここを手抜きすると後々の異音や部品の早期劣化に直結します。
グリスアップが必要な箇所は主に4か所です。まず、BBに差し込む右クランクのシャフト全体。次に、左クランクを受けるシャフトの先端部分。そしてチェーンリングのボルトのネジ部分と、クランクの固定ボルトです。グリスがないと金属同士が直接擦れ、異音の発生やサビによる固着(場合によっては専用工具でも外せなくなる)を招きます。
グリスの種類はシマノ純正の「プレミアムグリス」が定番です。対候性・防錆性に優れており、ロードバイクのBB・クランク周辺の使用に最適です。価格は約700〜1,000円程度と手頃で、一度購入すれば長く使えます。これは使えそうです。
グリスアップはクリーニングとセットで行うのが正解です。古いグリスや汚れをパーツクリーナーで拭き取ってからグリスを塗り直すことで、本来の性能が発揮されます。実際に長期間メンテしていないBBを分解すると、グリスが黒く変質してドロドロになっていることも珍しくありません。
なお、グリスを塗る量も重要です。塗りすぎると余剰グリスがBB内部のシールを押し広げてしまい、かえってゴミや水分を引き込む原因になることがあります。薄く均一に塗り広げるのが基本です。目安は「シャフトの表面が軽く曇るくらい」です。
シマノのグリスアップ推奨箇所と、具体的な清掃手順が確認できます(ZoomROAD)。
https://zezz.jp.net/roadbike/maintenance/crank-washing
クランクを取り付けたあとの締め付けトルク管理は、走行安全性に直結する最重要工程です。感覚頼りの締め付けは危険です。
ホローテック2の場合、左クランク固定ボルトの締め付けトルクは12〜14Nmと指定されています。12Nmというのは「腕を水平に伸ばして指先でひと押し」くらいの力では足りず、しっかりと体重をかけるイメージです。
一方で締めすぎも禁物です。特にカーボン製フレームやクランクを使用している場合、オーバートルクはパーツのクラック(ひび割れ)につながります。カーボンは圧縮方向の荷重に強い反面、局所的な締め付け過多には弱い素材です。修理は最低でも数万円のコストがかかります。痛いですね。
クランクキャップ(固定キャップ)の締め付けトルクは0.7〜1.5Nmで、指先のみで締めるイメージです。このキャップはベアリングのガタを調整するためのもので、強く締めてもクランクが外れない補強にはなりません。むしろ締めすぎるとBBのベアリングに過大なプリロードがかかり、回転が重くなります。「ガタが出ないギリギリ」を探すつもりで調整するのがコツです。
取り付け後のチェックリストとして以下を確認しましょう。
トルクレンチがない場合は、目安として「感覚より気持ち弱め」で止めておき、走行後に緩みがないか確認する習慣をつけましょう。ただし、カーボンパーツを多用しているバイクでは、トルクレンチの使用を強くおすすめします。価格は2,000〜5,000円程度のコンパクトトルクレンチでも十分実用的です。
トルク値ごとの具体的なパーツ別一覧はこちらで確認できます(ジテハナ)。
https://calm.hana-mode.com/entry/torque
「クランクの脱着くらいはショップに任せた方が安心」と考えるライダーも多いでしょう。しかし実際にかかる費用を整理すると、自分でできるようになることのメリットは想像以上に大きいです。
一般的なサイクルショップでのクランク交換工賃は約2,640円(税込)です。加えてBB交換が必要になった場合は別途2,640円〜5,000円程度、チェーン交換まで含まれると工賃の合計だけで税込38,000円超になったケースも実際に報告されています(Y's Road調べ)。これはこのパーツ・工賃の同時発生が「点検を怠ったバイク」では現実によく起きるパターンです。
対して、自分でクランク脱着ができれば、工賃は0円です。必要工具の初期投資として5mm六角レンチ(約1,000円)、TL-FC16(約650円)、グリス(約800円)を揃えても合計3,000円程度です。2回やれば元が取れる計算になります。つまり自分でできると得です。
さらに自分でメンテすることで、「BBのグリス汚れ」「シャフトのサビ」「外れ止めプレートの損傷」といった異常を早期に発見できます。これらを放置すると、BB交換(部品代3,000〜10,000円+工賃)につながります。クランクを定期的に外す習慣は、バイク全体の寿命を延ばすことにもなります。
もちろん、作業に自信がない場合・カーボンフレームの高額バイクの場合は、迷わずショップに依頼することをおすすめします。工具の誤使用によるフレームへのダメージは修理費が桁違いになることがあります。
工具の初期投資はかかりますが、長く乗り続けるほど自分でできるメンテの範囲は広いほど有利です。クランクの脱着は、スポーツバイクメンテナンスの入り口として覚えておきたい技術のひとつです。
ショップ工賃と放置した場合の出費差については、こちらの実例が参考になります(Y's Road チャーリー店)。
https://ysroad.co.jp/charley/2021/09/18/113722

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