

カムギアトレーン搭載バイクのエンジン音は、実は騒音規制で「アウト」になる水準に近い。
カムギアトレーンとは、4ストロークエンジンにおいてカムシャフトを駆動するために、チェーンやベルトではなくギアを用いる方式のことです。一般的なバイクはカムチェーン(タイミングチェーン)を使ってクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝えていますが、カムギアトレーンはその名の通り「歯車(ギア)のみ」または歯車を主体とした機構で動力を伝達します。
チェーンやベルトは経年劣化で伸びたり切れたりするリスクがありますが、ギア駆動にはそのリスクがない点が最大の特長です。つまり寿命という面では優位性があります。
ホンダが国内市販バイクに積極採用した背景には、高回転エンジンへの適性がありました。CBR250FOUR(MC14)が1986年に250ccクラスで初採用し、その後ホーネット250(MC31)、CBR250RR(MC22)、VFR(RC36/RC45)、VTR1000 SP-1/2などに展開されました。レッドゾーンが18,000〜19,000rpmに設定されるような超高回転エンジンでは、チェーン駆動によるバルブタイミングの狂いが致命的になるため、精度の高いギア駆動が選ばれたのです。
現在、フル・カムギアトレーンを搭載する市販バイクはほぼ絶版となっており、現行のホンダ・CBR1000RR-Rにも採用されているのは「セミカムギアトレーン」という、一部にチェーンを組み合わせた方式です。純粋なカムギアトレーンは、現代では非常に希少な存在となっています。
参考:カムギアトレーンの仕組みと採用車種の詳細はこちら
カムギアトレーン - Wikipedia
カムギアトレーンの最もよく知られるデメリットが、独特の「ヒューン音」や「シュイーン音」と呼ばれるギア鳴りです。これはギア同士が噛み合う際に発生するメカニカルノイズで、電動モーターが回転するような独特の甲高い音です。乗り手にとってはこの音が「官能的なエンジンサウンド」として魅力にもなりますが、騒音規制の観点では深刻な問題になりました。
これが痛いところです。
日本の近接排気騒音規制は年々厳格化されており、現行の規制では250cc超のバイクで94dB(平成22年規制以降)以下という基準があります。カムギアトレーン搭載車のエンジンが発する機械音は排気音とは別にカウントされるため、マフラーをいくら静かにしても、ギア鳴り音自体が規制の壁を越えられなくなっていったのです。
5ちゃんねるのバイクスレでも「途中の騒音規制でカムギア音がうるさいから騒音抑える変更が入ってる」という証言が複数あり、ホーネット250の後期型はカムギア音がやや静かになる仕様変更が入ったという情報もあります。そして最終的に、ホーネット250は2007年に生産終了となりました。カムギアトレーンを捨てた理由が騒音規制にある、というのはライダーにとって知っておくべき事実です。
平歯車では騒音が大きすぎるため、市販車では斜歯歯車やシザーズギア(ホンダでは「せらしギア」と呼称)という複雑な機構が必要になります。コストと騒音の両方のデメリットが重なった結果、カムギアトレーンは市販バイクから姿を消していきました。
参考:バイクの騒音規制の変遷について詳しく解説
騒音規制の歴史と今後 - バイクの系譜
「カムギアトレーンは高回転時の馬力損失が少ない」という説明をよく見かけます。これは事実ではあるものの、日常の街乗りやツーリングでは話が変わってきます。
駆動損失が少ない順に並べると、チェーン駆動<ベルト駆動<ギア駆動の順になります。つまりギア駆動は三方式の中で最も駆動抵抗が大きいのです。
どういうことでしょうか?
カムギアトレーンでは複数の歯車が組み合わさっており、互いに逃げないよう押さえつける力(予圧)が必要になります。このため一般的なカムチェーン駆動と比べて駆動抵抗がかなり大きく、特に低・中回転域での常用域では、チェーン駆動バイクより燃費が落ちる傾向があります。高回転ほどチェーンのバタつきによる損失が増えるため、高回転では逆転する場面もあるのですが、街乗りでは低〜中回転が主体になるため、燃費面では不利です。
また、シザーズギアや斜歯歯車など騒音対策のための精密部品を使用するほど、フリクション(摩擦抵抗)の問題も増えます。つまりカムギアトレーン搭載バイクを日常的なペースで乗ると、エンジンが常に「余分な抵抗」と戦い続けているイメージです。
これは使えそうです。カムギアトレーン車のオーナーが「なんとなく燃費が良くない」と感じているなら、それは気のせいではなく構造上の理由が存在します。もし燃費改善を図るなら、エンジンオイルの粘度選択(低粘度オイルで摩擦を減らす)や、適切なウォームアップ走行が有効です。
カムギアトレーン搭載バイクのオーナーが最も見落としがちなデメリットが、維持・修理コストの高さです。
バイクの整備工賃一覧によれば、カムギアトレインの交換作業(エンジン脱着含む)の工賃だけで約21,500円が目安となっています。これはあくまでも「工賃」であり、部品代は別途かかります。
修理費用は高いです。
カムギアトレーン搭載バイクのエンジン関連整備では、複雑なギア機構を扱うため一般的なカムチェーン車より作業時間が長く、対応できる工場も限られます。特に生産終了から20年以上が経過したホーネット250やCBR250RR(MC22)のような車両では、純正部品の入手が困難になっているケースもあり、部品代が中古市場価格に左右されます。
例えば、ホーネット250(MC31)の中古バイクはヤフオクの落札相場が平均24万円程度(2026年2月時点)ですが、エンジンをフルオーバーホールしようとした場合、部品代と工賃を合わせると30万円〜70万円以上かかる可能性もあると専門家は指摘しています。中古車の購入価格を上回る整備費が必要になるケースも珍しくありません。
さらに、カムギアトレーン構造のエンジンはシザーズギア(せらしギア)など特殊部品を含むため、一般のバイクショップでは対応できないこともあります。整備を依頼する前に「カムギアトレーン車の整備実績があるか」をショップに確認することが重要です。
参考:バイクの整備工賃の目安一覧(カムギアトレイン交換含む)
詳細版バイクの整備・修理工賃一覧表 - allmaintenance.jp
カムギアトレーン搭載バイクを中古で購入する際に、多くのライダーが見落とす落とし穴があります。それは「エンジン音の正常・異常の判断が難しい」という問題です。
カムギアトレーンの独特のヒューン音は正常な状態でも大きいため、初めてこのエンジンを経験するライダーが「これが普通の音なのか、それとも異常なのか」を判断するのは非常に困難です。購入時に「この音は大丈夫ですか?」とショップに確認しても、経験の浅いスタッフでは正確に答えられないことがあります。
CBR250RRの旧型(MC22)に乗った経験者によれば、「カムギアトレインの音が2ストエンジンが焼き付いた時の音にも似ているので、知らないと"やっちまったか!?"と思わせる紛らわしい音」と表現しています。つまり、この音に慣れていない人ほど「異音かどうか」の判断ができず、本当の不具合を見逃すリスクがあります。
意外ですね。
また、長期放置された個体では、ギア機構にオイル切れによる磨耗が進んでいる場合があります。外見上では問題がわからないため、エンジン始動後の音を複数回確認すること、できれば走行試乗を行うことが必須です。カムギアトレーン車に詳しい専門ショップに事前診断を依頼するのが、購入前の最善策といえます。
VFR400R(NC30/NC24など)の中古相場は程度良好で20〜39万円ほどですが、エンジン整備が必要になれば追加で数十万円のコストが発生します。購入前に維持費の総額を計算して判断することが原則です。
参考:カムギアトレーン搭載のCBR250RRの中古相場と注意点
CBR250RR(MC22)の中古バイク 相場が気になる!カムギアトレーンの駆動音が独特