

高速走行ほど安定すると思われがちですが、キャプサイズモードでは逆に高速域で不安定になります。
キャプサイズモードは、バイク車体が非振動的に傾斜して転倒する物理現象です。振動を伴わないため、固有振動数はゼロとなります。この現象は、バイクの直進安定性に影響を及ぼす3つの基本モード(キャプサイズ、ウィーブ、ウォブル)の1つとして、1971年にSharpによって初めて提唱されました。
最大の特徴は速度依存性です。低速域では安定していますが、高速域では不安定になる傾向があります。
つまり低速が基本ですね。
参考)https://www.cit.nihon-u.ac.jp/laboratorydata/kenkyu/kouennkai/reference/No.44/pdf/1-35.pdf
この現象を理解しておくと、高速走行時の車体の不安定な動きに対して適切な対処ができるようになります。特にツーリングで高速道路を利用する際、車体が徐々に傾いていく感覚を覚えたら、キャプサイズモードの影響を疑う必要があります。
低速域と高速域では、キャプサイズモードの安定性が真逆になります。低速(例えば時速20km以下)では車体のロール運動が安定しており、ライダーが意図的にバランスを崩さない限り転倒しにくい状態です。一方、高速域(時速100km以上)では車体系の非振動的なロール運動が不安定化し、わずかな外乱でも傾斜が増幅される可能性があります。
速度が上がるほど危険ですね。
この速度依存性は、タイヤの横滑り特性やジャイロ効果、車体の慣性モーメントなど複数の物理要素が複雑に絡み合って生じます。ライダーのフィードバック制御によって安定化させることは可能ですが、ゲインが小さい場合には制御されたキャプサイズモードも不安定となります。
参考)https://zenn.dev/tzykimura/articles/16f37b753e4636
高速道路で車体が不安定に感じたら、まず速度を落として安定域に戻すことが重要です。無理に高速を維持しようとすると、制御が追いつかずに転倒リスクが高まります。また、適切な車間距離を保つことで、急な操作を避けられ、キャプサイズモードの影響を最小限に抑えられます。
ウィーブモードは、ヨーとロール運動が連成した振動モードです。固有振動数は1~4Hzで、車速の上昇とともに振動数も大きくなります。中速から高速域で問題となり、車体全体がゆっくりと左右に揺れるような動きが特徴です。
参考)https://www.cit.nihon-u.ac.jp/kouendata/No.43/1_kikai/1-043.pdf
ウォブルモードは主に操舵系が単独で振動する現象で、6~10Hzの高い周波数を持ちます。高速域で安定性が低下し、ハンドルが細かく左右に振動する「ハンドルシミー」として体感されます。タイヤの横滑りに対して力の発生が遅れる「緩和長」という特性が、このモードの再現に重要な役割を果たします。
どちらも高速が危険です。
これら3つのモードは独立して発生するのではなく、車速や車体剛性、タイヤ特性などの条件によって互いに影響し合います。例えば、ステアリングダンパーの係数を調整すると、ウォブルモードの安定性は向上しますが、過度に強化するとウィーブモードが不安定化する可能性もあります。
バイクの異常な振動を感じたら、まずどのモードが発生しているかを判断することが大切です。ゆっくりとした揺れならウィーブモード、ハンドルの細かい振動ならウォブルモードを疑い、速度調整やライディングフォームの見直しで対処できます。
キャプサイズモードによる転倒は、車体が徐々に傾斜していく非振動的なプロセスです。突然のスリップとは異なり、時間をかけて傾きが増幅されるため、初期段階では気づきにくいことが特徴です。高速域では、わずかな路面の凹凸や横風などの外乱が引き金となり、車体系のロール運動が制御不能になります。
気づいたときには手遅れです。
物理的には、車体の重心高さ、慣性モーメント、タイヤのキャンバースティフネス(傾斜に対する復元力)のバランスが崩れることで発生します。Sharp論文によると、前タイヤのキャンバースティフネスは211lb/rad、後タイヤは298lb/radという具体的な数値が示されており、これらの値が不適切だとキャプサイズモードの安定性が損なわれます。
転倒を避けるためには、高速走行時に車体が片側に傾く兆候を感じたら、すぐに速度を落とすことが鉄則です。また、タイヤの空気圧管理も重要で、適正値から外れるとキャンバースティフネスが変化し、キャプサイズモードが不安定化しやすくなります。定期的なタイヤチェックで、空気圧を適正範囲(例:フロント250kPa、リア290kPa程度、車種により異なる)に保つことが予防策になります。
車体剛性の最適化が、キャプサイズモードの安定性向上に効果的です。フレームの曲げ剛性や捩り剛性を調整することで、各モードへの影響度合いをコントロールできます。ただし、剛性を高めすぎると他のモードが不安定化する可能性もあるため、バランスが重要です。
バランス調整が条件です。
ステアリングダンパーの係数調整も有効な手段です。Sharp論文では5lb・ft・s/radという数値が示されていますが、この値を適切に設定することでウォブルモードを抑制できます。ただし、過度に強化するとライダーの操舵入力に対する応答性が低下し、かえって危険な場合もあります。
ライダー自身の制御技術も安定性に大きく影響します。適切なフィードバックゲインで操舵制御を行えば、制御されたキャプサイズモードを安定化できますが、ゲインが不適切だと逆効果になります。これは練習で上達するため、サーキット走行などで自分の操作特性を把握しておくと良いでしょう。
日常的な対策としては、タイヤの状態チェックが欠かせません。摩耗したタイヤはコーナリングスティフネスやキャンバースティフネスが低下し、キャプサイズモードだけでなく全てのモードの安定性に悪影響を及ぼします。溝の深さが1.6mm(スリップサインの高さ)に達する前に交換することで、安定した走行特性を維持できます。
また、高速道路走行前には、車体各部のボルトの緩みチェックも行いましょう。フロントフォークやスイングアームの取り付け部分が緩んでいると、車体剛性が低下してキャプサイズモードが不安定化する原因になります。
参考リンク(二輪車の直進安定性解析に関する学術資料)。
日本自動車研究所 研究データベース - 二輪車の運動安定性
参考リンク(バイクの転倒対策に関する実践的情報)。
モリバイク - サーキット走行での転倒対策