

ただ膝でタンクを強く挟み続けると、上半身まで力んで逆効果になります。
ニーグリップとは、バイクにおける基本的な乗車姿勢のひとつで、膝・太もも・くるぶしといった下半身全体を使ってタンクやフレームをホールドすることです。「ニー(Knee)=膝」という名前から「膝だけで挟む動作」と思われがちですが、本質的な目的は下半身を安定させることにあります。
なぜ下半身を安定させる必要があるのか、という理由がポイントです。ライディングでは「肩の力を抜いて」と言われますが、下半身でしっかり体を支えられていない状態でハンドルから力を抜くと、そのままずり落ちそうになります。結果として腕に力が入り、ハンドルをギュッと握ってしまいます。つまりニーグリップは、上半身の脱力を実現するための「土台」です。
上半身が脱力できると、バイクが持つ「セルフステア」という仕組みを活かすことができます。セルフステアとは、バイクのタイヤ断面が丸いため、車体が傾くと自然にハンドルが切れて旋回する物理的な特性のこと。ハンドルをガチガチに握ったままではこの動作を妨げてしまうため、コーナリングが不安定になります。ニーグリップが基本と言われるのはそのためです。
ニーグリップで体がホールドできれば、加減速で生じる前後方向の力を下半身で受け止められます。これができないと腕でハンドルを突っ張って耐えることになるので、さらに上半身が疲れるという悪循環に陥ります。下半身ホールドが基本です。
バイク専門誌25年のキャリアを持つジャーナリスト・小川勤氏も「下半身ホールドは上半身から力を抜くためのもの」と説明しています。ニーグリップと下半身ホールドは言葉が異なりますが、目的は同じで、ニーグリップは下半身ホールドに含まれる一要素と捉えるのが正確です。
バイク教習でも最初に教わる内容ですが、「膝でタンクを強く挟む」という誤解が広がっているのが実情。この誤解が、後述するような力みや疲労の原因になっています。
クシタニ ライテクをマナボウ「下半身ホールドとニーグリップって何が違うの?」|バイク専門誌編集長によるニーグリップと下半身ホールドの違いを詳しく解説
正しいニーグリップにおいて、まず見直したいのが「座る位置」です。多くのライダーが「前に座るほどしっかり挟める」と思い込んでいますが、これは逆効果。シートの前寄りに座ると、タンクの後端で股を押し広げられてしまい、膝の内側とタンク側面の間に大きな隙間ができます。正しい位置は、タンク後端からコブシひとつ分(約5〜10cm)後ろに座ることです。コブシひとつ分ずらすだけで、膝の内側がタンク側面にしっかりフィットします。
次に「力の加減」ですが、ここで多くの人がつまずきます。「ニーグリップをしっかり!」という指示に従い、走行中ずっと膝に力を込め続けるライダーが多いのですが、これは大きな誤解です。常に強く閉め続けると疲労が蓄積するのはもちろん、全身に力が入り上半身まで力んでしまいます。日常的な公道走行では、つま先を真っ直ぐ向けた自然な姿勢で膝が「ふんわり閉じている」程度でOKです。
強く意識して閉める場面は限られています。具体的には、強いブレーキング時(前に体が持っていかれるのを防ぐ)、低速走行時(バランスを取りやすくする)、コーナリングで腰をずらすとき(アウト側の足でしっかり支える)などです。状況に応じて力を強弱させるのが原則です。
「つま先の向き」もニーグリップの見落とされがちなポイントです。つま先が外側に向いていると、膝は自然に開きます。逆につま先を真っ直ぐ、もしくはわずかに内側に向けると、膝が自然と閉じた状態になります。膝が勝手に開いてしまうという方は、まず「つま先の向き」を意識するだけで改善するケースが多いです。これだけ覚えておけばOKです。
くるぶしを車体に密着させることも重要です。くるぶしの内側をステッププレートやフレームに隙間なく当てると、自然と足全体が車体に密着し、力を込めなくても安定したホールドが生まれます。ニーグリップは膝だけでなく、くるぶし・太もも内側・膝の内側という3点を車体に密着させるイメージで行うと効果的です。
Bike Life Lab「バイク運転の基本『ニーグリップ』のやり方と効果までを徹底解説!」|ニーグリップのやり方・力の入れ方・スクーター対応まで詳しく解説
ニーグリップの効果は「車体が安定する」という一言に集約されがちですが、実際にはもっと具体的なメリットが3つあります。
① 車体が安定しコーナリングが楽になる
下半身でしっかりバイクをホールドできると、ハンドルから力が抜けます。腕の力が抜ければセルフステアが機能しやすくなり、バイクが「自然と曲がる」状態を引き出せます。コーナーで腰をずらす場面でも、アウト側の太ももでタンクをしっかり押さえられるため、体重移動がスムーズです。コーナリングが自然になります。
② ツーリングの疲労が大幅に減る
ニーグリップができていないライダーは、加減速のたびにハンドルを突っ張って体を支えます。腕→肩→首の順に力が入り続けるため、長距離ツーリングで「なぜか上半身がバキバキに疲れる」という状態になります。下半身ホールドで体を支えられると、この悪循環が断ち切れます。ツーリング後の疲れ方が明らかに変わります。いいことですね。
さらにグリップを押したり引いたりする力も減るため、手首の痛みも軽減します。お尻への負担も下半身の筋肉で分散されるため、シートからの圧力が軽くなるという副次効果もあります。
③ 体幹に自然と力が入り姿勢が整う
これは意外と知られていない効果です。太ももで何かを軽く挟むと、自然と腹筋(体幹)にも力が入ります。腹筋に力が入ると骨盤が安定し、正しい乗車姿勢が保ちやすくなります。バイク乗りに多い「腰痛」の予防にもつながる重要なポイントです。ニーグリップが腰痛対策になります。
骨盤が安定した姿勢は、長時間乗っても身体の特定部位に負荷が集中しにくくなります。身体への負担という観点からも、ニーグリップは「知ってると得する」技術のひとつです。
BikeJIN「【これだけ!】"ニーグリップ筋"を鍛えよう!」|ニーグリップと内転筋の関係・腰痛・手首痛との関連を詳しく解説
ニーグリップに最も使われる筋肉は「内転筋(ないてんきん)」です。内転筋とは太もも内側にある表層筋のことで、膝を閉じる動作を担います。日常生活ではあまり使わない筋肉のため、意識的に鍛えることでニーグリップの質が格段に上がります。内転筋強化が条件です。
内転筋が弱いと、長距離走行の後半で膝がじわじわ開いてきて、気づけば下半身ホールドが崩れてしまいます。そのまま走り続けると上半身で体を支える状態に戻ってしまい、疲労が蓄積します。特に長時間のツーリングで体の使い方が崩れてくるライダーは、内転筋の弱さが原因のケースが少なくありません。
自宅でできる代表的なトレーニングを3つ紹介します。
週3〜4回を目安に継続することで、1〜2ヶ月程度で効果を実感できます。特にワイドスクワットはバイクのタンクを挟む動きに近いため、ニーグリップの感覚とセットで身につきやすいです。
ニーグリップの補助アイテムとして「ニーグリップパッド(タンクパッド)」も効果的です。タンクの膝が当たる部分に貼り付ける滑り止めで、軽い力でもしっかりホールド感が得られます。実はMotoGPのワークスマシンの多くもニーグリップパッドを使用しており、トップライダーがどれだけニーグリップを重要視しているかがわかります。これは使えそうです。タンクを傷から守る効果もあるため、一石二鳥のアイテムです。
モトメガネ「ツーリングで疲れないバイクの乗り方」|プロが教えるニーグリップとつま先の向きの関係・疲れにくい姿勢づくりを詳しく解説
ここまでニーグリップの重要性を解説してきましたが、「ニーグリップが必要ない、または物理的にできない」場面も存在します。これを知っておくと、下半身ホールドの本質がより深く理解できます。
まずスクーターやカブです。これらはタンク形状(またはフレーム構造)の関係で膝でタンクを挟む動作ができません。この場合は「くるぶしグリップ」が代替手段になります。くるぶしの内側をフレームやボディに密着させることで、ニーグリップに近い下半身ホールドの効果が得られます。コーナリングでのホールド性も向上します。全くホールドしないよりもはるかに安定感が増します。
アメリカン(クルーザー)タイプのバイクも、ステップが前方に突き出した姿勢のためニーグリップは不向きです。この場合は足を突っ張る力とお尻・腰をシートに押し付ける力を組み合わせて、ニーグリップと同じ効果を得ます。形は違っても「下半身で安定させる」という本質は変わりません。
オフロード走行では、状況によってニーグリップよりくるぶしグリップが適切とされています。スタンディングフォームで走行する際は膝でタンクを挟めませんが、くるぶし(足首)でフレームをグリップすることで安定感が生まれます。ニーグリップを行うと身体の可動域が制限されるため、悪路では逆効果になる場面があります。これは例外です。
MotoGPライダーが「片足を開いてニーグリップをしていない」ように見える場面がありますが、これも誤解です。外側の膝でタンクを押し、ステップを蹴り出す力と組み合わせて下半身を安定させています。形式的なニーグリップではなく、より高度な下半身ホールドを行っているということです。
つまり「ニーグリップ=膝でタンクを挟む」という行為にこだわる必要はなく、下半身でバイクをホールドして上半身を脱力させるという目的を達成できる方法を選ぶことが重要です。車種・場面・走行スタイルに合わせた下半身ホールドが理想です。
| 車種・シーン | 推奨されるホールド方法 |
|---|---|
| スポーツバイク・ネイキッド | ニーグリップ(膝・太もも・くるぶし) |
| スクーター・カブ | くるぶしグリップ |
| アメリカン | 足突っ張り+シート押しつけ |
| オフロード(スタンディング) | くるぶしグリップ |
| コーナリング(腰ずらし) | アウト側の太もも・膝でホールド |
教習所・ライスクの指導員による「正しいニーグリップの仕方」|膝以外でのホールド・常時強く閉める必要がない理由・つま先の向きとの関係を詳しく解説

デイトナ(Daytona) PROGRIP(プログリップ) バイク用 ニーグリップパッド 220×155mm 5020D 3枚セット 98014