

出走164人中、完走はたった30人——あなたが思うより、この大会は「生き残りゲーム」だった。
2025年のUCIロードレース世界選手権は、9月21日から28日の8日間、東アフリカのルワンダ共和国首都キガリで開催されました。1927年の初開催から数えて第98回大会にして、大会史上初めてアフリカ大陸での開催となったことは、世界の自転車ファンだけでなくルワンダ国民にとっても歴史的な出来事でした。
大会のスローガンは「Riding New Heights(新たな高みを目指して)」。"Land of a Thousand Hills(千の丘の国)"という別名を持つルワンダの地形を、そのままレースに落とし込んだ意欲的なコース設計が特徴です。
注目の男子エリートロードレースのコースは、全長267.5kmという長丁場です。1周15.1kmのローカルサーキットを9周した後、中盤で42.5kmの大周回(拡張サーキット)を1周。そこには全長5.9km・平均勾配6.9%の「モン・キガリ(Mont Kigali)」と、全長0.4km・勾配約20%という石畳の激坂「ミュール・ド・キガリ(Mur de Kigali)」が含まれていました。再びローカルサーキットに戻り6周して勝負を決するレイアウトで、獲得標高は5,475mに達しました。
東京ドームのマウンドから見上げると高さは約50mですが、キガリのコースの獲得標高5,475mというのは、富士山(3,776m)を1.4倍以上超える累積登坂量です。ツール・ド・フランスでも屈指の山岳ステージで2,000m前後であることを考えると、この数字がいかに異次元かが伝わるはずです。
さらに、キガリは標高1,800m前後の高地に位置しているため、空気の薄さも加わります。単純な体力勝負では済まない過酷さが、スタート前から指摘されていました。
以下に大会スケジュールをまとめます。
| 開催日 | 種目 |
|---|---|
| 9月21日(日) | 女子・男子エリート個人タイムトライアル |
| 9月22日(月) | 女子・男子U23個人タイムトライアル |
| 9月23日(火) | 女子・男子ジュニア個人タイムトライアル |
| 9月24日(水) | チームタイムトライアル・ミックスリレー |
| 9月25日(木) | 女子U23ロードレース |
| 9月26日(金) | 男子ジュニア・男子U23ロードレース |
| 9月27日(土) | 女子ジュニア・女子エリートロードレース |
| 9月28日(日) | 男子エリートロードレース(メインレース) |
キガリは「千の丘の国」という名の通り、平坦な直線がほとんど存在しない地形です。下った勢いのまま次の坂を登れるような設計ではなく、短い回復区間を挟んで次の急坂が連続するレイアウトで、プロ選手でも「脚が終わる」展開になります。
2025年サイクルロードレース選手名鑑など最新情報が詰まった専門誌も、観戦の助けになります。
UCIの公式ページでは、コース詳細や出場選手情報を確認することができます。
UCI公式サイト:2025 UCI Road World Championships(コース・日程・公式情報)
大会を語る上で外せないのが、圧倒的な存在感を放ったタデイ・ポガチャル(スロベニア)です。大会1週間前の9月21日に27歳の誕生日を迎えたばかりで、2025年7月にはツール・ド・フランス通算4度目の総合優勝を達成したばかりでした。
実はポガチャルは、同大会の個人タイムトライアル(9月21日)で4位に終わり、ベルギーのレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)に完敗していました。調子を落としているのではという見方もありましたが、ロードレースでは調整が万全だったことを本人がコメントしています。これは見逃せない情報です。
ポガチャルのライバルたちの布陣も確認しておきましょう。
欠場が相次いだのも、この大会の難コースと渡航コストの高さが理由の1つです。アフリカのルワンダという地理的条件から、渡航費用や移動時間を考慮して派遣を見送る国も出ていたほどです。
つまり「出場するだけでも体力的・金銭的ハードルが高い大会」だったということです。
J SPORTSでは大会の見どころや選手プロフィールを詳しく解説しています。
J SPORTS:サイクルロードレース今月のみどころ 2025年9月(大会プレビュー・各国選手情報)
9月28日、現地時間の午後に267.5kmの男子エリートロードレースがスタートしました。57カ国から164選手がキガリの地に集結しました。
レースが最初に大きく動いたのは、中盤の拡張サーキットに入った「モン・キガリ(ゴールまで残り109.9km)」でのことです。スロベニアチームのドメン・ノヴァクが起爆役となり、そこからポガチャルが高強度でアタック。勾配20%近くに達する最急勾配区間でエヴェネプールが遅れ、付いていけたのはチームメイトのアユソとデルトロだけでした。
続く石畳の激坂「ミュール・ド・キガリ」でアユソも先頭から脱落し、残り99.7kmの時点でポガチャルとデルトロの2人体制に。残り90km強の時点では、追走グループに44秒差をつけていました。
そしてゴールまで残り66.6km、デルトロが胃のトラブルで失速。ここからポガチャルの単独独走が始まりました。66kmという距離を1人で走りきるのは、通常のロードレース感覚では考えられない展開です。1分差を守り続け、最終的にポガチャルが6時間21分20秒(平均時速42.089km)でゴール。見事な連覇を達成しました。
結果を確認しましょう。
| 順位 | 選手名 | 国 | タイム差 |
|---|---|---|---|
| 1位 | タデイ・ポガチャル | 🇸🇮 スロベニア | 6:21:20 |
| 2位 | レムコ・エヴェネプール | 🇧🇪 ベルギー | +1:28 |
| 3位 | ベン・ヒーリー | 🇮🇪 アイルランド | +2:16 |
| 4位 | マティアス・スケルモース | 🇩🇰 デンマーク | +2:53 |
| 5位 | トムス・スクジンス | 🇱🇻 ラトビア | +6:41 |
| DNF | 留目夕陽 | 🇯🇵 日本 | 途中リタイア |
ポガチャルが2年連続で世界王者の証「マイヨ・アルカンシエル」を手にしたことで、2025年はツール・ド・フランスとの二冠を達成。同じ年にツール・ド・フランスと世界選手権を制する二冠を2回達成したのは、かつてベルギーの「食いしん坊」エディ・メルクスが1971年と1974年に成し遂げただけで、ポガチャルはその記録に並ぶ歴史的成果を残しました。
また、2026年はカナダのモントリオール、2027年は再びフランス・サランシュ(過去最少完走者20人を記録した伝説のコース)での開催が決まっており、ポガチャルの3連覇に向けた戦いにも注目が集まります。
サイクルスポーツの公式ページに詳しいレポートがあります。
サイクルスポーツ:2025 UCIロード世界選 男子エリートはスロベニアのポガチャルが連覇(公式リザルトと詳細レポート)
日本代表チームからは、男子エリート・ロードレースに留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)、男子U23に橋川丈、男子ジュニアに成田光志の3名が出場しました。
「日本の出場枠は1人だった」という点は、改めて理解しておく価値があります。世界選手権ロードレースは、UCIワールドチームやプロチームではなく「国別代表チーム」で争われるレースです。各国のUCI国別ランキングに応じて出場枠が配分される仕組みで、日本は当時の国別ランキングの位置から男子エリートは1名のみが出場権を持ちました。
留目夕陽選手は、日本人唯一のUCIワールドチーム(EFエデュケーション・イージーポスト)所属選手として選出されました。世界最高峰のチームで日々プロ選手として戦っている23歳の若手です。しかし、レースは途中でリタイア(DNF)という結果に終わりました。これが実力の限界ではありません。
世界トップ選手たちでさえ、164人中134人がリタイアまたは完走できなかったレースです。出走自体がすでに世界トップクラスの証明であり、今大会で得た経験は次世代の日本自転車ロードレース界の宝といえます。
男子U23の橋川丈選手も、石畳区間を冷静に走りきったものの、残り3周を残してオーバータイムによりリタイアに。男子ジュニアの成田光志選手は、キガリ特有の排気ガスや砂埃により現地到着後から体調が万全でなく、本来の力を発揮できないままリタイアとなりました。
3選手とも結果としてはリタイアですが、初のアフリカ開催という特殊な環境でのスタートライン立ったことは、次のステップへの大きな糧です。来年以降のカテゴリーアップと活躍が期待されます。
JCFによる公式大会レポートはこちらから確認できます。
日本自転車競技連盟(JCF):2025年ロード世界選手権 ルワンダ大会 公式レポート(日本代表の詳細な戦績)
ここまでの内容を読んで、「自転車の話は分かったけど、自分はオートバイ乗りだから…」と感じた方もいるかもしれません。でも少し待ってください。バイク乗りだからこそ、このレースに深く共感できるポイントが実はたくさんあります。
まず「マイヨ・アルカンシエル」の話から始めましょう。フランス語で「虹色のジャージ」を意味するこのウエアは、UCI世界選手権の優勝者だけが1年間着用できる特別なジャージです。どのレースに出場してもこのジャージを着ることが義務づけられており、世界中のファンはアルカンシエルをまとった選手を見かけるたびに「あの人が世界チャンピオンだ」と分かります。
これはバイクのMotoGP世界チャンピオンが「#1」ナンバープレートを翌シーズンも付ける習慣と本質的に同じです。プロレーサーが「世界最強」の証を全身にまとって走る——その誇りと緊張感は、バイク乗りならばきっとイメージできるはずです。
今大会でのポガチャルの走りは、まさに孤高の独走でした。残り66kmを1人で駆け抜けたというのは、「残り66km」の感覚が分かる人ほど驚けます。これは東京から足柄サービスエリア(東名高速)まで一気に走りきる距離です。バイクで走れば休憩なしで45〜50分かかる距離を、プロ選手はひたすら全力で漕ぎ続けたわけです。鳥肌が立ちますね。
また、獲得標高5,475mというコースの厳しさも、バイクで峠を走る方なら分かりやすく伝わります。標高差のある峠として知られる乗鞍スカイライン(麓から約1,500m上がる)を約3.5回分登り続けるような累積標高です。しかも267.5kmのロングライドの中でそれをこなすのです。
世界選手権はグランツール(ツール・ド・フランスなど)と違い、ステージを重ねる耐久戦ではなく1日だけのワンデーレースです。その1日に全てをかけた選手たちの戦いは、ある意味でレースの「純粋さ」を体現しています。
バイク乗りが普段から磨いているコーナーのライン取りや路面読み、集中力の継続——そういった感覚と、プロレーサーの「身体でコースを読む力」は根っこが同じです。だからこそ、このレースを見ると何かが刺さります。
観戦やリザルト確認には、シクロワイアードが定評ある情報源です。
シクロワイアード:ロード世界選手権2025(開催概要・リザルト・特集記事まとめ)