サスペンションの圧縮とバイクの物理現象を理解する

サスペンションの圧縮とバイクの物理現象を理解する

サスペンション圧縮の物理現象

加速時にリアサスは沈まず伸びている

この記事のポイント
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スプリングと減衰力の役割

サスペンション圧縮時にスプリングが衝撃を吸収し、減衰力がその動きを制御する物理メカニズムを解説

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圧縮側と伸び側の減衰力

圧側減衰と伸側減衰が路面追従性と安定性に与える影響を具体的に説明

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プリロードの誤解と真実

8割のライダーが勘違いしているプリロード調整の本当の意味と正しい設定方法

サスペンション圧縮時のスプリングの働き


バイクのサスペンションが路面からの衝撃を受けて圧縮される瞬間、スプリングは物理的にエネルギーを蓄積しています。路面の突き上げでスプリングが縮むと、そのエネルギーはスプリング内部に位置エネルギーとして保存されるのです。


参考)サスペンションの減衰に、なぜ伸び側と圧側があるのか?【ライド…


この蓄積されたエネルギーが次に問題を引き起こします。スプリングは縮んだ後に伸びて元に戻ろうとしますが、単に1回伸びるだけでは終わりません。スプリングには伸びた後に再び縮もうとする性質があるため、何度も伸び縮みを繰り返してしまうのです。


参考)[バイクのメカニズムQ&A] サスペンションの減衰…


この繰り返しの振動は、ライダーにとって非常に危険な状態を生み出します。サスペンションがトランポリンのように弾む状態になると、タイヤの路面接地が不安定になり、操縦性が大きく損なわれます。


想像してみてください。


時速100kmで走行中にバイクが跳ねるような挙動を示したら、コントロールを失う可能性が高まります。


参考)https://www.goobike.com/magazine/ride/technique/6/


この物理現象を理解することが基本です。


スプリングだけでは衝撃吸収後の安定性を保てないため、次に説明する減衰力という仕組みが必要になってきます。


参考)【くるま問答】減衰力で操縦安定性を高める。スプリングと対で足…


サスペンション圧縮における減衰力の仕組み

スプリングの振動を抑えるのがダンパー(ショックアブソーバー)です。ダンパーはオイルを使った物理的な抵抗を生み出し、スプリングの伸び縮みにブレーキをかける役割を担っています。


ダンパーの内部構造は意外とシンプルです。筒の中にピストンが入っており、ピストンが動くとオイルが小さな穴を通過する際に抵抗が発生します。この抵抗力を「減衰力」と呼び、サスペンションの動きをコントロールしているのです。


減衰力には圧縮側(コンプレッション)と伸張側(リバウンド)の2種類があります。圧縮側減衰は路面の衝撃を受けてダンパーが縮む際の抵抗を生み、伸張側減衰はスプリングが反発してダンパーが伸びる際の抵抗を制御します。


参考)第三章:減衰力とセッティング - セイクレッドグランド【SA…


サスペンションの減衰力調整の詳細解説(RIDE-HI公式サイト)
減衰力を強くするとオイルの通る道が狭くなり、サスペンションの伸縮が遅くなります。逆に減衰力を弱くすると、サスペンションは素早く伸び縮みできるようになります。


つまり減衰力調整が鍵です。


体重が40kgの軽量ライダーと100kgの重量級ライダーでは、必要な減衰力設定が大きく異なります。国内メーカーのバイクは体重65~75kg程度を想定した設定になっているため、この範囲から外れる場合は調整が必要になります。


参考)加速でリアは沈まない~アンチスクワット~ - バイクの系譜


バイク加速時のリアサスペンション挙動

多くのライダーが誤解している現象があります。加速時にリアサスペンションは沈むと思われがちですが、実際には伸びようとする力が働くのです。


参考)『アンチスクワット』について 加速でリアサスは沈まない 


この現象は「アンチスクワット」と呼ばれる物理原理によるものです。タイヤが前に進もうとする力と、車体がその場に留まろうとする力がぶつかり合います。この2つの力の衝突により、スイングアームピボット(後輪の支点)を上に押し上げる力が発生するのです。


具体的な例で考えてみましょう。ウィリーをしているバイクの写真を見ると、リアサスペンションが伸びきっているのが確認できます。これは加速によってリアが持ち上がる力が働いている証拠です。


参考)Reddit - The heart of the inte…


アンチスクワット現象の詳しいメカニズム解説
もしリアサスが沈んでしまうと、前に押す力が上下方向の力としてサスペンションに吸収されてしまいます。


それでは効率的に前進できません。


バイクの設計者はこの物理現象を理解し、加速時にリアが適切に働くようジオメトリーを設計しています。


結論はリアサスは伸びるです。


ただし、実際の挙動は速度、バンク角、ライダーの荷重、スキル、バイクのジオメトリーなど様々な要素で変化します。タイヤやチェーンの摩耗具合でも変わるため、一概には言えない複雑さがあります。


サスペンション圧縮とプリロード調整の真実

8割のライダーが誤解しているのがプリロード調整です。「プリロードをかけるとサスペンションが硬くなる」と考えている人が多いですが、これは大きな勘違いです。


プリロードとは、サスペンションのスプリングにあらかじめかける初期荷重のことです。プリロード調整は車高を決めるための機構であり、ストロークのスピードを決めるダンパーとは別の機能を持っています。


プリロード調整で変わるのは、バイクに跨った際のサスペンションの初期縮み量です。プリロードをかけると、その分だけバネの縮み量が少なくなりリアの位置が高止まりします。


参考)バイクのリアサスペンションセッティング【理論編】 プリロード…


数値で説明すると分かりやすいです。サスペンション全ストロークの1/3程度が適正なサグ(乗車時の沈み込み量)とされています。例えば全ストローク120mmのサスペンションなら、約40mm(名刺の長さくらい)沈むのが理想的です。


プリロードをかけていると縮みしろが多いため、走行中に大きな荷重がかかってもしっかり受け止めます。しかし伸びしろは少ないので、大きな荷重がかからない時はサスがあまり動かないセッティングになります。


バイクサスペンションの正しいセッティング手順(グーバイクマガジン)
車高を決めるのが役割です。


体重がメーカー想定範囲(65~75kg)よりも軽い場合、サスペンションが十分に働かず、道路のギャップを越えた時に急激な衝撃を受けるリスクがあります。逆に重すぎる場合はダンパーが縮み切り、底付き状態になります。


サスペンション圧縮の圧側減衰調整と走行性能

圧側減衰(コンプレッション減衰)は、もともと基本的に必要とされてこなかった機能です。サスペンションの圧縮側の動きは、スプリングの反発力でほとんど作動を抑えていたからです。


参考)圧側減衰について リアサスペンション🛵


それがなぜ必要になったのでしょうか?
理由は2つあります。1つ目は、サスペンションが吸収できるエネルギーをより大きな荷重まで対応させるためです。2つ目は、路面追従性という性能をさらに追求するためです。


圧側減衰の働きを理解するには、ショックを吸収している瞬間をイメージすると良いです。バネが力を受け流してタイヤにかかる荷重を逃がしている状態です。そこで減衰力を加えると、沈み始めから抵抗力が出てタイヤを地面に押し付けることができるようになります。


具体的な効果として、バンク初期から倒し込みが安定するようになります。コーナリング中に路面の凹凸に遭遇しても、圧側減衰がしっかり効いていればタイヤの接地感を保ちやすくなるのです。


路面追従性が向上します。


ただし、圧側減衰を極端に強くしすぎると問題が起きます。低速側圧縮回路の通路が閉じてしまい、オイルが移動できなくなってダンパーシャフトが動けなくなります。しかし瞬間的に大きな力が加わると、高速側圧縮減衰回路の蓋が開きオイルが移動してストロークできるようになります。


参考)よくわかる高速側圧縮減衰、低速側圧縮減衰 (多分、きっと):…


サーキット走行などスポーツ性の高い走行では、圧側減衰の調整機構が装備されたサスペンションが一般的です。街乗りメインのライダーでも、走行シーンに合わせて調整することで、より快適で安全な走りが得られます。


サスペンション圧縮時のキャビテーション現象

サスペンションが縮む際に、内部で意外な物理現象が起きています。


それがキャビテーション(気泡の発生)です。



参考)見た目はフツーのバイク用フロントフォーク、でも中身は特許取得…


フロントフォークが縮むとロッド下端にあるバルブが下がり、油圧が高まることで固定バルブの穴が開きます。減衰をしながら筒内にある外側部分に油圧が逃げていく仕組みです。


この現象には問題点があります。サスペンションの作動に対して、必要となる減衰力の発生に若干の遅れが生じるのです。簡単に言えば、衝撃を受けた瞬間とダンパーが実際に効き始めるまでにタイムラグが存在します。


実験で確認できます。筒先を指で塞ぎ、ピストンを引くと負圧がかかった内部にキャビテーション(気泡)が発生するのが見えます。この気泡がオイルの中に混入すると、減衰力の特性が変化してしまいます。


フロントフォークの特許技術とキャビテーション対策(モーターファン)
気泡発生が課題です。


この現象を解決するため、一部の高性能サスペンションでは特許技術を使った対策が施されています。リザーバー付きのリアショックユニットでは、ダンパーシャフトの容積分のオイルがフローティングピストンを押し上げ、充填された気体(窒素や空気)を圧縮する構造になっています。


フローティングピストンは、オイルと気体を分離する可動式の隔壁です。この仕組みにより、オイルと気体が混合せず、安定した減衰力を発生させることができます。リアショックもフロントフォークも基本構造は同じ原理で動いています。





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