

トルクが大きくても、実は加速が遅いバイクがあります。
モーメントは「回転能」とも呼ばれ、物体を回転させる能力を数値化したものです。バイクにおけるトルクは、ピストンの往復運動をクランクシャフトで回転力に変換する力を指しており、軸を中心にして捻るときにかかる力そのものといえます。
カタログでは「kg・f」または「N・m」という単位で表され、軸の中心から1メートルの位置に何キロ(何ニュートン)の力がかかるかを示しています。例えば、自転車のペダルを踏む力を想像すると分かりやすく、体重50キロの人がペダルを踏むときの力がトルクにあたります。
参考)トルクとパワーの違い|六壱(ロクイチ) @RokuichiR…
つまり回転の瞬発力です。
バイクでは、トルクが大きいほど「タイヤを回す力が強い」ことになり、出だし(加速)が良い、登坂力があるという特性につながります。同じ力の大きさでも、その力を加える点を支点から遠いところに持ってくるほど、トルクは大きくなるという物理法則があります。
野球のバットの端と端を2人で握って反対方向に回そうとすると、負けるのは細い方を持っている人です。バットの軸中心の気持ちになって考えると、太い方から回される力が強いことが想像できますね。
参考)トルク(モーメント)と動力(馬力)の関係を簡潔に、数式を使わ…
「トルクが大きいほど加速性能は良い」というのは理論上間違いないのですが、問題は「最大トルクの発生回転数」にあります。高回転で最大トルクを発生するように設定されているエンジンは、その必要回転数に満たない低回転域では、その大きなトルクの効果が得られないのです。
馬力(出力)は「トルク×回転数×定数」で求められ、継続して出せる力(持続力)を表します。トルクが瞬間的な力(瞬発力)を表す値であるのに対し、出力(馬力)は持続力を表すというイメージです。
参考)パワーとトルクの違いがわからん!! - 【公式】CLUB H…
馬力が加速の鍵です。
低回転で最大トルクを発揮するバイクは、発進や街中での走行に余裕があり扱いやすさにつながります。ただし、高回転域で十分なトルクが得られにくいため、出力の伸びは控えめとなりやすく、最高速も比較的低い回転で発揮されるため、高速域での速度の伸びには限界があります。
参考)バイクのスペックにある「最大出力」と「最大トルク」の意味
一方で、高回転域で最大トルクを発揮するバイクは、回転を上げるほどに出力が伸びやすく、スピードを出しやすい特性を持ちます。しかし低回転では出力が比較的薄く、発進や街乗りではスペック上の数値ほど力強さを感じにくい傾向があるのです。
高回転型の直列4気筒エンジンは中回転域(4000〜5000rpm)で巡航すると燃費が良くなる傾向があり、低すぎる回転数では効率が落ちるため適切なギア選択が重要です。低中回転域でトルクが太いV型2気筒や単気筒エンジンは2500〜3500rpm程度の低めの回転数でも効率良く走行できます。
バイクが走行中に倒れないのは、回転する車輪が生み出すジャイロ効果によるものです。ジャイロ効果とは、回転している物体をある方向へ傾けようと力を加えると、その方向とは違う向きへ傾こうとする現象のことを指します。
速度が出ているうちは車輪が回ることでジャイロ効果が働いて安定していますが、低速になるほどジャイロ効果は弱まり最後は倒れてしまいます。ジャイロ効果の強さは回転するスピードに比例するため、漕ぎ出しの瞬間や停止直前が一番ふらつきやすいのは、ホイールの回転数が足りず十分なジャイロ効果が発生していないからです。
参考)Lesson13/低速バランス “白バイ流” 究極の安全運転…
低速ほど不安定になります。
実は、低速走行時においては「トレール効果」の方がジャイロ効果よりもバランス維持に大きく貢献していると言われています。トレール効果とは、バイクが傾くとハンドルが自然と傾いた方向に切れ、遠心力が生まれて車体を起き上がらせる力が働く現象です。
| 速度域 | 主な安定要因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 低速(漕ぎ出しなど) | トレール効果 | ハンドルの切れ角でバランスを補正 |
| 中速〜高速 | ジャイロ効果 | 回転の慣性で車体を垂直に維持 |
走り出しの不安定な時はフレームの設計(トレール)が助けてくれ、スピードに乗ってからはホイールの回転(ジャイロ)が直進性を高めてくれるという二段構えの安全構造になっています。特にスポーツバイクでは、この両方のバランスが緻密に計算されて設計されており、それが「走る楽しさ」や「安心感」に直結しているのです。
低速バランスの練習をする際は、ジャイロ効果が弱まる領域での操作技術が求められます。極低速(例えば一本橋)でジャイロモーメントが小さく、バイクを安定させるには積極的なハンドル操作とバランス感覚が必要です。
バイクのエンジンがクルマのエンジンと比べて高回転型であることには明確な理由があります。多くのクルマでは低回転時のトルクが重視される一方、多くのバイクでは最高出力が重視されているからです。
ヤマハのスーパースポーツ「YZF-R1M」では147kW(200PS)/13500rpm、カワサキ「Z900RS SE」では82kW(111PS)/8500rpm、クルーザーのホンダ「レブル250」でも19kW(26PS)/9500rpmと、クルマに比べて非常に高回転型のエンジンであることが分かります。
バイクは高回転型です。
街中でも頻繁にシフトアップして3000〜4000回転くらいで走るのがオススメです。それ以上回すとドンと加速してスピードが出過ぎ、そこでアクセルを戻すとエンジンブレーキが強く効き、ギクシャクした走りになってしまいます。
参考)ライテクをマナボウ ♯17 回転数とギヤの選び方 バイクは低…
5〜6000回転は高速道路の追い越し加速など、高いスピードで走っている時に強い加速力が欲しいときに使う回転域です。ずっとこの回転を維持するのではなく、追い越しが終わったら低回転域に戻すのが基本です。
高回転型エンジンは低回転域でのトルクが弱いため、急な加速が必要な場面を予測し、あらかじめダウンシフトしておくなど先読み運転が重要になります。高回転型エンジンは適切なギアを選択することで性能を発揮するため、状況に応じて積極的にシフトチェンジを行い、常に適切な回転域を維持しましょう。
回転数によってエンジンの効率が大きく変わるため、タコメーターを確認しながら走行することが、燃費向上だけでなく安全運転にもつながります。3000〜4000rpmを基準に、場面に応じてギアを選ぶ習慣をつけると良いでしょう。
慣性モーメント(イナーシャ)とは、回転運動における「動きにくさ」を表す物理量です。回転運動の式は「T=Iα」で表され、Tがトルク、Iが慣性モーメント、αが角加速度となります。
参考)慣性モーメント(イナーシャ)とは?公式と求め方を具体例で解説…
この式から、物体の回転を速くする(角加速度を大きくする)ためには、慣性モーメント(I)が大きいほどより大きなトルク(T)が必要であることが分かります。つまり、バイクの車輪やエンジン内部の回転部品が重いほど、それを回転させるために必要なトルクが増大するのです。
慣性が抵抗になります。
ホイールが小さい分、回転による「姿勢を保とうとする力」が控えめになるため、ハンドル操作に対する反応が非常にクイックになります。少しハンドルを切っただけで車体が敏感に反応するため、街中の路地裏や人混みを縫って走るようなシーンでは、その旋回性能の高さが強みとなるのです。
二輪車には安定性を支配すると言われている2つの振動現象があり、中高速での走行中にはステアリングトルクやセルフアライニングトルク、転がり抵抗モーメントなど複数のモーメントが作用しています。これらのバランスによって、バイクの操縦安定性が保たれているわけです。
モトGPなどで転倒してライダーを振り落としたバイクだけが走り続けるのは、ジャイロモーメントによる安定効果が働いているためです。逆に極低速(例えば一本橋)でジャイロモーメントが小さく、バイクを安定させるには積極的なライダーの介入が必要になります。
軽量化されたホイールやエンジン部品を選ぶと、慣性モーメントが小さくなり、同じトルクでもより素早く回転が上がるようになります。これがカスタムパーツ選びで「レスポンス向上」と言われる効果の物理的な根拠なのです。