
燃料噴射装置(FI:フューエルインジェクション)は、従来のキャブレターに代わる現代バイクの心臓部とも言える重要なシステムです。このシステムは燃料を最適なタイミングと量でエンジンに供給する役割を担っています。
基本的な構成要素は以下の4つに分けられます。
従来のキャブレターシステムと比較すると、燃料噴射装置は電子制御によって燃料と空気の混合比を精密にコントロールできるため、燃費の向上や排出ガスのクリーン化に大きく貢献しています。
特に4ストロークエンジンの場合、吸気、圧縮、膨張、排気の工程が比較的明確に分かれているため、理論的に最適な燃料噴射量を計算しやすいという特徴があります。一方で2ストロークエンジンの場合は、各工程が重なり合うため燃料噴射の制御が難しくなります。
現代のバイクでは、スロットルバルブの開度に応じて空気の流入量が決まり、それに合わせてECUがインジェクターの開閉時間を制御することで最適な混合気を作り出しています。
バイクの燃料噴射装置でもっとも多いトラブルの一つがインジェクターの詰まりです。長期間の使用や低品質の燃料使用、また長期間の放置によって発生しやすくなります。
インジェクター詰まりの主な症状
例えば、シャドー750のケースでは、インジェクターの詰まりによって始動できなくなったという事例が報告されています。また、750ターボのケースでは、4番気筒のインジェクターが噴射せず、1気筒だけ爆発しないという症状が発生しました。
インジェクターの詰まりを診断するには、以下の手順が有効です。
VOXの事例では、燃料ポンプは動いているにもかかわらず燃料噴射しないという症状が発生しました。この場合、インジェクターノズルを取り外して噴射状態を確認することで問題を特定できました。
燃料噴射装置のもう一つの重要な構成要素が燃料ポンプです。このポンプはガソリンタンク内に設置されており、燃料を一定の圧力でインジェクターに送る役割を担っています。燃料ポンプの故障はバイクの走行不能に直結する重大なトラブルです。
燃料ポンプ故障の主な症状
特に近年の燃料ポンプは耐久性に問題があるケースも報告されており、VOXの事例では「2万km未満で故障する、欠陥燃料ポンプ」と表現されるほど故障率が高い状況も見られます。悪い場合は「2台に1台はぶっ壊れている」という厳しい状況も報告されています。
燃料ポンプの故障を診断するには。
修理方法としては、基本的には燃料ポンプの交換が必要になりますが、電気系統のトラブルであれば配線やヒューズ、リレーの点検・交換で対応できる場合もあります。
燃料ポンプの寿命を延ばすためには、定期的な燃料フィルターの交換や、燃料を長期間タンク内に残したままにしないことが重要です。特に長期間放置する場合は、燃料を抜いておくか、燃料添加剤を入れておくことをおすすめします。
インジェクターの詰まりは、専用のクリーニングシステムを使用することで解消できる場合が多いです。市販のインジェクタークリーナー添加剤を使用する方法もありますが、症状が重い場合は直接インジェクターを取り外してクリーニングする必要があります。
MOTO PALACE 鈴鹿の事例では、自作のインジェクタークリーナーシステムを構築して詰まったインジェクターを洗浄しています。このシステムは以下のような構成になっています。
このようなシステムを使用する際の注意点として、単に通電させるだけだとインジェクターが高温になって破損する恐れがあるため、噴射時間のコントロールが必須です。
クリーニングの基本的な手順は以下の通りです。
VOXの事例では、インジェクターノズルを取り外し、直接インジェクションクリーナーを塗布して掃除することで問題が解決しました。この方法は比較的簡単に試せる方法ですが、作業時には以下の点に注意が必要です。
燃料噴射装置の性能に影響を与える要因の一つに、あまり知られていないブローバイガスの問題があります。ブローバイガスとは、エンジン燃焼室からピストンリングの隙間を通って漏れ出す未燃焼ガスのことで、これがエンジンオイルや燃料噴射システムに悪影響を及ぼすことがあります。
現代のバイクでは、このブローバイガスを処理するためにISC(アイドルスピードコントロール)バルブが使用されています。このシステムは以下のように機能します。
しかし、この仕組みはアイドリング中のみ機能するため、根本的な解決にはなっていません。ブローバイガスは依然としてエンジン内に溜まり続け、特にオイルに悪影響を与えます。
ブローバイガスは非常に酸性が強く、エンジンオイルを劣化させる主要因の一つです。このため、定期的なオイル交換が必要になります。近年はブローバイガスの処理技術が向上したことで、オイル交換サイクルが5000kmや10000kmに延びましたが、それでも完全に解決された問題ではありません。
燃料噴射装置の性能を最適に保つためには、このブローバイガスの影響も考慮する必要があります。特に。
これらのメンテナンスを適切に行うことで、燃料噴射装置への悪影響を最小限に抑えることができます。
バイクの燃料供給システムは、従来のキャブレターから電子制御の燃料噴射装置(FI)へと進化してきました。この進化により、バイク修理の方法や必要な知識も大きく変化しています。
電子制御燃料噴射装置の主なメリット
一方で、修理の観点からは以下のような変化があります。
特に4ストロークエンジンの場合、吸気、圧縮、膨張、排気の工程が比較的明確に分かれているため、電子制御による最適な燃料噴射が実現しやすいという特徴があります。しかし、その精密さゆえに、アイドリング状態での制御が難しいという側面もあります。
最新の燃料噴射システムでは、O2センサーからの情報を基にECUが燃料噴射量をリアルタイムで調整する「フィードバック制御」が採用されています。これにより、常に最適な空燃比を維持することが可能になりました。
バイク修理業者にとっては、これらの進化に対応するため、継続的な学習と最新の診断機器への投資が必要になっています。特に電子制御に関する知識は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
また、電動バイクの普及に伴い、従来の内燃機関の知識に加えて、高電圧システムや電池管理システム(BMS)に関する知識も求められるようになってきています。バイク修理の世界は、機械技術と電子技術の融合がますます進んでいると言えるでしょう。