

都道府県大会は廃止されておらず、今もあなたが無料で参加して技術を磨ける。
二輪車安全運転全国大会の廃止が正式に発表されたのは、2022年(令和4年)12月のことです。主催者である一般社団法人日本二輪車普及安全協会(二普協)が「2023年(令和5年)以降、諸般の事情により、当協会として二輪車安全運転全国大会を開催しないこととします」と公表しました。
この「諸般の事情」という表現が曖昧で、多くのライダーが「コロナが原因では?」と受け止めています。しかし実態はそれだけではありません。
大会には複数の問題が重なっていました。まず参加者数の問題です。かつての全国大会は全国から約1,500人が集まる大型イベントでしたが、2019年の復活大会では参加者が約600人と半減以下に落ち込みました。参加を見込める都道府県は全47都道府県のうち34にとどまり、「全国大会」としての実質を失っていたのです。
次に運営費の問題があります。大会への参加費は無料でした。出場者の移動費・宿泊費・食費などもすべて運営側の負担で、その費用は会員企業(バイクメーカー等)が支えていました。2017年の第50回大会で一度終了した最大の理由も、この運営コストの重さです。参加費ゼロで毎年1,500人規模のイベントを運営することは、財政的に限界を迎えていたのです。
参加者の固定化という構造的な課題もありました。同じベテラン選手が毎年出場し続け、新しいライダーが入りにくくなっていました。経験豊富な選手が有利すぎて、初参加者が表彰台を狙える状況ではなかったのです。これが新規参加者の減少を加速させました。
つまり廃止の背景には「コロナ」「参加者減少」「運営費の限界」「大会の陳腐化」という4つの要因が重なっていたということですね。
参考:二普協による公式廃止発表
日本二輪車普及安全協会|2023年以降の二輪車安全運転全国大会の取り止めについて
二輪車安全運転全国大会は、1968年(昭和43年)に「二輪車安全運転コンテスト」として始まりました。1973年(昭和48年)の第6回大会から現在の名称に改称され、以来50年以上にわたって毎年開催されてきた歴史があります。
大会の流れを簡単に整理してみましょう。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1968年(昭和43年) | 第1回「二輪車安全運転コンテスト」として始まる |
| 1973年(昭和48年) | 第6回大会から「二輪車安全運転全国大会」に改称 |
| 2017年(平成29年) | 第50回大会で全日本交通安全協会主催の大会が終了 |
| 2019年(令和元年) | 日本二輪車普及安全協会(二普協)が主催を引き継ぎ復活 |
| 2020〜2022年 | 新型コロナウイルスの影響で3年連続中止 |
| 2022年12月 | 二普協が2023年以降の大会取り止めを正式発表 |
全国大会の舞台として長年使われてきたのが、三重県の鈴鹿サーキット交通教育センターです。毎年8月に開催され、内閣府・警察庁・文部科学省が後援し、各クラス優勝者には警察庁長官と全日本交通安全協会会長の連名賞状が贈られる格式ある大会でした。
注目すべきは、2017年に一度終了したときも「運営費問題」が中心にあったという事実です。全日本交通安全協会が主催していた時代は、交通教本の販売収入や警察との連携で安定した財政基盤がありました。しかし主催が二普協に変わった2019年以降、収益構造が大きく変わりました。意外ですね。
つまり「コロナで終わった」のではなく、「コロナは最後の引き金に過ぎなかった」というのが正確な理解です。背景にあった構造的な問題が、3年間の中止によって一気に表面化したのです。
参考:第47回大会の全記録と歴代優勝者一覧
全日本交通安全協会|第47回二輪車安全運転全国大会結果
全国大会がなくなっても、都道府県レベルの大会は現在も各地で続いています。これが大切なポイントです。
全国大会の廃止を受け、一部の都道府県では大会の開催を見合わせる動きもありました。実際、全国大会終了後に約10数県が都道府県大会の実施を取りやめたという報告があります。しかし東京・大阪・兵庫・千葉など多くの都道府県では、独自の大会として継続されています。
東京大会の例を見てみましょう。2024年5月26日(日)に「第52回二輪車安全運転東京大会」が警視庁府中運転免許試験場で開催されました。この大会は2020〜2022年のコロナ禍での中断を経て2023年に再開され、現在も継続されています。
東京大会の参加条件は以下のとおりです。
競技の採点は1,000点からの減点方式で、速さではなく「正確な操作と安全判断」が評価されます。大会後には指導員による安全教育も行われ、2024年東京大会では「ブレーキング」をテーマにした講習が実施されました。これは使えそうです。
都道府県大会の参加費は大会によって異なりますが、無料または数百円〜数千円程度の安全協会への協力金程度のケースが多いです。全国大会のような無料開催が減った側面はありますが、依然として低コストで参加できる貴重な機会です。
2025年も、関東エリアをはじめ各都道府県で大会の開催情報が公開されています。兵庫県では2025年6月14日(土)に第53回兵庫県二輪車安全競技会の開催が予定されており、全国大会廃止後も地域ごとの大会は根付いています。
参考:2024年東京大会の詳細レポート
JAMAモトインフォ|競って高めるバイクの安全運転技能!「二輪車安全運転」東京大会レポート
全国大会が終了した2017年以降、ライダー有志の手によって自主開催の民間大会が誕生しました。これはあまり知られていない事実です。
ひとつは「二輪車安全運転九州大会」です。熊本県山都町の熊本県立矢部高等学校を会場に、九州4県から高校生を含む22名のライダーが集まって第1回大会が開かれました。主催したのは山都町役場の職員でもある田中秀穂さんで、矢部高校二輪車競技部の監督経験を持つ人物です。Hondaをはじめとする国内二輪車4メーカーや日本二輪車普及安全協会が後援し、公的な支援を受けた大会として成立しました。
もうひとつは「二輪車安全運転大会(鈴鹿)」です。滋賀県の二輪車安全運転特別指導員である森義之さんが、個人として主催した大会です。「昨年12月に全国大会終了の知らせを聞いた時はとてもショックでした」と振り返る森さんは、1人で準備を開始し、SNSや口コミで参加者を募りました。最終的に16都府県から48名のライダーが鈴鹿サーキット交通教育センターに集まりました。
この民間大会が教えてくれることは重要です。全国大会が廃止されても、安全運転への情熱を持つライダーたちのコミュニティは消えないということです。
参加者はお金を自己負担して参加していました。これは全国大会が「参加費無料」だったこととの大きな違いです。それでも16都府県から選手が集まったという事実は、ライダーたちが本当に「技術を磨く場」「仲間と交流する場」を求めていたことを物語っています。参加費が発生するようになっても、安全運転大会を続けたいというライダーの意志が、こうした形で新たな文化を生んでいるのです。
参考:民間主催大会の事例レポート(Honda Safety Japan)
Honda Safety Japan|ライダーの有志が集まり独自で開催した二輪車安全運転大会(PDF)
全国大会という「目標の場」を失ったことは、大会参加者にとって確かに大きな痛手です。しかしこれは、全国大会という仕組みに頼らず、自分自身で安全運転を意識し直す契機でもあります。
まず大会で実施されていた競技内容を振り返ることが大切です。全国大会の競技は「法規履行走行」と「技能走行」の2本柱で構成されていました。技能走行のメニューには「極小バランス」「応用千鳥」「コーススラローム」「ブレーキング」「コンビスラローム」が含まれていました。
これらは実は普段の公道走行に直結した技術です。
採点は1,000点満点の減点方式で、「速さ」より「正確さと安全判断」が重視されていました。この考え方は、普段の公道走行で取るべき姿勢と完全に一致しています。速く走ることよりも、正確に止まれること・確実に曲がれることのほうが事故を防ぐうえでずっと重要だということです。
バイクの新車購入平均年齢が50歳を超えている現在、ライダーの体力や反応速度は若いころとは変わってきています。大会という場がなくなったとしても、自分の技術レベルを客観的に把握し直す機会は定期的に作ることが必要です。
都道府県大会に参加することが、その最も手軽な方法のひとつです。参加費が低く、指導員からフィードバックも受けられます。大会終了後には安全教育の講習も実施されることが多く、参加するだけで技術と知識の両方が整理されます。
お住まいの都道府県の二輪車安全運転大会の開催情報は、各都道府県交通安全協会のウェブサイト、または日本二輪車普及安全協会のウェブサイトで確認できます。まず自分の県で大会が継続されているかどうかを確認するところから始めてみてください。
参考:都道府県大会の情報と競技内容(二普協公式)
日本二輪車普及安全協会|二輪車安全運転大会都道府県大会ページ