

スラロームを1速で走ると、転倒リスクが上がってタイムが落ちます。
「なんとなく1速の方が安心」と思って1速でスラロームをこなしているライダーは少なくありません。しかし、教官歴12年のプロが断言するように、1速でのスラローム走行は大きな間違いです。
1速でスラロームを走ると、次の2つのリスクが生まれます。
一方で2速は、アクセルの開閉に対してレスポンスが穏やかです。アクセルをわずかに開けても急加速せず、リズムよく走れます。つまり2速が条件です。
3速でスラロームを行う練習法も存在しますが、これはタイムアップのための「追い込み練習」です。3速では強制的にスピードが上がるぶん、目線と車体の傾けかたが自然と身につきます。ただし、2速スラロームが安定してからの話です。
なお、大型二輪の教習車「NC750L」ではなく、一発試験で「XJR1300(1000cc超)」が試験車両になっている教習所も存在します。その場合は、ギアの特性が大きく異なるため、1速+半クラッチでの通過が例外的に有効な選択肢になることがあります。試験車両は必ず事前に確認しましょう。
また、タイムオーバーの減点は1秒につき5点です。普通二輪(8秒以内が目標)でも、13.9秒まではギリギリ失格にはなりません。焦って1速で暴走するより、2速でゆっくり安全に通過する方が断然得策です。
参考リンク(スラロームのギアとクラッチの詳しい解説)。
【プロ直伝】バイクスラロームのギアは何速?クラッチは?最速で攻略するコツ
スラロームで最初につまずくのが、アクセルワークのタイミングです。「いつ戻して、いつ開けるのか」が曖昧なまま走ると、ふらついたり足をついたりしてしまいます。
基本の流れは次のとおりです。
このリズムが大切です。アクセル開度はごくわずかで十分です。4.5m間隔のパイロンを通過するだけなので、大きく回す必要はまったくありません。アクセルを開けすぎると、スピードが出すぎてコースを大きく外れます。
タイムを縮めようとして「突っ込むスピードを上げる」のは間違いです。むしろ「パイロンを避け終わったあとに抜けるスピードを上げる」意識の方がタイムは縮まります。スローインファストアウトが原則です。
教官のスラローム走行を見ると、「ヴォン・ヴォン・ヴォン」とエンジン音がリズミカルに変化しているのがわかります。このリズムがつかめると、アクセルのオン・オフ操作が自然と体に入ってきます。
参考リンク(ズーリッヒ保険によるスラロームの基本とアクセル操作の解説)。
スラロームとは。バイクのスラローム走行のコツ|チューリッヒ保険
スラロームが苦手なライダーに共通する最大の原因は、目線が近すぎることです。これは意外と知られていません。
目の前のパイロンばかりを見ていると、次への対処が遅れます。その結果、スピードを落とさないと間に合わなくなり、タイムが縮まらない悪循環に入ります。
正しい目線のとり方は「スタート時から3つ目のパイロンを見ること」です。3つ目のパイロンを視野に入れておくと、1・2本目は自然と視野に収まります。一つひとつを意識しなくても、体が自然に反応してラインを通れるようになります。3つ目を過ぎたら、今度はゴールに目線を向けます。目線の切り替えが1回で済むので、頭の中が整理されてラクです。
さらに、目線を遠くに向けると上体が安定します。これが次のポイントにも直結します。いいことですね。
卒業検定でも「目線が近くなる」ことは非常に多いです。パイロンをぶつけたくないという緊張感から、ついパイロンそのものを直視してしまいます。パイロンの「脇」を見ること、これだけ覚えておけばOKです。
参考リンク(ヤマハ公式によるスラローム通過のポイント解説)。
スラロームをスムーズに通過するために覚えておくこと|ヤマハ バイク ライフ
「体ごと大きく左右に揺れてリズムに乗ろう」と思っているライダーは要注意です。スラロームでは、上体を動かすとかえってタイムが落ちます。
正解は、バイクだけを傾けて、上体(頭・肩)は動かさないことです。これが「スラロームは上体が安定しているほど速い」という事実につながります。
では、上体を動かさずにどうやってバイクを傾けるのか。その答えが「ニーグリップ」です。両膝でタンクをしっかり挟み、バイクと体を一体化させます。そうすることで、バイクだけを左右に倒せるようになります。
ニーグリップのコツは、膝そのものを意識するより「両足の親指をバイクのタンクに密着させる」イメージで行うことです。親指を密着させると、自然と膝がタンクを挟む形になります。力を入れすぎる必要もありません。
ニーグリップなしのスラロームは、タイムが7秒前後が限界とも言われています。逆に言えば、ニーグリップをしっかりマスターすれば、4秒台も夢ではありません。上体の安定と目線の確保は表裏一体です。
また、ライダースクラブの二輪工学専門家・辻井栄一郎教授によれば、スラロームでの基本姿勢は「リーンアウト」が理想とのこと。上体を起こしてバイクだけを傾けるリーンアウトは、左右の切り返しのロスが最小限になるためです。J-GP3を3連覇した尾野弘樹選手のスラローム映像を見ても、上体はほとんど動かず安定していることが確認できます。
参考リンク(二輪工学専門家によるスラロームの運動力学的解説)。
スラロームはバイク操作の基本なり|ライダースクラブ
多くの教習書では「アクセルを戻せばバイクが曲がる」と説明されています。しかし実は、アクセルを戻すだけでは傾くきっかけが弱く、もたついてしまうことがあります。そこで使いたいのが「リアブレーキの一瞬踏み」です。
アクセルをオフにした直後、リアブレーキを「チョン」と素早く踏みます。ガツンと強く踏む必要はありません。バイクが止まるほどではなく、ほんの一瞬で十分です。
これがなぜ効くのか。後輪にブレーキがかかると、後輪がバイクを前方に押し出す力(推進力)が一時的に弱まります。その結果、バイクが自然に倒れやすい状態になり、傾きのきっかけが生まれます。
フロントブレーキはスラロームで使いません。前輪に強くブレーキをかけると、バランスを崩して転倒リスクが高まります。調整はリアブレーキだけが原則です。
「後輪ブレーキまで気が回らない」という人は、まずアクセルのオン・オフだけで走ってみてください。アクセルをオフにするだけでもエンジンブレーキがかかり、ある程度は傾けられます。リアブレーキは慣れてきてから徐々に取り入れましょう。
なお、スラロームでクラッチを半クラッチにしたり切ったりする必要は基本的にありません。クラッチを切ると推進力が失われ、バイクが傾きにくくなります。万一のエンスト対策として、左手をクラッチレバーに添えておく程度でOKです。
参考リンク(スラロームの4つのコツを丁寧に解説した教習サイト)。
二輪免許取得の華 スラロームのコツ4つ!|バイク初心者サポートラボ
スラロームはあくまで教習所の課題ですが、そこで養われる技術は公道での走行に直結します。これは見落とされがちな視点です。
たとえば、スラロームで習得するアクセルワークとリアブレーキの使い方は、公道での低速Uターンや細い路地での切り返しにそのまま応用できます。特に駐車場や交差点でUターンをする場面で、リアブレーキを使った速度コントロールが安定感をもたらします。
また、目線を遠く先に向ける習慣は、高速道路やワインディングロードでの予測走行力を高めます。カーブ手前で先を見る目線の意識は、危険を早期に察知することにもつながります。
さらに、ニーグリップによる下半身の安定は、突然の横風や路面の段差など、不測の外乱に対して上体がぐらつかないための基盤になります。上体の力を抜くことができるのは、下半身がしっかりとバイクをホールドできているからです。
スラロームを単なる試験の課題として終わらせず、年に1度でも広い場所で練習し直す機会を作ると、ライダーとしての総合的な技量が確実に上がります。ジムカーナ競技はその代表例で、一般ライダーが参加できる練習会も全国各地で開催されています。スラロームのリズム走行がそのままジムカーナの基礎になっており、趣味の幅が広がるきっかけにもなります。
スラロームが苦手だった方も、各コツを一つずつ意識することで着実に変わります。焦らず順序立てて習得すれば、合格タイムはもちろん、公道での走りもより安全で楽しくなるでしょう。