

新品のシンタードパッドに交換した直後にフルブレーキをかけると、ローターが数万円の修理費になることがあります。
シンタードパッド(焼結パッド)とは、金属粉末を高温・高圧で焼き固めて作ったブレーキパッドのことです。一般的なオーガニックパッド(レジンパッド)と比べると、耐熱性・耐久性に優れているのが最大の特徴です。
オーガニックパッドが主に樹脂や繊維で構成されているのに対し、シンタードパッドは銅・鉄・ニッケルなどの金属を主成分としています。このため、熱によるフェード現象(ブレーキが効かなくなる現象)が起きにくく、サーキット走行や山岳路など、ブレーキを多用する場面で高いパフォーマンスを発揮します。
違いを整理するとこうなります。
| シンタードパッド | オーガニックパッド | |
|---|---|---|
| 主成分 | 金属粉末(銅・鉄など) | 樹脂・繊維 |
| 耐熱性 | 高い(500℃超に対応製品あり) | やや低い(250〜350℃程度) |
| 初期制動 | やや弱め(暖機後に本領発揮) | 冷間時から効きやすい |
| ローターへの攻撃性 | 高い | 低い |
| 価格 | 高め(1セット3,000〜8,000円) | 安め(1セット1,500〜4,000円) |
| 向いている用途 | スポーツ走行・サーキット | 街乗り・ツーリング |
街乗り中心のライダーには、必ずしもシンタードパッドがベストとは限りません。用途に合った選択が基本です。
シンタードパッドを新品に交換した後、慣らし運転をせずにいきなりフルブレーキをかけると、パッドとローターの当たり面が均一に馴染む前に局所的な熱集中が起き、ローター表面に「熱焼き付き(グレージング)」が発生することがあります。グレージングが起きると制動力が著しく低下し、最悪の場合ローターの交換が必要になります。ローター交換費用は車種にもよりますが、前後セットで2〜5万円程度かかるケースが一般的です。痛い出費ですね。
慣らし運転の手順は以下が目安です。
つまり、最低でも50〜100km程度は慣らしの意識を持った走行が条件です。
慣らし運転中は、パッドから多少の煙や臭いが出ることがあります。これは樹脂バインダーや表面の保護剤が焼き切れる正常な反応なので心配は不要ですが、密閉された駐車場などで慣らしを行うのは避けましょう。
シンタードパッドで最も注意が必要なのが、ローター(ディスク)への攻撃性の高さです。金属成分が多いため、柔らかい素材のローターと組み合わせると、ローターの摩耗速度がオーガニックパッドの2〜3倍になるケースが報告されています。
特に、純正ローターはコスト面から比較的柔らかい鋳鉄素材を使っているものが多く、シンタードパッドとの相性が悪い場合があります。ローターの最小厚(限界厚)を超えて使い続けると、ブレーキ時にローターが割れる危険性があるため要注意です。
ローターの状態を確認するポイントはこちらです。
ローターの攻撃性が心配な場合、パッドとセットで「ステンレス製スリットローター」に交換するという選択肢があります。ステンレスローターは鋳鉄より硬く、摩耗しにくい性質を持っています。これは使えそうです。
参考:ブレーキパッドとローターの相性・選び方について詳しく解説しているページ
バイクブロス メンテナンス情報 - ブレーキ周りの基礎知識
シンタードパッドに交換すると「キーキー」「ギーギー」という金属音が出やすくなります。これはシンタードパッドの金属成分がローターと接触する際の振動が原因で、オーガニックパッドより高音の鳴きが生じやすい性質があります。
鳴きの原因はいくつかあります。
鳴きが気になる場合の対策手順はこちらです。
鳴き対策が条件です。ただし、パッド裏面やローター摩擦面には絶対にグリスが付かないよう注意してください。グリスが付着すると制動力がほぼゼロになるため、命に関わります。
なお、慣らし運転後100km以上走っても鳴きが収まらない場合は、パッドとローターの相性が根本的に合っていない可能性があります。その場合はパッドのグレードを落とす、または別メーカーのシンタードパッドを試すことも選択肢に入れましょう。
シンタードパッドの「高性能」という評判に引きずられて、街乗りメインのバイクに装着してしまうケースは少なくありません。しかし、これは必ずしも正解ではありません。意外ですね。
街乗りでの一般的なブレーキ温度は100〜150℃程度で推移します。シンタードパッドが本来の性能を発揮するのは250℃以上の高温域からです。つまり、街乗りでは性能をほとんど活かせないまま、ローターだけが早く削れるという状況になりがちです。
さらに、シンタードパッドは冷間時の初期制動がオーガニックパッドより弱い傾向があります。朝一番の走り出し直後、信号で急ブレーキが必要なシーンでは「あれ、効きが悪い?」と感じるライダーも多くいます。
街乗り主体のライダーにとっての現実的な選択肢をまとめると。
結論は「用途に合ったパッドを選ぶことが最大のコスパ」です。
高性能パッドへの交換を検討する際は、自分の走行スタイルを改めて確認する、という一手間が、無駄な出費とローター損傷を防ぐ最大の対策になります。パッド選びに迷った場合は、バイクショップのメカニックに「自分の走行スタイルに合うか」を相談するのが確実です。
参考:ブレーキパッドの種類と選び方の基礎
Honda バイクメンテナンス情報(公式)