点火装置がバイクのエンジンの性能を決める

点火装置がバイクのエンジンの性能を決める

点火装置がバイクの走りを変える

バイクの点火装置の種類と仕組み

 

バイクのエンジンが快調に回るかどうかは、実は点火装置の性能に大きく依存しています。ガソリンと空気が混ざった混合気に、適切なタイミングで強力な火花を飛ばすことができなければ、どれほど高性能なエンジンでもその力を発揮することはできません。

 

一般的に、バイクの点火方式には大きく分けて「ポイント点火」「CDI点火」「フルトランジスタ点火」の3種類が存在します。それぞれの仕組みを深く理解することで、自分のバイクの特性やメンテナンスの勘所が見えてきます。

 

  • ポイント点火(コンタクトブレーカー式):

    旧車に多く見られる最も原始的な方式です。エンジンの回転に合わせてカムが物理的な接点(ポイント)を開閉し、イグニッションコイルへの電流を断続させます。この「断」の瞬間にコイルの自己誘導作用で高電圧が発生し、プラグに火花が飛びます。構造が単純で修理しやすい反面、接点の摩耗や焼損が避けられず、定期的なギャップ調整や交換が必要です。

     

  • CDI点火(Capacitor Discharge Ignition):

    原付からオフロードバイクまで幅広く採用されている方式です。コンデンサにあらかじめ電気を溜めておき、点火タイミングで一気に放出(放電)してイグニッションコイルの一次側に流します。電圧の立ち上がりが非常に鋭く、プラグが被り気味でも強力な火花を飛ばせるため、高回転型の2ストロークエンジンなどと相性が良いのが特徴です。

     

  • フルトランジスタ点火:

    近年の多くのバイクで採用されている主流の方式です。ポイント点火の物理的な接点をトランジスタという半導体スイッチに置き換えたもので、機械的な摩耗がありません。大電流を制御できるため、点火エネルギーを大きくしやすく、デジタル制御との親和性も高いため、緻密な点火時期のコントロールが可能です。

     

これらの違いを知ることは、単なる知識としてだけでなく、トラブルが起きた際の初期診断においても非常に役立ちます。特に古いバイクを維持する場合、ポイント式からセミトランジスタ(セミトラ)やフルトランジスタ(フルトラ)へ換装するカスタムも人気ですが、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解しておく必要があります。

 

 

参考)CDI点火方式の点火時期調整と不調時の確認方法 特集記事&最…

点火装置の主要パーツと寿命

点火装置を構成する部品は、どれも過酷な環境下で働いています。熱、振動、そして高電圧によるストレスに常に晒されているため、消耗品として割り切って管理することが重要です。ここでは主要なパーツの役割と、交換時期の目安となる症状について解説します。

  1. スパークプラグ:

    燃焼室の中で実際に火花を飛ばす最前線のパーツです。電極は放電のたびに少しずつ摩耗して丸くなり、火花が飛びにくくなっていきます。交換目安は一般的に3,000km〜5,000kmと言われていますが、近年のイリジウムプラグなどはより長寿命です。劣化すると「アイドリングが不安定」「始動性が悪い」「加速時にもたつく」といった症状が現れます。

     

  2. イグニッションコイル:

    バッテリーの12Vという低い電圧を、数万ボルトという高電圧に変換する変圧器です。内部の巻線が経年劣化で絶縁不良を起こしたり、断線しかかったりすることがあります。特に熱を持つと症状が出る「熱ダレ」のような故障モードもあり、冷えているときは調子が良いのに、温まるとエンジンが止まるといった厄介なトラブルを引き起こすことがあります。

     

  3. ピックアップコイル(パルシングコイル):

    エンジンの回転位置(クランク角)を検出し、点火のタイミングを指示するセンサーです。これが故障すると、点火信号が出ないため、当然火花は飛びません。断線やショートが主な故障原因ですが、鉄粉が付着して信号が乱れることもあります。

     

  4. イグナイター / CDIユニット:

    点火の指令を出す頭脳部分です。内部のコンデンサやトランジスタの劣化、ハンダのクラックなどが原因で故障します。故障すると突然エンジンがかからなくなったり、ある特定の回転域だけ吹けなくなったりと、原因特定が難しい症状が出ることがあります。

     

これらのパーツは、完全に壊れる前に予兆を示すことが多いです。例えば、雨の日だけエンジンの掛かりが悪い場合は、プラグコードやキャップのリーク(漏電)を疑うべきです。目に見えない電気の流れをイメージし、早めの対処を心がけることが、出先での立ち往生を防ぐ最大の防御策となります。

 

 

参考)バイクのプラグ交換時期を見極める!初心者向け完全ガイド CH…

点火装置のドエルタイムとコイル飽和

検索上位の情報ではあまり語られない、しかしプロのチューナーやエンジニアが最も気にするのが、この「ドエルタイム(通電時間)」という概念です。これを理解すると、点火システムの奥深さが一気に見えてきます。

 

ドエルタイムとは、イグニッションコイルの一次側に電流を流している時間のことです。コイルは電気を流し始めると、内部に磁気エネルギーを蓄積していきます。この蓄積されたエネルギーが、電流を遮断した瞬間に開放されて高電圧(火花)になります。つまり、「長く電気を流せば流すほど、強い火花が出る」と思われがちですが、実はそう単純ではありません。

 

  • 磁気飽和の壁:

    コイルには「磁気飽和」という限界点があります。バケツに水を注ぐのを想像してください。バケツがいっぱい(飽和)になれば、それ以上水を入れても溢れるだけです。同様に、コイルも一定以上のエネルギーは蓄えられません。飽和した状態でさらに電流を流し続けると、その電気エネルギーは全て「熱」に変わり、コイルを異常発熱させ、最悪の場合はパンク(破損)させてしまいます。

     

  • 高回転時のジレンマ:

    逆に、エンジンが高回転になると、1回の爆発に使える時間が極端に短くなります。そうなると、コイルに十分なエネルギーを溜めるためのドエルタイムを確保できなくなります。これが、高回転域で失火(ミスファイア)が起きやすくなる物理的な理由の一つです。

     

現代の高性能なECU(エンジンコントロールユニット)は、バッテリー電圧やエンジン回転数に応じて、このドエルタイムをミリ秒単位で緻密に制御しています。電圧が低いときは通電時間を長くしてエネルギー不足を補い、電圧が高いときは短くしてコイルの発熱を防ぐといった制御を行っています。

 

社外品の「強化コイル」などに交換する場合、このドエルタイムの特性が純正と大きく異なると、性能を発揮できないどころか、イグナイターを破損させるリスクすらあります。「抵抗値が同じなら使える」という単純な話ではなく、このエネルギー充填時間(ドエルタイム)のマッチングこそが、点火チューニングの肝なのです。

 

 

参考)https://blue-force.sakura.ne.jp/coik-hikaku.htm

点火装置のトラブルシューティングと抵抗値

愛車のエンジンがかからない、あるいは調子が悪い時、点火装置のトラブルを疑うなら、論理的な手順で診断を進める必要があります。「火花が飛んでいるか?」という目視確認は基本ですが、それだけでは不十分なケースも多々あります。ここでは、より確実な診断方法として「抵抗値」の測定と、意外な落とし穴について解説します。

 

まず、サービスマニュアルを用意し、テスターを使って各部の抵抗値を測定します。

 

  • イグニッションコイルの抵抗値測定:

    一次側(入力端子間)と二次側(プラグコードと入力端子間)の抵抗を測ります。一次側は数Ω、二次側は数kΩ〜十数kΩ程度が一般的ですが、車種によって規定値は厳密に決まっています。ここで注意したいのは、「抵抗値が正常でも壊れていることがある」という事実です。テスターの微弱な電流では導通していても、実際に高負荷がかかった瞬間に絶縁破壊を起こしてリークするケースがあるからです。

     

  • ピックアップコイルの抵抗値:

    数百Ω程度の抵抗値を示すのが一般的です。断線(抵抗無限大)していれば完全に故障ですが、内部ショートで抵抗値が極端に低くなっている場合も信号電圧が弱くなり、始動困難の原因になります。

     

  • アース不良という盲点:

    部品単体は正常でも、それを固定しているフレームやエンジンとの接触面が錆びていれば、電気は正しく流れません。特に古いバイクでは、イグニッションコイルの取り付けボルトがアースを兼ねていることが多く、ここが錆びているだけで火花が弱くなります。これを磨くだけで調子が戻ることも珍しくありません。

     

また、トラブルシューティングにおいては「再現性」の確認も重要です。「冷間時は正常で、温間時に不調になる」のか、「特定の回転数でバラつく」のか。例えば、温間時の不調はコイルやイグナイターの熱による内部回路の接触不良や半導体の熱暴走が疑われます。逆に、雨天時の不調は、プラグコードやキャップのひび割れによるリークが疑われます。状況を整理し、一つずつ可能性を潰していくことが、解決への最短ルートです。

 

 

参考)バイクのスパークプラグから火花が出ない(弱い)原因|ライズオ…

バイクの点火系チューニングと昇圧

ノーマルの点火システムに物足りなさを感じる場合、あるいは旧車の点火系をリフレッシュしたい場合、点火系のチューニングは非常に効果的です。特にキャブレター車や古いインジェクション車では、点火エネルギーを強化することで「トルクアップ」「始動性の向上」「燃費改善」といった体感できる効果が得られることが多いです。

 

  • 昇圧回路(16V化など)の導入:

    イグニッションコイルに入力する一次電圧を、通常の12Vから16V程度まで昇圧する手法です。入力電圧を上げることで、二次側に発生する電圧も比例して高くなり、より強力な火花を飛ばすことができます。始動性が劇的に改善されることが多いですが、コイルやプラグへの負担も増えるため、熱対策やドエルタイムの見直しが必要になる場合があります。

     

  • ウオタニSP2などのフルパワーキット:

    点火チューニングの代名詞とも言える存在です。高性能なコイルと、それに最適化された点火マップを持つユニットがセットになっています。単に火花を強くするだけでなく、点火時期(進角)を最適化することで、エンジンのポテンシャルを最大限に引き出します。特に旧車においては、劣化した純正点火系からの刷新として絶大な信頼を得ています。

     

  • 「バッ直」リレーの追加:

    最も手軽でコストパフォーマンスが高いのがこの手法です。古いバイクのメインハーネスは経年劣化で抵抗が増えており、イグニッションコイルに届くころには電圧が10V近くまで下がっていることもあります。リレーを使ってバッテリーから直接フレッシュな電気をコイルに供給することで、本来の火花の強さを取り戻すことができます。

     

ただし、点火系チューニングは「バランス」が命です。強力すぎる火花はプラグの電極を急速に摩耗させますし、不適切な点火時期の変更はエンジンブロー(異常燃焼による破損)を招くリスクもあります。「強ければ強いほど良い」のではなく、エンジンの仕様や使用用途に合わせた最適な点火システムを構築することが、長くバイクを楽しむ秘訣です。

 

 

参考)ゼファー750 ウオタニフルパワーKIT取り付け!点火系強化…

バイクの点火装置 完全ガイド
3つの点火方式

ポイント、CDI、フルトラ。それぞれの特性を知ることがメンテの第一歩。

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ドエルタイムの秘密

通電時間は長ければ良いわけじゃない!コイルの「飽和」と「発熱」を理解しよう。

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確実な診断術

目視確認だけでは不十分。抵抗値測定とアース不良のチェックで原因特定。

 

 


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