

サスペンションを「柔らかくした方がホッピングしやすい」と思い込んでいると、逆に2クリックの調整だけでリアがついてこなくなります。
ホッピングとは、バイクをその場でボールのドリブルのように前後輪を小刻みに浮かせるテクニックで、トライアルライディングの中核をなすスキルです。トライアル競技の頂点に立つチャンピオンたちが軽々とこなす動作に見えますが、実は「コツをつかむまでの道のりが非常に長い」という特徴を持っています。
ホッピングを難しくしている最大の原因は、多くのライダーが「バイクを持ち上げようとする」動作をしてしまうことです。これは根本的に間違っています。正解は逆で、マシンを持ち上げるのではなく、サスペンションをしっかりと縮めることにあります。
サスペンションを縮める動作とはどういうことでしょうか?ステップに強く荷重をかけてサスを圧縮します。圧縮されたサスペンションが元の長さに戻ろうとする反発力と、そこにタイヤの弾力が組み合わさることで、バイクが自然に浮き上がります。つまりホッピングは「筋力で持ち上げる」のではなく、「サスの反発力を上手に使う」テクニックなのです。
この原理を理解すると、なぜサスペンションのセッティングがホッピングの成否を左右するのかが見えてきます。サスが適切に動かなければ、どれだけステップを踏んでも反発力が得られません。サスペンションとライダーのコンビネーションが、ホッピングの精度を決定します。
前後サスペンションを使ったホッピングの解説として、日本代表クラスのトライアルライダーによる動画コンテンツも参考になります。
小川友幸選手のホッピングとサスセッティングの基礎(MITANI KOBE)
前後のサスペンションの使い方と体の動かし方について、チャンピオンライダーが実践的に解説しています。
サスペンションのセッティングを始める上で、まず理解しなければならないのが「プリロード(イニシャル)」です。プリロードとは、スプリングにあらかじめかけておく初期荷重のことで、バイクに乗車したときにサスペンションがどの程度沈み込むかを決める重要な設定値です。
ホッピングの文脈でプリロードを考えると、設定が柔らかすぎる状態では乗車時点でサスが深く沈みすぎてしまい、ステップを踏んでもそれ以上縮める余裕がなくなります。これではホッピングに必要な「圧縮→反発」のサイクルが生まれません。硬すぎる設定も同様に問題で、サスが動き始めるまでに必要な力が大きくなりすぎて反発力の切れ味が鈍くなります。
プリロード設定の目安は「サグ出し」と呼ばれる手順で確認します。サグとは、ライダーが乗車した状態でサスペンションが沈み込む量のことです。一般的なスポーツライディングでは、フルストローク量の25〜30%程度のサグが適正とされています。オフロードバイクの場合はフルストロークの1/3前後を基準にすることが多く、ホッピングを多用するトライアル車では伸縮のバランスを重視した設定が必要になります。
調整の手順としてはシンプルで、プリロードをかける(スプリングシートを締め込む)と車高が上がり、サスは動き出しが硬くなります。緩める(スプリングシートを戻す)と車高が下がり、動き出しが軽くなります。注意点は、プリロードは「スプリングの硬さ自体を変えるわけではない」という点です。変化するのはサスの動き始める位置であり、バネレートそのものは変わりません。
プリロード調整だけでも乗り味が大きく変わります。まずここから手をつけるのが原則です。
サスペンションのプリロード調整で何が変わるか(クシタニ公式)
プリロードの仕組みと、最強・最弱にした際の車高変化(±20mm程度)についても詳しく解説されています。
プリロードの次に理解すべきなのが「伸び側減衰」です。これはサスペンションが伸びる(縮んだ後に元の長さに戻る)スピードをコントロールする設定で、ホッピングの成否に直結する最重要パラメーターのひとつです。
伸び側減衰が強すぎると、サスが縮んだ後に素早く伸び上がれなくなります。実はホッピングができないライダーの多くが、この「伸び側減衰の強すぎ」に悩んでいます。ある実際のトライアルライダーの記録によれば、たった2クリック(1回転が8クリックの場合)伸び側を強めただけで「ホッピングの時にリアがついてこない」という状態に陥ったという事例があります。2クリックという微調整でさえ、ホッピングの感覚は大きく変わるのです。
逆に伸び側減衰を弱めすぎると、サスが一気に伸び上がってしまいバイクが不安定になります。サスの動きが速すぎてコントロールが難しくなるイメージです。これはホッピング中にバイクが暴れる原因になります。ちょうどいい設定は「程よくしっとり動きながらも、しっかり素早く伸び上がれる状態」です。
減衰調整機能がついているサスペンションでは、クリックごとの変化量が機種によって異なります。37クリック(1回転8クリック)の調整幅があるリアショックであれば非常に細かい調整が可能ですが、調整したらその都度、日付と変更量を記録しておくことが不可欠です。記録なしで感覚だけで調整を繰り返すと、どの状態が最適だったかわからなくなります。
伸び側減衰の理解を深めることは、ホッピングだけでなくコーナリング時の安定性向上にも直結します。
減衰力を強めすぎた場合のリスクや、路面追従性への影響についてわかりやすく解説されています。
ホッピングを安定させるためにはリアサスだけに目を向けていては不十分です。フロントとリアのサスペンションのバランスが整って初めて、前後輪のリズムが揃ったホッピングができるようになります。これは見落とされがちな観点です。
前後バランスが崩れたホッピングは、見た目にも動きがぎこちなく、体への負担も大きくなります。リアだけ跳ねてフロントが遅れる、あるいは逆にフロントが先走るような状態では、狙ったラインに乗り続けることも難しくなります。乗れているように見えても、実は無駄なエネルギーを消費しています。
具体的な前後バランスの取り方は、まず前後のプリロード設定でサグ値を合わせることから始まります。フロントがストロークの25〜30%、リアも同様の比率でサグが出ている状態が基本です。この状態から「体の動きも前後均等に」意識することが大切で、例えばフロントに荷重して沈める動作とリアを踏んで沈める動作を同じタイミングで行うと、前後輪が同時に反発して高さの揃った安定したホッピングになります。
また、フロントフォークの動き具合もチェックが必要です。ブレーキングでフロントを沈めようとしたときに「ガツン」とした硬い感触があれば、フロントの圧側(コンプ)減衰が強すぎる可能性があります。反対に、フォークが一気に沈んでしまうなら伸び側が弱すぎるサインです。どちらも前後バランスを崩す原因になります。
前後バランスを整えるためのサスセッティングについて、より詳細な情報はこちらも参考になります。
プリロードと減衰の関係、前後バランスの整え方について、メーカー視点で詳しくまとめられています。
「サスペンションを正しく調整したのに、ホッピングが全然できない」という状況になったとき、実はサスとは別の要因が邪魔をしているケースが少なくありません。サスの問題と思い込んでいると、本当の原因に気づかないまま時間とお金を浪費してしまいます。
まず確認すべきは、タイヤの状態と空気圧です。トライアルタイヤの適正空気圧は前後とも0.5kg/cm²以下が基本とされており、一般的なロードバイクの2.0kg/cm²前後と比べると大幅に低い設定です。サスペンションのセッティングより先に、タイヤが古くなっていないか、そして空気圧が適切かを確認することが先決です。タイヤの反発力はサスペンションと一体でホッピングの高さを生み出す要素であり、空気圧が狂っているとサスのセッティングを詰めても意味がありません。
次に見落としがちなのが、ステップに置く足の位置です。つま先でステップを踏む姿勢では荷重が分散しやすく、サスに一点集中した力が伝わりにくくなります。土踏まず付近でステップを捉えると荷重コントロールがしやすくなります。足の位置がずれているだけで、サスが適切に設定されていてもホッピングの反応が鈍くなります。
スタンディングスティルの精度も大きな関係があります。その場で静止する能力が低いうちにホッピングの練習をしても、重心がぶれてサスの反発力が分散してしまいます。世界チャンピオン級のライダーも、ホッピングの前提としてスタンディングの習熟を挙げています。これが安定していない段階では、サスのセッティングがいくら完璧でも上達スピードは遅くなります。
サスペンションより先にタイヤと空気圧を見直すことの重要性について、詳しい解説が以下で読めます。
サスペンションより先にタイヤにこだわるべき理由(ゆるふわ劇場)
サスのセッティングを進める前提として、タイヤ状態と空気圧の管理がいかに重要かを解説しています。