

リーンバーンは燃費を1.5倍良くするとパワーも1.5倍遅くなります。
リーンバーンエンジンは、通常の理論空燃比14.7に対して、30~50という非常に薄い混合気で燃焼させる技術です。ガソリンを減らして空気の割合を増やすことで、同じパワーを出す際のスロットル開度が大きくなり、吸気抵抗が減少します。
結果として燃費は向上します。
しかし、この技術には大きな落とし穴があります。薄い混合気は着火しにくく、燃焼が不安定になりやすいのです。エンジンがスムーズに回らず、振動やトルク変動が発生しやすくなります。バイクのような軽量な乗り物では、この不安定さが直接ライダーに伝わり、快適性が大きく損なわれます。
参考)燃費と環境性能を両立!リーンバーンエンジンの仕組み - クル…
さらに深刻なのは、パワーが必要な場面での対応です。追い越しや坂道での加速時には、リーンバーンから通常燃焼へ切り替える必要があります。この切り替えのタイミングで、燃焼室内の環境が急激に変化し、大量のPM(粒子状物質)やNOx(窒素酸化物)が排出されてしまいます。
窒素酸化物(NOx)の増加は、リーンバーンエンジン最大のデメリットです。通常のガソリンエンジンなら三元触媒で浄化できますが、リーンバーンでは酸素過多の状態のため、従来の触媒が機能しません。
どういうことでしょうか?
三元触媒は、理論空燃比付近でのみ効果を発揮する仕組みです。リーンバーン運転では空燃比が大きく外れているため、NOxを窒素と酸素に分解する反応が起こりにくくなります。そのため、NOx吸蔵還元触媒やEGR(排気ガス再循環)といった、より複雑で高価なシステムが必要になります。
バイクの場合、車体サイズやコストの制約から、こうした大型の浄化装置を搭載するのは困難です。実際、現在の日本ではリーンバーンエンジンを搭載したバイクはほとんど発売されていません。排ガス規制が年々厳しくなる中、NOx対策のコストと技術的ハードルが、商品化の大きな壁となっています。
参考)EGRというもの|ダブルウィッシュボーンのブログ|a pag…
環境への影響も無視できません。NOxは光化学スモッグの原因物質であり、人体への健康被害も懸念されます。燃費は良くても、環境性能で劣るのでは本末転倒です。
カタログ上の燃費数値は魅力的に見えても、実際の使用では期待外れになるケースが多いのがリーンバーンです。理由は明確で、リーンバーン領域を使えるのは低負荷時だけだからです。
参考)「リーンバーンエンジンはどこへいった?」 - webCG
市街地走行では、頻繁な加減速や停止が繰り返されます。この状況では、リーンバーンから通常燃焼への切り替えが何度も発生します。切り替え時のNOx浄化のために追加で燃料を消費するため、結果的に燃費が悪化してしまうのです。
つまり通勤使用では不利です。
高速道路などで一定速度を維持できる場合は、リーンバーン領域を長く使えるため燃費向上の恩恵を受けられます。しかし、バイクの使用実態を考えると、そうした理想的な条件で走れる機会は限られています。アクセルを踏み込む機会が多いライダーほど、カタログ値とのギャップに失望することになります。
参考)『ふと疑問に感じたのですが、リーンバーンエンジンってどう..…
さらに、燃費を気にしてアクセルを控えめにすると、パワー不足で走行がストレスフルになります。結局、ドライバーが多めにアクセルを開けてしまい、燃費が悪化する悪循環に陥りやすいのです。
リーンバーン直噴エンジンには、深刻なメンテナンス上の問題があります。最も厄介なのは、ススの堆積による各種トラブルです。
薄い混合気を狙う直噴方式では、ガソリンが気化する時間が短くなります。ポート噴射のように吸気バルブの熱で気化を促進したり、洗い流したりすることもできません。そのため、完全に燃焼しきれないガソリンの粒が残り、ススが発生しやすくなるのです。
このススが厄介です。
吸気バルブに堆積すると、バルブの気密性が保てなくなります。すると、エンジンの始動不良、アイドリング不調、オイル消費の増加といった症状が次々と現れます。スロットルボディやインテークマニホールドにススが溜まると、空気の流れが設計値から変わってしまい、狙ったような燃焼ができなくなります。
タンブル気流(縦渦)を利用して混合気を攪拌するリーンバーンエンジンでは、空気の流れが命です。ススで流路が変化すると、燃焼効率が大幅に低下し、本来の性能が発揮できません。通常のエンジンより頻繁な清掃や部品交換が必要になり、維持費が跳ね上がるリスクがあります。
バイクの場合、エンジンルームへのアクセスが限られており、清掃作業も容易ではありません。専門的な知識と工具が必要になるため、メンテナンスコストが予想以上にかさむ可能性があります。
リーンバーンエンジンの運転感覚は、通常のエンジンとは大きく異なります。最も顕著なのは、アクセルレスポンスの悪さです。
薄い混合気ではトルクが不足するため、アクセルを踏んでもすぐにパワーが立ち上がりません。追い越しや合流といった、瞬発力が求められる場面で力不足を感じやすくなります。特にバイクでは、車の流れに乗り遅れると危険な状況に陥る可能性もあります。
リーンから通常燃焼への切り替えをゆっくり行うと、アクセルを踏んでいるのにいつまでもパワーが出てこない現象が起きます。かといって、急激に切り替えるとエンジンの振動が大きくなり、乗り心地が悪化します。
結論は快適性の犠牲です。
バイクのような趣味性の高い乗り物では、走る楽しさが重要な要素です。燃費を優先してドライバビリティを犠牲にすると、乗る喜びが失われてしまいます。実際、多くのライダーがリーンバーンの扱いにくさを指摘し、普及が進まなかった歴史があります。
坂道での走行も厳しいところですね。登坂時には継続的にパワーが必要ですが、リーンバーン領域では十分なトルクが得られません。結局、通常燃焼モードで走ることになり、燃費のメリットが消えてしまいます。
リーンバーンのデメリットが明らかになるにつれ、自動車・バイク業界は別の方向へ舵を切りました。現在の主流は、ストイキオメトリー(理論空燃比)制御と高効率化の組み合わせです。
参考)第3章 独創の技術・製品 第1節 二輪車 第1項 スーパーカ…
Hondaの二輪車では、LAFセンサー(リニアAFセンサー)を用いた精密な空燃比制御が採用されています。これにより、リーン域からストイキオメトリーへの移行時にリニアな制御と点火時期調整を行い、トルク変動を緩和しています。燃費向上とスムーズな走行を両立させる技術です。
Hondaグローバルサイト - 二輪車の空燃比制御技術
別のアプローチとして、ハイブリッドシステムやアイドリングストップ機構による燃費向上も一般的になっています。エンジンそのものの燃焼方式を極端に変えるのではなく、走行状況に応じてモーターアシストを使ったり、停止時にエンジンを止めたりする方法です。
バイクの世界では、軽量化と空力改善による燃費向上が主流です。車体重量を減らせば、同じエンジンでも燃費は改善します。カウル形状の最適化で空気抵抗を減らすことも、実用燃費に直結します。
最新の排ガス規制に対応するには、触媒の性能向上と燃料噴射制御の精密化が基本です。リーンバーンのような特殊な燃焼方式に頼らず、確実に排ガスを浄化できる三元触媒システムが選ばれています。
もし中古バイク市場でリーンバーンエンジン搭載車を見つけた場合、購入前に必ず確認すべき項目があります。
第一に、エンジンの状態です。
前述のスス堆積問題がないか、専門店でのチェックが必須です。吸気バルブの密閉性、オイル消費量、始動性などを詳しく調べてもらいましょう。これまでのメンテナンス履歴があれば、定期的な清掃が行われていたかを確認できます。
排ガス関連部品の状態も重要です。NOx触媒やEGRバルブなどは、リーンバーン特有の高価な部品です。これらが劣化していると、交換費用が高額になります。排ガステストの結果があれば、NOx排出量が基準内に収まっているか確認しましょう。
参考)新開発NOx触媒を採用した新世代ディーゼルエンジンを開発
実際の燃費実績を前オーナーに聞くことも有効です。カタログ値と実燃費のギャップがどの程度か、使用条件によって変わることを理解した上で判断材料にできます。
メンテナンスコストの見積もりも忘れずに。通常のエンジンより清掃頻度が高く、特殊な部品交換が必要になる可能性があります。年間維持費がどの程度になるか、購入店に相談して試算しておくと安心です。
それで大丈夫でしょうか?
正直なところ、バイクでリーンバーンエンジンを選ぶメリットは現在ほとんどありません。燃費面での利点よりも、NOx排出、パワー不足、メンテナンストラブルといったデメリットの方が大きいからです。新車市場では既に淘汰されており、中古で購入する場合も慎重な判断が求められます。
むしろ、最新の燃料噴射制御技術を搭載した通常エンジンの方が、トータルでの満足度は高いでしょう。燃費、環境性能、走行性能のバランスが取れており、メンテナンスも容易です。
バイク選びでは、カタログスペックだけでなく、実際の使い勝手と維持コストを総合的に考慮することが重要です。リーンバーンという言葉に惑わされず、自分の使用目的に合ったバイクを選びましょう。