

高性能タイヤでも冷えた路面では普通のタイヤより滑ります。
バイクのタイヤがグリップする力は、物理学の摩擦力で説明できます。摩擦力(F)は「摩擦係数(μ)×垂直荷重(N)」という式で決まります。垂直荷重とは、タイヤに掛かる荷重のことです。
つまり摩擦係数が上がるか、タイヤにかかる荷重が増えるとグリップが強くなります。接地面積を増やしても、荷重が変わらなければグリップは増えません。
これが基本です。
タイヤと路面の間では、ミクロレベルで2つの摩擦が起きています。1つ目は路面の凸凹にゴムが叩き込まれる「ヒステリシスロス」、2つ目はゴムと路面の分子がくっつく「凝着摩擦」です。この2つの力が合わさって、摩擦係数1を超えるグリップが生まれます。
バイクのタイヤが路面に接している面積は、はがき1枚分より小さい面積しかありません。この小さな面積2つで車体全体を支えているため、トレッドが接地面から離れると容赦なくスリップします。
タイヤは常に微妙に滑りながら走っています。しっかりトラクションしている状態でも、路面にうっすらとブラックマークが残るほどタイヤは滑っているんです。
つまり完全にグリップしているわけではありません。
摩擦力には「静止摩擦」と「動摩擦」があり、静止摩擦の方が大きくなります。タイヤがスピンしたりドリフトしている状態では動摩擦が生じており、グリップは滑り出す直前が最大になります。
摩擦円とは、タイヤのグリップ力の限界を円で表したものです。縦軸に前後力(駆動力・制動力)、横軸に横力(コーナリングフォース)をとり、その合力は摩擦円を越えられません。
ここで多くのライダーが勘違いするのが、縦方向と横方向のグリップの関係です。「ブレーキで80%使うとコーナリングは20%しか使えない」と足し算で考えてしまいがちですが、実際は違います。
正しい計算では、ブレーキングで80%の力を使った時のコーナリング力は、100の二乗から80の二乗を引いた値の平方根になります。
つまりコーナリング力は60%も残っています。
この摩擦円の概念を理解すると、コーナリング中の限界走行がイメージできます。縦or横の合力が摩擦円の外に出ると転倒します。安全マージンを持って走るなら、摩擦円の内側で余裕を持った操作が必要です。
コーナリング中にフルブレーキをかけると、減速方向のグリップ力が必要ですが、すでに横方向でグリップを使い切っているため減速できません。
結果はアンダーステアでコースアウトです。
タイヤのグリップ限界は一定ではなく、路面状況やタイヤの状態で常に変化します。雨水や砂利などの異物が入り込むと、路面からタイヤが浮いて摩擦円が小さくなります。
参考)バイクがスリップする原因を知っておこう – バイ…
タイヤの温度はグリップ力に大きく影響します。低温領域ではグリップ性能が低下し、高温領域では耐久性能が劣化してタイヤブローなどのトラブルが発生します。
参考)https://www.honda.co.jp/HRC/specials/cbr250r_settings/p06/
サーキット用のハイグリップタイヤは、高負荷がかかって発熱した状態で最高のパフォーマンスを発揮するように設計されています。
その最適温度域は約90~120℃程度です。
外気温より高いため、走行前に毎回タイヤを温める必要があります。
参考)サーキットで上手にタイヤを温める方法【ディアブロマン直伝】 …
冬の朝一番や休憩後など、タイヤが冷え切った状態では非常に危険です。走り出し直後のタイヤは冷たく、ゴムが硬い状態になっています。この状態で急に大きなパワーを伝えようとすると、タイヤがグリップせずスリップします。
参考)「いいタイヤなのに滑った。なんで?」の声も “いつも通り”が…
実際に「高性能なバイクなのに昼間の交差点でタイヤがスリップしかけた」「いいタイヤを履いているのに滑った」という声が多数報告されています。高性能タイヤほど適正温度での性能に特化しているため、冷えている時のグリップは一般的なタイヤより劣る場合があります。
路面温度が1桁になると、タイヤの接地感がかなり薄くなります。路面が冷え切っていると、サーキット走行を想定したタイヤは正しいグリップ力を発揮できません。
参考)https://ameblo.jp/justice5884/entry-12882312081.html
極端な低温にさらされたタイヤはグリップ性能を失いますが、限度を超えた高温状態でもゴムが溶けてペースト状になります。この限度を「リバージョンポイント」と呼び、この閾値を超えるとタイヤの性能は低下します。
対策として、走り出しから数分間は控えめな運転を心がけ、タイヤを徐々に温めることが重要です。
急加速や深いバンクは避けましょう。
「タイヤの空気圧を下げるとグリップが上がる」という話を聞いたことがあるかもしれません。確かに空気圧を下げるとタイヤが潰れて接地面積が増えます。
しかしグリップが上がるというのは誤解です。
摩擦力の公式「F=μmg」を見ると、摩擦係数μ、荷重m、重力gはすべて一定です。空気圧を下げて接地面積を増やしても、ライダーとバイクの車重は変わりません。
つまりグリップ力Fは空気圧に関係なく同じです。
ではなぜ「グリップが上がった」と感じるのでしょうか。
空気圧を下げると走行抵抗が増加します。
同じスピードを維持するには今までよりスロットルを多く開ける必要があり、「アクセルが開けられる」と感じるだけです。
サーキットでは空気圧を下げることで接地面積を確保し、路面を掴む力を増やせます。ただしこれはサーキット特有のテクニックで、一般公道では空気圧が低すぎると危険です。
空気圧を下げるメリットとして、タイヤがたわみやすくなり潰れるフィーリングを掴みやすくなる点があります。安心感が向上する効果はありますが、物理的なグリップ自体は変わっていません。
空気圧不足は偏摩耗の原因にもなります。特定の場所だけスリップサインが現れた場合は、空気圧不足やアライメント不良が考えられます。走行安定性にも悪影響を及ぼすため、適正空気圧を保つことが大切です。
参考)【バイク初心者必見】知らないと危険なタイヤのスリップサインの…
「新品タイヤは滑る」という常識を聞いたことがあるはずです。確かに新品タイヤには油分が付着しており、これが主なスリップ原因になります。ただし本当に危険なのは、3年以上経過した古いタイヤです。
参考)バイク“新品タイヤは滑る”は間違い!一番グリップしないのは3…
タイヤのグリップ力は、コンパウンドと呼ばれるゴム質の粘着力と、ゴム層がたわむことで得られるダンピング性能によって発生しています。トレッドのゴム層が摩耗して薄くなると、たわむ余裕がなくなります。
参考)タイヤが減ってくると滑りやすくなるのはなぜですか?【教えてネ…
ダンピング性能が重要な理由は、滑り出しそうになった時に一気にスリップさせない特性があるからです。ゴムの層がたわむことで得られるこの特性は、厚みがなくなるといきなり滑りやすくなります。
タイヤの劣化具合を調べる方法として、ゴムに爪を立てて凹むかどうかを見る方法があります。3年以上経過した中古車のタイヤが一番危ない可能性があります。端の方がツルツルでカチコチになっていたら要注意です。
スリップサインは溝の残りの深さが少なくなっていることを知らせるサインです。タイヤの溝の底にある盛り上がった部分がスリップサインで、この盛り上がりが路面と接触するまで摩耗が進むと限界です。
MotoGPやSBKでは、レース後半にタイヤのグリップが落ちて順位を落とす話がよく聞かれます。これはゴム層の摩耗によるダンピング性能の低下が原因です。
レースに影響するほどグリップは変化します。
コーナーで加速する時、6,000rpm以上回すとリアタイヤが滑る可能性があります。4,000rpmまで達したらバンク中でも次のギアへシフトアップし、安心できる領域だけを繋いで走りましょう。
参考)リヤタイヤが突然滑ったらどうする?【教えてネモケン077】
リアタイヤの挙動として、強いトルクが生じた時に滑り始め、トラクションが抜けてグリップを回復し、また滑るというサイクルを繰り返すことがあります。このパターンを理解しておくと、突然の滑りにも対応しやすくなります。
コーナリング中にタイヤが滑ると車体が横を向きます。コーナリングの遠心力がタイヤのグリップ力を超えたり、路面状況が変わって急にグリップしなくなるのが原因です。
特に危険なのは急制動やギアチェンジの際です。エンジンの回転数とギア比が合わず速度が急に落ちると、スリップが発生することがあります。急ハンドルを切ってのスリップダウンも転倒の主な原因です。
白線やマンホールは特に滑りやすい場所です。トンネル内は湧き出た水でウェット状態になっており、突然前輪が横に滑り出すことがあります。進行方向は変わらなくても、車体が15度ほど横を向く危険な状況です。
参考)https://bbs.kakaku.com/bbs/K0000097113/SortID=21159604/
冬季の冷たい路面で轍がある状況では、荷重が抜けることでスリップしやすくなります。コーナー進入で強くリアブレーキを踏むとリアタイヤが流れやすいため注意が必要です。
長時間の連続走行では、タイヤが過熱してグリップが低下することがあります。タイヤ温度が上がりすぎたと感じたら、1周クールダウンラップを入れてペースを落とし、タイヤを冷ましましょう。
参考)サーキット走行のためのVALINOタイヤセッティングガイド
バイクがスリップする原因とタイヤ滑りの詳しい対策について - グーバイク
タイヤのグリップと凝着摩擦の詳しいメカニズム解説 - ピットイン
タイヤのグリップメカニズムと摩擦係数の科学的解説 - モトエース