

国内仕様のRC36に乗っているのに、輸出仕様を買い直した方が安上がりになることがある。
VFR750F(RC36)は1990年にホンダが発売したV型4気筒スポーツツアラーで、先代RC24からの設計思想を受け継ぎながら、レーサーレプリカのRC30(VFR750R)とは異なる「乗りやすさと高性能の両立」を狙ったモデルです。エンジンは748cc水冷4ストDOHC4気筒で、ボア×ストロークは70.0mm×48.6mm。これはなんと1982年のVF750Fから変わらない寸法です。
国内仕様の最高出力は77PS/9,500rpm、最大トルクは6.6kgm/9,500rpmです。これに対して輸出仕様(フルパワー仕様)は100PS/12,000rpm、最大トルク7.4kgm/10,500rpmと、同じエンジンでありながら出力に大きな開きがあります。
| 項目 | 国内仕様 | 輸出仕様(フルパワー) |
|---|---|---|
| 最高出力 | 77PS / 9,500rpm | 100PS / 12,000rpm |
| 最大トルク | 6.6kgm / 9,500rpm | 7.4kgm / 10,500rpm |
| 車体重量(乾燥) | 221kg | 221kg |
| 燃料容量 | 18.0L | 18.0L |
| タイヤ(前) | 120/70ZR17 | 120/70ZR17 |
| タイヤ(後) | 170/60ZR17 | 170/60ZR17 |
差は23PSです。これは当時の250cc中型バイクが出していた最高出力とほぼ同じ数字というと、そのインパクトが伝わるでしょうか。つまり国内仕様のRC36には、250cc1台分のパワーが封印されている計算になります。
この差は1990年代に日本の二輪メーカーが自主的に設けた「最高出力77PSまで」という国内自主規制に由来します。当時は安全上の理由から大型バイクの出力を抑える申し合わせが国内メーカー間でなされており、RC36も例外ではありませんでした。
車体スペックは国内・輸出ともほぼ共通です。全長2,180mm、全幅710mm、全高1,175mm、ホイールベース1,470mm、シート高800mm。乾燥重量221kgというのは現代の基準でも決して軽くはありませんが、RC30比では重量増を最小限に抑えた設計になっています。
つまりRC36は骨格こそRC30の技術を流用した本格スポーツです。
参考:VFR750F(RC36)のスペック・系譜詳細
バイクの系譜 – VFR750F(RC36) -since 1990-
「イグナイターを替えればフルパワーになる」という認識を持っているライダーは多いですが、実際にはそれだけでは不十分です。国内仕様と輸出仕様の違いは、実に広範囲に及んでいます。
実際にフルパワー化に取り組んだオーナーの記録をもとに確認すると、異なる部品は以下の通りです。
重要なのはカムシャフトの存在です。カム交換はエンジンの腰上をすべて分解する必要があり、工賃だけでも数万円単位の出費になります。そのため、カムを含めた完全フルパワー化は非常にコストが高くなります。
これが基本です。
「国内仕様からフルパワー化するより、最初から輸出仕様(逆輸入車)を購入した方がコスト的に合理的」とオーナーたちの間でよく語られる理由がここにあります。カムを含む全部品を揃えて工賃を払えば、輸出仕様の中古車を購入する費用を上回りかねないからです。
参考:フルパワー化の実体験記録(部品交換の比較写真あり)
わたしの記録 – VFR750F RC36 輸出フルパワー 部品装着
完全フルパワー化(100PS仕様)を目指すのか、それとも部分的なチューンでトルク感を上げる「プチフルパワー化」に留めるのかで、作業量とコストは大きく変わります。
まず現実的なアプローチから整理します。
📋 ステップ1:エアダクト交換(難易度:低)
エアクリーナーボックスの吸入ダクトを輸出仕様に交換します。これはボルトオンで交換でき、DIYでも取り組みやすい部分です。eBayや国内オークションで中古部品が入手できることがあります。
📋 ステップ2:ファンネル交換(難易度:低〜中)
エアクリーナーボックス内のファンネルを輸出仕様(短い)に交換します。国内仕様のファンネルは意図的に長く作られており、吸気を絞っています。
📋 ステップ3:インシュレーター交換(難易度:中)
キャブとエンジン間のインシュレーターを輸出仕様に交換します。ここがRC36のフルパワー化で最も作業が大変とされる部分のひとつです。4連キャブをすべて均等にエンジンに取り付けるのは、経験者でも3〜4回やり直すほどコツがいる作業です。
📋 ステップ4:マフラー交換(難易度:低)
輸出仕様の純正マフラーに交換するだけで排気効率が大きく変わります。フルパワー化済みの車両では既に交換されていることが多いです。
📋 ステップ5:イグナイター交換(難易度:低〜中)
スパークユニットを輸出仕様に交換することで点火タイミングが最適化されます。
これだけ取り組んだ場合でも、カムが国内仕様のままであれば完全な100PSには達しません。ただし「明らかに4,000rpm以上でトルクアップが感じられた」というオーナーの実感報告が多数あります。排気量が上がったような感覚という表現がよく使われます。
カムまで替えるかどうかが分かれ目です。
カムシャフトを輸出仕様に交換する場合は、腰上分解が必要になるため、技術と工具が揃っているか、信頼できるショップに依頼するかを慎重に検討しましょう。工賃込みのコストは車両や整備状況によっても異なりますが、エンジン腰上O/H作業になるため数万〜十数万円の費用を見込む必要があります。
フルパワー化に成功した後、多くのライダーが次に直面するのが車検と任意保険の問題です。ここは「知らなかった」では済まされないお金と法的なリスクが絡む部分なので、しっかり確認しておきたいところです。
🔍 車検について
フルパワー化の内容が「元の輸出仕様と同一の純正部品への変更」である場合、基本的に保安基準を逸脱するような改造にはなりません。ただし、車検証に記載の型式・仕様と大きく異なる状態になった場合には、改造申請の対象となる可能性があります。
注意が必要なのはマフラーです。輸出仕様の純正マフラーへの交換でも、現行の騒音規制値(近接排気騒音)に適合しているかどうかを確認する必要があります。RC36は1990年代の車両であり、当時の規制値と現在の規制値が異なる場合があるため、車検前に一度確認しておくことをお勧めします。
保安基準に適合しているかどうかが原則です。
🔍 任意保険について
これが見落とされがちな部分です。逆輸入車(輸出仕様)として登録されている場合と、国内仕様として登録されている車両をフルパワー化した場合では、保険会社への申告内容に影響が出ることがあります。
「改造による性能変更を申告せずに事故を起こした」場合、保険会社から契約内容との相違を指摘される可能性があります。エンジン性能を大きく変えるような改造は、任意保険の重要事項説明書において「通知義務」の対象となっている場合があるためです。
契約内容の確認は必須です。
加入中の任意保険の約款・重要事項説明書を確認し、不明な点は保険会社に直接問い合わせることが、最もリスクを下げる方法です。「プロに頼めばすべてOK」ではなく、保険上の申告は自分でも把握しておく必要があります。
参考:バイクカスタムと車検の関係
オートショップタニカワ – バイクのカスタムと車検の関係を徹底解説
フルパワーの数字だけに注目すると、RC36の本質的な魅力を見落とすことになります。このバイクが30年以上たった今でも乗り続けられ、逆輸入フルパワー車が流通している理由は、スペック表に現れない部分にあります。
まず特筆すべきはカムギアトレインです。
カムシャフトをチェーンではなくギアで駆動するこのメカニズムは、VFR750R(RC30)由来のレース技術をそのままフィードバックしたもの。このギアが高回転で噛み合う際に発する「キーン」という金属音は、チェーン駆動のエンジンでは絶対に出せない音です。この音を求めてRC36を選ぶライダーは少なくありません。
次にプロアームです。RC36はVFRシリーズで初めてシングルサイドスイングアーム(プロアーム)を採用したモデルです。左側からタイヤが丸見えになる独特の外観は、VFRのアイデンティティとして現在まで受け継がれています。これはRC30のレース技術から来たものであり、ホイール交換時の作業性向上という実用的なメリットもあります。
V4エンジンのフィーリングも独特です。360度クランクを採用したV4は、直列4気筒とは異なる爆発間隔を持ち、低回転から中回転域にかけてのトルクのかかり方が非常に滑らかで、ライダーのスロットル操作に素直に応じます。「敢えて口径を絞った純正キャブレターがライダーの感性に馴染む」という評価は、フルパワー輸出仕様の実体験者から多く聞かれます。
面白いのは欧州での評価です。日本国内ではRC30の圧倒的な存在感と「V4=レースマシン」というイメージが強すぎたため、RC36は地味に見られがちでした。しかし欧州ではスポーツツアラーとして非常に高い評価を得ており、フルパワーの100PSで高速道路を快適に走れる実力が現地で歓迎されました。
ツーリングとスポーツ走行を両立させるのがRC36の本質です。
日本では後期モデルが国内正規販売を見送られたほどマイナーな扱いを受けましたが、世界的には「大人のスポーツツアラー」として確固たるポジションを築いたバイクです。このギャップを知っているライダーほど、RC36への評価が高い傾向があります。
参考:ホンダV4の歴史とVFRシリーズの位置づけ
Ride-Hi – V4をレプリカではない新スーパースポーツへ分離したVFR750F(RC36)
「どうせならフルパワー仕様を最初から買いたい」と考えた場合、現在の中古市場はどのような状況でしょうか。2026年2月時点の情報をもとに整理します。
まず中古相場について。グーバイク掲載ベースでは平均価格330万円前後という数字が出ていますが、これは特殊なカスタム車の影響を受けた数値です。買取相場の実態は15〜31万円程度(業者間取引)とされており、一般的な中古流通価格は程度と年式によってばらつきがあります。ヤフオク等のオークションでは部品取り車が2万円台から落札されるケースもあります。
状態の良いフルパワー輸出仕様を探すには時間がかかります。
維持費については、RC36は1990年代の車両であり、純正部品の入手が年々困難になってきています。特にV型4気筒フルカウルのメンテナンス性はお世辞にも良くなく、キャブの脱着だけでも相当な手間を要します。「フルカウル&V4エンジンということでメンテナンス性が極悪の部類」というオーナーの声は誇張ではありません。
維持するには知識と覚悟が必要です。
ただし、ここで諦めるのは早いです。純正部品が廃番になっている場合でも、eBayなどの海外オークションで輸出仕様の中古部品が手に入ることがあります。また、RC24(初代VFR750F)と共通の部品も一部存在するため、流用で解決できるケースもあります。
オーナー同士のコミュニティ情報も非常に重要な資源になります。国内のVFRオーナーズクラブやSNSのグループでは、廃番部品の代替情報や整備のノウハウが活発に共有されており、こうした情報ネットワークにアクセスすることが長期維持の鍵になります。
燃費についても把握しておきましょう。定地走行テスト値で26.5km/Lというカタログ値はありますが、フルパワー化後は当然これより下がります。「ハイオク仕様で燃費悪い」というオーナーの声も複数確認されており、燃料コストは月単位で計算しておくと安心です。
| 維持費の主な項目 | 目安・備考 |
|---|---|
| 燃料(ハイオク) | フルパワー仕様は燃費悪化に注意。実燃費は15〜20km/L程度も |
| オイル交換 | 全容量3.8L。交換時2.9L(ホンダ純正ウルトラG1推奨) |
| タイヤ | 前120/70ZR17・後170/60ZR17。廃盤サイズではなく現行品が使える |
| 純正部品 | 廃番多数。海外オークション・流用で対応するケースが増加中 |
| 車検(2年毎) | 自賠責+重量税+点検費用。改造状態により追加確認が必要な場合あり |
RC36をフルパワーで長く楽しむには、整備の自己技術向上か、V4に精通したショップとの関係構築がほぼ必須と考えておいた方がよいでしょう。それでも「このV4サウンドと走りは他では絶対に得られない」と言い切るオーナーが今も存在するのが、このバイクの底力です。

バイクキャブレター 用 VFR750F RC36 1990-1993 VFR 750 VFR750 R フローティングニードル交換用オートバイキャブレター修理リビルドキット(Set 3)