

クランクベアリングの初期異音が出てから1,000km以内にフライホイールが破損した事例があります。
クランクベアリングとは、エンジン内部でクランクシャフトを支えるための軸受部品です。クランクシャフトはピストンの往復運動を回転運動に変換するエンジンの心臓部であり、そのシャフトが高速で安定して回り続けるためにベアリングが不可欠な存在となっています。
バイクのエンジン、とくにスクーターなどの2ストロークエンジンでは、クランクシャフトはクランクケースの中央に収まっており、クランクケースを割らないと直接触れることができない構造になっています。これが修理を難しくしている最大の理由です。つまりエンジンの最も奥にある部品です。
4ストロークエンジンの場合も、クランクベアリングはエンジン腰下に位置しており、交換作業にはエンジンを車体から降ろして完全に分解する必要があります。ベアリング自体の部品代は数百円〜数千円という場合もありますが、工賃が非常に高額になるのはそのためです。これは大切な前提知識です。
クランクベアリングの損傷が進むと、クランクシャフトに「振れ」が発生します。振れが大きくなると、フライホイールやピックアップコイルにまで悪影響が広がり、点火タイミングが狂う・エンジンが突然止まるなど、走行中に深刻な症状が出ることがあります。あとで詳しく説明します。
クランクベアリングの異音は、最初から大きな音がするわけではありません。段階を踏んで音が変化していくのが特徴で、この変化に気づけるかどうかが修理費用の差を決める重要なポイントです。
まず最初期の音は、アクセルを開けたり戻したりしたタイミングで聞こえる「ヒュイーン」という高音です。スクーターではエンジンファン付近から発生することが多く、注意していないと気づかない程度の音量です。初期段階では問題ありません、というわけではなく、すでにベアリングの劣化は始まっています。
この状態を放置すると、音は「シャー」または「ゴー」という持続音に変わっていきます。アイドリング中でも聞こえるようになるため、この段階に来ると多くのライダーがようやく「おかしい」と気づきます。ただしこの時点でも修理費用は跳ね上がっています。
さらに悪化すると「ガリガリ」「ゴリゴリ」という金属が擦れる重厚な音に変わり、クランクシャフトの芯ずれや抱きつきが発生するリスクが高まります。この段階になると、クランクシャフトそのものを交換・再生整備しなければならず、費用は一気に20〜30万円規模になります。痛いですね。
| 段階 | 音の種類 | 状態 | 推定修理費用 |
|------|---------|------|------------|
| 初期 | ヒュイーン | ベアリング劣化開始 | 〜数万円(早期なら低コスト) |
| 中期 | シャー・ゴー | ベアリング損傷が進行 | 10〜20万円前後 |
| 末期 | ガリガリ・ゴリゴリ | 芯ずれ・抱きつきの危険 | 20〜30万円超 |
重要なのは、「ヒュイーン」の段階でも自然に消えることはないという点です。ベアリングが修復されることはないため、放置すれば確実に悪化します。結論はできるだけ早く対処することです。
専門家の整備情報(バイクパッション掲載)によれば、クランクベアリングの損傷が進んでクランクシャフトに異音・異常振動が発生してからフライホイールが完全破損するまで、約1,000km程度という事例も確認されています。通勤で毎日乗る人なら、1〜2か月で修復不可能な損傷に至る可能性もあります。
バイクパッション|バイクのエンジンから異音がする・症状別の修理法(整備士監修)
エンジンを開けなくても、いくつかの手順でクランクベアリングの異音かどうかをある程度絞り込むことができます。ただし、最終的な判断はバイクショップの整備士に委ねることが前提です。
手順①:音の発生タイミングを特定する
センタースタンドを立て、エンジンをかけてアイドリング状態にします。次に、ゆっくりアクセルを開け、戻すを繰り返してみてください。アクセル操作に連動して「ヒュイーン」という音が出ていればクランクベアリング異音の可能性が高い状態です。クラッチを握っても音が変わらない場合は、ミッション系ではなくクランク系の疑いが強まります。
手順②:エンジンの回転数と音の連動を確認する
音がエンジン回転数と完全に連動して変化するかを確認します。回転数が上がると音が高く・大きくなり、下がると音も収まる場合はベアリング系の異音であることが多いです。一方、カムチェーンの異音は回転数が「落ちるとき」に多く発生するため、音のタイミングで区別できることがあります。これが一つの判断基準です。
手順③:2ストロークエンジンはクランクシャフトの揺れを触診する
2ストロークエンジンのバイクでは、キックカバーを外してクランクシャフトの先端を手で軽く縦・横に揺らしてみる方法があります。わずかでも目に見えるほどのガタや振れがある場合は、クランクベアリングの交換時期を超えていると判断できます。ただし、細かな振れは目視では判断できないため、あくまで参考程度にとどめてください。
なお、4ストロークエンジンのバイクではクランクへの直接アクセスはさらに難しく、音による判断が中心になります。カムチェーンの異音(ジャラジャラ音)や、クラッチハウジングの異音(アイドリング中のカタカタ音)と混同しやすいため、音の種類と状況を整理してショップへ持ち込むのが現実的な方法です。
メガスピード|クランクシャフトベアリング破損の実例と診断プロセス(実整備事例)
「少し様子を見てから決めよう」——これがクランクベアリング異音への最も危険な対応です。修理費用の観点から、その代償を具体的に見ていきます。
クランクベアリングを交換するためには、エンジンを車体から降ろし、クランクケースを割る必要があります。これはいわゆる「腰下オーバーホール」の作業範囲であり、費用の相場は次の通りです。
- 原付クラス(50cc)の腰下 OH:10〜15万円程度(部品代 + 工賃)
- 中型以上のバイクの腰下 OH:20〜30万円程度(部品代 + 工賃)
- クランクシャフトASSY交換が必要な場合:さらに部品代が加算
工賃だけで見ても、腰下作業は空冷単気筒でショップ工賃3〜5万円、水冷・多気筒になると5万円超になるケースがあります。これはベアリング自体の部品代(数百〜数千円)とは全く別の話です。
問題はここからです。異音の初期段階でベアリング単品の交換だけで済んだはずが、放置によってクランクシャフト本体が損傷すると、クランクシャフトASSYごと交換か「芯出し再生」作業が必要になります。新品クランクシャフトが廃盤になっている旧車では、中古部品を使わざるを得ない場合もあります。
さらに、クランクシャフトの振れが拡大するとフライホイールにも亀裂が入ることがあり、点火系への影響でエンジンが正常に動かなくなるケースもあります。修理範囲が連鎖的に広がるということです。
車体価格が10〜20万円の原付やスクーターで腰下修理に20万円以上かけるのは、費用対効果として成立しないケースが多く、実質的な廃車判断につながることもあります。早期対応がいかに重要かが分かります。
バイクのエンジンオーバーホール費用の相場についての詳細は以下のページが参考になります。
ドラスタナビ|バイクのエンジンオーバーホール費用の相場まとめ(腰上・腰下別)
クランクベアリングの損傷を防ぐために、ライダーが日常的にできることがあります。それはエンジンオイルの適切な管理です。
4ストロークエンジンのバイクでは、エンジンオイルがクランクベアリングを含むエンジン内部の金属部品を常に潤滑・冷却しています。オイルが劣化したり量が不足すると、金属同士の接触が増えてベアリングが急速に摩耗します。定期的なオイル交換が基本です。
一般的なバイクのオイル交換推奨サイクルは、走行距離で3,000〜5,000kmごと、または6か月〜1年ごとのどちらか早い方とされています。ただし、スポーツ走行や高温環境での使用が多い場合は、より短いサイクルでの交換が推奨されます。
2ストロークエンジンのバイクの場合は少し事情が違います。2ストロークエンジンのクランクベアリングはエンジンオイルではなく、ガソリンと混合する2ストロークオイル(2Tオイル)で潤滑されています。このオイルの混合比や品質が直接クランクベアリングの寿命に影響します。格安オイルの使用や混合比の薄い設定は、クランクベアリングの早期劣化につながるリスクがあります。
また、2ストロークエンジンのスクーターではクランクベアリングが比較的早期に摩耗しやすく、走行距離1.5万〜2万km前後でベアリングの状態を一度確認したほうがよいという声も整備現場から聞かれます。保険のような感覚で定期点検に出すのが賢い選択です。
以下はウェビックの整備士解説記事で、4ストロークエンジンにおけるオイル管理とエンジンノイズの関係が詳しくまとめられています。
ウェビック|ヘッドかクランクか?エンジンノイズの原因とオイル管理の重要性
日常点検の習慣として取り入れやすいのが、出発前のエンジン始動直後の音確認です。エンジンが冷えた状態でかけたときと、温まったあとで音の種類・大きさが変化していないかを耳で確認します。異音の早期発見に最も有効な習慣はこれだけ覚えておけばOKです。
なお、エンジンオイルの銘柄選びにこだわりたい場合、自分のバイクの排気量・エンジン形式に合ったAPI規格・粘度グレードを確認したうえで選ぶのが基本です。バイク用品店では走行スタイルや排気量別の推奨オイルを案内してもらえるので、迷ったら店頭で相談するのが確実な方法です。
一般的な情報では「異音が出たら早めに修理を」で終わることが多いですが、実際には「修理すべきか、乗り替えるべきか」という判断が非常に重要です。この判断を誤ると、車体価格以上の費用をかけて修理した直後に別の箇所が壊れる、という最悪のパターンに陥ります。
修理コストと車体価値のバランスが、判断の核心です。
まず考えるべきは、修理費用が車体の現在価値の何割を占めるかです。一般的に「修理費用が車体価値の50〜70%を超える場合は買い替えを検討すべき」と言われています。たとえば査定額5万円のスクーターに20万円の腰下修理が必要であれば、費用対効果としては成り立ちません。
次に確認すべきは他の消耗部品の状態です。走行距離が多いバイクでクランクベアリングが摩耗しているということは、他の部品も同程度に消耗している可能性があります。修理後に別の箇所が連続して壊れるリスクが高く、「また修理費がかかる」という負のスパイラルに入りやすい状況です。
一方、修理を選ぶべきケースも存在します。たとえば、走行距離が少ない年式の若い車体で、なおかつクランクベアリング以外の状態が良好であれば、修理後の寿命延長が見込めます。また、廃盤になった希少車・旧車では代替品が存在しないため、費用がかかっても修理を選ぶ価値があります。これは費用だけでは判断できません。
判断に迷ったときは、ショップに「修理費用の見積もり」と同時に「現状の車体価値」を尋ねてみることをおすすめします。買取業者に査定依頼をして現在の市場価値を知ることも、判断材料として有効です。状態を整理することが最初の行動です。
クランクベアリングの異音が出ているバイクでも、状態によっては買取できる場合があります。修理費用が車体価値を上回るようであれば、現状のまま査定に出してみるのも一つの選択肢として頭に入れておいてください。

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