

バイクのスペック表で「直列2気筒」と「並列2気筒」という表記を見かけますが、基本的には同じエンジン配列を指しています。シリンダー(気筒)を直線的に2つ並べた構造という点で共通しており、エンジンの配置方法そのものに違いはありません。
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メーカーによる表記の違いが存在し、ホンダ、ヤマハ、スズキは「直列」と表記するのに対し、カワサキだけが「並列」と呼んでいます。この違いはあくまで呼び方の問題であり、配列的には同じものを指しています。過去には進行方向に対してクランクシャフトを直交に搭載しているのが並列、並行に搭載しているのが直列という区別も存在しましたが、現在ではそこまで厳密に使い分けられていません。
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実際のバイク選びでは、表記の違いよりもクランク角や爆発間隔の方がはるかに重要な要素になります。同じ「直列2気筒」または「並列2気筒」と表記されていても、クランク角が異なればまったく別のエンジン特性になるため、スペック表の詳細まで確認することが大切です。
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180度クランクは2つのピストンが交互に上下運動する配置で、振動が小さく高回転まで滑らかに回るのが最大の特徴です。一次振動が互いに打ち消し合うため、バランサーなしでも比較的振動を抑えられ、エンジンをシンプルに設計できます。
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高回転域まで伸びやかに吹け上がる特性を持ち、スポーツ走行に適した性格です。ただし低回転域でのトルク感はやや控えめで、街乗りでは他のクランク角に比べてパンチ力に欠けると感じる場合もあります。現代のスポーツバイクでは、ホンダCBR250RRやCBR400Rなどの高回転型モデルに採用されています。
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180度クランクは偶力振動(左右に揺れる振動)が発生するため、これを抑えるための偶力バランサーが必要になります。しかし250ccクラスのスポーツモデルでは、振動をエンジンの鼓動感として演出するため、あえて二次振動のバランサーを省略しているケースもあります。
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270度クランクは現代の並列2気筒エンジンで最も主流となっている方式で、V型2気筒に似た鼓動感を実現できる点が最大のメリットです。2つの気筒での爆発間隔を270度位相(ずらす)することで、「270°-450°」という不等間隔爆発が生まれ、路面をつかむトラクション感覚が向上します。
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不等間隔爆発によって、特に雨天などではタイヤのグリップ感が分かりやすくなり、滑り出しの感覚をライダーがつかみやすいという実戦的なメリットがあります。ヤマハMT-07、ホンダトランザルプ、スズキGSX-8S、KTM 790デュークなど、700cc以上の中~大排気量オートバイ用直列2気筒エンジンの主流となっています。
デメリットとしては、不等間隔爆発により一次振動がやや大きくなるため、一次バランサーの搭載が必須となります。バランサーはクランクの動力で動くため、出力や燃費がわずかに犠牲になり、エンジンレイアウトへの負担やコストも増加します。スズキはこの問題に対し、2つのバランサーで1次、2次振動だけでなく偶力振動も抑制する「スズキクロスバランサー」を開発しました。
参考)https://kakakumag.com/car/?id=20990
360度クランク(0度クランクとも呼ばれる)は、2つのピストンが同時に上下する配置で、単気筒エンジンを単純に横並びにした形式です。旧い英国車や国産バイクの初期の並列2気筒エンジンに多く採用されていました。
この配置では「360°の等間隔爆発」となり、扱いやすく乗り味がマイルドなのが特徴です。低~中回転域で有利な特性を持ち、ゆったりとしたクルージングに向いています。現行バイクの並列2気筒で360度位相クランクを採用する車両は少なく、国産ではカワサキのW800およびメグロK3のみとなっています。
最大のデメリットは振動が大きいことで、2つのピストンが同時に動くため一次振動が強く現れ、振動を抑制するバランサーが必要になります。また高回転や高出力を狙うのには不向きで、現代のスポーツバイクにはほとんど採用されていません。しかしクラシカルなバイクを好むライダーには、この独特の鼓動感が魅力として評価されています。
直列2気筒エンジンではクランク角によって異なる種類の振動が発生し、それぞれに適したバランサーで対策する必要があります。バランサーとは振動を打ち消す重りの付いたシャフトで、クランクの動力で回転させることで振動を相殺します。
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360度や270度クランクでは大きい一次振動を消す「一次バランサー」が付いている場合がほとんどです。180度クランクでは左右に揺れ動く偶力振動を消す「偶力バランサー」が必須となり、この横揺れは非常に不快に感じるため対策が重要です。スズキが開発した「スズキクロスバランサー」は、2つのバランサーで一次、二次振動だけでなく偶力振動も同時に抑制する先進的なシステムです。
バランサーには代償もあり、クランクの動力で動くため出力や燃費が犠牲になります。また重りのついた棒を追加するわけなので、エンジンが複雑化しレイアウトへの負担やコストも増えます。250cc並列2気筒180度クランクのスポーツタイプが偶力振動のバランサーだけで二次振動のバランサーを付けていないのは、深刻な振動ではないため演出の為に残している面もあります。
V型2気筒エンジンは、それぞれのピストンのコンロッドとクランクシャフトが繋がる軸(大端部)を共有するタイプが多く、シリンダーの挟み角が爆発間隔に影響します。ドゥカティのV型2気筒エンジンは挟み角が90度なため、爆発間隔は「270°-450°」を繰り返す不等間隔爆発です。これは並列2気筒の270度位相クランクと同じ爆発間隔になります。
ハーレーダビッドソンの空冷V型2気筒エンジンは45度の挟み角で、爆発間隔は「315°-405°」を繰り返す不等間隔爆発になります。「ドドッ、ドドッ」という間の開いた排気音から非常に不等間隔に聞こえますが、実際はシリンダーの挟み角が狭いため、等間隔爆発に近い特性です。
並列2気筒の270度クランクは、V型2気筒の良さをよりコンパクトな構成で再現できる点が評価されています。V型2気筒と比べて前後長が短く、マス集中化もしやすくフロント荷重も稼ぎやすいため、車体設計に余裕ができ様々なセグメントの車種にも転用できます。実際にヤマハMT-07やスズキGSX-8Sなど、同じエンジンを複数の車種で共有する例が増えています。
直列2気筒エンジンは部品点数を少なくできるため、軽量でコンパクトなエンジンを実現できます。カムシャフトやこれを駆動するカムチェーンなどが一つで済むので、V型や水平対向に比べると構造がシンプルになり、メンテナンス性にも優れています。
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重いシリンダーが前に集中しているので、スポーツバイクで重要となってくるフロントの荷重を高めるのにも有効なレイアウトです。軽量かつコンパクトな特性により、取り回しやすさやハンドリングの軽快さなど、バイクを扱いやすく運動性能を高められる要素が詰まっています。
現代の水冷エンジンでは、冷却を気にすることなくエンジンの幅を狭くすることができ、ジェネレーター(発電機)をクランクシャフトの横ではなくエンジンの背面に移動して横幅もコンパクトにしています。エンジンの幅が単気筒並みにスリムになったことで、バンク角が稼げて車体を軽快に倒し込めるようになり、スポーツ走行の楽しさが向上しました。
参考)バイク選びで知っておきたい「Vツインエンジン」は何がイイ?
バイク選びで直列2気筒エンジンを検討する際は、クランク角によってエンジン特性が大きく異なることを理解しておく必要があります。同じ排気量の直列2気筒でも、180度、270度、360度のクランク角で乗り味が全く変わるため、試乗して確認することが重要です。
参考)https://www.bikekan.jp/media/0109
高回転までスムーズに回したいスポーツ走行重視なら180度クランク、トラクション感と扱いやすさを両立したいなら270度クランク、クラシカルな鼓動感を楽しみたいなら360度クランクが向いています。用途や好みに合わせて、適切なクランク角のエンジンを選ぶことで満足度が高まります。
参考)2気筒は270°が主流!【ライドナレッジ037】
メーカーや車種によっては、同じエンジンでもモデルによってクランク位相を変えるケースもあります。トライアンフはかつてボンネビルの並列2気筒エンジンで、ボンネビルT100は360度、スクランブラーは270度としていました(現在は270度で統一)。このように、キャラクターに合わせて最適なクランク角が選ばれているため、車種ごとの特性をよく調べることが大切です。
参考)現代バイク用語の初心者講座【クランク位相】 - 【公式】RI…
直列2気筒の中でも特殊な配列として、カワサキKR250に搭載された「タンデムツイン」があります。これは前後にシリンダーを配置する構造で、通常の横並びの直列2気筒とは全く異なるレイアウトです。
参考)カワサキ「KR250」1984年|ワークスマシンのテクノロジ…
前面投影面積を単気筒エンジン並みに小さくし、ロータリーディスクバルブのメリットを活かすべく生まれたこの配置は、WGPレーサーKR250の技術を市販車に応用したものです。クランクシャフトは2本となり、個々のクランクシャフトがダイレクトにクラッチギヤを駆動する仕組みで、徹底したフリクションロスの低減が図られていました。
参考)KR250
同一方向に180度等間隔爆発で回転するクランクシャフトは、一次加振動を打ち消しあい理論上の一次振動をゼロ化しています。しかし独創性に富んだこのエンジンは製造が複雑だったため、後継モデルのKR-1ではオーソドックスなパラレルツインに変更され、タンデムツインは一代限りとなりました。このような特殊な配列は技術的な挑戦として興味深いですが、実用性とコストの面で難しさがあることを示しています。
参考)KAWASAKI「KR250/S 」ワークスレーサーKR25…
直列2気筒エンジンと他のエンジン形式を比較すると、それぞれの特性がより明確になります。以下の表で主要なエンジン形式の違いをまとめました。
| エンジン形式 | 特徴 | 振動特性 | 代表的なモデル |
|---|---|---|---|
| 直列2気筒(180度) | 高回転型、バランス良好 | 一次振動少ない | ホンダCBR250RR、CBR400R |
| 直列2気筒(270度) | 鼓動感あり、トラクション良好 | 中程度 | ヤマハMT-07、ホンダトランザルプ |
| 直列2気筒(360度) | シンプル構造、コスト低 | 振動大きい | カワサキW800、メグロK3 |
| V型2気筒 | コンパクト、鼓動感あり | 特性はバンク角による | ドゥカティ、ハーレーダビッドソン |
| 直列4気筒 | 高出力、滑らかな吹け上がり | 振動少ない | 多くの日本製スポーツバイク |
直列4気筒は高出力で滑らかな吹け上がりが魅力ですが、エンジンが重く横幅も広くなります。一方、直列2気筒は軽量コンパクトで取り回しやすく、250ccから1000ccオーバーまで幅広い排気量で採用されている最もメジャーなエンジン型式になりつつあります。
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V型エンジンは2つのシリンダーをV字状に配置する方式で、エンジン全体をコンパクトにしやすい特徴があります。V字の角度(バンク角)によってエンジンの外観や出力特性に変化をつけられ、ハーレーダビッドソンの45度、ドゥカティの90度が有名です。しかし部品点数が増えメンテナンス性では直列2気筒に劣ります。
直列2気筒エンジンは現代のバイク市場で主流となりつつあり、国内外を問わず多くのメーカーが採用を拡大しています。軽量コンパクトで車体設計の自由度が高く、様々なセグメントの車種に転用できるため、開発効率の面でも優れています。
最新技術として注目されるのは、スズキの「スズキクロスバランサー」のような高度な振動対策システムです。2つのバランサーで一次、二次振動だけでなく偶力振動も抑制することで、2気筒とは思えないスムーズな回転フィールを実現しています。このような技術革新により、直列2気筒エンジンの欠点とされていた振動問題が大幅に改善されています。
電子制御技術の進化も直列2気筒エンジンの魅力を高めています。走行モードの切り替え、トラクションコントロール、クイックシフター、自動ブリッピングなど、現代のマシンらしい装備が充実しており、2気筒エンジンのトルク特性を最大限に活かせるようになっています。これらの技術によって、直列2気筒エンジンは今後もバイク市場の中核を担い続けることが予想されます。