

スマホのGPSは1秒に1回しか位置を記録できず、コーナー中の走行ラインがまるごと抜け落ちます。
バイクでサーキットを走り込んでいると、「なぜあのコーナーで遅れるのか」「ラップタイムが伸びない原因はどこか」という壁に必ずぶつかります。感覚だけで走り続けても、課題はなかなか見えてきません。
データロガーとは、GPS衛星からの信号を使って走行データを記録・保存し、走行後にPC・スマートフォンで詳しく分析できる計測機器のことです。もともとはMotoGPなどのトッププロが使うプロ向けツールでしたが、2010年代以降に価格が大幅に下がり、趣味のサーキット走行を楽しむライダーにも急速に普及しました。
一般的なGPSデータロガーが記録できるデータは、車速(最高速・平均速度・区間速度)、走行軌跡(ラインデータ)、ラップタイム・区間タイム、加速度(Gフォース)などです。上位機種やセンサー追加型では、さらにスロットル開度、エンジン回転数、水温・油温、サスペンションのストローク量まで取得できます。
走りを「数値と軌跡」という情報に変換できるのが最大のポイントです。
上手なライダーのデータとコースのどの地点で差があるかを比較すれば、「ここで0.3秒損をしている」「この区間だけブレーキングが遅い」という具体的な課題が一目でわかります。これが感覚派のライダーには絶大な武器になります。
記録レートの高さも重要な性能指標です。スマートフォン内蔵GPSは1秒に1回しか位置情報を更新しない(1Hz)のに対し、専用GPSデータロガーは1秒間に10〜25回(10Hz〜25Hz)記録するものがほとんどです。バイクが時速80kmで走行中、1秒あたりに進む距離はおよそ22mになります。1Hzのスマホでは22mごとにしか位置を記録できませんが、10Hzのロガーなら2.2mごとに記録が入ります。コーナー中の走行ラインを正確に把握したいなら、この差は致命的といえます。
GPSデータロガー活用術(ライダーズクラブ)|速度とラインデータでスキルアップする方法
「どこに取り付けるか」は、データ精度とバイク保護の両面に直結するため、意外と重要なポイントです。
GPSデータロガーは基本的にGPS電波を受信できる位置に取り付ける必要があります。ロガー本体に小型アンテナが内蔵されているタイプは、空が開けた場所(シートカウル上部・タンク上・ナンバープレート付近など)であれば比較的どこでも使えます。一方、デジスパイス4のように外部アンテナを別途取り付けるタイプは、本体をシート下など雨や衝撃から守れる場所に隠せるため、転倒時のリスクを減らせます。
取り付けに際して気をつけたいのが、バイクの振動対策です。スポーツバイクのサーキット走行では路面からの振動がかなり激しく、固定方法が弱いとロガー本体がずれたり、内部の記録データが破損したりするケースがあります。ベルクロ(マジックテープ)だけに頼らず、専用マウントや強固な両面テープを併用するのが基本です。
Qstarz LT-8000GTのようにIPX7(水深1mでの30分防水)に対応した機種であれば、雨の中のサーキット走行でも安心して使えます。防水性能がないモデルはジップロックなどで覆う簡易対策が必要になる場面もあります。
バイクは四輪車と違い、車体がバンクするため、Gセンサーや加速度計を内蔵したロガーを使う場合は取り付け角度も注意が必要です。傾いたまま固定すると加速度の計算がズレるため、できるだけ車体の中心軸に対して水平・垂直に取り付けるのが原則です。
データを取得しても、見方がわからなければ宝の持ち腐れです。意外と知られていませんが、ラップタイムそのものよりも「速度推移グラフ」の方が実際の改善に直結することが多いです。
まず注目したいのが、コーナーでのボトムスピード(最低速度)です。ビッグバイクのサーキット走行では、「コンパクトに旋回してから鋭く加速する」流れが基本です。コーナーのボトム速度をしっかり落とせると、バイクの向きが変わりやすくなり、立ち上がりで早くスロットルを開けられます。速度推移グラフに山と谷のメリハリが出ているかどうかが、このチェックポイントです。
次に見るべきが走行ライン(軌跡データ)です。専用解析ソフトには国内主要サーキットのコース図があらかじめ収録されており、走行後に地図上へ自分の軌跡を重ね合わせて確認できます。コーナーのどこでインに付いているか、立ち上がりでアウトに膨らんでいないかが一目でわかります。
速度データを比較するときの注意点が一つあります。自分より速いライダーのデータと重ねて比較するとき、横軸を「時間」にすると波形が崩れてしまいます。横軸は必ず「距離」に切り替えること。距離ベースにすることで、同じコーナーの地点で速度の差を正確に比較できます。これが条件です。
また、走行ラインだけ見ても「なぜそのラインになっているのか」がわからないことがあります。MotoGP出身の元プロライダー中野真矢氏も語っているように、データに体調や路面コンディション・タイヤのグリップ変化は反映されません。前回のデータより悪くなっていても、それが自分のライディングのせいとは限りません。データは「絶対的な答え」ではなく「仮説を立てるためのヒント」として扱う姿勢が大切です。
中野真矢氏監修|速度データとライン比較でライディングスキルを上げる実践解説(ライダーズクラブ)
「スマホで無料アプリを使えばいいのでは?」という考えは、一定の範囲では正しいです。ただし、バイクでのサーキット走行では、いくつかのリスクと限界を理解してから選ぶ必要があります。
スマートフォン内蔵GPSの更新頻度は最大1Hzです。これはおよそ1秒に1回しか位置を計算しないという意味です。時速60km走行中なら1秒で約17m進んでいますから、コーナーの入り口から出口の間にデータポイントが1〜2個しかない、というケースが珍しくありません。結果として、走行ラインのデータは実際より大幅に粗くなります。
一方で、スマホアプリにも大きなメリットがあります。機材の追加費用ゼロで始められること、アプリの進化によって無料〜月額数百円で走行ラインやラップタイムを記録できること、そして直感的なUIで初心者でも使いやすいことです。サーキット走行を始めたばかりで「まず走り込む段階」ならスマホアプリで十分です。
問題になるのは、スマホの発熱です。夏場のサーキット走行では、炎天下にスマホを長時間使い続けると熱暴走(サーマルスロットリング)が起き、GPS更新が止まったり、アプリが強制終了したりするケースがあります。そのタイミングで取れたデータは欠損だらけになります。これは使えそうで使えない状況ですね。
専用GPSデータロガーはこのリスクが少ない分、信頼性の面で明確に優位です。バイクでのサーキット走行では「走行中にトラブルが起きてもリカバリーしにくい」という点も考慮し、走行本数が増えてきたタイミングで専用機への移行を検討するのが現実的な流れです。
スマホ内蔵GPS vs DG-PRO1 実測比較(第二の人生へのチャレンジ)|1Hzと10Hz以上の走行ライン精度の差を実データで検証
選択肢が増えた今、「どれを選ぶか」で迷うライダーは多いです。ここでは現在流通しているバイク向けGPSデータロガーを、タイプ・価格・GPS記録レートで整理します。
| 機種名 | GPS記録レート | 防水 | 画面 | 価格帯(目安) |
|---|---|---|---|---|
| デジスパイス4 | 最大20Hz | 外部アンテナのみIPX6 | ❌(スマホ連携) | 約46,000円 |
| Qstarz BL-1000GT | 10Hz | ❌ | ❌(スマホ連携) | 約33,000円 |
| Qstarz LT-8000GT | 25Hz | IPX7 | ✅ | 約90,000円 |
| Drogger DG-PRO1S | 最大18Hz | IP67 | ❌(スマホ連携) | 約17,000円 |
| Drogger DG-PRO1RWS | 最大30Hz | IP67 | ❌(スマホ連携) | 約80,000円 |
| AIM SOLO2 | 10Hz | IP67 | ✅ | 約98,000円 |
| Racebox Mini | 25Hz | 防水 | ❌(スマホ連携) | 約53,000円 |
まずコストパフォーマンス重視なら、デジスパイス4(約46,000円)かDrogger DG-PRO1S(約17,000円)が有力候補です。デジスパイス4はWindows専用の解析ソフトが付属しており、画面は見やすく万人向けです。Drogger DG-PRO1SはAndroidアプリと連携するモデルで、iOS利用者には向きませんが、圧倒的な導入コストの安さが際立ちます。
バイクでの使い勝手を重視するなら防水性能は必須に近いです。サーキットでは突然の雨や洗車によるリスクがあります。IP67対応のDrogger DG-PRO1SやAIM SOLO2、IPX7のQstarz LT-8000GTは特に安心です。
GPS記録レートの高さを最優先にするなら、Qstarz LT-8000GT(25Hz)かDrogger DG-PRO1RWS(最大30Hz)が最高水準です。25Hzは時速60km走行時に約0.67mごとにデータを記録できる計算になりますから、コーナーの入りから立ち上がりまで、バイクの軌跡を細かく描写できます。
初めてデータロガーを導入するなら、3万〜5万円のエントリーモデルで「データを見て考える習慣」をまず身につけることをおすすめします。
モータースポーツ向けGPSデータロガーまとめ(百怪談)|各機種のスペック・価格の詳細比較表
「上手なライダーのデータと比較する」という使い方は一般的ですが、実はもう一段深い使い方があります。それは「自分の好調日データをベースに逆比較する」という方法です。
人間の走りは、体調・気温・タイヤ状態・路面コンディションによって毎回変わります。気温5℃違うだけで、タイヤのグリップが大きく変化します。真夏と晩秋では、同じセッティングでも体感的なフィーリングが別物になるほどです。このため「自分の最速ラップの日」のデータをライブラリとして保存しておき、調子が悪い日にそれと比較することで、「ライディングが崩れているのか」「外部要因なのか」を切り分けられます。
また、区間タイムの活用も重要です。多くの解析ソフトはコースをいくつかのセクターに分割して区間タイムを表示できます。たとえば筑波サーキットのコース1000なら、「最終コーナーだけ0.2秒遅い」という結果が出たとします。その区間の速度グラフを拡大すると、「ボトム速度が高すぎて旋回しきれず、アウトに膨らんでいる」ことがわかるケースがあります。漠然と「全体的に遅い」と悩むより、「この区間を直す」と課題を1点に絞れる方が上達のスピードは格段に上がります。つまり区間比較が近道です。
走行距離の差もチェックしてみてください。解析ソフトによっては、1周で走った実際の走行距離を計算できます。プロライダーと初心者を比べると、約1000mのコースで10m前後の差が出ることがあります(ライダーズクラブ誌の実測データより)。プロは最短ラインを使って、距離の面でもタイムを削っているのです。この数字が想像よりずっと大きい、というのは意外なことですね。
さらに、GoProなどのアクションカメラとデータを同期して「データオーバーレイ動画」を作成する方法もあります。RaceChrono Proアプリを使えば、速度・ラップタイム・走行ライン・Gフォースなどを動画の上に重ね合わせて表示できます。自分の走りを映像で振り返りながら、数値でその瞬間の状況を確認できるため、改善点への理解が格段に深まります。これは使えそうです。
走行データをSNSやライダー仲間とシェアして「コーチング」に使う方法もあります。デジスパイス・QstarzはPCソフトでデータをエクスポートしてシェアが可能で、上手なライダーに「このデータのここを見てほしい」と依頼することで、アドバイスがピンポイントで得られます。
Drogger公式サイト|回転数・サスストローク・A/Fまで計測できるバイク向け多機能データロガーの詳細

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