

分解後に走行すると、リベット部から振れが出てタイヤがブレます。
コムスターホイールの名称は「COMPOSITE(合成)」と「STAR(星)」を組み合わせた造語です。アルミ製の中空リム、高張力鋼板(後にアルミ製)のスポークプレート、そしてハブという3つのパーツをリベットで結合した「組み立て式」のホイールです。ワイヤースポークホイールの軽さとキャストホイールの剛性、両方の良いとこ取りを目指した、当時としては画期的な設計でした。
分解という観点でまず知っておきたいのが、この「組み立て式」という構造の本質です。つまり、リベットさえ外せば物理的に3つのパーツに分割できる構造になっています。ただし「分解できる」ことと「分解していい」ことはまったく別の話です。
市販車への初採用は1977年4月発売のCB750FourIIで、コムスターホイールはその後約9年かけて4世代に進化しながらラインナップを広げていきました。
- 第1世代(1977〜1980年ごろ):スポークプレートがスチール製の5本スポーク、シルバー塗色が基本。CB750FourII、ホークIIなどに採用。
- 第2世代・裏コムスター(1980〜1982年ごろ):スポークプレートを外側に折り返したような形状が特徴。CB750F(1981年型)などに採用され、剛性向上を目的とした設計変更でした。
- 第3世代・ブーメラン型(1981〜1984年ごろ):3つのブーメラン型スポークプレートがハブからリムへ向かって伸びる形状(6×2点支持)。CBX400F(1981年)やVT250F(1982年)に採用され、コムスターデザインの最高峰と評されます。
- 第4世代・NSコムスター(1983〜1985年):12枚のスポークプレートを2枚ずつ三角形に組み合わせた6点支持構造。CBR400F(1983年)、NS250R(1984年)、NS400R(1985年)に採用されたコムスターの最終形態です。
第4世代が登場したわずか1年後の1986年以降、ホンダはロードスポーツのほぼ全モデルをキャストホイールに移行させています。コムスターホイールが市場に存在したのは実質わずか9年間でした。短命だったからこそ、いまでも旧車ファンに根強い人気を誇ります。
なお、コムスターホイールの開発経緯については「1976年の欧州耐久レース優勝マシンRCB1000由来のレース技術」という通説がありますが、実際の開発順序はほぼ逆です。市販車用として先に開発されたコムスターをRCB1000のプロモーションに活用したというのが、当時の開発責任者の証言による実態です。これは意外ですね。
ホンダ公式のコムスターホイール解説(プレスインフォメーション)はこちらで確認できます。当時の構造や採用背景が一次資料として確認できます。
Honda公式:WING 1977.12 コムスターホイール プレスインフォメーション
コムスターホイールのスポークプレートには「DO NOT DISASSEMBLE」という英文刻印があります。日本語にすれば「分解するな」です。さらにホンダは意図的に7mmの三角頭ネジという市販工具では対応できない特殊ネジを採用し、「触れるな」という意思表示を形にしていました。
なぜここまで徹底的に分解を禁止しているのか。理由は構造的な特性にあります。
コムスターホイールはリベットでリムとハブを結合しています。リベット締結は一度分解すると真円度(ホイールの正円具合)が再現できないという致命的な問題があります。自転車のスポークホイールはテンション調整で振れ取りができますが、コムスターはその機構を持ちません。バラバラに分解した後、同じ精度で組み直す手段が純正状態では存在しないのです。真円度が狂ったホイールは走行中に周期的な振れを発生させます。
実際に走行中の分解事故も起きています。専門店のレポートにも「実例を伴うコムスターホイールの走行時の分解事故がある」と明記されています。リベットのずれやボルトナットの緩みが原因で、走行中にリムとスポークプレートの結合が外れるというシナリオです。これは命に直結するリスクです。
また、開発責任者の秋鹿方彦氏自身が「板状スポークの両端がリベット留めなので、高荷重が加わるとそこから振れてしまう。耐久レースでは騙し騙し使っていた」と証言しています。メーカーが設計した専任エンジニアでさえ、レース用途でのリベット結合の信頼性に懸念を持っていたのです。分解→再組み付けした後のアマチュアのホイールであれば、そのリスクは当然さらに高まります。
一方で、CBX400Fのような旧車を塗装してレストアしたいというニーズは根強くあります。分解禁止と言われても、再塗装のためにどうしても分解が必要な場面はあるでしょう。その現実的な対処法が次のセクションのテーマです。
コムスターホイールのリスクと分解禁止の背景についての詳しい解説はこちらも参考になります。
CB_FORCE:コムスターリペイント――分解組み立てのリスクと点検の重要性
「絶対分解禁止」と言われながら、実際には専門店や旧車ファンが分解作業を行っているケースがあります。その工程と難所を理解しておくことは、自分でやるかどうかの判断材料になります。
まず最初の難関がリベット頭の除去です。スポークプレートとリムの接合は高張力アルミリベット留めになっています。これをドリルで一本ずつ頭だけを丁寧に破壊して外す必要があります。ドリルのコントロールが甘いとホイール本体に傷がつきます。前後輪合わせると合計36箇所のリベットがある機種もあり(CBX400Fの場合)、集中力が長時間必要な作業です。前後輪36箇所をドリルで一つずつ処理する、というのは家の畳1枚に36本の釘を引き抜くような手間と集中力を要します。
次に問題となるのが特殊ネジの処理です。スポークプレートとハブの結合部には前述の7mm三角頭ネジが使われています。このネジは市販工具では対応できないため、入手するか、代替工具をヤフオクなどで探すことになります。経験者によると「作業後もキズひとつない工具」に出会うまで複数の工具が消耗品同様に壊れたという報告もあります。
分解後の組み付けには元のリベットは使えないため、M8ステンレスボルト&ナットへの置き換えが一般的な手法です。Trinity Schoolのレストア事例では、外周のリベット部をΦ8mmに拡大してボルト・ナット締結、内周側は8mmピッチ1のネジを切って両側から長いボルトで止め、全ネジにロックタイトを塗布しています。この際、ホイールの芯がずれないよう位置決め作業を繰り返すことが肝心です。
| 工程 | 内容 | 難易度 |
|---|---|---|
| ①リベット削除 | ドリルでリベット頭を1本ずつ飛ばす(前後輪最大36箇所) | ★★★★☆ |
| ②特殊ネジ除去 | 7mm三角頭ネジを専用工具で外す | ★★★★★ |
| ③パーツ分離 | リム・ディスク・ハブを個別に分離 | ★★☆☆☆ |
| ④塗装・研磨 | 各パーツを専門店に依頼、または自作業 | ★★★☆☆ |
| ⑤再組み付け | M8ボルト&ナットで再結合、芯出し確認 | ★★★★★ |
| ⑥振れ確認 | 回転させて横振れがないか必ず確認 | ★★★☆☆ |
ボルトナット化が完了した後は必ず振れ確認が必須です。これが基本です。専門店による施工では、リムリング専用アタッチメントを使った芯出しも行われます。自分でここまで再現するのは非常に難しく、DIYで分解・再組み付けを完結させようとする場合は相応の技術と設備が必要です。
なお、ボルトナット化した後のメリットも一点あります。次回の再塗装や修理が容易になるため、長期的に旧車を維持していくうえでは「リベット→ボルトナット化」は一種のアップグレードとも言えます。
分解の一番の目的はほぼ間違いなく再塗装です。では実際に分解して塗装するとどうなるのか、費用感と工法の種類を整理します。
まず重要な前提として、CBX400Fのような「3ピースリベット止めコムスターホイール」は、分解しなければリム全面のバレル研磨やパーツ別の塗装が物理的にできません。リムとディスクが密着しているため、非分解の状態では届く範囲のリム磨きにとどまります。「綺麗に全面仕上げたい」のであれば、分解は必須条件です。
代表的な塗装工法は以下の3種類です。
- 🎨 パウダーコート(粉体塗装):耐久性が高く、テクスチャー(縮み模様)やグロスブラックなど多彩な仕上げが可能。200℃での焼き付け工程が必要なため、自作業は難しく専門店依頼が現実的です。
- ✨ バレル研磨+パウダーアクリルクリアー:リムをミラーポリッシュ状態に磨き上げ、透明なパウダークリアーでコーティングする工法。鏡面仕上げを求める場合に選ばれます。密着性向上のためガスグラスプライマーが必要です。
- 🔵 溶剤塗装:比較的安価だが耐久性はパウダーコートに劣ります。アルマイト処理されている車種では、アルマイト剥離→溶剤塗装の順でないと密着不良になります。
費用相場については、専門店での施工が主流です。ホイール1本あたりの塗装費用は工法や仕上げにより異なりますが、一般的なホイール塗装の相場は1本1万〜3万円程度が目安です。コムスターの場合はこれに分解・組み付け工賃が加わります。分解(リベット削除)+各パーツ別塗装+再組み付けを一括して依頼すると、前後2本で5万〜10万円台になるケースも珍しくありません。これは痛いですね。
一点、費用を抑える現実的な方法があります。一部の専門店では「お客様が分解・組み付けを担当し、塗装のみ依頼」というプランに対応しています。自分でリベット削除を行い、パーツを送付して塗装だけしてもらう形です。技術とリスクは自分で引き受けることになりますが、費用を大幅に圧縮できます。
なお、アルマイト仕上げの車種(CBX400Fのリムはオリジナルがホワイトアルマイト)は塗装前にアルマイト剥離が必要で、この剥離工程が追加されます。剥離2回が必要な事例もあり、工程が増えるほどコストも上がります。依頼前に「素地の状態」を伝えて見積もりを取ることが大切です。
CBX400Fのコムスターホイールのパウダーコート施工事例を写真で確認できます。
AWANO COATING:ホンダCBX400Fコムスターホイール パウダーコート(粉体塗装)施工事例
コムスターホイールの分解・再塗装を検討する前に、まず「そのホイールは分解に耐えられる状態か」を確認する必要があります。ここが多くの旧車ユーザーが見落としがちな重要な手順です。
専門店や経験者が強調するのは「塗装して綺麗にするより、まずホイールの点検が第一」という考え方です。綺麗に塗装されたホイールが、実は内部でリベットがズレていたり、アルミ板が歪んでいたりするケースは実際に存在します。
点検すべき主なポイントは次の通りです。
- 🔍 リム曲がりの有無:CBX400Fのような薄いアルミ板のディスクを両面貼り合わせた3ピースコムスターは、リム曲がりによる反りが発生すると修理不可になることがあります。リムを縦に立てて回転させたとき、横振れが1mm以上ある場合は要注意です。
- 🔩 リベットのズレ・緩み確認:リベット頭が膨らんでいたり、締結部に隙間が見えたりする場合はリベットがすでに動いている可能性があります。走行前点検でこのポイントを定期的に見ることがライダーの務めです。
- 📏 振れ取りスタンドでの計測:自転車用の振れ取りスタンドでも代用可能です。ホイールを浮かせた状態で手で回転させ、縦振れ・横振れをチェックしましょう。
なお、見落とされやすい独自の判断基準として「ホイールベアリングの状態チェック」があります。分解・再塗装の際にホイールベアリングの交換を一緒に検討しましょう。市販の品番が合うベアリングを使えばいいと思いがちですが、高荷重用ベアリングの選定には基準があります。単純に高精度・高等級のベアリングが「最適」とは限りません。また、純正の片面シールより両面シールのベアリングを選ぶことで、グリス漏れが少なく長持ちします。この情報は使えそうです。
もう一つ現実的な視点として、40年以上経過したコムスターホイールを維持し続けるかどうかの判断基準があります。修理不可の歪みが出ているホイールを塗装して綺麗にするより、状態の良い中古ホイールを入手して塗装に出す方が、結果的に安全かつコスト効率が良いケースもあります。「汚くても状態の良いホイール」を探してから塗装依頼するという選択肢も、レストア費用全体を最適化する手段の一つです。
コムスターホイールの構造や世代別デザインの変遷は、こちらの記事も参考になります。
モーサイ:70〜80年代のホンダ独自「コムスターホイール」を覚えているか――4世代の変遷と真説