燃焼エネルギー変換|バイクの物理現象と損失の真実

燃焼エネルギー変換|バイクの物理現象と損失の真実

燃焼エネルギー変換とバイクの物理現象

あなたが給油したガソリンの7割以上は、実は走るための動力にならずに捨てられています。


📊 この記事の3ポイント
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熱効率の現実

バイクのエンジンが燃料から取り出せる動力は最大40%、通常走行では15~30%程度で、残りは熱や排気として失われる

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3大損失の正体

冷却損失(20~30%)、排気損失、機械損失(フリクション)が主な原因で、チェーン駆動でさらに1割のエネルギーが失われる

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改善の可能性

適正な空気圧、急加速・急ブレーキを避けた走行、カーボン除去などで燃費を向上できる余地がある

燃焼エネルギーから動力への変換効率

バイクのエンジンは、ガソリンを燃焼させて発生する熱エネルギーを機械エネルギー(回転運動)に変換して走ります。この変換プロセスでは、燃料が持つ化学エネルギーがシリンダー内で爆発し、ピストンを押し下げる力となり、コンロッドを通じてクランクシャフトの回転運動に変わるのです。


この変換効率を示すのが「熱効率」という指標ですが、現実はかなり厳しいものです。一般的なガソリンエンジンの場合、有効仕事として取り出せる割合は最高でも40%程度にとどまります。通常の運転では損失の割合がさらに大きくなり、有効仕事の割合は15~30%程度まで低下してしまうのです。


参考)エンジンの熱勘定とは?エンジンからどれだけ動力を取り出せるか…


つまり、あなたが1000円分のガソリンを給油しても、実際に走るための動力になっているのは150円~300円分だけということですね。


これはカルノーサイクルという理想的なサイクルで表される最大効率に近づけるよう設計されていますが、現実のエンジンでは様々な損失が発生するため、理想値には到底届きません。


バイク特有の冷却損失メカニズム

エンジンで最も大きな損失のひとつが「冷却損失」です。燃焼室やシリンダーライナは高温になるため、周辺に冷却水(水冷エンジンの場合)や空気(空冷エンジンの場合)を流して冷却する必要があります。


参考)エンジンとエネルギー損失 - メカニズモ


この冷却損失の合計は、なんと全エネルギーの20~30%にものぼります。燃焼による発熱量の一部は壁面を通して冷却水に奪われて失われるため、これが大きなエネルギーロスとなっているのです。


厳しいところですね。


冷やし過ぎると熱損失と機械損失が増大し、逆に冷却水温度を上げすぎると異常燃焼が発生してエンジンが焼き付くリスクが生じます。このバランスを取るため、現代のバイクでは運転状態に応じて冷却水温度を最適化する制御が採用されています。


特に低負荷領域(アイドリングや日常域での走行)では、冷却や排気による損失が大半を占めるため、街乗りメインのライダーは熱効率の低い状態で走っていることが多いのです。


参考)バイクやクルマのエンジン冷却方式の違いと特徴を解説。空冷、水…


排気損失と未燃焼ガスの実態

「排気損失」も見逃せない大きな損失です。シリンダー内で燃焼した後も、排ガスはまだエネルギーを持った高温・高圧の状態で排出されます。このエネルギーが熱として捨てられてしまうのが排気損失なのです。


研究によれば、内燃機関が生成するエネルギーの約75%は熱として失われ、排気やエンジンブロックを通じて散逸しています。この無駄なエネルギーを回収しようと、排気熱を電気エネルギーに変換する「熱電変換技術」の研究も進められています。


参考)熱エネルギー 電気エネルギー 変換とバイク排熱利用の最前線


排気損失を減らすには、エンジン内で十分に仕事をさせて排気温度を下げることが有効です。具体的には圧縮比を上げることや燃焼速度を速くすることが改善策となります。


さらに、理論空燃比(燃料1:空気14.7)で常時燃やし続けるのは不可能なため、始動時や加速時には必ず燃料が多くなり、内燃機関であれば必ずカーボンが蓄積されます。このカーボン堆積も完全燃焼を妨げ、エンジン出力の低下につながっているのです。


参考)エンジンパワーの減衰は燃焼室の「カーボン堆積」が最大の原因!…


機械損失とフリクションの影響度

エンジン内部で発生する摩擦損失、つまり「機械損失(フリクション)」も燃費に大きく影響します。ピストンやクランクシャフトなどの回転運動や往復運動時に発生する摩擦が、エネルギーを熱に変えて無駄にしてしまうのです。


参考)https://news.livedoor.com/article/detail/16165772/


バイクはエンジンを1万5000rpm程度まで回すため、回転上昇とともに寄与度が増大するフリクションは最高出力への影響が特に大きくなります。フリクションは摺動速度に依存するため、エンジン回転とともに増大する性質があるからです。


参考)フリクション低減とは?部品の接触面で発生する摩擦損失の低減【…


機械損失はエネルギー全体の数%から十数%程度を占めます。


フリクション低減はひとつひとつの効果は小さいですが、確実に出力と燃費を改善できる技術なので、多くの部品について少しずつでも低減を図ることが重要です。例えば、低フリクションオイルの使用や、ピストンリングの最適化などが対策として挙げられます。


さらに、エンジンのそばにあるトランスミッションの伝達効率は95%といわれますが、チェーンによるロスはけっこう大きく1割程度が失われています。駆動系全体では15%程度のロスが生まれているため、タイヤに伝わる段階でエネルギーは17%程度まで減ってしまうのです。


参考)ガソリン170円分のうち、たった30円分しか動力にならない!…


燃焼エネルギー効率を高める実践方法

これまで見てきた損失を踏まえると、ライダーができる燃費改善策が見えてきます。まず基本となるのが、タイヤの空気圧を適正に保つことです。タイヤの空気が減ると路面との抵抗が増え、燃費が低下するだけでなく、タイヤの摩耗も早まります。


参考)https://www.yes-i-do.co.jp/column18.html


急加速や急ブレーキを控えることも効果的です。丁寧なアクセルワークとブレーキングで、無駄なガソリン消費を抑えられます。エンジンブレーキも少ない負担で減速できるため、燃費に良い影響を与えます。


これが基本です。


定期的にエンジンを高回転まで回すことで、カーボンの蓄積を抑制する効果も期待できます。ただし、エンジンが十分に温まった状態で行うことが前提です。


参考)カーボンの蓄積箇所と対策方法


燃料添加剤を使ってカーボン除去と燃焼改善を図る方法もあります。スーパーゾイル・フュエルチューナーのような製品は、燃料に含まれる難燃性物質を溶解し、より理想的な燃焼状態を作ることで、吸排気バルブや燃焼室に堆積するカーボンを減少させる性能があります。


バイクの燃費向上策の詳細(タイヤ空気圧、走行テクニックなど)
車間距離にゆとりを持ち、加速・減速の少ない運転を心がければ、タイヤやブレーキまわり、チェーンなどの消耗も減らせます。自分の燃費を把握することから始めて、エコライド(バイク版エコドライブ)を実践すれば、燃料消費量とCO₂排出量を減らせます。


参考)バイクも実践!エコドライブ10のすすめ


次世代の燃焼技術と水素エンジン

バイク業界では、脱炭素社会の実現に向けて次世代の燃焼技術の開発も進んでいます。カワサキモータース、スズキホンダヤマハ発動機の国内4メーカーにトヨタ自動車と川崎重工業を加えた6社が「HySE(ハイス)」という組合を設立し、水素エンジンの実用化に向けた基礎研究を行っています。


参考)国内バイク4メーカーが共同で取り組む水素小型モビリティ・エン…


水素エンジンは燃焼後に残るのは水(H2O)だけと思われがちですが、実際には潤滑オイルが燃焼して微量の炭化水素も発生します。また、高温で燃焼するためNOx(窒素酸化物)が出てしまいますが、今後の研究によって燃焼段階では限りなくゼロに近づけることができると期待されています。


意外ですね。


トヨタは2021年からスーパー耐久レースに水素燃料エンジン搭載車で参戦し、2023年シーズンからは液体水素を燃料とするエンジンで参戦しています。2023年には水素エンジンとハイブリッドシステムを組み合わせた「H2レーシングコンセプト」も公表しており、モータースポーツでの実戦データ収集が進んでいます。


参考)水素燃料エンジン - Wikipedia


排気熱を回収する熱電発電機(TEG)の研究も進展しています。この技術は、ゼーベック効果(物質の両端に温度差を与えると電位差が生じる現象)を利用して、排気ガスの熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換します。火力発電のようにタービンを回す必要がないため、シンプルな構造で熱を電気に変えられるのが特徴です。


参考)新しいデバイスが排気熱をエネルギーに変換 - 内燃機関にとっ…


バイク排熱利用の熱電変換技術(ゼーベック効果の詳細)
将来的にこれらの技術が実用化されれば、現在70%以上失われているエネルギーの一部を回収でき、バイクの総合効率が大幅に向上する可能性があります。