大型二輪教習車の歴代モデルとCB750やNC750Lの特徴

大型二輪教習車の歴代モデルとCB750やNC750Lの特徴

大型二輪の教習車と歴代モデル

記事の概要
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歴代教習車の変遷

CB750からNC750Lへの移行と背景にある規制

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エンジン特性の違い

4気筒と2気筒が操作性に与える具体的な影響

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レアな教習車たち

ハーレーやXJR1300など個性派モデルの攻略法

大型二輪教習車の歴史とホンダNC750L導入の背景

 

日本の自動車教習所において、大型二輪免許の教習車は長きにわたり「あるひとつのモデル」が絶対的な基準として君臨していました。しかし、時代の変化とともにその勢力図は大きく塗り替えられ、現在では全く異なる特性を持つバイクが主流となっています。ここでは、教習車の歴史的変遷と、なぜ現在の主力車種であるホンダNC750Lが導入されるに至ったのか、その背景を深掘りします。

 

まず、1990年代から2000年代後半にかけて、大型二輪教習の代名詞とも言える存在だったのがホンダのCB750(RC42)です。このモデルは、教習生のみならず教官からも絶大な信頼を得ていました。その最大の理由は、空冷直列4気筒エンジンがもたらす「素直さ」にあります。アクセル操作に対するエンジンの反応が極めてマイルドで、低回転域から高回転域までスムーズに吹け上がる特性は、繊細なクラッチワークやスロットルコントロールを学ぶのに最適でした。また、車体の重心バランスが秀逸で、一本橋やスラロームといった課題走行においても、ライダーの意図した通りに動いてくれる素直なハンドリングを持っていました。

 

参考リンク:Honda | 教習車仕様の「NC750L(MT教習車仕様)」を自動車教習所向けに発売(ホンダ公式プレスリリースより、NC750Lの教習車としての狙いが解説されています)
参考)
ホンダ(HONDA) NC750L(MT/AT教習車仕様)の…

しかし、この名車CB750にも終わりの時が訪れます。きっかけは、年々厳しくなる排ガス規制でした。空冷エンジンは構造上、燃焼温度の管理が難しく、最新の環境基準に適合させることが技術的・コスト的に困難になってきたのです。2008年、CB750は生産終了となり、全国の教習所は「ポストCB750」となる次期教習車の選定を迫られることになりました。

 

そこで白羽の矢が立ったのが、ホンダのNC750Lです。CB750とは対照的に、NC750Lは水冷並列2気筒エンジンを搭載しています。このエンジンの最大の特徴は、極低回転域での強烈なトルクです。CB750が「回して安定させる」タイプだったのに対し、NC750Lは「回さなくても力強く進む」特性を持っています。これは、発進時のエンスト防止には有利に働きますが、一方でラフなアクセル操作をすると車体がギクシャクしやすく、より丁寧な操作が求められるという側面もあります。

 

また、NC750Lの導入には、教習所の経営的な視点も大きく関わっています。

 

  • 燃費性能 CB750に比べて圧倒的に燃費が良く、燃料コストを削減できる。
  • 転倒ダメージの軽減: 教習車専用設計として、転倒時のダメージを最小限に抑えるガード類が効率的に配置されている。
  • 足つき性: 燃料タンクをシート下に配置する特殊なレイアウトにより、低重心化とスリムな車体を実現し、小柄な人でも扱いやすくなった。

このように、教習車の歴史は単なるモデルチェンジではなく、環境規制への対応と、より多くの人が大型バイクに親しめるような「乗りやすさ」の追求という、二つの大きな流れによって形作られてきたのです。

 

大型二輪教習車の王道CB750とヤマハXJR1300の比較

現在でも一部の教習所では現役で稼働していることのあるヤマハXJR1300と、かつての王道ホンダCB750。この二車種は、どちらも「空冷4気筒ネイキッド」というカテゴリに属しながら、教習車としての性格は大きく異なります。もしあなたが通う教習所で車種を選べる場合、またはこれらの中古車を購入して練習しようと考えている場合、その違いを理解しておくことは非常に重要です。

 

ホンダCB750(RC42)の特徴:
CB750は、徹底して「ニュートラル」なバイクです。特筆すべきは「リアステア」の感覚の掴みやすさです。教習所の課題であるスラロームやクランクでは、車体を傾けて曲がる感覚が重要になりますが、CB750はライダーが入力した分だけ素直に反応します。過敏すぎず、鈍重すぎないこの特性は、基本をマスターするのにこれ以上ない教材でした。また、車両重量は約235kgと大型二輪の中では標準的で、引き起こし試験においても「コツさえ掴めば女性でも起こせる」絶妙な重量設定でした。

 

ヤマハXJR1300(XJR1300L)の特徴:
一方、ヤマハが教習車市場に投入したXJR1300は、まさに「ビッグバイクの洗礼」とも言える存在です。最大の違いはその排気量と重量にあります。1300ccの大排気量エンジンは、アイドリング付近でも強大なトルクを発生させます。これにより、クランクやS字などの低速セクションでは、クラッチを繋ぐだけでグイグイと車体が進んでしまうため、リアブレーキによる速度調整(引きずり)の技術がCB750以上にシビアに求められます。

 

そして、教習生を最も苦しめるのがその重量です。装備重量で260kgを超える車体は、取り回しの難易度を格段に引き上げます。特に、小柄な教習生にとっては、停車時の支えや、転倒時の引き起こしが大きな壁となります。しかし、これにはメリットもあります。「XJR1300で教習を受ければ、免許取得後にどんなバイクに乗っても軽く感じる」という点です。実際、XJR1300での教習は、大型二輪特有の重量感に対する恐怖心を克服するための最良のトレーニングとなります。

 

参考リンク:ヤマハ XJR1300のカタログ・諸元表・スペック情報(バイクブロス)(車両重量やトルク特性などの詳細スペックが確認できます)
参考)教習車 - Wikipedia

これらを比較表にまとめると以下のようになります。

 

項目 ホンダ CB750 (RC42) ヤマハ XJR1300L
エンジン 空冷直列4気筒 750cc 空冷直列4気筒 1300cc
特徴 スムーズ、高回転まで淀みない 圧倒的トルク、低回転の粘りが強い
重量感 標準的 (約235kg) 非常に重い (約265kg以上)
足つき 良好 シート幅が広くやや悪い
課題適性 スラロームのリズムが取りやすい 一本橋の安定感は抜群だがクランクが重い
総評 教習の優等生、基本に忠実 体力勝負、大型バイクの醍醐味を体感

XJR1300は、CB750の生産終了後、ホンダのNC750Lが普及するまでの間の「つなぎ」として導入された側面もありましたが、その「あえて重くて大きいバイクで練習する」という意義は現在でも失われていません。もし教習所にXJR1300があるなら、ぜひ一度は乗車してみることをお勧めします。その重厚な乗り味は、大型二輪ライダーとしての自覚を強く促してくれるはずです。

 

大型二輪教習車にハーレーやカワサキゼファーを採用する理由

一般的な教習所ではホンダ車が圧倒的なシェアを誇りますが、中にはハーレーダビッドソンや、稀少なカワサキのゼファー750を教習車として導入しているユニークな学校も存在します。なぜ、整備性や部品供給の面で不利になりかねない他社メーカーのバイク、しかも外車や絶版車を採用するのでしょうか?そこには、教習所の差別化戦略と、ユーザーの多様なニーズが隠されています。

 

ハーレーダビッドソン(スポーツスター XL883等)の採用理由:
最大の理由は「マーケティング(集客)」と「足つき性の良さ」です。

 

大型二輪免許を取得する動機として、「いつかはハーレーに乗りたい」という夢を持っている人は非常に多いです。そうした層に対し、「教習中からハーレーに乗れる」というのは強力なアピールポイントになります。教習所によっては、ハーレーディーラーと提携し、卒業後の車両購入サポートまでセットにしているケースもあります。

 

実用面でのメリットも無視できません。ハーレーの多くのモデルは、国産ネイキッドバイクに比べてシート高が圧倒的に低く設計されています。身長150cm台の女性や小柄な男性にとって、CB750やNC750Lのシート高は不安要素の一つです。しかし、ハーレーであれば両足がべったりと地面に着くため、立ちゴケの不安から解放され、精神的な余裕を持って教習に臨むことができます。

 

カワサキ ゼファー750の採用理由:
ゼファー750は、現在では中古車市場でプレミア価格がつくほどの「名車」ですが、かつては教習車として採用されていた時期がありました。採用の理由は、CB750と同様に「扱いやすいナナハン」であったこと、そして「カワサキ党」へのアピールです。カワサキのバイクは独特のフィーリング(吸排気音やエンジンの鼓動感)を持っており、熱狂的なファンが多いことで知られています。「教習車もカワサキで」というニーズに応えることは、他校との差別化につながりました。

 

参考リンク:カワサキモータースジャパン(現行ラインナップは見られますが、過去の名車へのリスペクトも感じられる公式サイトです)
珍しい教習車のデメリットと攻略法:
しかし、これらの「レア教習車」には、試験における特有の難しさも存在します。

 

  • ハーレーの難点: 独特のVツインエンジンは低速での鼓動感が強く(ドコドコ感)、極低速走行である一本橋でバランスを保つのが難しい場合があります。また、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が長いため、クランクなどの小回りセクションでは、国産車よりも大回りなライン取りをしないとパイロンに接触してしまいます。
  • ゼファー750の難点: 設計が古いため、現代のバイクに比べるとブレーキの効きが穏やかだったり、クラッチが重かったりすることがあります。

「憧れのバイクで教習できる」というメリットは大きいですが、検定合格のしやすさという点では、スタンダードなNC750Lに分があることも事実です。入校を検討する際は、自分が「早く免許を取りたい」のか、「特定のバイクに慣れたい」のかを天秤にかけて教習所を選ぶと良いでしょう。

 

大型二輪教習車の重量や足つきが試験課題に与える影響

最後に、多くの記事ではあまり深く触れられない「重量」と「足つき」が、具体的な試験課題の成否にどう物理的に影響するかという独自視点で解説します。単に「重いから大変」「足がつかないから怖い」という精神論ではなく、物理的な挙動の違いを理解することで、車種ごとの攻略法が見えてきます。

 

1. 重量と「一本橋」の安定性(慣性モーメントの逆説)
一般的に「軽いバイクの方が扱いやすい」と思われがちですが、一本橋(平均台)に関しては、ある程度重いバイクの方が有利な側面があります。

 

  • XJR1300(重量級)の場合: 車体が重いということは、物理的な「慣性」が大きく働きます。一度走り出してしまえば、その重さが直進安定性を生み出し、横風やライダーの細かなふらつきを打ち消してくれます。どっしりと構えて、リアブレーキを引きずりながらアクセルを一定に保てば、驚くほど安定して渡り切れます。
  • NC750L(軽量・低重心)の場合: タンクがシート下にあり低重心であることは、傾けやすさ(運動性能)には寄与しますが、一本橋のような「直立を維持する」場面では、逆に車体が軽くフラつきやすく感じることがあります。そのため、ニーグリップをより強固にし、視線を遠くに保つという基本動作を、重量車以上に徹底する必要があります。

2. 足つきと「急制動」の心理的リミッター
急制動は、時速40kmから指定位置で停止する課題ですが、ここに「足つき」が大きく影響します。

 

足つきが悪いバイク(シート幅が広い旧型車など)に乗っていると、ライダーは無意識に「止まった瞬間に足がつくだろうか?立ちゴケしないだろうか?」という恐怖心を抱きます。

 

  • 恐怖心の影響: 停止直前に無意識に足を出そうとしてバランスを崩したり、ブレーキを緩めて制動距離が伸びたりする原因になります。
  • NC750Lの優位性: スリムな車体で足つきが良いNC750Lは、この心理的ブロックを解除してくれます。「止まっても絶対に足がつく」という安心感があるため、ギリギリまで強いブレーキングに集中できるのです。

参考リンク:Honda Driving School | 二輪車の運転テクニック(一本橋や急制動などの具体的な走行理論が解説されており、車種による挙動の違いを理解する助けになります)
3. エンジン特性と「スラローム」のリズム
スラロームは、車体を左右にリズミカルに倒し込む課題です。ここではエンジンの「クランクマスの重さ」や「トルクの出方」が影響します。

 

  • 4気筒(CB750など): エンジンがスムーズに回り、回転の落ち込みも穏やかです。アクセルを閉じた時のエンジンブレーキがマイルドなので、車体の姿勢変化が急激になりすぎず、滑らかなリズムでパイロンを抜けられます。
  • 2気筒(NC750L): 低回転トルクが強烈なため、アクセルを開けた瞬間にドン!と前に出る力が強く、逆に閉じた時のエンジンブレーキも強力です。この「オン・オフ」の挙動がはっきりしているため、CB750と同じ感覚で操作するとギクシャクしてリズムが崩れます。NC750Lでスラロームを攻略するには、アクセル開度を小さめに保ち、リアブレーキを常に引きずった状態で「駆動力を途切れさせない」走法が特に有効です。

このように、教習車のスペックは単なる数字ではなく、試験課題の一つ一つにおける「物理的な有利・不利」に直結しています。自分の乗る教習車の特性(重量、エンジン形式、重心位置)を理解し、「このバイクだから、ここはこう操作する」という戦略を立てることが、大型二輪免許合格への最短ルートとなるでしょう。

 

 


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