スティントでレースを制するバイク耐久戦略の全貌

スティントでレースを制するバイク耐久戦略の全貌

スティントでレースを制するバイク耐久戦略

1スティントを走り終えたライダーの体重は、約2kg減っている。


この記事でわかること
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スティントとは何か

ピットアウトからピットインまでの「1走行単位」のこと。鈴鹿8耐では8スティントが基本で、1スティントあたり27〜28周を走りきる。

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スティント戦略がレースを決める

タイヤ交換のタイミング、エースへの走行集中、2スティント連続走行など、チームの判断がトータルタイムを左右する。

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ライダーの肉体管理が最重要

真夏の鈴鹿では1スティントで体重が約2kg減少。体温40℃超・脱水との闘いが、スティント管理の核心にある。


スティントとはバイクレースにおける走行の基本単位


モータースポーツ観戦をしていると、「第1スティント」「スティントを消化する」という表現をよく耳にします。しかし、スティントという言葉の意味を正確に押さえている人は、実は思ったより少ないものです。


スティントとは、1人のライダーがピットアウト(またはスタート)してから、次のピットインをするまでの走行区間のことです。英語の "stint" はもともと「割り当て量」「活動期間」を意味する言葉で、モータースポーツにおいては「1回の走行担当分」として使われます。


鈴鹿8耐を例にとると、スタートから1回目のピットインまでが「第1スティント」、ピットアウトから2回目のピットインまでが「第2スティント」、という具合に番号が進んでいきます。つまりスティントとは、ピットとピットの間の走行そのものです。


上位入賞を狙うには「7回ピット・8スティント」が定石とされており、1スティントあたり27〜28周を走ることになります。鈴鹿サーキットの1周は約5.8kmですので、1スティントで走る距離はおよそ160〜162km、東京から静岡市を軽く超えるくらいの距離です。これが1時間強の走行時間に相当します。


これが基本です。


以前のEWC(FIM世界耐久ロードレース選手権)レギュレーションでは、1名のライダーが連続走行できる時間に制限が設けられていました。しかし現在はその制限が撤廃されており、ルール上は1人のライダーが8時間ほぼ走り続けることも可能です。ただし、タイヤは約1時間で限界を迎え、燃料は24Lタンクで燃費6.5〜7.0km/L程度のため1スティントが限界です。物理的な制約が、実質的なスティントの長さを決めているということですね。


鈴鹿8耐公式サイト:「スティント」の用語解説ページ。1スティントの周回数や戦略の基本がわかりやすく解説されている。


スティント戦略がバイクレースの勝敗を分ける理由

スティントは「走る単位」にすぎませんが、この走行単位をどう組み合わせるかが、耐久レースの勝負を決定的に左右します。これが戦略の話です。


まず最も重要な判断が「どのスティントに誰を走らせるか」です。チームの中で最もラップタイムが速いエースライダーに多くのスティントを任せるほど、トータルタイムの短縮に直結します。鈴鹿8耐では現在8スティントが基本ですので、3名体制であれば単純に1人あたり2〜3スティントを分担する形になります。しかし実際には、気温が最も高くなる昼前後の消耗が大きいスティントをどう割り振るかがカギです。


次に大きな判断となるのが「タイヤを2スティント使い続けるか、毎スティント交換するか」という問題です。ブリヂストンのタイヤエンジニアによれば、1スティント走行後のタイヤ状態とラップタイムの安定性を確認して、2スティント走行可能と判断できた場合はタイヤ交換なしでライダー交代と給油だけにすることでピット作業時間の大幅な短縮が可能になります。実際にEWCのトップチームはこの判断を毎回のピットインで素早く行っています。これは使えそうです。


さらに「夜間走行での2スティント連続担当」という戦略も存在します。ボルドール24時間耐久などの夜間走行があるレースでは、暗さに目が慣れているライダーに2スティント連続で走ってもらうほうが、安全面でもタイム面でも有利なケースがあります。セーフティーカーが入ったタイミングでのピットイン判断も、この戦略を左右する重要なファクターです。


1回のピット作業そのものにかかる時間も無視できません。EWCトップクラスのメカニックは、前後タイヤ交換を4〜6秒、24Lのガソリン給油を3秒足らずで完了させます。合計でも十数秒という驚異的な速さです。20秒先を走っているライバルも、ピット作業で逆転されてしまうことがある、ということですね。


ブリヂストンEWCページ:ボルドール24時間でのタイヤ戦略解説。2スティント使用の判断基準について詳しく書かれている。


スティント中のライダーが体験するバイクレースの過酷な体力消耗

スティントの話をするとき、タイヤや戦略と並んで絶対に外せないのがライダーの肉体への負荷です。この過酷さを知ると、スティント管理がなぜ重要視されるかがよくわかります。


鈴鹿8耐は7月末〜8月上旬に開催されます。2025年大会では気温37.6℃を記録し、路面温度は60℃を超えました。ライダーはその中で分厚いレーシングスーツを着込み、全身の筋肉を使ってバイクをコントロールし続けます。Honda HRCの高橋巧選手はインタビューで「水分が奪われ、体重が1回の走行で約2kgは落ちてしまう」と語っており、1時間弱のスティントでそれだけの水分が体から失われることになります。2kgといえば2Lのペットボトル1本分、それだけの汗が出ているということです。


厳しいですね。


走行後のライダーの体温は40℃を超えることもあるとされており、過去には走行後に点滴で水分・栄養を補給するチームもあったほどです。2025年大会では、リザーブライダーとして待機していたはずのチームが急遽2名体制での戦いを余儀なくされた事態もあり、「ライダー1時間の休憩では体力のリカバリーが難しい」と高橋選手自身も語っています。


こうした体力消耗を少しでも抑えるため、多くのライダーはレーシングスーツの背中にあるハンプ(こぶ状の突起)の中に吸水タンクを入れ、ヘルメット内のチューブから走行中に水分補給を行っています。また1スティントが終わるごとに、アイスバスや冷却ベスト、栄養補給で次のスティントに備える体力管理が不可欠です。スティントごとの体力管理が条件です。


Racing Heroes:高橋巧選手が2名体制で8耐を勝ちきった2025年大会のレポート。スティント中の脱水や体力管理の実態が詳述されている。


スティント配分の巧みさがバイク耐久レースの観戦を面白くする独自視点

耐久レースをより深く楽しみたいなら、「どのチームがどのライダーにどのスティントを割り当てているか」をリアルタイムで追うのがおすすめです。これは検索上位の記事ではあまり語られない、観戦の楽しみ方の核心部分です。


たとえば鈴鹿8耐の場合、第1スティントをエースが走って後続に大差をつけ、ペースを握る展開が多く見られます。2025年大会でHonda HRCが採った戦略がまさにこれで、第1スティントで平均ラップ2分8秒台を刻み、後続に13秒以上の差をつけてレースの主導権を掌握しました。一方、第1スティントをサポートライダーに任せてエースの体力を温存し、終盤勝負に賭けるというチームもあります。


セーフティーカーが入ったタイミングも、スティント戦略の分岐点になります。セーフティーカー中はラップタイムが落ちるため、このタイミングでピットインすれば相対的なロスが少なくなります。逆に他チームが一斉にピットに入るとピット渋滞が起きるリスクもあるため、あえてピットを遅らせるチームも出てきます。こうした判断の連続がレースの順位を大きく動かします。


また雨が降った場合も、スティント戦略は大きく変わります。ウェットタイヤに換えるタイミングと、どのライダーをその局面に投入するかで、順位が数十台単位で入れ替わることがあります。鈴鹿8耐では瞬間的な豪雨も珍しくなく、雨に対応できるライダーの価値が急激に上がる瞬間があります。スティント配分は、雨という天候リスクも織り込んで考えられているということですね。


観戦する際は、ライブタイミングアプリや公式のレースプログレス画面でスティント交代のタイミングを確認すると、チーム戦略の読み合いが手に取るようにわかります。無料のWebサービス「Race Monitor」などを活用すると、各ライダーのラップタイムの変化からチームの意図を読み解く楽しみが加わります。


スティントを理解するとバイクレース全体の見方が変わる

ここまでスティントの定義から戦略、体力管理、観戦の楽しみ方まで幅広く見てきました。スティントという概念を理解するだけで、耐久レース観戦の深さはまったく別のレベルに変わります。


まず「スティントをどう分配するか」という視点が加わると、順位表だけでなく各チームのピットイン履歴が気になり始めます。鈴鹿8耐であれば7回のピットストップのうち、タイヤを2スティント使い続けた回があったかどうかを追うだけでも、チームが燃費重視か速度重視かの判断が透けて見えてきます。つまり観戦が「戦略ゲーム」として楽しめるということです。


次に、ライダーの体力管理という観点も加わります。1スティントで体重が約2kg落ち、体温が40℃を超えるという事実を知ったうえで映像を見ると、ピットインでバイクを降りたライダーの動作ひとつひとつが違って見えます。素早く水を飲む姿、冷却ベストを着込む姿、スタッフと短く言葉を交わす姿に、次のスティントへの準備が込められていることが理解できます。


さらに踏み込むと、「なぜ今ピットに入ったのか」という疑問が自然と生まれてきます。その答えが燃料なのか、タイヤなのか、セーフティーカーのタイミングなのか、ライダーの体力限界なのかを考えながら観ると、8時間という長い時間がまったく退屈しません。


スティントという概念はシンプルですが、そこに戦略・機材・人間の肉体という三つの要素が絡み合っています。これが耐久バイクレースの醍醐味です。次に鈴鹿8耐やEWCを観る機会があれば、ぜひ「何スティント目に誰が走っているか」を意識してみてください。きっとレースの見方がガラリと変わります。


MotoMag WEB Mr.Bike:8耐でライダーが何時間乗るかを解説した記事。スティントと体力の関係、燃料制限についての基礎知識が整理されている。


JAMA BLOG(日本自動車工業会):「今さら聞けない鈴鹿8耐用語」として、スティントをはじめとするレース用語をわかりやすく解説している権威ある公式ページ。




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