

低速走行時のバイクは、あなたが思っている以上に不安定です。
バイクが走行中に倒れないのは、倒立振り子の原理が働いているからです。この原理は、重心が支点より上にある不安定な物体を、支点を動かすことで安定させる仕組みを指します。
参考)日常にあふれる物理の話!自転車が倒れずに走れるのってどうして…
具体的には、バイクが左に傾き始めたとき、前輪を左方向に操舵して接地点(支点)を倒れる方向に移動させます。すると重心には右向きの慣性力が発生し、左への傾きを打ち消す力が働くのです。
これは手のひらに傘を立ててバランスを取る遊びと同じ原理です。傘が倒れそうになったら、手を倒れる方向に素早く動かして傘の落下を防ぎますよね。
つまり倒立振り子の原理が基本です。
バイクの場合、ライダーの操舵操作と体重移動によってこの制御を行っています。走行中は無意識のうちに微細なハンドル操作と姿勢調整を繰り返すことで、倒立振り子の状態を維持しているということですね。
参考)https://meiji.repo.nii.ac.jp/record/15067/files/ndl_000000254855.pdf
時速5km未満の超低速域では、バイクの安定性が著しく低下します。どういうことでしょうか?
低速時には前輪の操舵による倒立振り子の制御効果が十分に得られないためです。バイクを立て直すには接地点を素早く移動させる必要がありますが、速度が遅いとハンドルを切っても接地点の移動速度が遅く、重心にかかる慣性力も小さくなります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/52/1/52_20214047/_pdf
さらに低速では、ハンドルの据え切り(停止状態でハンドルを切ること)と前ブレーキの操作が立ちゴケのリスクを大幅に高めます。据え切りによって車体が傾いた状態で前ブレーキをかけると、慣性力が失われて一気にバランスが崩れるのです。
この状態を避けるには、徐行時でもわずかに車体を動かし続けることが条件です。完全に停止する前の極低速域では、ライダーのバランス感覚だけが頼りになります。
ニーグリップで下半身を固定し、上半身はリラックスさせて遠くを見ることで、バイクの傾きに対する感覚が研ぎ澄まされます。低速走行の練習を重ねることで、この微妙な制御技術が身につくでしょう。
高速走行時のバイクが安定するのは、車輪の回転によって生じるジャイロ効果と角運動量保存の法則が働くためです。
参考)自転車が倒れない理由:物理の視点から解説 - 50th li…
ジャイロ効果とは、回転する物体が姿勢を維持しようとする性質のことです。バイクの車輪が高速で回転すると、その回転軸の方向を保とうとする力が発生し、車体が倒れにくくなります。回転速度が速いほどこの効果は強くなり、時速60km以上では顕著に安定感が増すのです。
角運動量保存の法則も重要な役割を果たします。回転する車輪は一定の角運動量を持ち、外力が加わらない限りその状態を維持しようとします。前輪と後輪が協調してこの法則に従うことで、バイクは直進安定性を獲得するということですね。
実は、エンジン内部のクランクシャフトの回転もジャイロ効果を生み出します。高速道路で風に煽られる場合、あえて1段低いギアに入れてエンジン回転数を上げると、クランクシャフトのジャイロ効果が強まり車体が安定しやすくなる効果があるのです。
厳しいところですね。
ライダーの体重移動は、バイクの倒立振り子制御において決定的な影響を与えます。
コーナリング時、ライダーがイン側に体重を移すと、バイク全体の重心位置もイン側に移動します。これにより実際のバンク角を深くできるため、より大きな遠心力とつり合うことが可能になり、速い速度または小さな旋回半径で曲がれるのです。
体重移動の効果は数字で見ると明確です。ライダーの体重が70kgの場合、体を10cm横にずらすだけで約7kg・mのモーメントが発生します。バイクの車重が200kgとすると、これは車体全体を3.5cm横に移動させたのと同等の効果になります。
いいことですね。
ただし体重移動は、バイクの動きを邪魔しないよう力を抜いて行うことが原則です。曲がる前にアウト側の脇腹に力を入れて上半身を支えておき、曲がる瞬間にフッと力を抜くことで、自然な重心移動が実現します。
参考)ライテクをマナボウ ♯19 バイクの動きを邪魔せず 力を抜い…
ステップワークも重要な要素です。ステップに荷重をかけることでライダーの乗車位置や姿勢が変わり、重心位置の変化を通じてバイクをコントロールできます。この技術を磨くことで、より精密な倒立振り子の制御が可能になるでしょう。
参考)中野真矢に学ぶ「ステップワーク」バイクを鋭く、軽く操作する …
バイクの安定性について、多くのライダーが誤解している点があります。
最も多い誤解は「ジャイロ効果だけでバイクが安定する」というものです。実際には、ジャイロ効果がゼロでトレール(前輪の接地点と操舵軸の延長線のズレ)もゼロの単純化されたバイクでも、力学的に安定であることが研究で示されています。つまり、ジャイロ効果は安定性の一要因に過ぎないということですね。
参考)バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その6)|n…
もう一つの誤解は「バイクの重心は低いほど良い」というものです。確かに重心が低いと直進安定性は上がりますが、コーナリング時には傾きをキープしにくくなり旋回性能が落ちるデメリットがあります。重心が高いバイクは倒しやすく起こしやすいため、コーナリングでは有利なのです。
重いホイールについても誤解があります。重いホイールはジャイロ効果が大きく安定性が高まりますが、切り返すような動きが重くなります。軽いホイールはジャイロ効果が減少し切り返しが軽快になる上、サスペンションへの負担が減ってタイヤの追従性が向上する利点もあるのです。
無料です。
バイクの安定性は単一の要因ではなく、複数の物理現象が複雑に組み合わさった結果だと理解しておくことが重要です。ライダー自身の操作技術と車体特性の両方を考慮することで、より安全で楽しい走行が実現できるでしょう。
参考になる技術情報として、ホンダの二輪姿勢制御技術の解説があります。
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