

パッセンジャーはライダーより体力が必要です。
FIMサイドカークロス世界選手権は、モトクロッサーの車体にサイドカーを取り付けて、ライダーとパッセンジャーの2名が乗車しモトクロスコースを走行する世界選手権レースです。1930年代から続く歴史ある競技で、現在も世界選手権として開催されています。日本ではあまり知られていない競技ですが、ヨーロッパを中心に根強い人気を誇っています。
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車両の構造は通常のバイクとは大きく異なります。モトクロッサーをベースに、右側に本車、左側に側車を配置した3輪構造です。レギュレーションでは、乗車状態での地上とのクリアランスは175mm以上と定められています。パッセンジャー用スペースの最低寸法は長さ1000mm、幅400mmと規定されており、パッセンジャーを守るスクリーンの高さは最低300mm必要です。
参考)https://www.mfj.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/FIM_Regulation_Motocross_Technical_20230419.pdf
つまり安全基準が厳しいです。
本車の後輪のみが駆動し、運転席にはハンドルやシフトペダルなど操作類がすべて搭載されています。エンジンは主にモトクロスバイク用のものが使用され、高出力が求められます。車体重量は2名のライダーとフレーム強度を考慮すると、通常のモトクロッサーよりはるかに重くなります。
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2026年シーズンは5月のカナダハイツ、6月のグダニスク、カルクシヌイアなど、複数の国でグランプリが開催されています。各ラウンドでは予選、グランプリレース、表彰式が行われ、FIM-MOTO.TVで独占ライブ配信されています。
参考)https://fim-moto.tv/wsc_sidecarcross
パッセンジャーは車体上を激しく移動しながら、コーナー内側へ車両の重心を移行させる役割を担います。サイドカーはバンクできないため、遠心力により車体荷重が一気にコーナー外側へかかり、横転する恐れがあるからです。コーナリング時はパッセンジャーが1本のバーを軸に、本車側からサイドタイヤ側へと移動し、横Gに耐えつつ移動量を考えます。
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この動作は「便利、風を感じる、楽」とは一切無縁です。全身を使ってマシンの荷重バランスが最適になるようコントロールすることが、パッセンジャーの役割なのです。右コーナーの場合は遠心力により駆動輪が地面から離れようとするため、ドライバーの後ろで車体に覆いかぶさるようにしてトラクションを確保します。
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荷重を計算して体重移動しています。
パッセンジャーは「マシンエンジニアリング」とも呼ばれ、その技量はタイムに直結する重要な要素です。適切な動作を行わなければマシンの挙動は大きく乱れ、ドライバーは速く走ることができません。ドライバーがパッセンジャーの体重移動とバランシングを信頼してアクセルを開けるため、両者の信頼関係が不可欠です。
この過酷な役割ゆえ、パッセンジャーは「もっとも命知らずだね」と評されることもあります。高速で疾走するマシンにしがみついて体重移動を続ける恐怖は、想像しただけで身の毛がよだつレベルです。レース映像では登場するほとんどのライダーが二人とも超泥だらけになっており、その過酷さが一目瞭然です。
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バイクに乗っている方で体力に自信がある場合、サイドカークロスのパッセンジャーに挑戦してみるのも選択肢の一つです。ただし通常のバイク走行とは全く異なる筋力と持久力が求められるため、事前のトレーニングが必要になります。日本ではJRSA(Japan Racing Sidecar Association:日本レーシングサイドカー協会)が活動しており、情報収集の窓口として活用できます。
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ライダーもパッセンジャーの動きを予想してコーナーに挑むため、命知らずな立場です。パッセンジャーはライダーの操作に合わせて体を入れ替えるため、一歩間違えれば即クラッシュしますが、ライダーもライダーでパッセンジャーの動きを予想してアクセルを開ける必要があります。体重移動してくれることを信じてスロットルを開け閉めするのは、まさに恐怖です。
両者の呼吸が合わなければなりません。
連携のタイミングがずれると、車両の挙動が乱れてコントロールを失います。ドライバーは運転席でハンドル、スロットル、ブレーキ、シフトペダルなどすべての操作を行いながら、パッセンジャーの体重移動による荷重変化を感じ取る必要があります。パッセンジャーは横Gに耐えながら、コーナーの大きさや速度に応じて移動量を瞬時に判断します。
この運命共同体とも言える関係性が、サイドカークロスを「世界一安心できない二人乗り」にしています。練習を重ねて両者の感覚を磨き上げることが、速さの秘訣です。レースではモトクロスとほぼ同じようなコースを走行するため、ジャンプやマッドセクションなど、通常のバイクでも難しい区間をサイドカーで攻略する技術が問われます。
日本で活動する場合、JRSAが定める競技規則に従う必要があります。競技中の転倒及び車両横転時は、ライダーとパッセンジャーの身体が無事な場合、先に後続車に手を振るなどの合図をする規則があります。その後、安全確保できる位置に移動することが優先されます。
参考)http://www.jrsa-sidecar.com/data/JRSA-sidecar-rule-Rev4-202401.pdf
日本ではサイドカークロスはあまり馴染みのないジャンルですが、海外(おもに欧州)では古くから続くレースとして現在でも開催されています。JRSA会長の渡辺正人氏が組み上げたスペシャルなマシンでアジアクロスカントリーラリーに参戦するなど、挑戦する日本人もいます。渡辺氏の参戦により、アジアンラリーの車両クラスにSIDECAR(サイドカー)が設定されました。
国内での認知度が低いですね。
日本国内でのサイドカークロス世界選手権への参戦は極めて稀で、「日本では実質的に知られていない」と評されるほどです。モトクロス・オブ・ネイションズなど、通常のモトクロス世界選手権には日本代表が定期的に派遣されていますが、サイドカークロス部門での活躍は限定的です。
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サーキットでサイドカーを見かけることはありますが、オフロードでの活動は少数派です。渡辺氏のように、ロシア製サイドカー「ウラル」でアジアの赤土に挑むケースもありました。2019年には攻めるための選択肢として「サイドカークロス」を選び、ラリー仕様に仕立て上げました。
バイクに乗っている方で海外レースに興味がある場合、サイドカークロスは新たな挑戦の場となり得ます。ただし専用マシンの調達や海外遠征の費用、パートナーとなるパッセンジャーの確保など、ハードルは高めです。まずはJRSAが主催する国内イベントで実際のマシンを見学し、競技の雰囲気を体感することが第一歩になります。
日本レーシングサイドカー協会(JRSA)公式サイトでは、競技規則やサイドカーの操縦方法について詳細な情報が掲載されています。
サイドカークロスのマシンは「もはやバイクの面影なし」と評されるほど、レース用に特化した構造を持ちます。クロモリWSPフレームは信じられないほど強力ですが、小さめのTMエンジン、2台のレーサー、およびシャーシの重量はすでに重すぎる状態です。通常のモトクロッサーと比較して、車体重量の増加は避けられません。
シャシー構造が独特です。
レーシングサイドカー用の技術規則では、車両寸法や荷重配分が細かく定められています。後部車輪のセンタ軸とサイド車輪センタ軸の幅間距離は最小800mm、最大1150mmと規定されています。サイドカーの側車輪は空車時、積車時共に車両重量、車両総重量の35%以下でなければなりません。
参考)サイドカーへの改造
ハンドルバーの最小幅は450mmとされ、最少回転角はハンドルバーと前輪の各中心位置で20°と定められています。フロント及び後部車輪スピンドルの垂直工程量は最小20mmが必要です。これらの規定により、マシンの安全性と競技の公平性が保たれています。
参考)http://jrsa-jrsa.sakura.ne.jp/data/JRSA-sidecar-rule-Rev4-202001.pdf
カウリングの形状にも制約があります。ドライバーはサイドカー車両に乗車した状態で、腕の全てを除き、モーターサイクル側のみにおいて左右上方から身体の全姿が確認できなければなりません。進行方向のドライバーシート左側に1個のみバックミラーの設置が許可されていますが、横転時などを想定して可倒タイプとする必要があります。
トレッドは900mm以下、ロードクリアランスは30mm以上と定められています。これらの細かい規定を満たすマシンを製作するには、専門的な知識と技術が必要です。バイクに乗っている方でメカニックに興味がある場合、サイドカークロスマシンの構造を学ぶことで、車両力学の理解が深まります。ただし実際の製作には溶接や加工の技術が求められるため、専門家のサポートが不可欠です。
FIM Sidecarcross World Championship公式サイトでは、最新のレース日程やエントリーリスト、レギュレーションの詳細が確認できます。
サイドカークロスの観戦では、パッセンジャーが車体上を激しく動き回る様子が最大の見どころです。コーナーごとに左右へ大きく体を移動させ、時には車体から大きく身を乗り出す姿は、まさに「命がけ」の迫力があります。ジャンプの着地時やマッドセクションでは、パッセンジャーの荷重コントロールがマシンの挙動に直結するため、技術の差が明確に現れます。
視覚的にスリリングです。
2016年の世界大会の映像では、登場するほとんどのライダーが二人とも超泥だらけになっており、過酷なレース環境が伝わってきます。モトクロスとほぼ同じようなコースをサイドカーで走るため、通常のバイクレースとは異なる迫力があります。3輪車両特有の挙動や、横転しそうになりながらもギリギリでバランスを保つ様子は、見る者を釘付けにします。
FIM-MOTO.TVでは予選、グランプリレース、ライブインタビュー、表彰式がすべて独占ライブ配信されています。自宅にいながら世界選手権の臨場感を味わえるのが利点です。2026年シーズンは5月30-31日のカナダハイツ、6月6-7日のグダニスク、6月13-14日のカルクシヌイアなど、複数のラウンドが予定されています。
参考)FIM Sidecarcross World Champio…
バイクに乗っている方で新しいモータースポーツを観戦したい場合、サイドカークロスは視覚的な迫力と技術的な奥深さの両方を楽しめる選択肢です。ライブ配信を視聴する際は、パッセンジャーの動きとマシンの挙動の関係に注目すると、競技の本質が理解しやすくなります。YouTubeなどでも過去のレース映像が公開されているため、まずはそこから視聴して雰囲気を掴むのがおすすめです。
最先端サイドカーのロケットのような近未来的な格好良さにシビレたという声もあり、マシンのデザイン的な魅力も見逃せません。レースシーンだけでなく、パドックでのマシンメンテナンスやチーム間の交流なども、観戦の楽しみの一つです。