

ワッシャーを使い回すと、走行中にブレーキフルードが漏れて止まれなくなります。
バンジョーボルトは、バイクのブレーキシステムにおいてブレーキホースをキャリパーやマスターシリンダーに接続するための特殊なボルトです。ボルトの中央に貫通する穴が開いており、その穴を通してブレーキフルードが流れる仕組みになっています。名前の由来は、弦楽器の「バンジョー」に先端形状が似た丸いフィッティング(バンジョー)を締め付けるためのボルトであることからきています。
一般的なボルトとは根本的に構造が異なります。普通のボルトはただ締め付けるだけですが、バンジョーボルトはフルードを通す通路としての機能も兼ねているため、サイズや組み合わせを少しでも間違えるとブレーキフルードの漏れや圧力不足に直結します。ブレーキは命に関わる部品ですから、この特性を理解することがスタート地点です。
バンジョーボルトのサイズを表すには「外径(M10など)」と「ネジピッチ(P1.25など)」の2つの数値が必要です。たとえば「M10×P1.25」は、ネジ部の外径が10mm、ネジ山のピッチ(山と山の間隔)が1.25mmであることを示しています。見た目では判別できないこの数値の差が、取り付けの可否を左右します。
構造的には、中心に小さな穴(フルード通路)が開いたボルト本体と、シール性を確保するための「クラッシュワッシャー(銅またはアルミ製)」がセットで機能します。ワッシャーは締め付け時に潰れることで密着し、フルードの漏れを防ぐ設計です。つまり、一度潰れたワッシャーは再利用に適さないということでもあります。
バンジョーボルトが使われている主な箇所は以下のとおりです。
これが基本です。ブレーキ周りに使用されるケースが圧倒的に多く、そのため選定ミスが事故に直結するリスクがある部品だと認識しておきましょう。
バンジョーボルトには「シングル」と「ダブル」の2種類があります。シングルはホースが1本接続できる通常タイプ、ダブルは1つのボルトに2本のホースを接続できるタイプです。ブレーキキャリパーにホースを2本取り込むダブルディスク構成などで使われます。ダブルタイプはボルト全長が長くなるので、シングルと互換性はありません。この点も購入前に確認が必要です。
バンジョーボルトのサイズ選定で最も重要なのがネジピッチです。外径がM10で同じでも、ピッチが「P1.25」と「P1.0」では互換性がなく、間違えると正常に締め付けることができません。
ピッチの差はわずか0.25mmです。数値にすると小さく見えますが、ブレーキホースを交換しようとしたライダーが「ネジが入らない」「締まる気がしない」と気づくケースが多く、知恵袋などでも頻出の質問になっています。
国産主要メーカーのバンジョーボルトピッチ対応表は以下のとおりです(スウェッジライン公式データより)。
| メーカー | 対応ピッチ | 備考 |
|---|---|---|
| HONDA(ホンダ) | M10×P1.25 | 全車種ほぼ統一 |
| YAMAHA(ヤマハ) | M10×P1.25 | 全車種ほぼ統一 |
| KAWASAKI(カワサキ) | M10×P1.25 | 全車種ほぼ統一 |
| SUZUKI(スズキ) | M10×P1.00 または P1.25 | ⚠️ 車種・年式・部位によって異なる |
| BREMBO(ブレンボ) | M10×P1.00 | ネジ穴が浅いため専用品が必要 |
| AP RACING | M10×P1.00 または 3/8-P24 | 商品により異なる |
| HARLEY-DAVIDSON(ハーレー) | M12×P1.5 / 3/8-P24 / 7/16-P24 | ⚠️ 車両・年式により大きく異なる |
スズキだけが例外です。GSX-R系などの一部車種ではP1.0が採用されており、同じスズキの車でも年式や部位(フロント側とリア側)でピッチが違うことがあります。スズキ車に乗っている場合は、現車のボルトをノギスで実測するか、サービスマニュアルで確認するのが確実です。
次に外径についてです。国産バイクのほとんどはM10(外径10mm)が標準で、これがいわゆる「普通のバンジョーボルト」のサイズです。ハーレーはインチ規格(3/8インチ≒9.5mm、7/16インチ≒11.1mm)を採用しており、国産車用とは互換性がありません。ブレンボキャリパーを後付けカスタムしたバイクに乗っている場合は、キャリパー側がP1.0であるにもかかわらず国産車の感覚でP1.25を選んでしまうミスが起きやすいため、注意が必要です。
バンジョーの穴の内径(ボルトが通る穴)にはM8・M10・M12・M14などがあります。ボルトの外径と穴内径が合っていないとバンジョーの中に通すことができないため、サイズ確認は「ネジ径」と「バンジョー穴内径」の両方を見ることが条件です。
参考:メーカー別ボルトピッチ対応表の詳細情報はこちらで確認できます。
SWAGE-LINE(スウェッジライン)公式 バンジョーボルト対応表 – 株式会社プロト
バンジョーボルトのサイズが合っていても、バンジョー(フィッティング側)との組み合わせを間違えると重大なトラブルが発生します。見落とされがちなのが「バンジョーの厚み」です。
代表的なブレーキホースメーカーのバンジョー厚みを比較すると、グッドリッジが約8.18mm、アールズが約10.1mmと、約2mmの差があります。この2mmの差がクリティカルな問題を引き起こします。
フルードの通路(穴位置)のズレです。バンジョーボルトのフルード穴とバンジョー本体の穴は、組み合わせが正しければぴったり揃いますが、厚みが違うバンジョーとボルトを混在させると、穴位置がズレます。フルードは流れているように見えても、ボルトのかかり代(ネジが噛んでいる長さ)が足りなくなる危険があります。
かかり代の不足は深刻です。かかり代が少ない状態でも油圧は発生しますし、フルード漏れが出ない場合もあります。しかし、走行中の振動や繰り返しの油圧変動によって、ボルトが緩んだり最悪の場合は抜けるリスクがあります。外から見て「漏れていない」「効いている」だけでは安全を確認したことにはなりません。
特に注意が必要な組み合わせをまとめます。
ブレンボキャリパーにはさらに特殊な事情があります。ブレンボのネジ穴は実測で約10.2mmしかない、極めて浅い設計です。これはネジピッチをP1.0にすることでネジ山のかかり数を確保している設計ですが、ボルト側の首下(ネジが切られている長さ)がわずかに違うだけで底づきするリスクが生まれます。アールズのP1.0ボルトとグッドリッジのP1.0ボルトは、どちらもブレンボに合わせたギリギリのサイズで設計されていますが、アールズのボルトにグッドリッジのバンジョー(薄いタイプ)を組み合わせると底づきします。逆の組み合わせではかかり不足になります。
つまり、ブレンボ使用時は「ボルトもバンジョーも必ず同一ブランドで揃える」ことが原則です。
参考:アールズとグッドリッジの組み合わせによる穴位置のズレを図解した詳細記事はこちらです。
【相性が大事】バンジョーとバンジョーボルト – モトロックマン
バンジョーボルトの素材は、見た目だけでなく締め付けトルクに直接影響します。ここを理解していないと、締めすぎてボルトを破損させるか、緩すぎてフルードが漏れるかのどちらかに陥ります。
締め付けトルクの目安は素材によって大きく異なります。
ステンレスとアルミでは2倍以上のトルク差があります。「ボルトの見た目が同じなら同じトルクで締めればいい」という感覚は危険です。アルミ製ボルトを18N・mで締め付けると、簡単にボルトが破断・変形します。アルミ製バンジョーボルトを使用する際は必ずトルクレンチを使うことが条件です。
素材ごとの特徴を整理します。
これは使えそうです。素材の選び方は「スチール・ステンレスが基本、チタンは軽量化重視のとき」と覚えておけばOKです。
ワッシャーの素材についても押さえておく必要があります。バンジョーボルトに使用するクラッシュワッシャーには銅製とアルミ製の2種類が主流です。銅製は変形しやすく密着性が高い一方、アルミ製はリーズナブルで汎用性が高いです。いずれも「1回使ったら交換」が原則で、再利用すると変形による密着不足からフルード漏れが発生します。トルクレンチでしっかり締め付けたつもりでも、つぶれたワッシャーを使い回すと漏れが起きることは、実際に経験者が多い失敗例です。
参考:バンジョーボルトの締め付けトルクや素材ごとの注意点についての詳細はこちらに記載があります。
バイクの標準締め付けトルク一覧表 – allMaintenance(アルミ製バンジョーボルトの注意点も掲載)
バンジョーボルトを購入・交換するとき、最もトラブルが多いのが「サイズ確認を怠って注文してしまう」ケースです。カスタムパーツのレビュー欄には「ピッチが違って使えなかった」「バンジョーと合わなかった」という声が後を絶ちません。正確なサイズ確認には次のアプローチが有効です。
まず、現車から取り外したボルトのネジ部をノギスで計測します。外径(M10が多い)を確認したあと、ピッチゲージを使ってピッチ(P1.25かP1.0か)を確認します。ピッチゲージがなければ、M10×P1.25のボルトとM10×P1.0のボルトの両方を買って現物合わせする手もありますが、コストと手間を考えるとピッチゲージ(数百円〜)を1本持つほうが確実です。
交換作業の基本手順はこちらです。
エア抜き作業のひとつのコツとして、バンジョー部にエアが溜まりやすい位置があることを覚えておくと便利です。エアは高いところに溜まる性質があるため、バンジョーのフルード穴の向きが下を向いていると、いくらレバーを握ってもエアが抜け切らないことがあります。キャリパー側からエアを上方向に押し出すように角度を変えながら作業するのが、経験者の間で有効とされているやり方です。
また、ブレーキフルードの塗装への侵食は見落とされがちなデメリットです。フルードが車体に垂れると塗装面が変色・溶解します。作業中は周囲にフルードがついた手で車体に触れないようにすること、養生を徹底することが大切です。外装に垂れた場合はすぐに大量の水で洗い流すのが鉄則で、拭き取るだけでは塗装のダメージを防げません。
ブレーキ周りの作業後は、必ず走行前にゆっくりしたスピードでブレーキの効きを確認してください。この確認を怠ったまま公道に出るのが最も危険な状態です。これが原則です。
バンジョーボルトを選ぶとき、多くのライダーはサイズ(ピッチ・外径)とデザイン(カラー・材質)に注目します。しかし、実際に作業してから問題が発生するケースの多くは「締め付けトルクの管理ミス」に集約されます。これは検索上位の記事ではあまり深く掘り下げられていないポイントです。
アルミ製バンジョーボルトのトルク管理は特に落とし穴が多いです。感覚で締めると締めすぎになりやすく、結果としてボルト破損や、ネジ穴のカジリ(ネジ山破損)が起きます。ブレンボのようにネジ穴が浅いキャリパーでアルミボルトを使った場合、底づきした状態でさらに力を加えると一発でネジ山をダメにします。修理には数万円規模のコストが発生することもあります。
一方、締め付け不足による漏れも重大です。「なんとなく締まった感覚」で作業を終えると、走行中の振動でじわじわとフルードが滲んでくることがあります。最初は目に見えない程度の滲みでも、走行距離を重ねるうちにレバーのタッチが変化し、いざというときにブレーキが効かない状態になります。痛いですね。
ここで実用的な判断軸を整理します。
「ボルトを交換するだけなら工具いらず」と思っているライダーも多いですが、ブレーキ系統のボルト交換だけはトルクレンチの使用を外してはいけません。トルクレンチは安価なもので3,000〜5,000円程度から購入できます。ブレーキ修理の出費(最低でも10,000〜50,000円規模)と比べれば、はるかに安価な投資です。これは必須です。
トルク管理という視点から見ると、バンジョーボルトのサイズ選びはピッチや外径だけでなく「素材×キャリパー・マスターとの組み合わせ×トルクレンチ」の3つがセットで機能します。バンジョーボルト交換を検討しているなら、ボルト単体を「サイズが合えばOK」と考えず、この3点をセットで確認することを習慣にすると、作業後のトラブルを大幅に減らすことができます。結論はそこです。