

メーカー出荷状態のサス設定のまま走り続けると、ツーリング後半に毎回ヘトヘトになる原因を自分の体力不足だと勘違いし続けることになります。
バイクのサスペンションは、スプリング(バネ)とダンパー(減衰機構)の2つで構成されています。路面の凸凹をスプリングが吸収しますが、スプリングだけでは縮んだあとにボヨンボヨンと揺れ続けてしまいます。その揺れを1回で素早く収めるのがダンパーの仕事であり、その力の強さを調整するのが「減衰力調整」です。
減衰力には大きく2種類あります。サスペンションが縮む動きを制御するのが「圧縮側(COMP)」、伸びる動きを制御するのが「伸び側(TEN)」です。この2つを前後合わせて調整することで、バイクのハンドリングや乗り心地が大きく変わります。
フロントフォーク(ff)は、バイク全体の向き変えや旋回初期のハンドリングの軽さに直結します。ブレーキング時にフォークが沈み込む速さも圧側で制御され、コーナー進入の安定感に影響します。一方リアサスは、加速時のトラクションや旋回中の後輪グリップ感に強く関わります。これが条件です。
前後のサスペンションは「連動している」という視点が重要です。リアの伸び側減衰が速くなれば、減速時に車体は前傾姿勢を強め、フロントがより沈み込むような動きになります。つまりリアだけを調整したつもりでも、ffの動き方にも影響が出るということです。意外ですね。
| アジャスター | 位置 | 主な影響 |
|---|---|---|
| ff(フロント)伸び側 | フォークトップ部 | 旋回初期のハンドリング・向き変えの軽さ |
| ff(フロント)圧側 | フォーク下部 | ブレーキング時のフォークの沈み速さ |
| リア伸び側 | ショック下部 | 向き変え・後輪グリップ感・加速時の車体姿勢 |
| リア圧側 | ショック中部 | 旋回中のリアの沈み具合(補助的役割) |
バイクの車種によって、このアジャスターの有無や数が異なります。前後すべてにフルアジャスタブルな機構を持つのは主に600cc以上のスポーツバイクです。リアの伸び側のみ装備するバイクも多く、まずは自分の愛車にどのアジャスターが付いているかを確認することが基本です。
参考:サスペンションの減衰力調整の基礎と各アジャスターの役割を解説しています。
クシタニ ライテクをマナボウ♯35 サスペンションの減衰力調整で何が変わる?
「メーカーが決めた設定が一番正しい」と思っていませんか。実はそれが大きな落とし穴です。
大型バイクの主要マーケットは欧米で、標準体格の設定は身長180cm・体重70kg以上を前提にしています。さらに欧米では日本より高い速度域での走行が想定されており、2人乗りで140km/hのカーブを走行中にサスがグラグラ揺れたとしたら訴訟リスクがあります。そのため、メーカーは製造者責任(PL)を回避する目的で、減衰力を「強め」に設定せざるを得ないのです。
この結果、日本人の平均的な体格(65kg前後)で一般公道を走ると、サスは必要以上に動きが鈍くなり、路面の凸凹に追従できずバイクとライダーが揺すられ続けることになります。ツーリングで長距離走ったあとに疲れ切るのは、体力不足ではなくサスのせいという可能性が高いです。これは使えそうです。
「減衰力を弱めるとフワフワして危険になる」という思い込みも非常に多い誤解です。減衰力を弱めるということは、「サスペンションが縮んだり伸びたりする動きを抑える力が弱まり、動きが速くなる」ことを意味します。動きが速くなることで路面への追従性が上がり、むしろグリップが向上します。調整アジャスターの範囲内で弱めた程度では、危険な状態にはなりません。
硬い=スパルタン=プロ向けというイメージが先行しがちですが、実際はトップレースライダーほど路面追従性を優先したセッティングで、一般人の想像を超えて柔らかく設定していることが多いと報告されています。結論は逆ということです。
減衰力を弱めるメリットをまとめると、次のようになります。
参考:メーカー出荷設定がPL対策で強めになっている理由と、伸び側減衰を弱めることのメリットを詳しく解説しています。
RIDE HI:ツーリングの快適さアップには伸び側減衰を弱めよう
前後バランスを整えるうえで最も重要な原則があります。前後のサスペンションは「ストローク量」と「ストロークスピード」をほぼ揃えるということです。コーナリング中にギャップを踏んだとき、前後のサスが同じタイミングで動かないと、荷重がフロントかリアに一方的に移動し、グリップを失うリスクが高まります。これが前後バランスの本質です。
調整の基本的な順番は次の通りです。
アジャスターの操作方法は、右に回すと減衰力が強くなり(ハード方向)、左に回すと弱くなります(ソフト方向)。まず右に回し切って最強位置を確認し、そこから左に戻した量を「○クリック戻し」「○回転戻し」と記録しながら管理するのが基本です。調整量を記録しておけば大丈夫です。
最強位置まで回し切るとき、力いっぱい締め込んではいけません。アジャスター先端はオイル通路に入り込む尖った形状になっているため、過剰な力で締めると先端が潰れてしまいます。親指と人差し指でつまむように「そっと回す」のが正しいやり方です。
1回の調整で複数のアジャスターを同時に変えると、どの変化が何の影響かわからなくなります。必ず1か所ずつ変えて走り、変化を体感してから次に進むこと。これが原則です。
参考:前後サスペンションバランスの基本概念と、ストローク量・スピードを揃える重要性を解説しています。
前後のサスペンションセッティングのバランスとは(バイクよかばい)
ffのセッティングは「リアが決まってから」が鉄則です。リアの伸び側減衰力が変わると、車体の前後傾斜角度が変化し、ffへの荷重のかかり方も変わるからです。元ヤマハエンジニアによる解析では、「リアの伸び側を変えるとフロントの沈み込み方も変わる」ことが指摘されています。つまりリアを触らずにffだけを合わせても、リアを調整した時点でffの設定がズレてしまうのです。
ffには一般的にトップキャップ側(フォーク上部)に伸び側アジャスター、フォーク下部に圧側アジャスターが配置されています。ただしバイクの種類によって位置は異なるため、オーナーズマニュアルで確認しておくと安心です。
伸び側(TEN)を調整した場合の変化について、具体的な傾向を押さえておきましょう。
圧側(COMP)はブレーキング時のフォークの沈み込むスピードを制御します。強めにすると減速時の姿勢変化がゆったりになり、弱めにすると素早くフォークが沈み込みます。強すぎるとフォークの動きが完全に止まってしまい、むしろタイヤが跳ねて危険になります。圧側は「味付け」として最後に調整するのが条件です。
スーパースポーツバイク(SS)は出荷状態から減衰力が全体的に強めに設定されています。サーキットでの高速走行アベレージを前提にしているためです。一般公道で乗ると走行速度が低いためサスが動かず、むしろ乗りにくく感じることが多くあります。思い切って伸び側を3〜5クリック以上弱めてみると、劇的に乗りやすくなるケースが少なくありません。
参考:元ヤマハエンジニアによる前後サス連動のメカニズムと、リア調整がフロントに与える影響を詳解しています。
ライダーズクラブ:元ヤマハエンジニアから学ぶハンドリングのためのサスセッティング
減衰力のベストセッティングは「ひとつではない」というのが大前提です。同じライダーでも、ワインディングとサーキットでは最適値が変わり、荷物を積んだツーリングと空荷のスポーツ走行でも違ってきます。とはいえ、調整の目安となる基本的な方向性を知っておけば、迷いなく調整を進めやすくなります。
体重ごとの調整方向について、まず知っておくべき重要な視点があります。バイクのプリロード・減衰力は標準設定が65〜75kgの中体格ライダーを基準に設定されているケースが多く見られます。
| ライダー体重 | プリロード | 減衰力(前後共通) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 55kg以下(軽量) | 弱める | サグをフルストロークの1/3確保が最優先 | |
| 60〜75kg(標準) | 標準付近 | 標準より1〜3クリック弱め | 伸び側を中心に調整する |
| 80kg以上(重量) | 強める | 標準〜やや強め | プリロード先行で姿勢を整えてから減衰調整 |
軽量ライダーにとって、出荷状態は特にミスマッチになりやすいです。体重が軽いとサスが十分ストロークしないため、路面からの衝撃がそのまま体に伝わります。サグを確保できるようにプリロードを弱め、それに合わせて減衰力も弱める方向で調整する必要があります。プリロードを弱めるなら減衰も弱めるが原則です。
走り方別の目安も整理しておきます。
セッティングの変化が体感しにくいと感じた場合は、「最弱と標準」「最強と標準」など、大きく動かして比較するのが効果的です。変化が確認できたら、そこから好みの方向へ少しずつ寄せていきます。標準設定に戻せばゼロからやり直せるので、恐れずに触ることが前提です。
参考:サスセッティングの具体的な手順と、プリロード・減衰の関係について詳しく解説されています。
バイクブロス:サスセッティングで走りはどう変わる?ポイント03
多くのセッティング解説は「どう調整するか」に焦点を当てています。しかし実際には「調整したつもりが前後バランスを崩してしまった」という失敗パターンを知っておくことのほうが、長期的に見てずっと役立ちます。これは意外なアプローチです。
最もよくある失敗は「フロントだけ、またはリアだけを大きく変えた」ケースです。前後はセットで動いているため、片側だけを何クリックも変えると「前後ストロークスピードの差」が生まれます。コーナリング中にギャップを踏んだとき、ffが素早く縮むのにリアが鈍いと、フロントに荷重が集中しすぎてハンドリングが唐突に重くなります。逆の場合はリアが突き上げられて後輪のグリップが抜ける感触が出ます。どちらも転倒リスクに直結します。
2つ目の失敗パターンは「プリロードと減衰を同時に変えた」ケースです。プリロードを変えると車体姿勢そのものが変わるため、適切な減衰力の値も変わります。2つを同時に変えると、どちらの変化が走り方に影響したのか判断できなくなります。これが条件として守れているかどうかで、セッティングの精度が大きく変わります。
3つ目は「感覚に頼って調整方向を間違えた」ケースです。「ハンドリングが重い→減衰を弱める」と直感的に判断する方が多いですが、ハンドリングが重い原因は「伸び側が強すぎる」「プリロードが強すぎてサグが少ない」「タイヤの空気圧が高すぎる」など複数考えられます。バランス改善に向けた対処は次の通りです。
「調整範囲の中では乗り味が変わるだけで危険にはならない」という事実が大きな安心材料です。わからなくなったら出荷標準設定(オーナーズマニュアルに記載)に戻すだけです。標準設定に戻せば大丈夫です。
アジャスターの標準設定が不明な場合は、バイクメーカーのお客様相談室に問い合わせると教えてもらえます。中古バイクは前オーナーが触っている可能性があるため、購入後すぐに現在の設定をメモしておくことをおすすめします。