

バイク歴60年を超えてもなお現役でライダーに技術を伝え続けている人が、この日本にいる。
「ネモケン」の愛称で多くのバイク乗りに親しまれている根本健は、1948年生まれ、現在77歳(2026年時点)。そのキャリアは現役のGPライダーとして世界を転戦した1970年代から始まり、バイク誌編集長として約42年間にわたる出版活動を経て、現在は「RIDE HI(ライドハイ)」のプロデューサーとして活躍している。
2020年10月に株式会社MONSTER DIVEに取締役事業部長として参画し、新バイクメディア『RIDE HI』を雑誌・Web・YouTubeの三媒体で同時展開した。これは単なるバイク情報メディアではなく、「愉しさのためすべてを注ぐライダーのメディア」というコンセプトのもと、速さだけを追わない、長くバイクを楽しむための知識と技術を届けることを目的としている。
現在の活動の中核となっているのは、YouTubeチャンネル「RIDE HI」だ。根本健がスポーツバイクの乗り方を指南する「RIDE LECTURE(ライドレクチャー)」、略して「ライレク」は、2025年9月に100回を達成した。それだけではなく、「ネモケンのBike Meeting」「教えてネモケン」など複数のシリーズが同チャンネルで展開されており、バイクに関するあらゆる疑問に答える場として機能している。
つまり雑誌→Webへと媒体を変えながら、42年間一貫して「ライダーへの技術伝道」を続けているということですね。
RIDE HI公式:根本健プロフィールと全記事一覧(ライドハイ公式サイト)
YouTubeでの動画発信と並行して、根本健は全国各地でリアルのライドレクチャーを積極的に行っている。これが、ネット動画とは一線を画す「体感型の学び」として多くのライダーから高い評価を得ている。
2024年11月に福岡県朝倉市で開催されたあるライドレクチャーでは、参加者9名のうち20代が5名という構成で、平均年齢はなんと32歳だった。バイク雑誌全盛期を知る世代だけでなく、YouTubeで根本健を知った若いライダーたちも積極的に参加しているのが現状だ。驚くべきことに、参加した20代のほぼ全員が「YouTubeチャンネルRIDE HIで予習済み」という状態でレクチャーに臨んでいたという。
意外ですね。動画で予習してからリアル受講、というスタイルが定着しつつある。
このレクチャーで実際に行われた内容は、①グリップの握り方、②フロントブレーキレバーの入力所作、③リアブレーキペダルの踏み方、④コーナーリング時の重心移動、⑤クラッチ操作とギアチェンジ——という順序で組み立てられている。「速く走るため」ではなく「安全に長くバイクを楽しむため」という一貫した哲学のもと、基礎動作の精度を上げることに特化した内容だ。
参加者からは「コーナーで曲がりすぎた!(笑)」という声が上がるほどの効果を体感できるのが、このレクチャーの特徴だ。理論をYouTubeで理解し、実走でその感覚をネモケン本人にチェックしてもらう——この2段階が揃うことで、改善の実感が得られやすくなる。
リアルな場での直接フィードバックこそが、根本健のライドレクチャーの核心です。
ボクセルモト:根本健ライドレクチャー開催レポート(福岡・朝倉市)
根本健が長年にわたって伝えてきた「ライテク(ライディングテクニック)」は、一般的なイメージとは少し異なる。多くのライダーが「ライテク=速くなるための技術」と思っているかもしれないが、ネモケンの定義は違う。目標はあくまで「速くなること」ではなく、「上手くなること」だ。
たとえば、リアブレーキの使い方について。ある時代には「ツーリング走行中にリアブレーキは不要」と言い切るライダーもいた。しかし根本健の考えは明確で、ツーリング中の適切なリアブレーキ使用は制動距離を縮め、車体の安定を増す効果があるというものだ。これは単純な「かける/かけない」の問題ではなく、入力の所作(タイミングと力加減)が重要という視点だ。
同様に、フロントブレーキについても「急激に入力してフロントフォークを沈める」操作がいかに多くのライダーのクセになっているかを指摘している。静止状態でレバーの入力所作を変えるだけで、フォークの沈み込み方が明らかに変わる——その事実を参加者が実際に体感して初めて「なぜ転倒するリスクが減るか」を理解できる構造になっている。
これが基本です。動作の「結果」ではなく「プロセス」を変える、それがネモケンの指導方針だ。
また、コーナーリング時の重心移動においても、よく巷で言われる「〇〇荷重」という概念を単純に当てはめるのではなく、体幹の動きと車体の傾きのタイミングを合わせることを重視している。RIDE LECTURE第80回のテーマは「チカラ要らずの正確なリーン」。力に頼らず、精密な動作でバイクを傾けることが、疲労を減らし長距離ツーリングをより楽しくする——これもネモケン哲学の根幹だ。
教えてネモケン112:前輪から滑る気がする怖さにどう対処する?(RIDE HI)
現在の活動を深く理解するには、根本健がたどってきた道を知ることが欠かせない。1948年東京都生まれ。高校時代にバイクと出会い、カワサキのディーラーチームに所属したことで本格的なレース活動を開始した。高校の期末試験よりもマシンテストを優先した結果、高校卒業に6年かかったというエピソードが象徴するように、バイクへの情熱は筋金入りだ。
1973年、全日本ロードレース選手権セニア750ccクラスで、プライベーターとして初めてチャンピオンを獲得する歴史的な快挙を成し遂げた。ワークスマシンに対抗できる装備を持たないプライベーターが、全日本を制したのは根本健が初だった。翌1974年から1978年にかけてはヨーロッパへ渡り、世界GP(ロードレース世界選手権)に参戦。日本人として当時極めて難しかったFIMのインターナショナルライセンスをプライベーターとして取得した経緯も、粘り強い交渉と実力の裏付けがあってこそのものだった。
帰国後の1978年から約42年間、バイク雑誌『ライダースクラブ(RIDERS CLUB)』の編集長を務め、多くのライダーにとって「バイクとの素敵な時間」の入口となった。枻出版社に在籍した期間は1978年から2018年の約40年に及ぶ。2018年3月に同社を離れ、その後2020年に株式会社MONSTER DIVE参画・RIDE HI立ち上げへとつながる。
40年以上のメディア活動が原則です。その全期間を通じて変わらないのは、ライダーへの技術普及という一点だ。
根本健はライドレクチャー活動だけでなく、複数の著書でもバイク乗りに知識を届けている。中でも特に注目されているのが『グランプリを走りたい ――'60〜'70年代を駆け抜けたバイク人生』(枻文庫)だ。
この本は、根本健自身が少年期からプライベートライダーとしてヨーロッパGPへ挑戦するまでの自伝的な内容で構成されている。単なる「昔話」ではなく、1960〜70年代の日本のバイク事情や世界GP参戦の実態、当時の日本メーカーとの人間関係など、今では絶対に読めない一次情報が詰まっている。バイクが趣味の読者にとって、日本のレース史を体感できる貴重な一冊だ。
このほかにも『オートバイ乗りは"怖がり"ほどうまくなる。』『今日から"乗れる"ビッグバイク』『バイク"乗れてる"大図解』など19作品を世に出しており、バイク乗りの実践的な技術書から入門書まで幅広くカバーしている。本全体で通底するのは「安全に、長く、楽しく乗る」という哲学だ。これはYouTubeで伝えているライドレクチャーの内容とも完全に一致している。
これは使えそうです。根本健の著書はAmazonでKindle版も購入可能で、気軽に読み始めることができる。