

ハンドルに力を入れると横方向の安定性は下がります。
バイクの横方向の安定性は、いくつもの物理現象が複雑に絡み合って成立しています。走行中にバイクが倒れずに真っすぐ進めるのは、ジャイロ効果、キャスター角による復元力、重心のバランスといった要素が同時に働いているからです。これらの物理現象を理解することで、より安全で快適なライディングが可能になります。
バイクのホイールが回転すると、角運動量保存則により姿勢を維持しようとする力が発生します。
これがジャイロ効果と呼ばれる現象です。
ホイールを手に持って回転させると、傾けようとしても抵抗を感じるのを体験できます。
ただし、2011年にScience誌に掲載されたオランダの研究によれば、「自転車はジャイロ効果あるいはキャスター効果がなくても自己安定できる」ことが実証されました。つまりジャイロ効果が安定性に寄与しているのは事実ですが、それが全てではないということですね。
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重いホイールほどジャイロ効果が大きくなり安定性は高まりますが、反面として切り返しの動作が重くなるデメリットも生じます。例えば、軽量ホイールに交換すると、ジャイロ効果が減少して切り返しが軽くなり、サスペンションへの負担も減って燃費や加速性能が向上します。走行スタイルに応じて、安定性と機動性のバランスを考える必要があります。
直進中にハンドルに無駄な力を入れないことで、ジャイロモーメントによる微少な転舵を阻害せず、バイクの自然な安定化を活用できます。これは特に初心者ライダーが意識すべきポイントです。
キャスター角とは、フロントフォークの傾斜角度のことで、この角度が大きい(フォークが寝ている)ほど直進安定性が高まります。反対にキャスター角が小さい(フォークが立っている)と、ハンドリングがクイックになり旋回性が向上します。
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トレール量は、ステアリング軸の延長線と地面が交わる点と、前輪接地点との水平距離を指します。1970年のJones論文では、「トレイルが正でないと自転車は安定しない」ことが実証されています。一般的に、トレール量が長いほど直進安定性に優れたハンドリング特性となります。
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具体的な数値を見ると、ツーリングユースの多いクルーザーモデルはキャスター角が大きく設定されており、スポーツモデルは角度が小さめです。例えばGold Wingは30.5°と極端に寝た設定で、高い直進安定性を実現しています。
参考)https://ridersclub-web.jp/column/technic-773770/
フルブレーキング時には、フォークの沈み込みによってキャスター角が約5°も変化し、トレール量も10〜20mm変動します。この変化により、ブレーキング中は応答性が高まり、鋭く曲がれる車体姿勢になるのです。ブレーキング時の挙動の変化は、この幾何学的変化が原因だということですね。
バイクが倒れずに直立できるのは、前後タイヤの接地点を結んだ線上に重心があるからです。逆にバランスが取れない状態とは、この線上から重心が左右にずれている状況を指します。
走行中にバイクが左側にふらつくと、重心三角形に対して重力ベクトルが左側にズレ、微少な転倒モーメントが発生します。このときキャスター角に応じた方向にジャイロモーメントが働き、自動的に左に転舵されます。バイクが前進しているため前輪接地点が左側へ移動し、重心三角形と重力ベクトルが重なって安定状態を取り戻すのです。
旋回中は遠心力が働くため、遠心力と釣り合った状態で車体は安定してコーナーを抜けていきます。車速に対してバイクを倒し過ぎれば遠心力と釣り合わず内側に倒れ、逆に倒し込みが浅いとコーナーの外側に膨らんでしまいます。つまり速度と旋回半径に応じた適切なバンク角が必要です。
エンジンの重心位置も安定性に影響を与え、高い位置に置くと安定性指向、低い位置だと操縦性指向になります。前後では、前寄りが安定性志向、後ろ寄りが操舵性志向となります。軽いエンジンは高めに、重いエンジンは低めに配置するのが一般的な設計思想です。
ハイサイドとは、コーナリング中にタイヤが横滑りした後に急激にグリップが回復し、車体が起き上がる挙動またはこれに起因する転倒のことです。傾斜している車体の上側(high side)に転倒することから、この名前がついています。
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タイヤが横滑りしている際にグリップ力が回復すると、滑っている方向へ車体を起こそうとするロールモーメントという力が働きます。グリップ力の回復が急激な場合、このロールモーメントが過大になり、ライダーが対応しきれなくなって転倒に至ります。ハイサイドによる転倒では、ライダーが激しく地面に叩きつけられたり、対向車線へ放り投げ出される危険性があります。
コーナーでは減速時に前輪へ多くの荷重がかかるため、後輪のタイヤのグリップ力が失われやすくなることが主な原因です。グリップ力を緩やかに回復させれば、ロールモーメントが過大にならず、ライダーは自然とバランスを保てます。無理なコーナリングを避けることが、ハイサイド防止の大原則です。
低速走行時や停車時は、走行中と異なる安定性の原理が働きます。バイクは駆動力があるときの方がバランスを取りやすい特性があるため、ブレーキやアクセルを緩めた時に重心が定まらなくなり、バランスを崩しやすくなります。
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低速時にハンドル操作を行うとフラつきやすくなってしまうので、慣れないうちは都度停まるようにすると安心です。急なハンドル操作は避け、緩やかで滑らかな操作を心がけましょう。Uターンや狭い場所での方向転換時には、半クラッチ状態を上手く使いながらエンジンブレーキを活用すれば、安定した低速走行が見込めます。
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停車時には左側に重心を置くことで、立ちゴケのリスクを減らせます。バイクを停車させるときに直立状態で停止すると、バイクが左右のどちらに傾くかは半々の確率になってしまいます。あらかじめ左側に傾けて停止することで、予測可能な方向にバイクが傾き、安全に支えられます。
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足つきの悪いバイクは停車時の安定性が著しく低下し、わずかな傾きでもバランスを崩す可能性が高まります。両足のつま先だけが地面に届くような状況では、立ちゴケの大きな要因となります。自分の体格に合ったバイク選びが、安全なライディングの基本です。
ヤマハエンジニアによる二輪運動力学の詳細解説(ライダースクラブWeb)
バイクの安定性を生み出すジャイロモーメントの働きとライディング技術の科学的根拠について、専門家の視点から詳しく説明されています。
バイクの安定性に関する最新研究の解説(note)
ジャイロ効果とキャスター効果の従来の常識を覆したScience誌掲載論文について、わかりやすく解説されています。