

90ccの小排気量バイクなのに、最高速100km/hを出すと当時の若者が驚いた事実があります。
ホンダCS90の誕生には、意外にも「欧州での失敗」が深く関係しています。1962年、ホンダは日本メーカーとして初めてベルギーに海外現地法人を設立し、スーパーカブC100の派生モデルであるペダル付きモペッド「C310」の生産を始めました。しかしセールスは苦戦続きで、欧州の若者が求める「スポーティさ」を満たせなかったのです。
その失敗から、欧州向けスポーツモペッドの開発プロジェクトが動き始めました。C310のエンジンや足まわりを流用する前提でしたが、それまでのプレスフレームはリヤフェンダーと一体成形のため、どうしても「実用車」の雰囲気が抜けませんでした。かと言ってパイプフレームはコスト面で難しい。そこで生み出されたのが「Tボーンフレーム」というアイデアです。
Tボーンフレームとは、T字型の骨格構造でリヤフェンダーをフレーム本体から切り離した設計のことです。これにより、250ccクラスのスーパースポーツCB72と同じような「軽快でシャープな外観」を小排気量バイクで実現することができました。フレーム本体は全周溶接で剛性が高く、さらに空間を生かした造形美が特徴的です。この美しさは世間からも認められ、1967年にはホンダの2輪車として初めてGマーク(GOOD DESIGN AWARD)を受賞しています。
ホンダ初のGマーク受賞車です。
そもそも、当初このCS90の開発プロジェクトの優先度は高くなく、「デザイン室の片隅で作業が進められていた」という証言が残っています。ところが、このスポーツモペッドが偶然にも本田宗一郎社長の目にとまり、その場で「このデザインを国内で売りなさい」という指示が出されたのです。一人の「目利き」の一声が、日本の90ccバイク市場を一変させました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 発売年 | 1964年1月 |
| 発売価格(当時) | 8万2,000円 |
| フレーム | Tボーンフレーム(ホンダ初採用) |
| エンジン | 空冷4ストSOHC単気筒 89.6cc |
| 最高出力 | 8PS / 9,500rpm |
| 最高速度 | 100km/h |
| 0〜200m加速 | 12.5秒 |
| 車両重量 | 80kg |
| デザイン賞 | 1967年 Gマーク(初受賞) |
ホンダ公式のアーカイブページには、CS90の開発背景とTボーンフレームの誕生経緯が詳しく記録されています。
Honda Global|高性能で経済性に優れた若者向けスモールCB(Tボーンフレーム誕生の背景)
「CS90のエンジンはスーパーカブと関係ない」と思っているライダーは少なくありません。しかし実際には、CS90のエンジンはその後のホンダ横型エンジンの直系の祖先に当たります。これは旧車ファンにとって大きなメリットにつながる事実です。
CS90に搭載されたのは、90ccクラス初となる4ストロークSOHC単気筒エンジンです。アルミ合金製シリンダーヘッドによる軽量化と冷却性能の向上、鋳鉄製スリーブ入りのアルミ合金製シリンダーによる放熱性能など、当時としては非常に先進的な設計でした。この構造は後に「横型エンジン」として定着し、モンキーやダックスに搭載されたエンジンの原型になったと言われています。
つまり、CS90は「横型エンジンの祖先」です。
さらに重要なのが、このエンジンがスーパーカブにOHCが搭載される1966年よりも前に、CS90(1964年)においてすでにOHC化を実現していた点です。スーパーカブのOHCよりも2年早く世に出た技術が、CS90に搭載されていたということになります。こうした経緯から、CS90後期型のエンジンパーツはスーパーカブC90系エンジンと多くの部品を共有しています。
この部品互換性がレストアや維持にとって大きな強みになります。旧車でありながら、カブ系部品の流用が検討できる点は、維持コストを抑えるうえで非常に有利です。例えば、CS90の4速ロータリーミッションのパーツをスーパーカブC90のミッション換装に活用する実例も報告されており、旧車愛好家たちの間で「部品の宝庫」として高く評価されています。
エンジン互換性が高いということですね。
CS90系エンジンとスーパーカブ90の互換性について詳しい実践レポートは、以下の記事で確認できます。
バイクのニュース|同系列エンジンのCS90系パーツを流用してかもめカブ90のエンジンチューニングにトライ
CS90は単体のモデルではなく、複数の兄弟車・派生車を生んだプラットフォームでもあります。これを知っておくと、中古車探しや部品調達の選択肢が広がります。
まず最も有名な派生モデルが「ベンリイ CL90」(1966年登場)です。CS90のフレームをベースに、専用のタンク・シート・アップマフラー・タイヤに変更したスクランブラー仕様で、ダート走行も意識した設計になっています。日本初のスクランブラーモデルとして語られることもある一台です。
1965年には「CS90-3」が追加され、チェーンケース・プレススイングアーム・別体型シートを装備したバリエーションが登場しました。これによりCS90は、よりビジネスユース寄りの仕様も選べるようになっています。また1969年には最終モデルとして全面的なフルモデルチェンジが実施され、前後2.50-18インチバイアスタイヤ・4速ロータリーシフト・湿式多板クラッチといった最終仕様で生産が終了しました。
兄弟車も豊富です。
CS90とCL90の関係は、ロードモデルとスクランブラーという位置づけです。ミッションの点でも違いがあり、CS90が4速ロータリーシフトを採用しているのに対し、CL90は4速リターンシフトを採用しています。つまり、CS90をリターンシフト化したい場合はCL90用の純正シフトドラム周辺パーツを流用する方法が実際に使われています。こうした横断的な部品互換性がCS90系エンジンの奥深さです。
| モデル | 登場年 | 特徴 |
|---|---|---|
| ベンリィ CS90(初代) | 1964年 | Tボーン+OHC 90cc、4速ロータリー |
| ベンリィ CS90-3 | 1965年 | チェーンケース・別体シート装備 |
| ベンリィ CL90 | 1966年 | CS90ベースのスクランブラー仕様 |
| ベンリィ CS90(最終) | 1969年 | フルモデルチェンジ・18インチタイヤ |
CS90が1964年に登場したとき、日本の90ccバイク市場は「実用車」が主流でした。当時の90ccクラスには、スポーティなバイクという概念がほとんど存在していなかったのです。ところがCS90の登場により状況は一変しました。
CS90は90ccという小排気量から最高出力8PS/9,500rpm、最高速100km/hを発揮し、0~200m加速12.5秒という当時の若者が「信じられない」と感じるほどの性能を示しました。80kgという車体重量の軽さも手伝い、街中でも山道でも扱いやすいスポーツモデルとして評判を呼びました。
あっという間に人気が爆発しました。
CS90の大ヒットに驚いたのはホンダだけでなく、ライバルメーカーも同様です。CS90に対抗して、ヤマハはHT90(トレール90)を、スズキはウルフ90を相次いでリリースしました。しかしいずれも2ストロークエンジンを搭載したモデルであり、4ストロークSOHCというCS90の技術的なアドバンテージには届きませんでした。これが「CS90が90ccスポーツ車ブームを引き起こした」と言われる所以です。
さらにこの時代のポイントとして、1961年にホンダが125ccと250ccで世界GPタイトルを獲得したことも見逃せません。DOHC4気筒のRC164が活躍するホンダに憧れた若者が激増していた時期に、90ccながら「スポーツバイクらしい見た目と性能」を持ったCS90が発売されたことは、その熱狂に完璧なタイミングで応えたと言えます。CS90は単なる小型バイクではなく、日本のバイク文化の転換点を作った1台だったのです。
ヤングマシン|ホンダ初のTボーンフレームのベンリイCS90(1964年製造)が動態走行(Gマーク受賞・性能データの詳細)
CS90を旧車として入手・維持したいと考えているライダーにとって、現在の中古相場を正確に把握しておくことは最初のステップです。最新データ(2026年2月時点)によると、業者間オークション市場でのCS90の平均取引価格は11.8〜16.5万円が平均ゾーンで、上限は24.1万円に達しています。
相場は年式とカラーで動きます。
直近36ヶ月で最も平均買取価格が高いカラーは「赤/銀系」で平均18.3万円、次いで「黒系」の17.2万円となっています。対して「青/銀系」は平均7.8万円と低く、同じCS90でも選ぶカラーによって10万円以上の差が生じることもあります。年式については1966年式の平均が最も高い時期もあり、状態が良い個体ほど希少価値が上がる傾向にあります。
注目したいのが「走行距離別の相場」です。業者間データでは、走行距離1〜2万kmの個体の平均が17.7万円と最も高く、逆に5,000km未満の個体が13万円にとどまる事例もあります。旧車の場合は「走行距離が少ない=高値」とは限らず、「程よく走っていて動態確認済み」の個体がむしろ評価されやすい点が、現代バイクとは異なる旧車市場特有の特徴です。
維持面では、CS90後期型はスーパーカブC90系との部品互換性がある程度見込めるため、初代横型エンジンの知識を持つショップであれば対応できるケースがあります。ただし初期型CS90はクランクケースの形状が後期型と異なり、アルミシリンダーを採用しているなど構造差があることも覚えておく必要があります。純正部品の多くはすでに廃盤になっているため、入手前にショップに在庫状況を確認しておくことを強くおすすめします。
中古バイクの買取相場の最新データは、以下のサイトで年式・カラー・走行距離別に確認できます。
バイクパッション|ベンリィCS90【1964〜69年】最新買取査定相場(2026年2月更新)