

リアブレーキはただ「止まるため」だけの装置ではありません。実は、フロントブレーキだけで止まろうとすると、制動距離が最大で約1.5倍近く伸びる場合があります。
リアブレーキとは、バイクの後輪(リアタイヤ)の回転を制御して速度を落とすためのブレーキ機構のことです。多くのMT(マニュアルトランスミッション)バイクでは、右側のフットペダルで操作します。AT(スクーターなど)では、左側のレバーがリアブレーキになっていることが一般的です。
リアブレーキの役割は大きく3つに分けられます。
まず1つ目が「速度調整」です。フロントブレーキほどの強力な制動力はありませんが、リアブレーキを踏むと車体が前のめりにならずにスムーズに減速できます。信号停止などでの日常的な使用に非常に適しています。これが基本です。
2つ目は「姿勢の安定化」です。リアブレーキをかけると、後輪から車体を地面に引っ張る力(リアへの加重)が発生し、リアサスペンションが沈む方向に動きます。この「リア下がり」の姿勢を作ることで、フロントブレーキを同時にかけたときの前のめりを防ぎ、安定した制動が可能になります。
3つ目は「スライドコントロール」です。サーキット走行やコーナー立ち上がりでの使い方で、エンジンパワーによるホイールスピン(後輪の空転)をリアブレーキで抑えることができます。レースの世界でも重要視されているテクニックです。
制動力だけが目的ではありません。姿勢を整える道具としてのリアブレーキを理解することが、安全なライディングへの第一歩です。
バイクのリアブレーキの構造・役割について詳しく解説された参考資料がこちらです。
バイクのリアブレーキの構造・使い方を解説!【サーキットから街乗りまで】 – mori-bike.com
リアブレーキとフロントブレーキには、仕組みと制動力に明確な差があります。理解しておくことで、より的確なブレーキ操作ができるようになります。
まず制動力の面では、フロントブレーキがリアブレーキの約3〜7倍の制動力を持つとされています。教習所で「前7:後3」や「前8:後2」と習うのは、この制動能力の比率のことです。入力する力の割合ではなく、機械としての性能の違いを表しています。つまり、「リアブレーキを7割の力で踏む」ではないということですね。
| 項目 | フロントブレーキ | リアブレーキ |
|---|---|---|
| 操作部位 | 右手レバー | 右足ペダル(MT車)/ 左レバー(AT車) |
| 制動力 | 非常に強い(全体の約70〜80%) | 比較的弱い(全体の約20〜30%) |
| 得意な使用場面 | 中〜高速での強い減速 | 低速の姿勢安定・速度微調整 |
| 過剰操作時のリスク | 前転(ジャックナイフ) | 後輪ロック・スリップ |
フロントブレーキを過剰にかけると、前輪に荷重が集中しすぎて「ジャックナイフ現象」(車体が前転しかける状態)を引き起こすリスクがあります。一方、リアブレーキを踏みすぎると後輪がロックして横滑りが起きます。厳しいところですね。
なお、ウェット路面(雨天時)では前輪ロックのリスクが高まるため、ブレーキ配分は「フロント6:リア4」に近い感覚で操作することが推奨されています(バイクブロス・スマテク参照)。路面状況によって配分を変えるのが原則です。
操作方法にも差があります。フロントは手(指)での繊細なレバー操作ができる一方、リアは足での操作になるため微妙な力加減が難しく、特に分厚いライディングブーツを履いていると繊細なコントロールにはコツが要ります。
前後ブレーキの配分と正しい解釈についての参考資料はこちらです。
前後ブレーキの配分割合の正しい解釈とは? – riding-master.com
リアブレーキを正しく使うには、踏み方のコツを知っておくことが欠かせません。ここが一番の実践ポイントです。
基本的な踏み方は「かかとを支点に、回転させるように踏む」ことです。ステップに乗せたかかとを固定し、つま先を下げるように足首を使って踏み込みます。こうすることで、ステップへの荷重(ニーグリップを安定させる重要な動作)を保ちながらリアブレーキを操作できます。
やってはいけない踏み方は「かかとを浮かせたまま足全体で踏み込む」ことです。支点がない状態で踏むと力の加減が難しくなり、気づかないうちに踏みすぎて後輪をロックさせてしまいます。これは意外ですね。
慣れてきたら試したいテクニックとして、「つま先をグーにして踏む」という方法があります。足首ではなく足指の先端でペダルを押し下げるようなイメージで操作すると、ステップ荷重を保ちながらでも非常に繊細なコントロールが可能になります。
また、ライディングブーツを選ぶ際は、かかと部分に切り欠き(くぼみ)形状があるものを選ぶと、ステップにかかとを引っ掛けやすくなりリアブレーキ操作が格段にやりやすくなります。スニーカーやカジュアルシューズでは、このかかとの位置を固定する作業が難しいため、安全面でも専用ブーツの着用をおすすめします。
3つのポイントをまとめると、①かかとをステップに固定する、②じんわりと踏み始める、③「当てる」感覚で踏みすぎないことです。この3点が条件です。
ブリヂストンによるリアブレーキのかけ方の実践的な解説はこちらです。
Vol.3「リアブレーキのかけ方」|Team MARIのビューティ・バイク・レッスン – bridgestone.co.jp
リアブレーキが特に重要になる場面は、大きく3つに分けて考えられます。低速走行、コーナリング、そしてUターンです。
低速走行での使い方では、時速20km以下のような場面でフロントブレーキだけを使うと、車体がカクカクとギクシャクした動きになりやすいです。渋滞時や駐輪場内の移動など、極低速で動く場面ではリアブレーキを「軽く引きずる」ように当て続けることで、驚くほど安定した速度コントロールが実現します。半クラッチと組み合わせると効果がさらに高まります。
コーナリングでの使い方では、下り坂のカーブや峠道での活用が特に有効です。コーナー進入時にフロントブレーキだけを使うと車体が前のめり(フロント荷重過多)になりコーナーを曲がりにくくなります。そこでリアブレーキを先に軽くかけて「リア下がり」の姿勢を作ってからフロントブレーキを使うと、前のめりが抑えられてスムーズにコーナーへ進入できます。コーナー旋回中もリアブレーキを「わずかに当て続ける」ことで後輪の接地感が高まり、特に雨天時に有効な安定感を得られます。
Uターンでの使い方は、多くのライダーが苦手とする場面です。Uターン成功の秘訣はリアブレーキにあると言っても過言ではありません。スロットルを微開(少しだけ開けた状態)に固定し、半クラッチと合わせながらリアブレーキで速度を微調整することで、バランスを崩さずに小さく旋回できます。「リアタイヤを支点にしてクルッと回る」という感覚がつかめると、Uターンの成功率は劇的に上がります。これは使えそうです。
Uターンとリアブレーキの関係を詳しく解説した参考資料はこちらです。
スマートにUターンしたい。そんなライダーが覚えておくべき大事なコツ – hondago-bikerental.jp
2018年10月1日以降に生産された125cc超の新型バイクからは、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の装備が法律によって義務化されました。さらに2021年10月以降は継続生産車にも適用が拡大されています。これは大きな変化です。
ABSとはタイヤのロックを自動的に防いでくれる安全装置のことで、ブレーキをかけすぎても車輪が完全に止まる(ロック)前に圧力を調整してくれます。これにより、リアブレーキを強く踏みすぎても後輪がロックして横滑りするリスクが大幅に減りました。
ただし、注意点が1つあります。ABSはロックを防いでくれる一方、強くかけすぎると制動距離が逆に伸びる場合もあります。ABSが作動する直前の状態(ロック寸前)をキープするのが最も短い制動距離を実現する操作ですが、これは熟練したプロでも難しい領域です。ABSを過信せず、普段からじんわりとしたリアブレーキ操作を練習しておくことが大切です。
一方、MotoGP(バイクレースの最高峰カテゴリー)の世界では、より高度なリアブレーキ活用が進んでいます。マルク・マルケス選手が駆るホンダRC213Vには強力なリアブレーキが搭載されており、さらに「ハンドブレーキ」(左手のレバーでリアブレーキを操作できる装置)まで採用されています。ベテランほどリアブレーキを多用しているということですね。
これは1グラムでも軽量化したいレースマシンに、あえてリアブレーキ用の精巧な機構を追加するほど、その効果が認められているという証拠です。街乗りライダーにとっても、リアブレーキの重要性が世界トップレベルで証明されていると言えます。
なお、ABS非搭載の旧型バイクや中古車に乗っている場合は、リアブレーキのロック対策を意識した操作練習が特に重要です。急制動の練習は広い安全な場所(駐車場など)で行い、じんわりとした踏み込みに慣れておきましょう。
バイクのABS義務化の背景と仕組みについて詳しい解説はこちらです。
バイクのABSはなぜ義務化された?特徴や仕組み – goobike.com
多くのライダーが見落としがちなポイントがあります。リアブレーキの使い方は、乗っているバイクの車種・ジャンルによって根本的に変わるということです。
クルーザータイプ(ハーレーダビッドソンのようなアメリカン系バイク)では、リアブレーキが制動・減速の主体として設計されています。そのため制動力も相応に強く、普段からリアブレーキを積極的に使う乗り方が前提となっています。
一方、スーパースポーツ系(CBR1000RRやYZF-R1など)のリアブレーキは、制動力よりも「姿勢制御」が主な目的で設計されています。スーパースポーツ系はフロントブレーキが制動のほぼすべてを担うため、リアブレーキに強い制動力をかけることはそもそも想定していません。この2種類のバイクでは「同じ感覚でリアブレーキを使う」こと自体が間違いと言えます。
スポーツネイキッド系(MT-09やCB650Rなど)は制動と姿勢制御の両方に使いやすいバランス設定です。これが最も汎用性が高い設計とも言えます。
| バイクジャンル | リアブレーキの主な役割 | 制動力の強さ |
|---|---|---|
| クルーザー(アメリカン) | 制動・減速が主体 | 強め |
| スーパースポーツ(SS系) | 姿勢制御が主体 | 弱め |
| ネイキッド・ツアラー | 制動+姿勢制御の両方 | 中程度 |
| オフロード系 | 制動+スライドコントロール | 中〜強め |
自分のバイクがどのジャンルに属するかを確認した上で、リアブレーキの使い方を調整することが大切です。
具体的には、スーパースポーツ系に乗っているライダーがリアブレーキに過大な制動力を期待しても、そもそも機構の設計がそうなっていないため効果が薄く、かえってロックのリスクが高まる場合があります。逆に、クルーザー系からスポーツ系に乗り換えたライダーが「リアブレーキを以前と同じように踏む」と後輪がロックしやすいという落とし穴もあります。
リアブレーキ操作に不安を感じる場合や、乗り換えを機に改めて学び直したい場合は、全国で開催されている二輪安全講習(警察・交通安全協会主催)やライディングスクールを活用するのがおすすめです。「ライディングアカデミー東京」など、バイクのブレーキ操作を実践的に学べる場が各地にあります。
ケニー佐川(佐川健太郎)によるリアブレーキの操作方法の解説記事はこちらです。

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