

スーパーポール(Superpole)の名前を聞いたことはあるけれど、どんな予選なのかよくわからない。そう感じているバイクファンは意外と多いはずです。
ポールポジションを取っても、レース1で勝てるとは限らない。
「スーパーポール」という言葉はモータースポーツ全般で使われる予選方式の名称で、もともとは1台ずつコースインして単独でタイムアタックを行うシステムを指していました。現在のWSBK(スーパーバイク世界選手権)では、全車一斉走行による計時予選の形式に変わっているものの、「スーパーポール」という名称だけが残っています。
かつての単独走行方式では、ライダーがアウトラップ・アタックラップ・インラップという流れで走り、わずか1〜2周でタイムを出しきる必要がありました。この形式こそが「スーパーポール」という言葉の本来の意味です。アウトラップでいかにタイヤを素早く作動温度に持ち込めるか、そしてアタックラップで限界を引き出せるか、ライダーの技量がそのまま結果に出る方式でした。
現在のWSBKスーパーポールは、土曜日の午前中に行われる全車一斉走行の予選セッションです。このセッションのタイムが、土曜午後のレース1と日曜午前のスーパーポールレースのグリッドを同時に決定します。つまり、スーパーポールは2つのレースのスタート順を左右する、非常に重要なセッションということです。
出走順については、スーパーポールの単独走行時代には「後から走るほど路面にラバーグリップが乗って有利」という鉄則がありました。これはタイヤのゴムが路面に積み重なることで、後半の走者ほど大きなグリップ力を得やすいためです。逆に雨が降り始めるなど天候が急変した場合は、早い順番が有利に転じることもあり、出走順のギャンブル的な要素も大きな見どころの一つでした。
現行の一斉走行方式では出走順の問題はありませんが、セッション中の路面温度変化や残り時間を読んだタイミングでのアタックなど、駆け引きの要素は依然として残っています。スーパーポールが廃止されても名前が生き続けているのは、それだけ長い歴史とファンへの浸透があったからでしょう。
スーパーポールとよく混同されるのが「スーパーポールレース(Superpole Race)」です。これはWSBKの週末に行われる3つの決勝レースのうちの1つで、日曜日の午前中に実施される約10周の短距離スプリントレースを指します。名称が非常に紛らわしいため、まずはここをしっかり区別することが大切です。
スーパーポールレースは、通常のレース1・レース2が20〜22周であるのに対して、わずか10周程度で争われます。距離にして約100kmほど、時間にすると20〜25分前後でレースが完結します。このため、タイヤ管理の「長期的な計算」がほとんど不要になり、スタートからゴールまで全開で攻め続けることができます。いわゆる「全力疾走」しかない、ファン目線では最も興奮度の高いレース形式です。
ただし、全力で攻められるからこそ転倒リスクも高まります。スーパーポールレースの順位は、日曜午後に行われるレース2のグリッドに直結するため、クラッシュしてしまうとレース2のグリッドが大幅に後退することになります。上位9位以内にゴールしたライダーはその順位でレース2のグリッドに並べますが、10位以下に沈んだ場合はスーパーポール(予選)のタイム順でグリッドが決まる仕組みです。
タイヤについても特別な配慮があります。ピレリはWSBK向けに「SCQ」と呼ばれる専用ハイグリップタイヤを供給していますが、このタイヤはスーパーポール(予選)とスーパーポールレースのみ使用可能で、レース1・レース2での使用は禁止されています。さらにSCXという超ソフトコンパウンドも存在し、こちらは主にスーパーポールレースで威力を発揮します。タイヤの種類が結果に大きく影響するという点でも、スーパーポールレースは奥が深いのです。
スーパーポールレースでポイントを獲得できるのは9位まで。ポイント配分は1位12点・2位9点・3位7点と、通常のレース1・レース2(1位25点)よりも少なくなっています。しかし、チャンピオンシップ全体を見渡せば、スーパーポールレースの12点は決して小さくありません。シーズン終盤での数点の差がタイトルを左右することも珍しくないのです。
スーパーバイク世界選手権のレースフォーマット・ポイント配分の解説(ホンダ)
バイクレース観戦の醍醐味の一つが「ラップレコード更新」の瞬間です。スーパーポールセッションは全力アタックが集中するため、コースレコードが塗り替えられるのもこのセッションがほとんどです。
2026年2月21日に開幕した2026年WSBKシーズン第1戦オーストラリア(フィリップアイランド)のスーパーポールでは、ニッコロ・ブレガ(Aruba.it Racing – Ducati)が1分28秒244というタイムを記録してポールポジションを獲得しました。このタイムは、2位に入ったヤリ・モンテッラに0.419秒という大差をつけたものです。これはフィリップアイランドにおいて、2008年にトロイ・ベイリスがトロイ・コーサーに0.518秒差をつけて以来、最大のポール差だったとも伝えられています。
さらにこのスーパーポールは、ドゥカティにとって通算200回目のポールポジションという歴史的な節目でもありました。フィリップアイランドでの3年連続ポールはベイリス以来の快挙であり、改めてブレガとドゥカティの圧倒的な現在地を示す結果となりました。
MotoGPとWSBKのタイムを同じサーキットで比較した場合、MotoGPマシンの方が一般的に1周あたり2〜4秒速いとされています。フィリップアイランドでのMotoGPポールレコードは1分27秒767(ホルヘ・マルティン、2023年)であるのに対し、WSBKの予選レコードはそれより約1秒遅い水準です。MotoGPはレース専用開発マシンで一方WSBKは市販車ベース、それでも差がわずか数秒というのは驚きの数字です。ラップタイムの観点から見ても、WSBKがいかに高次元なバイクレースかがわかります。
なお、2026年のWSBKシーズンは全12戦が予定されています。各ラウンドごとにスーパーポールで新たなタイムが刻まれていくため、シーズンを通じてタイムの変化を追うのも楽しみ方の一つです。特にポルトガル、オランダ、イタリアなど欧州ラウンドでは毎年のようにコースレコードが更新されており、ライバル間の激しい争いが続いています。
2026年第1戦スーパーポール結果・ブレガのポールタイム詳細(気になるバイクニュース)
スーパーポールの結果は、純粋にライダーとマシンの速さだけで決まるわけではありません。見落とされがちな要素が「出走順」と「路面状況」の関係です。これはかつての単独走行時代に特に顕著でしたが、現在の一斉走行方式においても影響がないわけではありません。
かつての単独走行スーパーポールでは、後から走るライダーほど路面に多くのラバーグリップ(タイヤのゴム成分)が積み重なるため、グリップ力が上がって有利とされていました。これはドライコンディションでの一般論です。現実には10〜20台ほどのライダーが走るうちに、路面のコンディションはどんどん変化します。レース1の予選タイムをもとに出走順が決められていた時期には、遅いタイムのライダーが先に走り、速いライダーが後から最高コンディションの路面を使えるという構造になっていました。
一方で天候が急変するケースは全く別の話です。予選中に突然雨が降り始めた場合、ドライで走れた早い出走順のライダーが最終的に有利になります。過去のレースでも、天候の変化によって予選の最終順位が大きく入れ替わったケースは数多くあり、これがスーパーポールの読めない面白さでもあります。
現行の一斉走行方式でも、セッション終盤になるほど路面温度の変化やラバーの積み重なりが影響します。多くのライダーがセッション残り時間の少ない「ラストアタック」に集中するのも、路面コンディションが最高になるタイミングを狙うためです。それと同時に他のライダーの「渋滞」に引っかかるリスクも生まれるため、アタックのタイミング判断が重要になります。この辺りの駆け引きは、現行方式になってもスーパーポールの変わらない見どころといえます。
また、タイヤの作動温度管理も重大な要素です。バイクのタイヤはある温度域(路面温度・タイヤ温度ともに適切な範囲)に入ったときに初めて最大のグリップを発揮します。セッション開始直後の冷えた路面では本来のタイムが出ないため、ピットを出るタイミングの計算が戦略の核心になります。これは一般ライダーがサーキット走行をする際にも参考になる知識です。
ここまで紹介してきた内容とは少し異なる角度から、スーパーポールのタイムについて考えてみます。WSBKのスーパーポールタイムが年々更新され続けている背景には、マシン開発だけでなく、タイヤ・電子制御・データ分析の急速な進歩があります。
WSBKのマシンは「市販車ベース」という縛りがある中で、1分28〜30秒台(フィリップアイランド基準)というラップタイムを叩き出しています。これは一般ライダーが同じコースを市販状態で走った場合の1分50〜55秒台と比較すると、実に20秒以上の差があります。フィリップアイランドの1周は4.448kmですので、20秒の差は約1.5kmに相当する「圧倒的な速さの壁」とも言えます。
この差を生み出しているのは主に3つの要素です。まずエンジン・サスペンション・ブレーキの徹底したチューニング、次にピレリのWSBK専用レーシングタイヤのグリップ性能(特にSCQやSCXのような超ハイグリップタイヤ)、そしてライダーのスキルと電子制御の組み合わせです。特に近年はトラクションコントロール・ウイリーコントロール・クイックシフターなどの電子デバイスが高度化し、タイムの底上げに大きく貢献しています。
2022年から導入されたSCQタイヤは、環境負荷軽減の観点から従来の「一発限り使い捨て」の予選タイヤを廃止して誕生しました。スーパーポールだけでなくスーパーポールレース(10周)でも使用できる耐久性を持たせつつ、ハイグリップ性能を維持するという設計思想で作られています。このタイヤの登場後、スーパーポールタイムがさらに更新されやすくなったという見方もあります。
今後の課題として挙げられているのが「燃料流量制限」です。2025年からWSBKでは燃料流量制限が47kg/hに設定されており、これ以上の出力向上が規制される可能性があります。一方でエアロダイナミクスの進化や軽量化技術の向上は続いており、タイムレコードがどこまで短縮されるかは今後の見どころです。WSBKが「市販車最速の戦い」というコンセプトを維持しながら、タイムの限界に挑み続けるスーパーポールは、バイクファンにとって最も純粋に速さを楽しめるセッションといえるでしょう。
WSBKのタイヤ規定・レースフォーマット詳細(Wikipedia)
スーパーポールの仕組みがわかったところで、実際に観戦・視聴するにはどうすればよいかを整理しておきましょう。国内でWSBKを楽しむ方法はいくつかあります。
まず日本国内では、J SPORTSがWSBKの全戦を放送・配信しています。スーパーポール、レース1、スーパーポールレース、レース2という週末3日間のすべてのセッションが視聴可能です。2026年シーズンのスケジュールは以下の通りです。
| 戦 | 開催地 | 日程 |
|---|---|---|
| 第1戦 | オーストラリア(フィリップアイランド) | 2月20〜22日 |
| 第2戦 | ポルトガル | 3月27〜29日 |
| 第3戦 | オランダ | 4月17〜19日 |
| 第4戦 | ハンガリー | 5月1〜3日 |
| 第5戦以降 | チェコほか欧州中心 | 6月以降 |
スーパーポールセッション中に注目すべきポイントは3つあります。
- ⏱️ セッション序盤・終盤のタイミング:序盤は路面が冷えており、終盤にかけてタイムが上がりやすい。最後の数分が勝負のクライマックスになることが多い。
- 🏍️ 各ライダーのコースインのタイミング:残り時間を計算してアタックするタイミングが戦略の核心。誰が最初に動くか、誰が終盤まで待つかを見ているだけでも面白い。
- 🌡️ 路面温度と天候の変化:公式タイミングモニターには路面温度・気温も表示される。急変があればタイムの読み筋が完全に変わる。
スーパーポールが終わった後は、グリッド順が確定します。ここで「誰が何番グリッドか」を確認しておくと、レース1のスタートシーンがぐっと面白くなります。特にポールポジション獲得者がそのままレース1を制するかどうか、あるいはグリッド後方から猛追するライダーが出るかどうかを楽しみに見ると、観戦の楽しみが倍増します。
スーパーポールとレース結果の関係性を深く理解したい方には、公式サイト(worldsbk.com)のタイミング&スコアリングページが参考になります。ラップタイムや区間タイムが詳細に確認でき、各ライダーのセクタータイムまで比較できます。バイクに乗る方なら、自分のサーキット走行のタイムと比較してみるのも刺激的な楽しみ方です。