

キャンバー角だけでは曲がれません
バイクが傾いて旋回している時、タイヤには「キャンバー角」と呼ばれる傾斜角度が生まれます。このキャンバー角によって発生するのが「キャンバースラスト」という内向きの力です。
タイヤを正面から見た時の傾きがキャンバー角です。
キャンバー角が付いたタイヤは、自由に転動している時、その軌跡は円弧となり旋回軌道を描きます。これは物理的に避けられない現象で、タイヤが傾くと自動的に傾いた方向へ力が働くのです。この力がキャンバースラストで、バイクを内側へ曲げようとする重要な旋回力の一つとなっています。
バイクのコーナリングでは、前後のタイヤが常に2種類の旋回力を発揮しています。一つがキャンバースラスト、もう一つが「コーナリングフォース」です。キャンバースラストはタイヤの傾きによって生じる内向力、コーナリングフォースはタイヤの向きと進行方向のズレによって生じる内向力という違いがあります。
実は、キャンバースラストだけではバイクを十分に旋回させることができません。タイヤが発生すべき曲がる力は、キャンバースラストだけでは不足してしまうのです。
参考)https://ameblo.jp/pittsdriver/entry-12558381033.html
つまり補完が必要ということですね。
それを補うために必要となるのが「コーナリングフォース」です。コーナリングフォースは、タイヤの向いている方向と実際の進行方向にズレが生じることで発生する旋回力です。このズレによってタイヤが変形し、路面との摩擦で内側へ向かう力が生まれます。
この2つの力の比率は、タイヤの構造によって異なります。バイアスタイヤとラジアルタイヤでは、キャンバースラストとコーナリングフォースの発生割合が変わってくるのです。ラジアルタイヤの方がキャンバースラストの割合が高く、より自然なフィーリングでコーナリングできると言われています。
旋回中のタイヤには複雑な物理現象が起きています。接地点は加速状態では後方に移動し、旋回を始めるとコーナーの内側後方に移動します。タイヤのグリップは粘着摩擦とヒステリシス摩擦という2つの大きな要因によって発生しており、これらが適切に機能することで初めて安全なコーナリングが可能になるのです。
タイヤの断面形状のことを「プロファイル」と呼びます。このプロファイルがバイクの走行性能に非常に大きな影響を与えます。プロファイルがタイヤメーカーの想定したものからずれてしまうと、タイヤの性能が正しく発揮されません。
参考)プロファイルってなに?|最新記事|PIRELLI FAN S…
最も一般的なのが「シングルラジアス型」です。タイヤのトレッド面が真ん中から端まで一つのR(半径)で均一にできており、直立状態からフルバンクまでトレッド面の曲率が同じため、接地面積が変わらずバイクが傾く速度が一定です。
これが基本です。
リム幅に適合しないタイヤを無理やり装着すると、タイヤのプロファイルが変わってしまいます。例えば尖った形になると、ある一定以上にバイクを寝かし込んだ時に、急にグリップを失い転倒するおそれがあります。これは非常に危険な状態で、ライダーが予測できないタイミングでタイヤが滑り出すことになります。
適正なリム幅でタイヤを使用することが、安全なキャンバー角でのコーナリングには不可欠です。タイヤメーカーが指定する許容リム幅の範囲内で装着しなければ、タイヤのラウンドプロファイルが崩れてしまいます。プロファイルが崩れたタイヤは、キャンバー角に対する挙動が不安定になり、予期せぬ転倒につながる可能性があります。
ブリヂストン公式サイトでは二輪車用タイヤの役割と機能について詳しく解説されています
バイクのタイヤは前後で役割に大きな違いがあります。リヤタイヤは車重を支えたり、エンジンの駆動力を伝えるためにトレッドは幅広く、接地面積を稼ぐ狙いがあります。
参考)タイヤのバンク角が前後で違う!?【ライドナレッジ123】
一方、フロントタイヤは異なる特性を持っています。リヤタイヤは路面に対し、荷重を受けて凹んでいるためトレッドの端まで路面に接していますが、フロントはトレッドのサイド部分まで路面に触れずにいます。
どういうことでしょうか?
フロントタイヤのプロファイルは、トレッドの両サイドが路面に接する前提より、センター部分から機敏に車体の傾きにレスポンスしやすい尖った形状にしているのです。これによってライダーの操作に対する反応性が高まり、コーナー進入時のハンドリングが向上します。
バンク角が深くなるにつれて、タイヤの接地面は外側へ移動していきます。この時、キャンバー角が大きくなるほど接地面積は変化し、タイヤに求められるグリップ力も変化します。最新のスポーツタイヤでは「3分割マルチプルトレッド構造」を採用し、センターはライフ重視、ショルダーはハイグリップという配分で深いバンクでもしっかりグリップする設計になっています。
参考)https://www.naps-jp.com/Page/Feature/best-tires-2025.aspx
キャンバースラストチューニングという技術も登場しており、フロントから積極的に曲がるハンドリングを実現しています。
4輪車の世界では、タイヤを垂直ではなく傾けてセットすることを「キャンバーを付ける」と言います。これはバイクのキャンバー角と同じ意味の言葉ですが、その目的と効果は大きく異なります。
参考)構造と進化を知って上手くなろう キャンバースラ…
4輪車では静止状態でキャンバー角を設定します。接地面が「ハの字」に見える時はネガティブキャンバー、逆の状態をポジティブキャンバーといいます。コーナリング時に強い遠心力を受けるレーシングカーに見受けられ、コーナリング時にタイヤの接地面積を増やし、グリップレベルを向上させる目的があります。
対地キャンバーをゼロ付近に保つのが理想です。
車両はロールしており、地面に対するキャンバー角を「対地キャンバー」といいます。この対地キャンバーをゼロ付近にしておくためには、車体に対してはバウンドでネガティブ、リバウンドでポジティブなキャンバー変化を有していなければなりません。
一方、バイクではライダーが能動的にキャンバー角を作り出します。バイクを傾けることで動的にキャンバー角が変化し、それに応じてキャンバースラストとコーナリングフォースのバランスが変わっていきます。この点が4輪車との最も大きな違いで、ライダーのスキルと体重移動が直接的にキャンバー角をコントロールする要素となっています。
4輪車ではキャンバー剛性も重要な要素です。旋回中は大きなタイヤ横力がサスペンションに入力され、キャンバー剛性が低ければキャンバー角は旋回外側へ戻されてしまいます。
キャンバーターンという技術があります。これはバイクをインサイドに倒し込みながら、ライダーは上半身をリーンイン・アウトなどの姿勢でバランスを保持する走行技術です。
参考)バイクの正しいキャンバーターンについて – バイ…
大型バイクのUターン技術は通常の平地でも難易度が高いものですが、上り坂であれば足の接地も心許なくなり、恐怖感も出てさらに難易レベルがアップします。しかしキャンバーターンのスキルを身に付ければ、上り斜面でのターンの不安もなくなります。
これは使えそうです。
旋回する際は一定角度、バイクをインサイドに倒し込まなくてはいけません。この時、外側のステップに主として体重を乗せることがポイントです。真正面から見れば車体とライダーの角度が開いたV字形となり、この姿勢は車体とライダーの重心が分かれてバランスされるため低速走行でも安定を保ちやすいのです。
この姿勢はタイヤのグリップ力でのバランス維持が期待できないスリップしやすい悪路走行の際に効果を発揮します。キャンバー角を物理的に理解し、適切な体重移動と組み合わせることで、通常では難しい状況でも安全に走行できるようになります。
白バイ隊員のような熟練ライダーでも、バンク角が深まるにつれ転倒などのリスクは当然高くなると認識しています。ただ深く傾ければいいというものではなく、状況に応じた適切なキャンバー角の選択が重要なのです。
参考)Lesson9/コーナリング “白バイ流” 究極の安全運転テ…
タイヤのグリップは2つの摩擦によって発生しています。一つ目は「粘着摩擦」で、タイヤのトレッド面と呼ばれる路面と接する部分がゴムの成分で柔らかいため、それが路面に食い込んでグリップします。
二つ目は「ヒステリシス摩擦」です。タイヤが変形する時と元に戻る時でタイヤには振動が発生し、その振動が熱に変わることによってグリップに変換されます。
つまり2種類の摩擦ということですね。
これら2つのグリップの比率によって、タイヤの特性が変わります。粘着摩擦が主体の場合は滑り出すと一気に滑り、限界点を超えた時のリカバーがしづらくなるような傾向にあります。一方、ヒステリシス摩擦が主体の場合は、最大グリップは低めですが限界付近での扱いやすさが向上します。
ダートなどの未舗装路面では、さらに「凝着摩擦」または「凝集摩擦」と呼ばれる機械摩擦が加わります。タイヤのブロック凸凹が土の路面や砂の路面に引っかかることでグリップする現象です。
キャンバー角が付いた状態でこれらの摩擦がどのように働くかを理解することで、より安全で効率的なコーナリングが可能になります。タイヤの接地点は旋回を始めるとコーナーの内側後方に移動し、その位置でこれらの摩擦が最大限に発揮されることで、バイクは安定して旋回できるのです。
セイクレッドグランドのブログではタイヤの力学について専門的な解説が掲載されています