

見た目だけで選ぶと、転倒時に頭が地面と格闘することになります。
世界トップカテゴリのライダーが、プロとしてのキャリア全体を通じて同じブランドのヘルメットを使い続けるのは、決して珍しくありません。しかしジョナサン・レイの場合、そのブランドへの信頼は特別な意味を持ちます。彼がキャリアを通じて選んでいたのは、日本の埼玉県に本社を置くアライヘルメット(Arai Helmet)でした。
アライは1937年創業のヘルメット専業メーカーで、家族経営による「安全性を最優先とした少数精鋭のラインナップ展開」が哲学の根幹にあります。現在も創業家3代目・新井道士氏と息子の明仁氏によって運営されており、利益よりも設計思想を優先する姿勢がレーシングライダーから高く評価されています。
レイが特に信頼した点は「かわす性能」と呼ばれる概念です。これはアライ独自の安全思想で、「ヘルメットがどれほど優れていても吸収できるエネルギーには限界がある。だからこそ、衝撃をいかに逃がすかが重要」という考え方に基づいています。帽体表面を意図的に滑らかな曲面に設計し、地面や障害物との摩擦を減らすことで、脳への衝撃伝達そのものを最小化するアプローチです。
実際、レイ自身がアライのプロモーション映像でコメントしています。「父から教わったのは、ヘルメットの安全性の重要性でした。だからアライを選んでいます」と語っており、個人の意思による選択であることが伝わってきます。これが原因です。スポンサー契約の都合だけでヘルメットを選ぶのではなく、自分の命を預けるという意味でアライを信頼している点が、世界最多勝ライダーの言葉だけに重みが違います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用ブランド | アライヘルメット(Arai Helmet) |
| 使用モデルベース | RX-7X(フラッグシップフルフェイス) |
| 選択理由 | 「かわす性能」への信頼 |
| 設計本社所在地 | 埼玉県さいたま市大宮区 |
つまり「世界王者が選んだ」という事実が、このヘルメットの信頼性を裏付けています。
アライヘルメット公式サイトでは、RX-7Xの安全設計思想を詳しく解説しています。
アライ公式:RX-7X 製品ページ(かわす性能の詳細解説あり)
2025年10月中旬、アライヘルメットはジョナサン・レイ選手の現役ラストシーズンを記念する最終レプリカモデル「RX-7X REA SB3」を発売しました。価格は税込み8万4,700円。これがレイのレプリカシリーズ第3弾(SB3)となります。
SBシリーズの変遷をたどると、「REA SB」「REA SB2」「REA SB3」という3モデルが存在します。SBは2020年前後のカワサキ時代のカラーリング、SB2は2022年の鈴鹿8耐参戦年を記念するデザイン、そしてSB3は引退を飾るフィナーレとして企画されたモデルです。SB3では、歴代のジョナサンカラーの中から本人が特にお気に入りのデザインを選出し、それをイタリアのデザイン会社「Drudi Performance(ドゥルーディ・パフォーマンス)」がブラッシュアップ。2026年シーズンのカラーリングを先取りした仕上がりになっています。これは意外ですね。
ベースとなる帽体「PB-SNC2」は、通常のグラスファイバーと比べて引張強度・圧縮強度が約40%高い独自素材「スーパーファイバー」を主材料としています。これはアライが独占使用している素材で、一般ユーザーが他社製品では手に入れられないレベルの素材剛性です。さらに、F1のバイザーパネルにも用いられる有機系特殊繊維を帽体の「たが」として巻き込むことで、衝撃を受けた際の変形を最小限に抑える構造になっています。
シールドシステムには「VAS(ヴァス)」と呼ばれる世界初の機構を採用しています。通常のシールドシステムでは、開閉時の動作上「段差」が生じてしまいます。VASはその段差を排除するため、仮想軸を使ったダブルピボット構造を開発。シールド取り付け部を24mm下げることで帽体側頭部の滑らかさを実現しています。この「滑らかさ」こそが、転倒時に地面と帽体が引っかかるリスクを減らす「かわす性能」の核心です。
SNELLとJISの両規格に対応している点も重要です。JISは日本工業規格による国内基準、SNELLはアメリカの非営利機関による世界的に厳しい安全規格とされています。両方のお墨付きを取得しているヘルメットは、普段のツーリングからサーキット走行まで幅広く対応できます。
バイクブロス:RX-7X REA SB3 製品スペック詳細記事
ジョナサン・レイは1987年2月2日、北アイルランド生まれのロードレーサーです。幼少期からレースに親しみ、1997年に競技デビュー。2008年からスーパーバイク世界選手権(WorldSBK)に本格参戦を開始しました。
その後、ホンダ・ハンガリーチームで実績を積んだレイは、2015年にカワサキレーシングチームへ移籍。この移籍が転機となり、2015年から2020年まで6年間連続でWorldSBKのワールドチャンピオンに輝きました。これは同選手権史上、前人未到の記録です。同期間の通算成績は119勝・264回の表彰台という圧倒的な数字で、最多表彰台・最多ファステストラップ・最多ポイント獲得のすべてで歴代1位を誇ります。
鈴鹿8時間耐久レースでも2012年と2019年に優勝。世界を舞台に戦いながら、日本のレースファンにも強い印象を残してきた選手です。
2023年末、長年所属したカワサキとの契約を途中解除し、ヤマハのワークスチーム(パタ・マクサス・ヤマハ)へ移籍。ヤマハのYZF-R1での参戦となりましたが、膝のケガに悩まされた2シーズンを経て、2025年8月に現役引退を表明しました。2025年10月の最終戦も、ケガの影響で参戦が叶わないまま現役生活に幕を閉じています。
引退後については2026年よりホンダのHRCスーパーバイクプロジェクトのテストライダーとして復帰することが発表されており、レースとの縁はまだ続いています。
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1987年 | 北アイルランド生まれ |
| 2008年 | WorldSBK本格参戦開始 |
| 2015年 | カワサキ移籍・初タイトル獲得 |
| 2015〜2020年 | WorldSBK 6連覇達成 |
| 2024年 | ヤマハへ移籍 |
| 2025年8月 | 現役引退を発表 |
| 2026年〜 | HRCテストライダーとして復帰予定 |
6連覇が基本です。この記録を超えるライダーは、当面現れないとも言われています。WorldSBKファンにとってレイは「時代」そのものであり、そのヘルメットを手にするという体験は、単なる安全装備の購入を超えた意味を持ちます。
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RX-7X REA SB3を購入する前に、必ずサイズ選びを慎重に行ってください。これはジョナサン・レイのレプリカモデルに限った話ではなく、すべてのアライヘルメットに共通する重要な作業です。
アライヘルメットのサイズ表記は頭の外周(頭囲)を基準にしており、RX-7X REA SB3は「54・55-56・57-58・59-60・61-62」の5サイズ展開です。ただし、帽体の数は3種類しかなく、54と55-56が「小帽体」、57-58と59-60が「中帽体」、61-62が「大帽体」という構成です。帽体が3サイズしかない理由は、各帽体ごとに「かわす性能」を最大化するための曲面設計を最適化しているためです。つまり、見た目が似ていても帽体自体が異なります。
具体的な測り方は、メジャーを眉毛の上・耳の上を通るラインで水平に一周させるだけです。自宅で測ったら、必ずバイク用品店の試着で確認することを強く推奨します。頭の形は個人差があり、同じ頭囲でも「丸頭(ラウンドオーバル)」か「長頭(ロングオーバル)」かによってフィット感がまったく異なります。アライのRX-7Xはインターミディエイトオーバル(中間型)に対応しています。
フィットの確認方法として覚えておきたいのが「新品時のきつさ」です。アライのヘルメットは意図的に新品時は少しきつく設計されています。内装のウレタン素材は着用を重ねるにつれて徐々になじんでいくため、試着時に「若干きつい」と感じるくらいが適切なサイズ感です。頭に乗せた状態でヘルメットを上下左右に動かしたとき、頭皮も一緒に動くくらいの密着感が理想とされています。
また、RX-7X特有のフィット調整機能として「アジャスタブル・システム内装」があります。側頭部の内装パッドを取り外すことで片側約4mm(両側で8mm)まで緩くできる仕組みで、標準仕様でどうしてもきつく感じる場合に活用できます。さらに頬パッドも片側約5mm分の調節パッドが付いており、お店で試した後でも微調整が可能です。これは使えそうです。
サイズが合わないヘルメットは、最高峰素材を使っていても安全性を十分に発揮できません。購入は試着が条件です。
「高価なヘルメットほど衝撃をよく吸収してくれる」——そう思っているライダーは少なくありません。しかしアライが提唱する「かわす性能」は、まさにこの常識を根底から覆す発想です。
従来のヘルメット設計の多くは「衝撃吸収」に重きを置いています。帽体の内側に厚いEPS(発泡スチロール素材)のライナーを設け、衝突の際にこのライナーが潰れることで衝撃エネルギーを分散・吸収するという仕組みです。これはこれで有効なアプローチで、規格試験でも測定されます。
一方、アライが長年訴えてきたのは「吸収できる衝撃の大きさには物理的な上限がある」という事実です。大きなエネルギーを持つ衝撃(たとえば高速走行中の転倒)では、いかに分厚いライナーを使っても吸収しきれない。だからこそ、まず衝撃を帽体の形状で「かわす」ことが優先されるべきだという考え方に行き着きます。
アライのRX-7Xがその具体的な答えとして採用しているのが、卵型に近い丸く滑らかなフォルムです。地面や障害物に帽体が接触した際、引っかかりを極力なくすことで衝撃が一点に集中するのを防ぎます。スケート場で転倒したとき、鋭い角のある物体と丸い物体では、どちらが安全かを想像すると直感的に理解できます。ヘルメットが「球に近い形」を保つためにVASシステムが開発され、シールドの段差を24mm分排除することに成功しています。
さらに「ハイパーリブ」と呼ばれる帽体裾部を一周する突起も、アライ独自の工夫です。自動車のバンパーが車体への直接衝撃を緩和するのと同じ原理で、側面からの耐圧性能を高めています。転倒時に最初に地面と接触するのが帽体の下部・側面であることが多いことへの、現実的な対応です。
従来のヘルメットとの「見えない違い」として覚えておくとよいのは、次の点です。
「かわす性能」が原則です。この考え方に共感できるかどうかが、アライを選ぶかどうかの判断基準にもなります。
実際に最高速度200km/hを超える走行でアライをレース仕様として使い続けてきたレイが「かわす性能を信頼している」と発言しているという事実は、机上の理論ではなく実戦での裏付けとして重みがあります。
アライ公式が解説する「安全コンセプト」ページは、この思想をより詳しく知るうえで参考になります。