

旧車のCB500フォアを「安く買えるかも」と思っているなら、4気筒キャブのOH工賃だけで7万円を超えることがあります。
1969年、ホンダはCB750フォアで世界を震わせました。量産市販車として世界初の4気筒エンジンを搭載し、バイクの概念そのものを塗り替えた一台です。しかし当時の日本人ライダーにとって、750ccという排気量と200kg超の車体は「少し持て余す」存在でもありました。
そこでホンダが2年後の1971年に送り出したのが、CB500フォアです。排気量498cc、車両重量196kgというCB750フォアよりひと回り小ぶりのサイズ感で、「日本人の体格にちょうど合ったフラッグシップ」としてデビューしました。
エンジンは空冷4ストロークSOHC並列4気筒で、最高出力48PS/9,000rpm、最大トルク4.1kgf·m/7,500rpmを発揮。当時の新車価格は33.5万円でした。現在の感覚では手の届きやすい価格に見えますが、当時の大卒初任給が約5万円前後だったことを考えると、実質的に半年分以上の給料に相当する高級品でした。
キャッチコピーは「静かなる男のための500(FOR THE QUIET RIDER)」。CB750フォアのアグレッシブな印象とは一線を画し、落ち着きとエレガンスを前面に打ち出したコンセプトです。ただし「静かなる」はあくまで当時のCB750フォアとの比較であり、4本出しトランペットマフラーが奏でるサウンドは現代のバイクから見れば十分すぎるほど豪快です。当時の近接排気音規制は99dB(現在は94dB)でしたので、5dBの差は音量で約1.5倍もの違いがあります。
装備面でも当時としては画期的な仕様が満載でした。日本製バイクとして初めてパッシングスイッチを採用し、キルスイッチやポジションランプもハンドル周りにまとめられていました。ヘルメットホルダーや速度警告灯の装備も、ライダーの安全を重視したホンダらしい先進性の表れです。
1972年にはマイナーチェンジが行われ、リフレクターとテールライトが大型化されました。その後はCB550フォアへとバトンタッチする形で生産を終えますが、その存在感と魅力は半世紀を経た今でも褪せることはありません。
旧車ファンに広く知られているのがCB400フォア(ヨンフォア)ですが、CB500フォアはその上位に位置する存在です。つまりCB500フォアが正統な兄分ということですね。
ヤングマシン|ホンダCB500フォア名車バイクレビュー(CB750フォアとの開発背景が詳しく解説されています)
CB500フォアの現在の中古市場は、一言でいえば「じわじわと上がり続けている」状況です。業者間オークションの取引データ(2026年3月時点・直近36ヶ月集計)によると、実働車の平均買取相場は46.5〜54.8万円、上限は69.4万円となっています。
取引価格帯のボリュームゾーンは50〜55万円で、全体の約36%がこの価格帯に集中しています。最高価格帯の65〜70万円の構成比は約9%で、状態の良い個体や人気カラーはしっかりプレミアムがついている状況です。
カラー別に見ると、ガンメタ系が最も多く取引されており、平均買取相場も60万円超と高めです。ブラウン系は44万円前後とやや落ち着いた水準。年式別では1972年式のほうが1971年式よりも流通量が多く、平均取引額も1972年式で約53万円と若干高めになっています。
走行距離別では、1〜2万kmの個体が平均57.7万円と最も高く、5万km超の個体でも50.5万円という取引実績があり、「走行距離だけで価値が大きく落ちるわけではない」というのがCB500フォアの特徴です。これはコレクターズアイテムとしての評価が高い旧車ならではの動きといえます。
ただし注意が必要なのは、一般消費者が個人売買などで目にする販売価格は、業者間取引価格よりもさらに高い点です。中古車として店頭に並ぶ場合、100万円を超える個体も珍しくなく、状態の良い完全レストア済みの個体ではさらに高値がつくケースもあります。
不動車や難有りの車両は最低4万円程度から業者間取引されているケースもありますが、それはあくまで業者の仕入れ価格です。不動車を購入してレストアする場合の総費用については、後述するように想像以上に膨らむことが少なくありません。
中古車として「安く買えるかも」と期待しての購入は要注意です。
旧車市場全体としては、旧車バブルとも呼ばれる高騰傾向が続いており、CB400フォア(ヨンフォア)などのCB系旧車は軒並み価格が上昇しています。CB500フォアも例外ではなく、球数が非常に少ないため今後さらなるプレミア化が予想されます。年間の業者間取引台数は平均4台程度と非常に希少な状況です。
バイクパッション|CB500FOUR(フォア)【1971〜72年型】の最新買取査定相場(業者間取引データに基づく詳細な相場が確認できます)
CB500フォアの魅力は、大きく「デザイン」「エンジンの音と感触」「ちょうど良いサイズ感」の三つに集約されます。
まずデザインについて。CB500フォアはCB750フォアや後のCB400フォアとは意図的に異なるスタイルが採用されています。ティアドロップ型のスリムなタンク、サイクルフェンダー、メッキパーツをふんだんに使った金属感豊かなディテールが特徴です。英国車(BSAやトライアンフ)のビンテージスタイルに通じるエレガントな雰囲気があり、「ジャパンネイキッド」と「ブリティッシュビンテージ」が融合したような唯一無二の佇まいです。
特に目を引くのが4本出しのトランペットマフラーです。後端に向かって花びらのように広がるその形状は、市販車でほぼ類例を見ない希少なデザインです。集合管やメガホンとはまた違う「大人のカッコよさ」があります。マフラー先端のラッパ状の広がりは、まるでジャズのトランペットを彷彿とさせます。
エンジンの質感も大きな魅力のひとつです。空冷4気筒SOHC、498ccという排気量から生まれる排気音は、CB750フォアほど野太くはないものの、4気筒ならではの滑らかで甲高いメカニカルサウンドです。9,000rpmまで綺麗に回るエンジン特性は、乗っていて非常に気持ちよく、現代のバイクにはない「音と振動を楽しむ感覚」を与えてくれます。
車格についても触れておく必要があります。全長2,105mm、全幅825mm、シート高は現代のバイクより低めで、車両重量196kgという数字はリッタークラスと比べると扱いやすいサイズ感です。取り回しが軽く、日本の道路事情にも馴染みやすいのは旧車として乗り続けるうえでも大きなメリットといえます。
作家の片岡義男氏が1975年に書いた小説「スローなブギにしてくれ」の冒頭、主人公が第三京浜でフォード・マスタングを追いかけるシーンに登場するのがCB500フォアです。旧車好きにとっては文学作品とともに記憶に刻まれた存在でもあります。これは使えそうです。
CB500フォアのオーナーズクラブが複数存在するのも、この車種のコミュニティ力の高さを示しています。同じ車種のオーナーとつながることで、希少な情報や部品の融通など、旧車ライフを豊かにする人脈が広がるのも旧車の醍醐味のひとつです。
NAKARAI|ホンダ ドリームCB500FOURの魅力解説(トランペットマフラーやメッキパーツのケア方法が詳しく紹介されています)
旧車の維持費は「現行車の感覚で計算してはいけない」というのが鉄則です。CB500フォアは1971〜1972年製造ですから、2026年現在で車齢50年以上。経年劣化した部品の交換や整備に、思わぬ出費が伴うのが現実です。
最も費用がかかりやすいのが4連キャブレターのオーバーホールです。4気筒バイクのキャブレターOHを専門ショップに依頼した場合、工賃だけで4〜7万円程度が相場とされており、部品代を含めると合計で7〜10万円超になるケースも十分あります。長期放置車の場合、キャブレター内部でガソリンが腐り、フロート室が詰まった状態がほとんどです。これは購入後まず最初に直面する整備項目といっても過言ではありません。
ゴム部品の劣化も深刻な問題です。旧車の一番多いトラブルとして専門ショップが口をそろえるのが「ゴム部品の硬化・劣化」。キャブレターのダイヤフラム、インシュレーター、フューエルホースなど、エンジン周辺のゴム部品はすべて経年で硬化・ひび割れが進みます。ダイヤフラムが硬化して割れると、キャブレターが正常に機能せずエンジンがかからなくなります。こうした部品の交換は、まとめて実施すると総額で数万円単位の出費になります。
純正部品の調達難も大きなハードルです。CB500フォアの純正パーツの多くはすでにメーカー在庫がなく廃番となっています。Yahoo!オークションやメルカリなどでの中古部品探しが基本となり、程度の良い純正部品の落札価格は想定以上に高騰していることがあります。Webikeでは中古パーツが106点ラインナップされていますが、希望の部品がタイミングよく出品されているとは限りません。
エンジンオーバーホールが必要な状態になると費用はさらに跳ね上がります。腰上OHで15〜30万円、フルOHになると50万円以上になるケースも珍しくありません。CB750Fの不動車レストア事例では、車両費20万円+部品・整備費28万円の合計約48万円というデータもありますが、CB500フォアの場合は純正部品の入手難が費用を押し上げる要因になります。
年間の維持費としては、自動車税(軽二輪以上は年間6,000円)、自賠責保険(2年で約9,000円前後)、任意保険(年間3〜5万円)、消耗品交換(タイヤ・チェーン・オイル類)で年間10〜15万円の固定費に加え、突発的な修理費用が上乗せされるイメージを持っておくべきです。
旧車の維持には覚悟が条件です。しかし、それを知ったうえで付き合えば、CB500フォアはこれ以上ない相棒になります。
旧車ライダーの多くが「レストアしたら乗る」という考え方で取り組みますが、CB500フォアを長く維持するには「乗りながら整備する」という発想の転換が重要です。一度に完璧に仕上げようとすると費用が一気に膨らみ、長続きしないケースが多いからです。これが基本です。
まず取り組むべき「三大整備」は以下の通りです。
カスタム方向性については、CB500フォアのオリジナリティを尊重するオーナーが多いのが特徴です。純正のトランペットマフラーと4本出しのスタイルは、替えるより守るほうが車両価値を高めます。現在の業者間取引データでも、カスタム車より「純正に近い状態」の個体のほうが安定した評価を受けています。
一方で、カフェレーサースタイルへのカスタムも根強い人気があります。セパレートハンドルを装着し、バックステップを追加するだけで印象が大きく変わります。ただしカスタムを行う場合は車検時の保安基準適合に注意が必要です。特にマフラーを変更した場合の騒音規制(近接排気音94dB以下)への対応は、旧車カスタムで最も注意が必要なポイントです。
絶版車専門ショップへの定期的なメンテナンス依頼も選択肢として有効です。一般のバイクショップでは旧車の対応に慣れていないケースもあり、旧車・絶版車を専門に扱うショップでは部品の独自ルートや過去の整備ノウハウを持っていることが多いです。初めてCB500フォアを購入する場合は、購入先を絶版車専門店にすることで、アフターサポートも含めた安心感が大きく変わります。
旧車に乗り続けているオーナーに共通しているのは「機械と対話する楽しさ」を知っていることです。不調のサインを早めに察知し、早期に対応することで大きなトラブルを未然に防げます。CB500フォアのような旧車は、こまめに手をかけるほど応えてくれる存在です。厳しいところですね。しかしその手応えこそが旧車ライフの醍醐味ともいえます。
旧車の維持に役立つ整備情報が詳しくまとまっているリソースとして、ウェビックのCB500フォア用中古パーツページや、絶版車専門ショップのブログなどを定期的にチェックすると、部品情報や整備事例が収集できます。
Webike|ホンダCB500フォア中古パーツ一覧(部品の相場観や現在の流通状況を把握するのに役立ちます)