

タイヤの空気圧を1kPaでも下げると、ハイドロプレーニングの発生速度が約6km/h早まって転倒リスクが跳ね上がります。
ハイドロプレーニング現象とは、濡れた路面を走行中にタイヤと路面の間に水の膜が形成され、タイヤが路面から浮いてしまう現象です。アクアプレーニング現象とも呼ばれます。この状態に陥ると、ハンドル操作もブレーキもまったく効かなくなります。
バイクは車と違い、2輪という構造上、ハイドロプレーニングが起きた瞬間にバランスを保つことが格段に難しくなります。4輪の車であれば多少の水膜でも車体が支えられる場面があるのに対し、バイクは前後どちらかのタイヤが浮いただけでも転倒につながるリスクがあります。これが大きな違いです。
ハイドロプレーニング現象が発生するには、大きく3つの要素が絡み合います。
雨の日の高速道路は特に注意が必要です。一般道と比べてスピードが落ちにくいうえ、わだちに水が溜まりやすい環境が重なります。「雨だから気をつけている」だけでは不十分で、タイヤの状態まで把握しておくことが原則です。
参考:ブリヂストンタイヤ「ハイドロプレーニング現象とは?危険性と予防策」
https://tire.bridgestone.co.jp/about/driving/rainy/
実はハイドロプレーニングが発生し始める速度は、NASAが導き出した計算式で予測することができます。その式がこちらです。
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| V | ハイドロプレーニング発生限界速度 | km/h |
| P | タイヤの空気圧 | kgf/cm² |
$$V = 63\sqrt{P}$$
この式は「水深がタイヤの溝より深い状態」という前提条件のもとで成立します。つまり「路面の水が完全にタイヤの溝をオーバーする深さにある」ときに、この計算速度以上で走るとハイドロプレーニングが発生するということです。
具体的な数値で見てみましょう。
| 空気圧(kgf/cm²) | 計算式 | 発生限界速度の目安 |
|---|---|---|
| 1.5(低め・空気が抜け気味) | 63 × √1.5 ≒ 63 × 1.22 | 約 77 km/h |
| 2.0(一般的な標準値) | 63 × √2.0 ≒ 63 × 1.41 | 約 89 km/h |
| 2.5(やや高め) | 63 × √2.5 ≒ 63 × 1.58 | 約 100 km/h |
| 3.0(高め) | 63 × √3.0 ≒ 63 × 1.73 | 約 109 km/h |
空気圧が2.0kgf/cm²のバイクは、大雨で水深がタイヤの溝を超えている路面を約89km/h以上で走った瞬間にハイドロプレーニングが発生し得るということです。これは驚きですね。
逆に言えば、空気圧を規定値よりわずか0.5上げて2.5にするだけで、限界速度が89km/hから100km/hへと約11km/hも高まる計算になります。もちろん「空気圧を高めれば完全に安全」というわけではなく、タイヤの溝の状態や水深という前提条件が変われば話は別です。ただ、空気圧の管理が直接リスクの数値に直結していることは覚えておけばOKです。
注意点として、この計算式はあくまで「水深がタイヤ溝より深い場面」を前提にしています。ゲリラ豪雨や冠水路面など、極端に水が多い状況を想定した計算式として理解してください。
参考:webcartop「【危険】浅溝タイヤは80km/hでも濡れた路面で「浮く」ことがある!」
https://www.webcartop.jp/2016/07/45583/2/
計算式「V=63√P」は空気圧だけを変数にしていますが、実際の現場ではタイヤ溝の残量が「前提条件」そのものを左右します。つまり溝が浅ければ、わずかな雨でも水深がタイヤの溝を超えやすくなり、この計算式が「すでに成立している状態」に陥りやすくなるということです。
タイヤ溝の残量とリスクの関係は、以下のように理解するとわかりやすいです。
| タイヤ溝の残量 | 状態の目安 | ハイドロプレーニングリスク |
|---|---|---|
| 8mm前後 | 新品に近い状態 | 90km/h以上で注意 |
| 4mm前後 | 交換を検討すべきライン | 70〜80km/hから注意 |
| 3mm前後 | 危険領域 | 60km/h前後でも注意 |
| 1.6mm(スリップサイン露出) | 法律上の使用限度(整備不良) | 50km/h以下でも発生の可能性 |
バイク用タイヤの法定基準は溝の深さ0.8mm以上と定められており(道路運送車両の保安基準)、スリップサインが露出した状態で走行すると整備不良として罰則の対象となります。ここが条件です。
ただし注意したいのは、スリップサインが出ていないからといって安心できない点です。タイヤ溝が4mm以下になるとハイドロプレーニングのリスクが急激に高まり、3mm以下では「ちょっとした大雨」でも計算式の前提条件が満たされやすくなります。厳しいところですね。
一般道の走行速度帯(時速40〜60km程度)でも、タイヤ溝が3mm以下で冠水気味の路面を走れば、ハイドロプレーニングは十分に起こり得ます。「高速道路だけ気をつければいい」という考え方はダメです。
バイク専門店やガソリンスタンドで2週間に1回程度、タイヤの溝深さと空気圧を同時に確認する習慣をつけると、こうしたリスクを事前に把握しやすくなります。
参考:ダンロップタイヤ「ハイドロプレーニング現象について」
https://tyre.dunlop.co.jp/knowledge/tyrecheck/trouble_hydro
万が一、走行中にハイドロプレーニング現象が起きてしまったとき、ライダーはどう対応すればよいのでしょうか?
まず大前提として、「何もしない」が基本です。ハンドルを切ったり、急ブレーキをかけたりすると、わずかに残っているバランスをさらに崩してしまいます。急激な操作は転倒の引き金です。
正しい対処の流れは以下の通りです。
ハイドロプレーニングは「数秒間」のことが多いです。その短い時間に余計な操作をしないことが、転倒を防ぐ最大のポイントです。
また、走行前の段階での予防が何よりも重要です。雨天走行が予想される日には、出発前に必ずタイヤの空気圧と溝の状態を確認してください。タイヤ空気圧チェッカーは500円〜2,000円程度で入手でき、スマートフォンのバルブキャップ型センサーを使えば走行中もリアルタイムで確認できます。これは使えそうです。
参考:グーバイク「ハンドルがとられる現象、ハイドロプレーニングを回避するライテク」
https://www.goobike.com/magazine/ride/technique/41/
ここからは、一般的な記事ではあまり触れられない「バイク特有の盲点」について解説します。
バイクと四輪車では、タイヤの形状がそもそも異なります。四輪車のタイヤは断面が比較的フラットですが、バイクのタイヤはコーナリングのために断面が丸みを帯びたアーチ形状をしています。直進中はタイヤのセンター部分しか接地していないため、トレッド面全体の排水性能が均等に機能しているわけではありません。これが条件です。
つまり、センター部分の溝が先に摩耗するバイクのタイヤは、「外見上は溝が残っているように見えても、実際に接地している中央部分の排水能力はすでに低下している」という状態になりやすいのです。意外ですね。
この点から言えることが2つあります。
さらに「雨の降り始め」には特別な注意が必要です。路面に積もった油分や汚れが雨水と混ざり合い、最も滑りやすい状態が生まれます。雨が降り始めてから最初の15〜30分間は、乾いた路面よりも摩擦係数が大きく下がります。ブリヂストンの資料でも「雨の降り始めは特に滑りやすい」と明記されています。
この時間帯に高速走行を避けるだけで、ハイドロプレーニングとスリップの両方のリスクを同時に下げることができます。つまり「濡れ始めた路面こそ最も危険」だということです。
雨天時の走行装備として、視認性を高めるレインウェアや滑り止め効果の高いライディングシューズも、間接的な安全対策として有効です。雨の中でもペダル・ステップ操作の精度が上がるため、いざというときの反応に差が出ます。
参考:autocar.jp「サイトウサトシのタイヤノハナシ~ハイドロプレーニング」
https://www.autocar.jp/post/1132538