

「セパハンに替えたら車検は絶対に通らない」は間違いで、適切に取り付ければ普通に公道を走れます。
クリップオンハンドルとセパレートハンドル(セパハン)は、会話の中でほぼ同じ意味で使われることが多く、バイクに乗り始めたばかりの人が混同するのも無理はありません。ただし、厳密には少しだけ意味が異なります。
セパレートハンドルとは「左右のハンドルバーが別々になっているハンドル全般」のことを指します。バイクを上から見たとき、一本の棒がつながっていないタイプ、それがセパレートハンドルです。
一方、クリップオンハンドルはセパレートハンドルの一種で、「フロントフォークのチューブをクランプ(はさみ込む)して固定するタイプ」に限定されます。フォークを直接つかんで留める(clip:クリップ)構造がそのまま名前になりました。
つまり関係はこうなります。
| 種類 | 左右分割 | フォーク直付け |
|------|---------|-------------|
| バーハンドル | ✕(一本つながり) | ✕ |
| セパレートハンドル | ✅ | △(機種による) |
| クリップオンハンドル | ✅ | ✅ |
クリップオンはセパハンの"サブセット"ということです。
クリップオンハンドルが生まれたのはレーシングシーンでした。ライダーが低く伏せる前傾ポジションを実現するため、ハンドルをできる限り低い位置に置けるよう設計されたのが原点です。1960年代のイギリスで「カフェレーサー」ブームが起きた際、一般のバイクにクリップオンを取り付けてレーシーに仕上げるカスタムが爆発的に流行しました。日本でも同様の人気を集めましたが、車両寸法が変わってしまうため、違法改造(整備不良)で違反切符を切られるケースも続出したという歴史があります。
これが基本です。
現代では国内の市販バイクにも純正でセパレートハンドルが採用されており、スーパースポーツ系はほぼクリップオンタイプと言ってよいでしょう。ドゥカティ「パニガーレV4S」やカワサキ「Ninja ZX-4RR」などが代表例です。カスタムパーツとしても豊富な種類が流通していて、既存のネイキッドやレトロ系バイクをカフェレーサースタイルに仕上げたいライダーからの需要が高まっています。
バイクのニュース|クリップオンとセパハンの違い・歴史について詳しく解説
クリップオンハンドルを選ぶ際に、最初につまずくのが「フォーク径(フォークチューブの直径)」の確認です。ここを間違えるとハンドルがまったく取り付かないため、購入前の計測が必須になります。
フォーク径は車種ごとに異なり、代表的なサイズとしては33mm・35mm・37mm・38mm・39mm・41mm・43mm・45mm・50mm・51mmなどが存在します。同じ排気量でも年式やモデルによってサイズが変わるため、「確かめずに購入して失敗した」という事例は少なくありません。
正確な測り方はシンプルで、フロントフォークのアウターチューブ(正立フォークなら下側の太いほう、倒立フォークなら上側の太いほう)をノギスで計測するのが基本です。ただし、フォークにブーツ(カバー)が付いている場合は外してから測ります。約3〜4cmほどの小さなノギスでも計測は可能で、工具店や100円ショップでも手に入ります。
正立フォークと倒立フォークで取り付け方の違いがあります。
- 正立フォーク:インナーチューブ(細い側)が上、アウターチューブ(太い側)が下。クリップオンは上側の細いインナーチューブに固定します。
- 倒立フォーク:上下が逆で、アウターチューブ(太い側)が上。クリップオンはこの太い上側チューブに固定します。
倒立フォークは正立に比べてハンドルの取り付け径が大きくなることが多いため、同じバイクでも年式によってサイズが変わっていることがあります。注意が必要です。
取り付け位置はもう1点確認が要ります。それが「トップブリッジ上か、トップブリッジ下か」という違いです。トップブリッジ上に付ければハンドル位置は高め(比較的楽なポジション)、トップブリッジ下に付ければ低くなり(よりレーシーな前傾姿勢)、乗車感覚が大きく変わります。車体によってはトップブリッジ上と下どちらにも対応できるクリップオンもあります。購入時にどちらの位置に付けるか事前に決めておくのが賢明です。
取り付けに必要な工具は以下の通りです。
- ノギス(フォーク径計測用)
- ヘキサゴンレンチ(アーレンキー)各サイズ
- トルクレンチ(締め付けトルクの管理に必須)
- ゴムハンマー(トップブリッジ脱着時)
- 穴あけドリル(スイッチ穴が必要な場合)
取り付け後は必ずハンドルをフルロックさせて、タンクや配線に干渉していないか確認します。指1本も入らない隙間なら車検でも問題になる可能性があるため、最低でも指1本分(約20mm)の余裕があるかどうかを確認しましょう。
AxxL|CRAZY IRONクリップオンハンドル各サイズ・フォーク径一覧の参考情報
クリップオンハンドルへの交換で最も注意が必要なのが車検です。知らないまま取り付けると、違反点数2点・反則金7,000円の「整備不良」として検挙されるリスクがあります。
道路運送車両法上、ハンドル交換後の車体寸法が以下の範囲を超えた場合は「構造等変更検査」を受けなければなりません。
| 変化する項目 | 軽微な変更の範囲 | 構造変更が必要になるライン |
|------------|--------------|----------------------|
| 車体の幅 | ±2cm以内 | ±2cmを超える |
| 車体の高さ | ±4cm以内 | ±4cmを超える |
| 車体の長さ | ±3cm以内 | ±3cmを超える |
±2cm以内ならば届け出不要ということです。
例えばハンドル幅750mmのバイクなら、変更後に730mm〜770mmの範囲内に収まれば軽微な変更として認められます。名刺の長辺(91mm)を基準にすると、片側そこから20mm前後の余裕があるイメージです。
高さについては4cm(およそ親指の第一関節の長さ程度)まで変化してよいので、バーハンドルからクリップオンに替えるとハンドル位置が大きく下がりますが、多くの場合この範囲を超えます。超えた場合は構造変更申請が条件です。
この申請は改造から15日以内に提出しなければならないので、車検直前にカスタムしてそのままうっかり走行するのは非常に危険です。申請を忘れた場合の最大罰則は「50万円以下の罰金」という重い内容になります(道路運送車両法第109条)。
万が一、保安基準に適合しない状態で取り付けた業者にも「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります(同法第99条の2・第108条)。
法的リスクを避けるためのアクションは1つだけです。取り付け前後の幅・高さを必ず測定し、変化が軽微な範囲を超えるなら運輸支局で構造等変更検査を受けること。車検に合わせて申請するのが効率的です。
モトコネクト|違法バイクカスタムと罰則・構造変更申請の詳細解説
クリップオンハンドルの大きな利点の一つが「絞り角」と「垂れ角」を自由に設定できる点です。これを活用しないのはもったいないです。
絞り角とは、バイクを真上から見たときにハンドルの先端が内側(ライダー方向)に向いている角度のことです。絞りが強いほどグリップが手前に来るため腕が曲がりやすく、急なコーナリングでも肘に余裕が生まれます。
垂れ角はバイクを前から見たときのハンドル先端の下がり具合です。垂れが強いほどグリップが下がり、より前傾した低いポジションになります。腰・腹筋・背筋に大きな負担がかかり、400〜500km走ると腹筋や背筋が筋肉痛になることもあります。
これが基本です。
一般的な目安としては、次のような設定が多く選ばれています。
- ストリート(街乗り)メイン:絞り角10〜20°・垂れ角5〜10°程度で、バーハンドルに近い楽なポジション
- ワインディング・スポーツ走行メイン:絞り角20〜30°・垂れ角10〜20°程度で、前傾が強めになりコーナーで前輪の感覚がつかみやすい
- カフェレーサースタイル重視:絞り角・垂れ角ともに強めに設定し、見た目のレーシーさを優先
調整する際はハンドルのクランプボルトをわずかに緩め、少しずつ角度を変えながら試乗するのが正解です。一気に大きく変えると感覚のリセットに時間がかかり、思ったポジションにたどり着けなくなります。
また、ハンドルの高さや角度を変えると、ブレーキホース・クラッチケーブル・アクセルワイヤーの長さも影響を受けることがあります。ケーブルが引っ張られた状態でハンドルをフルロックすると、ブレーキが引きずったり最悪の場合ケーブルが断線したりするリスクがあります。ポジション変更後は必ずフルロック時の干渉チェックをしましょう。
ワイヤー類が短くなる場合は「ロングケーブル」や「スチールブレーキラインの延長」を別途手配するのが対策になります。ケーブル単品ではなくセットで対応してくれるバイクショップに相談すると確実です。
バイクハンドル選びの考え方:セパハン・クリップオンのポジションを詳しく説明したページ
クリップオンハンドルへのカスタムで特に人気が高いのは、カフェレーサースタイルを目指す場合です。カフェレーサーとは1960年代のイギリス発祥のカスタムスタイルで、クリップオン・バックステップ・シングルシートの三点セットが基本です。
ベース車両の選び方にはポイントがあります。フォーク径が一般的なサイズ(33〜43mm)に収まっていると対応するクリップオンが豊富で選びやすいです。また、ワイヤー類に余裕があるネイキッドバイクのほうが、ハンドル低下後のケーブル交換が少なく済みます。
特に人気のベース車種をまとめました。
| 車種 | 特徴 | 対応しやすいフォーク径 |
|---|---|---|
| ヤマハ SR400 | 1978〜2021年生産。カスタムパーツが国内最多水準。単気筒のシンプルさがカフェレーサーに最適 | 35mm |
| ホンダ GB350 | 2021年発売。クラシカルなフォルムと空冷単気筒エンジン。新車でも入手しやすく部品も豊富 | 41mm |
| カワサキ W800 | イギリス風レトロスタイル。W800カフェという純正カフェレーサー仕様も存在する | 41mm |
| ホンダ CB400SF/SB | 国内流通量が多く中古車も豊富。インラインフォーのスムーズなエンジンとカフェレーサーの組み合わせが人気 | 41mm |
意外なポイントもあります。
スーパースポーツバイクに純正でクリップオンが付いている場合、追加でカスタム用クリップオンを取り付けることはほぼありません。カスタムとしてのクリップオン装着は、主にネイキッドやレトロ系バイクのセパハン化が目的です。
さらに余談ですが、クリップオンはバックステップとセットで交換するのが理想とされています。ハンドルを下げた状態でステップが純正位置のままだと、体が「つっかえた」ような不自然なポジションになります。ハンドルを下げたら後ろ・上方向にステップを移動するバックステップへの交換も合わせて検討すると、ライディングポジション全体のバランスが整います。
クリップオン+バックステップの同時交換が条件です。
コスト感として、クリップオンハンドル本体は3,000〜3万円程度と幅広く、バックステップは2万〜6万円程度が相場です。バイクショップへの取り付け工賃は、セパハンの場合8,000〜15,000円程度が目安とされています(ハンドル・グリップ・バーエンド取り付け・穴あけ加工を含む)。
グーバイク|セパハンのメリット・デメリット・カスタムにおすすめの車種解説
クリップオンハンドルに交換したあとに多くのライダーが感じるのは「想像以上に腕が疲れる」という現実です。これは見落としがちな大切なポイントです。
バーハンドルはてこの原理が働くため、グリップを掴む手の力は小さくて済みます。一方クリップオンは短く、てこの働きが小さいので、車体を支えるために腕・肩・腹筋・背筋が直接負担を引き受けます。高速道路や長距離ツーリングでは、通常より早く上半身が疲弊します。
具体的には400〜500km走行すると腹筋や背筋に筋肉痛が出るというライダーの体験談が多く報告されています。
疲労軽減のためにできることが3つあります。
1. 体幹トレーニング:腹筋・背筋を鍛えることで前傾姿勢を長時間保てる身体をつくる。プランク30秒×3セットを週3回続けるだけでも効果を実感しやすい。
2. バーエンドの選択:ヘビーウェイトバーエンドを装着すると、グリップに伝わる走行中の振動が吸収されて手・腕への疲労が減る。重さとデザインのバランスで選ぶとよい。
3. 垂れ角・絞り角の再調整:角度を少しずつ緩めるだけで腕への負担が体感できるほど変わる。「レーシーな見た目より長時間乗れるポジション」を優先するライダーも多い。
これは使えそうです。
さらに見落とされがちな注意点として、クリップオンに換装後は「Uターン」が格段に難しくなります。ハンドルの切れ角がバーハンドルより小さいため、低速でのUターン中に車体が倒れそうになっても力で支えにくくなります。慣れるまでは狭い駐車場や路地でのUターンは「一度降りて押す」ことも選択肢に入れておくべきです。
クリップオン装着後は乗り方の見直しも条件です。
転倒時のリスクにも触れておきます。バーハンドルなら転倒時にハンドルが車体の支えになってタンクへのダメージが小さく済む傾向があります。しかしクリップオンはハンドルが短く、転倒するとタンクが直接地面に当たりやすいです。タンクにへこみが入ると修理費用は数万円〜十数万円になることもあるため、クリップオン装着と同時にエンジンガードやタンクパッドの取り付けも検討する価値があります。
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