

セパハンのバイクはポジションがきつくて長距離は無理、と諦めているあなたは約15万円を損しているかもしれません。
1970年代のバイクレースシーンを語るとき、RCB1000という名前は外せません。当時のWGP(世界グランプリ)では、ヤマハ・カワサキ・スズキといった国産メーカーの2ストロークマシンが軽量な車体を武器にスプリントレースを制し、全盛期を迎えていました。一方、ヨーロッパでは4ストロークの市販車改造マシンが争う耐久レースが絶大な人気を誇っており、そこにはホンダの姿がまだありませんでした。
ホンダにとって、ヨーロッパ市場でのブランドイメージを高めるには、この耐久レースで勝つことが急務でした。当時、ヨーロッパの2輪マーケットではDOHC4気筒エンジンを搭載したカワサキZ1が人気を集め、ホンダのOHC4気筒エンジンを載せたCB750FOURは競争力で後れをとっていたのです。
そこでHRC(ホンダ・レーシング・コーポレーション)の前身にあたる「RSC(レーシング・サービス・センター)」が本腰を入れ、1975年11月にHERT(Honda Endurance Racing Team)を発足。わずか半年でホンダ初の耐久ワークスマシンを完成させるという、信じがたいプロジェクトが動き出しました。
| 項目 | スペック |
|---|---|
| エンジン形式 | 空冷直列4気筒・DOHC 16バルブ |
| 総排気量 | 997cc |
| 最高出力 | 120ps / 9,000rpm |
| 最大トルク | 10.0mkg / 8,000rpm |
| 車両重量 | 175kg |
| 燃料タンク容量 | 24L |
| ホイールベース | 1,470mm |
こうして誕生したRCB1000(開発コード480)は、市販車のCB750FOURのクランクケース寸法をベースに排気量を拡大し、シリンダーヘッドをDOHC 4バルブ化。目標は「100馬力オーバー」でした。これが条件です。
1976年4月、オランダ・ザンドヴォルトサーキットでのノンタイトル戦に彗星のごとく登場したRCB1000は、初陣でいきなり優勝。続くヨーロッパ耐久選手権の初戦でも制し、シーズン8戦7勝でメーカーズ/ライダーズチャンピオンをダブルで獲得します。あまりの強さから、いつしか「不沈艦RCB1000」と称されるようになりました。
1976〜1978年のタイトル戦での成績は26戦24勝、タイトル戦では3年連続無敗という圧倒的な記録を残しています。まさに伝説です。
参考:RCB1000の詳細な戦績と歴史(ホンダ公式)
Honda Racing|サーキットに革命を起こし、無敵艦隊と呼ばれた「RCB1000」の帰還
RCB1000が現役を退いて約30年後、そのDNAを現代のバイクに刻み込もうとしたカスタムビルダーがいました。東京近郊を拠点とするWHITE HOUSE(ホワイトハウス)です。
ホワイトハウスが手がけた「CB750cafe」は、現行(当時)のホンダCB750(RC42型)を素材に、RCB1000のテイストを再現したコンプリートモデルです。もとはあるバイク雑誌とのコラボ企画から生まれたものでしたが、2007年以降はホワイトハウスのオリジナル製品として、オーダーメイドによる生産が続けられてきました。
注目すべきは、ホワイトハウス代表の佐藤社長の言葉です。「RCBを模しただけのレプリカにならないよう留意した」と明言しており、この車両はあくまで「RCBのDNAを受け継いだCB750カスタム」というスタンスをとっています。意外ですね。
実際、RCB1000のタイヤサイズは前後ともに18インチですが、CB750cafeは17インチのまま。それでもデザインに一切の違和感がないのは、ホワイトハウスの卓越した造形感覚の賜物です。つまり「忠実なコピー」ではなく「現代的解釈による再創造」がコンセプトということです。
燃料タンクはアルミ製ワンオフで、片寄りを防止するインナーバッフル付き。容量は純正と同じ20リットルを確保しており、実用性とデザインを両立しています。エンジンはスタンダードのCB750用ですが、オリジナルのステンレスマフラーの装着によってピークパワーが約5馬力アップ。パーツ交換により乾燥重量は約15kg軽量化されており、パフォーマンスも確実に向上しています。
これは使えそうです。
参考:ホワイトハウスのCB750cafe詳細レポート(BikeBros)
BikeBros|RCBレプリカではなく、あくまでCB750カスタムです(製作コンセプトと詳細仕様)
CB750cafeの価格について正直に言えば、決して安くはありません。2009年時点での新車コンプリート価格は、トリコロールカラー仕様(ホンダ以外のデカール類を除く)で税込193万2,000円でした。ベースとなるCB750の新車価格が税込78万7,500円でしたから、カスタムコストだけで約115万円相当が上乗せされている計算です。内容を考えればリーズナブルとも言えますが、決断には覚悟が要ります。
厳しいところですね。
さらに重要なのが「台数」の問題です。みんカラのオーナー情報によると、ホワイトハウスが製作したCB750cafeは総製作台数が30数台に留まると言われています。東京ドームのグラウンドに並べてもほんの一角を埋める程度の絶対数しか存在しないのです。これだけ少ない台数であれば、中古市場に出てくる機会も当然ながら極めて限られます。
現在の中古市場では、グーバイクなどのサイトで時折出品を確認できますが、年式・走行距離・コンディションによって価格はバラバラです。希少性の高い車両ゆえ、中古でも150万円前後〜200万円台で取引される事例も散見されます。「安く買える旧車」という感覚で探すと、予算を大きく見誤る可能性があるため注意が必要です。
また、限定5台での受注製作モデルが2007年頃に存在したことも確認されており(車両本体価格・179万円)、バリエーションによって価格帯も異なります。中古で購入を検討するなら、どのバージョンのCB750cafeなのかを必ず確認することが先決です。
参考:グーバイク掲載のCB750cafe実物情報
グーバイク|ホンダCB750 フルカスタム一覧(WHITEHOUSE CB750cafe掲載あり)
「セパハンのバイクはポジションがきつい」という先入観を持つライダーは少なくありません。これがポイントです。CB750cafeはクリップオンハンドルを採用しており、見た目の印象はガチガチの前傾姿勢。しかし実際に乗ったオーナーたちの声は、その印象を裏切っています。
実は、シート位置もグッと下げる設計になっているため、前傾姿勢を感じながらも実際のポジションはきつくない、というのが実態です。ホワイトハウスはトップブリッジ下のセパハンを採用しながらも、純正と同等のハンドル切れ角を確保。足つき性も良好なため、大型免許取り立てのライダーでも乗りこなせたという事例も複数報告されています。
みんカラでのオーナーレビューでは「乗車姿勢はキツめの前傾にもかかわらず運転しやすく、街中での右左折なんかはクイクイ曲がる」との評価があります。走行性能の評価は平均3点と控えめですが、これはセッティングが詰まっていない個体固有の問題が影響していると見られます。ベースのCB750が優秀なため、基本的なハンドリングの質は高いと判断できます。
一方、不満点として挙げられていたのが電装系の信頼性です。前オーナーが常時2灯点灯仕様に配線を変更していたためバッテリー上がりが頻発するというケースが報告されていました。中古で購入する場合は、電装系が純正状態に近いかどうかを必ず確認することが重要です。
参考:オーナーによるリアルな評価(みんカラ)
みんカラ|ホンダ RCB1000レプリカ(CB750Cafe) オーナーレビュー「割と乗りやすい」
RCB1000レプリカ、すなわちホワイトハウスのCB750cafeを語る上で見落とされがちな視点があります。それは「このバイクは性能スペックで語ってはいけない」という点です。
ホワイトハウスの佐藤社長は明言しています。「現行1000ccスーパースポーツのような百数十馬力のパワーもなければ250km/hオーバーの最高速も出せない」と。しかしそれは欠点ではありません。RCB1000が輝いていた時代のレースシーンでは、マシンの限界性能だけでなく「24時間走り続けられる信頼性」が最大の武器だったのです。5,000kmノーメンテナンスを目標に開発され、10時間の全開運転でも壊れない耐久性を追求した哲学が、このレプリカにも流れています。
現代のスーパースポーツバイクと比較するのはナンセンスです。これが原則です。CB750cafeの本質的な価値は「見て楽しく、乗って楽しく、触れても楽しい、バイク文化の結晶」であること。1977年のボルドール24時間耐久レースで20万人の観衆が見守る中、3台のRCB1000が編隊を組んでウイニングチェッカーを受けたあの瞬間の記憶を、現代に乗り続けるための乗り物です。
バイク乗りとして「どんな時代のどんな物語に乗りたいか」を問われたとき、RCB1000レプリカは非常に明確な答えを持っています。ただし、希少性の高さゆえ専門知識を持つショップからの購入と継続的なメンテナンス体制の確保が現実的に必要です。空冷エンジンの旧車系カスタム車全般に言えることですが、バッテリーはMF(メンテナンスフリー)タイプへの換装、オイル管理の徹底、長期間乗らない場合の燃料コック管理がトラブル予防の基本となります。
参考:RCB1000の開発思想と戦績詳細(motorz.jp)
motorz.jp|無敵艦隊と呼ばれたバイク!参戦初年度で無敗を誇ったホンダRCB1000(スペック・開発経緯の詳細)
参考:ホンダ公式によるRCB1000の歴代レースレポート
Honda|不沈艦、RCB1000。(宮城光によるコレクションホール走行インプレッションを含む)