

国内仕様のRC36に乗っているあなた、実は23PSものパワーが人工的に封印されたまま走っています。
VFR750F(RC36)は、1990年3月にホンダが国内市場向けに発売したスポーツツアラーです。エンジンは748ccの水冷4ストロークDOHC4バルブV型4気筒で、カムシャフトの駆動をギヤで行う「カムギアトレイン」を採用しています。
国内仕様の最高出力は77PS/9,500rpm、最大トルクは6.6kgm/9,500rpm。車体重量は乾燥重量221kg、装備重量では246kgとなります。タイヤサイズは前120/70ZR17・後170/60ZR17で、当時としては先進的な17インチラジアルを前後に装備していました。
このエンジンの系譜を少し遡ると、1986年のRC24型VFR750Fですでにカムギアトレインが採用されており、RC36はそれをさらに進化させた構成です。RC24との大きな違いは、バルブ駆動をロッカーアーム式からダイレクト押し式へ変更し、シリンダーヘッドをよりコンパクトにした点にあります。このコンパクト化のおかげで、V型バンク間に収まるキャブレターのファンネルが長く取れるようになり、吸気効率も改善されました。
つまり、RC36のV4です。
当時の国内自主規制では、大型二輪の最高出力は77PSが上限とされていました。これは1989年に業界団体が取り決めた馬力自主規制の枠であり、輸出仕様の100PSは日本国内では正規販売できなかった背景があります。
| 項目 | 国内仕様 | 輸出仕様(フルパワー) |
|---|---|---|
| 最高出力 | 77PS/9,500rpm | 100PS/12,000rpm |
| 最大トルク | 6.6kgm/9,500rpm | 7.4kgm/10,500rpm |
| 車両価格(当時) | 839,000円(税別) | (逆輸入車) |
Honda公式のRC36発売プレスリリース(1990年)には主要諸元が掲載されており、国内仕様の公式スペックの一次情報として参考になります。
ホンダ公式:快適で優れた運動性能を発揮するスーパースポーツバイク「ホンダVFR750F」(1990年2月発表)
RC36の国内仕様と輸出仕様(フルパワー)の差は、単純にリミッターをカットするだけではありません。これが大事なポイントです。
オーナーたちの整備記録によると、両仕様の違いは以下の広範囲に及びます。
これだけの部品が違います。
ここで「じゃあ全部交換すればいい」と考えてしまうのが落とし穴です。カムシャフトまで交換するとなるとエンジン分解作業が必要になり、工賃だけで数十万円規模になることも珍しくありません。
実際のところ、カムとエキパイはそのままにして、エアダクト・ファンネル・インシュレーター・マフラーの4点を輸出用に交換した場合でも、5,000rpm以下のトルク感が明確に増し、「排気量が上がったような前に出る力」が体感できると複数のオーナーが報告しています。
つまり段階的なフルパワー化が現実的です。
完全なフルパワー化を目指す場合は、輸出仕様車をそのまま購入するほうが、トータルコストとしては合理的という判断もあります。
実際のRC36オーナーによる輸出フルパワー部品装着の詳細レポート(吸入ダクト・ファンネル・インシュレーター交換記)
フルパワー化を検討しているなら、作業の難易度と法的な扱いについて先に確認しておく必要があります。
RC36のキャブレターは4連キャブ一体型エアクリーナーボックスという構造上、脱着が非常に困難です。実際に作業したオーナーからは「エアクリーナーベースを先に外さないとキャブが抜けない」「無理に外そうとするとキャブ同士を繋ぐリンケージが折れる」といった声があります。4つのキャブを均等に正しくエンジンに装着し直す工程は、初めての場合は3回ほどやり直す覚悟が必要です。
これは難易度が高い作業です。
マフラーについては、社外品や輸出用純正マフラーへの交換は比較的スムーズに行えますが、騒音規制への適合が必要です。2010年以前に製造されたRC36には近接排気音量103dB以下という基準が適用されますが、実際の車検では検査官の判断によって厳しくチェックされることもあります。
法的な観点では、輸出仕様の純正部品を使ったフルパワー化は「リミッターカット」とは異なる扱いになりますが、型式認定を受けた「国内届出仕様」の状態を変更することになるため、厳密には「整備不良」に問われうる可能性がゼロではありません。
車検時は原則として純正状態に近い仕様に戻しておくことが安全です。
パーツの入手先としては、eBayなどの海外オークションサイトや、国内のヤフーオークションで輸出用純正部品が出品されることがあります。ただし30年以上前の車両ゆえに入手難度は年々高まっており、見つけたときに確保しておくことをおすすめします。
Webike:カスタムパーツと車検の合法・違法ラインの解説記事
RC36の技術的な個性を語るうえで欠かせないのが「カムギアトレイン」と「プロアーム(片持ちスイングアーム)」の2点です。
カムギアトレインとは、エンジンのカムシャフトをチェーンではなくギヤの噛み合わせで駆動する機構です。高回転時のバルブ開閉タイミングの精度が高く、フリクションロスも少ない反面、製造コストが格段に上がるため、市販車への採用例は今なお非常に限られています。
カムギアは現代のバイクではほぼ絶滅した機構です。
この機構が生み出す「カラカラ」という金属音は、RC36オーナーにとっては快感そのものとも言われています。エンジンをかけるたびに聞こえるメカニカルサウンドは、現代の静粛性重視バイクでは絶対に味わえないものです。一速で100km/hを超えるギヤ比設定と相まって、低回転から独特のドコドコとした鼓動感をライダーに伝えます。
プロアームは、RC30(VFR750R)から受け継がれた片持ちスイングアームです。RC36ではVFR系市販車として初めてプロアームが採用されました。後輪の脱着がナットひとつで完結するため、パンク修理やタイヤ交換の作業性が大幅に向上します。また、左側からリヤホイールが剥き出しになるデザインは、見た目の精悍さという点でも他車にはないアドバンテージです。
ちなみにRC36と同時期にはRC35型VFR750Pという白バイ専用モデルが存在していました。これはRC36をベースにアップハンドル・フレームマウントのサドルバッグを装備した仕様で、諸元上のパワーは80PSとRC36の国内仕様を上回り、フルパワーで109PSとされています。警察向け車両ゆえに出力規制が緩かったのは意外な事実です。
バイクの系譜(bike-lineage.org)はRC36の開発背景や系譜を丁寧に解説しており、技術的な成り立ちを理解するうえで非常に参考になります。
バイクの系譜:VFR750F(RC36)since 1990 — スペック・開発背景・系譜図
RC36は1990年代初頭の製造から35年以上が経過した旧車です。それでも中古市場への関心は一定の水準を保っています。
現在の中古相場は、グーバイクの査定データによるとRC36の買取相場が約52万円前後(2026年2月時点)、販売価格は状態の良いものだと180万〜330万円程度で推移している例も見られます。これはかつての「安い旧車」という位置付けから大きく変わった水準です。
旧車の値上がりは現実です。
なぜRC36が今も価値を持ち続けるのかというと、カムギアトレインとV4エンジンの組み合わせが現代のバイクではまず体験できない点が大きいです。ホンダは2022年にVFR800F/Xの生産を終了しており、これでホンダのV4市販車ラインナップは40年の歴史に幕を下ろしました。
RC36は文字通り「買えなくなった種類のバイク」を体験できる数少ない選択肢の一つです。維持費の観点では、750ccクラスの年間維持費は概算で17〜20万円前後(保険・税金・消耗品・燃料費込み)ですが、旧車ゆえに純正部品の枯渇リスクが伴います。
特に以下の点は購入前に確認しておくべきです。
購入の際は、できれば専門のバイクショップで事前点検を受けることをおすすめします。旧車に強いバイクショップや、ホンダ系の旧車整備が得意なところを探す際はWebike・グーバイク・バイクブロスの各プラットフォームで「旧車整備」や「VFR750F」と絞り込んで検索すると候補が見つかりやすいです。
グーバイク:VFR750F中古バイク一覧 — 現在の掲載状況と価格帯の参考に

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