

ラジアルポンプに交換しても、ピストン径を間違えると純正より「ブレーキが効かない」状態になります。
「ラジポン」とも呼ばれるラジアルポンプマスターシリンダーは、フロントブレーキの油圧を発生させる部品です。名前に含まれる「ラジアル(radial)」は「放射状」を意味し、マスターシリンダーがレバーの動き方向(縦方向)に対して直交するよう配置されていることに由来します。
従来の横置きマスターシリンダーは、ハンドルバーと平行にシリンダーが置かれていました。レバーを握ると「弧を描く動き」でシリンダーを押すため、握り始め・中間・奥側でブレーキ圧の立ち上がりに変化が生じます。これをレバー比(レバーレシオ)の変化といい、繊細なコントロールを難しくする要因になっていました。
ラジアルポンプマスターシリンダーは、シリンダーをレバーストロークと同じ方向(縦置き)にすることでこの問題を解決します。レバーの動きがほぼ直線的にピストンを押すため、握り込んでもフィーリングの変化が少なく、コントロール性が大幅に向上します。つまりコントロール性が核心です。
この技術が初めてレースの世界に登場したのは1986年のことです。ブレンボ社が1985年に特許を取得し、翌1986年から伝説のライダー・エディ・ローソンが駆るヤマハのGP500マシン「YZR500」に搭載されました。市販車への初採用は2002年のアプリリアRSV1000とされており、レース技術が一般車に降りてくるまでに約16年かかっています。
一方、市販車への普及が遅れた理由は2つあります。ひとつはコスト面で、精密な部品設計が必要なため製造コストが高いこと。もうひとつは物理的な問題で、シリンダーがハンドルバー前方に大きく飛び出す構造のため、カウルや車体との干渉が生じやすく、ハンドルの切れ角を確保しにくいことです。国産バイクでは、ヤマハが2021年に発売した新型MT-09やYZF-R7などでようやく純正採用しました。
ラジアルポンプマスターシリンダーの基礎知識を詳しく解説している、信頼性の高い解説記事です。横置きマスターとの構造的な違いを図解で確認できます。
ラジアルマスターシリンダーって、ドコが凄いんですか?【ライドハイ】
「ラジアルポンプに換えたらブレーキが効かなくなった」というライダーの声が一定数あります。これは壊れているわけではなく、ほとんどの場合はラジアルポンプの特性への「慣れの問題」と「ピストン径の選択ミス」が原因です。
まず特性の問題から整理します。横置きマスターシリンダーは握り込みの中間域で最も圧力変化が大きくなる特性があります。人はこの感覚を「よく効く」と認識しがちです。ラジアルマスターは握り始めから奥まで圧力変化が均一なため、慣れないうちは「コントロールしやすくなった分、効きが弱く感じる」という現象が起きます。これは一時的な慣れの問題です。
より深刻なのはピストン径の選択ミスです。ピストン径を適切に選ばないと、パスカルの原理による油圧計算がくるって、実際に制動力が落ちることがあります。マスター側のピストンが大きいほどレバーは重くなり、引き代(ストローク)は小さくなります。逆に小さすぎると引き代が大きすぎて、フルブレーキ時にレバーが握り切れなくなります。
| マスターピストン径 | レバーの重さ | レバー引き代 | 主な適用 |
|---|---|---|---|
| φ19(3/4インチ) | 重い | 小さい | ダブルディスク・大型キャリパー |
| φ17.5(11/16インチ) | 中程度 | ダブルディスク・標準キャリパー | |
| φ16〜φ14 | 軽い | 大きい | シングルディスク・小型キャリパー |
さらにベテランライダーが意外とラジアルマスターを嫌うケースも少なくありません。長年横置きマスターで「力加減のコントロール」を身に付けたライダーにとっては、ラジアルへの変更で感覚と実際の制動力がズレてしまい、かえって危険になることがあります。感覚がずれると危険です。こういったライダーには、両者の中間的な特性を持つ「セミラジアルマスターシリンダー」が向いていることも覚えておきましょう。
ラジアルポンプマスターシリンダーはカスタムパーツとして人気が高く、さまざまな価格帯の製品が揃っています。ただし、交換するのはマスターシリンダー単体ではなく、複数の部品が必要になるケースが多いので、総予算を見積もってから取り掛かることが重要です。
製品価格から確認します。国内メーカー「ニッシン(NISSIN)」のラジアルブレーキマスターシリンダー(デイトナ扱い)は、φ19のモデルで約1万6,000〜2万5,000円程度です。イタリアの老舗ブランド「ブレンボ(brembo)」のRCSシリーズになると4万9,000〜5万5,000円前後と一気に跳ね上がります。ニッシンは国内コスパ派、ブレンボはこだわり派という棲み分けが一般的です。
合計すると、ニッシンのシングルディスク車で最安ルートを取っても、部品+工賃で約3万円前後が目安になります。ブレンボ+ダブルディスク車なら総額7〜8万円になるケースも珍しくありません。これが条件です。
なお、ブレーキホースの接続位置は横置きマスターとラジアルマスターでは異なるため、「マスターシリンダーだけ交換してホースはそのまま」という取り付けがほぼできません。一部のセミラジアルモデルでは既存ホースを流用できる場合もありますが、事前にショップへ確認するのが確実です。
バイク用品大手ナップスのブレーキ工賃表です。交換前に費用の目安を確認するのに役立ちます。
ブレーキ関係基本工賃表 – ナップス
2018年10月以降に生産された新型車からABS装着が義務化されており、現在では多くのバイクにABSが搭載されています。ここに大きな落とし穴があります。ABS付きバイクにラジアルポンプマスターシリンダーを取り付ける場合、通常とは異なるエア抜き作業が必要になり、作業難易度が一気に上がります。
ABS非搭載車のエア抜きは、ブリーダーボルトからフルードを押し出すシンプルな作業です。しかしABS搭載車は、ABSモジュールユニット内の独立した油圧経路にエアが入ってしまうと、ディーラーや専用機器を持つショップでしかエア抜きができなくなります。DIYで「なんとかなるだろう」と試みたライダーが、ABSユニットにエアを噛ませて急ブレーキ時に全くブレーキが効かなくなる、という事故につながりかねません。自己判断は危険です。
加えて、ABS搭載車では対応するカスタムパーツの「適合外」表記が多いという問題もあります。たとえばブレーキホースや軽量ホイールのメーカーが「ABS不可」と明記している製品も存在し、自分のバイクに付けられると思って購入したのに取り付けできないケースが発生しています。部品購入前の適合確認は、ABS車においては特に念入りに行う必要があります。
対策として、ABS付きバイクのラジアルポンプ交換はショップへの依頼が原則です。ABS車のブレーキ系カスタムの経験があるショップを選び、交換と同時にエア抜きをプロにお願いする行動を一つ取れば、リスクを最小限にできます。
ABS搭載車のマスターシリンダー交換時のリスクと注意点を解説しています。カスタム前の読み込みに役立ちます。
マスターシリンダーが交換できない?ABS車両の意外な盲点
「ラジアルポンプ=高性能」というイメージが先行しがちですが、実際のところ向き・不向きがはっきりしているパーツです。制動力そのもの(制動距離や最大ブレーキ力)は、ブレーキパッドやキャリパーのほうがはるかに影響が大きく、ラジアルポンプはあくまでコントロール性とフィーリングを変えるための部品です。これを忘れると出費だけが増えます。
向いているライダーの特徴を整理します。まずサーキットを走るライダーです。300km/hからのフルブレーキング、コーナリング中のブレーキリリースなど、微細なコントロールを要求される場面でラジアルの恩恵が最も顕著に出ます。次に、手が小さくてブレーキレバーに力が入りにくいライダーです。ラジアルマスターはテコの原理を有効に使えるため、少ない力でレバーを操作しやすくなります。「レバーが遠い」より「力が入りにくい」が問題のライダーに効果的です。
公道での街乗りがメインで、ブレーキの効き具合に不満がないライダーは、まずブレーキパッドの交換やフルードの定期交換(ホンダ推奨:4年ごと)を優先するほうが費用対効果は高いです。ラジアルポンプは目的に合った選択が条件です。
一方、「カスタムとして見た目にもこだわりたい」という場合は、ニッシン(デイトナ扱い)のφ19モデルが1万6,000円前後から入手でき、コストを抑えながらラジアルポンプの外観と基本的なフィーリング向上を両立できます。購入前にWebike・ラフ&ロードなどで車種適合を確認する一手間を加えることが重要です。
元車両開発関係者によるラジアルマスターの解説と、どんなライダーに向いているかを詳細に分析した記事です。
【元車両開発関係者が解説】ラジアルマスターって何が良いの? – モトコネクト

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