

「バイクはそもそもオーバーステア特性を持つ乗り物なので、アンダーステアは起こらないと思われがちですが、コーナー出口でアクセルを早く開けると確実にアンダーが出て転倒コースに入ります。」
F1中継を見ていると、コーナーでマシンが思ったより曲がらずにズルズルと外側に向かって膨らんでいく場面があります。解説者が「アンダーステアが出ています」と言う、あの現象です。
アンダーステア(understeer)とは、ステアリングの切れ角に対して実際の旋回角度が小さくなる状態のことを指します。ごく端的に言えば「ハンドルを切っているのに、車体が思ったより曲がらずに直進方向へ流れていく」現象です。フロントタイヤのグリップ力が遠心力に負けた瞬間に発生します。
| 用語 | 前輪の状態 | 後輪の状態 | 車体の動き |
|---|---|---|---|
| アンダーステア | グリップ限界超過(滑る) | グリップあり | 外側に膨らむ |
| オーバーステア | グリップあり | グリップ限界超過(滑る) | 内側に切れ込む(スピン方向) |
| ニュートラルステア | 前後グリップが均衡 | 意図通りに曲がる |
F1では安全性の観点から多くのマシンが「弱アンダーステア傾向」にセッティングされています。これが原則です。市販車も同じ理由で意図的に弱アンダーに設定されており、ドライバーに「ちょっとスピードを出しすぎているよ」というシグナルとして機能させています。
F1で7冠を達成したミハエル・シューマッハや5冠のルイス・ハミルトンは、あえてオーバーステア傾向のセッティングを好んだことで知られています。弱アンダーよりも前輪が素早くインを向き、タイム短縮につながるためです。ただしこれはトップドライバーだからこそ扱えるセッティングであり、一般的には弱アンダーが基本です。
参考:アンダーステアとオーバーステアの基本的な定義と解説。
JAF「オーバーステア、アンダーステアとはどういうことですか?」
アンダーステアがなぜ起こるのかをF1の物理レベルで理解しておくと、バイクでのコーナリングで活かせる場面が増えます。
まず知っておきたいのは「スリップアングル」という概念です。タイヤが向いている方向と、実際に車体が進んでいる方向のズレ角度のことを指します。このわずかなズレが、タイヤの横方向への力(コーナリングフォース)を生み出し、車体やバイクを曲げる原動力になっています。
フロントタイヤのスリップアングルがリアより大きくなると、フロントのグリップが先に限界を超えてアンダーステアになります。これがF1での基本的なアンダーステア発生のメカニズムです。
次に「摩擦円(フリクションサークル)」という考え方があります。タイヤが発揮できるグリップの総量は一定であり、前後方向(加減速)と左右方向(コーナリング)で使い切れる力の合計に上限があるのです。たとえば100のグリップ力があるタイヤなら、コーナリングに80使っているときは残り20しか加減速に使えません。コーナー中にフルブレーキや急アクセルを行うと、この摩擦円の限界を超えてタイヤが滑り出します。
これはバイクでも同じ物理法則です。コーナリング中に「ちょっと速度が乗りすぎた」と感じてバンク中に急ブレーキをかけると、前後方向へグリップを使い切ってしまい、横方向のグリップが失われ転倒につながります。摩擦円を意識した操作が条件です。
F1でドライバーが「トレイルブレーキング」という、コーナー進入時にブレーキを少し残しながらハンドルを切るテクニックを使うのも、この摩擦円をギリギリまで使い切るためです。プロが摩擦円をコントロールしているということですね。
F1チームは毎レースごとにアンダーステアを細かく調整しています。その方法は4つの軸に整理できます。バイクに直接当てはめられるものもあり、知っておいて損はありません。
① フロントウイング角度の調整(F1)
アンダーステアが強い場合、フロントウイングの角度を「立てる(角度を増やす)」ことでフロントタイヤへのダウンフォースを増やし、前輪の接地荷重を上げます。接地荷重が増えるとフロントのグリップ力が高まり、アンダーが改善されます。逆にオーバーステアが強い場合はリアウイングを立てることで後輪の安定性を上げます。
② タイヤ空気圧の調整(F1・バイク共通)
F1では、アンダーステア時にフロントの内圧を下げる方向に調整します。空気圧を下げると接地面積が増えてグリップが高まるためです。2004年スペインGPでトヨタのオリビエ・パニスがアンダーステアを示した際、チームはタイヤの空気圧調整でバランスを修正した記録が残っています。バイクも同じ原理で、フロントタイヤの空気圧が適正範囲よりも高すぎると接地面積が減ってコーナリングでアンダーが出やすくなります。
③ サスペンション調整(バイク直結)
フロント荷重が少なすぎるサスペンション設定(フロントが高すぎる・リアが低すぎる状態)では、コーナー進入時にアンダーステアが出やすくなります。フロントフォークの突き出し量やプリロードを調整して前後荷重のバランスを整えることが大切です。ただし、サスペンションより先にタイヤの状態を確認することが優先事項です。タイヤがダメな状態では、どれほど高性能なサスペンションを調整しても低い走行性能に引っ張られます。
④ スローインファーストアウト(バイクに直結)
コーナー手前で十分に減速し(スローイン)、クリッピングポイントを過ぎてから加速していく(ファーストアウト)走り方は、アンダーステアを防ぐための基本です。これが原則です。コーナー進入時の速度が高いとフロントタイヤのグリップが遠心力に負け、アンダーが出ます。コーナー出口で加速を始めることで、自然に荷重が後輪に移りフロントへの余裕が生まれます。
タイヤの状態確認が最初の一手です。日常的な空気圧チェックにはガソリンスタンドの備え付けゲージや、携帯型のデジタルタイヤゲージが役立ちます。
参考:F1でのアンダーステア改善に関わるフロントウイング・空気圧調整の実例。
トヨタGR「スペインGP 2004 現場レポート」(アーカイブ)
バイクは本来すべてオーバーステア特性を持つ乗り物です。意外ですね。定常円旋回で速度を上げていくと、バイクは内側に入ろうとする性質があります。しかし実際の道路では「アンダーステア」と呼ばれる現象が起こります。これは主に3つの場面で発生します。
場面① コーナー出口での早すぎるアクセル操作
クリッピングポイントを過ぎる前にアクセルを開けてしまうと、車体がコーナーを曲がりきる前に起き上がり始めます。車体が起き上がるとバイクの構造上ステアの切れ角が浅くなるため、ラインが外側に広がってしまいます。これが「出口のアンダーステア(パワーアンダー)」です。パワーアンダーです。
場面② 逆バンクのかかった右カーブ
日本の道路構造上、バイクのコーナリングで最も危険な状況の一つが「逆バンク」の右カーブです。道路のカントが逆についているため、通常の感覚で曲がろうとするとアンダーステアが強く出て、コーナーを曲がりきれずに路肩へオーバーランしてしまいます。何の変哲もない右カーブに見えても逆バンクであれば、いつもの速度では確実にアンダーが出ます。対処としては「普段より1段階減速・バンクをむやみに深くしない・視線を早めにコーナー出口へ向ける」の3点が重要です。
場面③ タイヤの劣化・空気圧の不適切管理
タイヤの空気圧が過剰に高いと、トレッド面の変形が減って接地面積が小さくなり、グリップ力が下がります。逆に空気圧が低すぎると高速走行時のタイヤの発熱が増え、バーストリスクが上がります。適正空気圧の維持が基本です。また、タイヤ溝の残量が少なくなると雨天時や冷えた路面でグリップが激減し、通常速度でもアンダーステアが出やすくなります。
バイク用タイヤの寿命は一般的に走行距離1万〜2万km程度が目安とされています(タイヤの種類や走行環境により異なります)。溝の残量だけでなく、サイドウォールのひび割れや製造年月日(タイヤ側面の4桁数字)から4〜5年を超えていないかもあわせて確認しましょう。
参考:逆バンクの右カーブにおけるバイクのアンダーステア現象と対処法。
F1の世界では「アンダーステアが嫌い」と公言するドライバーが大半です。なぜなら、アンダーステアが出るとコーナーでタイムが削られるだけでなく、フロントタイヤが外に流れている間はオーバーテイクもできないからです。ただ、完全なニュートラルステアよりも「弱アンダーを好む」ドライバーもいます。少しアンダーが出ていたほうがフロントの挙動が「わかりやすく」なり、ミスが減るというのが理由です。アラン・プロストが代表的で、弱アンダーセッティングを好みシーズン全体で安定した勝利を積み上げた走りで知られています。
この「弱アンダーのほうがコントロールしやすい」という感覚は、バイクライダーにも応用できます。バイクで突然スリップダウンする事故の多くは「アンダーが出ていると感じる間もなくフロントが抜けた」ケースです。わずかに弱アンダーを感じ取れる速度・バンク角で走ることは、フロントが完全にグリップを失う前に警告を受け取れることを意味します。
F1とバイクの挙動を比較すると次のような違いがあります。
| 比較項目 | F1マシン | バイク |
|---|---|---|
| 基本ステア特性 | 弱アンダーに設定 | 本来はオーバーステア特性 |
| アンダー発生主因 | コーナー進入速度超過・フロントダウンフォース不足 | コーナー出口の早いアクセル開け・逆バンク・タイヤ劣化 |
| 対処の基本 | フロントウイング調整・タイヤ空気圧・ブレーキングポイント修正 | スローイン・タイヤ点検・アクセルタイミングの遅らせ |
| アンダーの危険度 | コースアウト・タイムロス | 転倒・路外逸脱(命に直結) |
バイクのほうが危険度が高い理由は、四輪と違い転倒が直接ライダーの身体へのダメージにつながるからです。F1の場合はコースアウトしても多くの場合マシンが守ってくれますが、バイクにはその保護がありません。
F1ドライバーが「車の限界を把握しながら8割のグリップで走る」というように、バイクも「フロントのグリップが余っている感覚」を常に意識して走ることが安全につながります。つまり、フロントへの余裕が重要です。
ロードバイク向けの安全なコーナリング技術として、JAFやYAMAHAのライディングスクールでは実際の路面でアンダーステアを体験的に学べるカリキュラムが設けられています。頭で理解した知識を身体で確認したい場合は、こうしたスクールを一度活用してみる価値があります。
参考:F1のアンダーステアをバイク観点も含めて図解した徹底解説。
Formula1-data「アンダーステア 徹底解説(図解付き)」

TM-SQUARE ピロアッパー ZC33S コーナリング中のキャンバー角減少を抑制 アンダーステアを抑制 レスポンスの良いステアリングフィールへ 2種類の専用レンチ付属 アルミブロック製 TMPU-R01121