

BMW R12Sは、1973年に登場した伝説のレーシングマシン「R90S」への深いリスペクトから生まれたモデルです。R90Sはかつて「最初のBMWスーパーバイク」と呼ばれ、当時67psの最高出力と時速200km近い最高速を誇った名車でした。半世紀を経て、BMWはその精神をR12Sという形で現代によみがえらせています。
外観を一目見ただけで、そのオマージュっぷりは明らかです。「ラヴァ・オレンジ・メタリック」と名付けられた鮮烈なオレンジカラーは、R90Sの「デイトナ・オレンジ」を強く意識した設計。ブラッシュドアルミのタンクパネル、赤いダブルピンストライプ、シングルシートカウルが三位一体となり、見る角度によって違う表情を見せてくれます。実際、駐輪しておくだけで通りがかりの人が二度見するほどの存在感です。
細部のクオリティも特筆に値します。「Option 719」シリーズのビレットパーツが標準装備され、エンジンカバー、マシンドフットペグ、リザーバーカバー、バーエンドミラーにいたるまで、削り出しアルミの質感が随所に光ります。これがカタログスペックではなく、実際に乗るものとして出荷される標準仕様というのは、なかなかの太っ腹仕様です。
🔹 ライトカウル付きの小型フロントフェアリング
🔹 スポークホイール「Option 719 Wheel Classic II」
🔹 ハンプカバー付きシングルシート
🔹 ブラックアウトされた倒立フォーク
🔹 左出しデュアルサイレンサーのエキゾースト
つまり、見た目だけでなく質感まで徹底して作り込まれたモデルということですね。ライバルにあたるトライアンフ・スラクストンRが生産終了した今、現行ラインアップでここまでの完成度を持つカフェレーサーは、世界的に見ても非常に少なくなっています。
参考:BMWモトラッドジャパン公式プレスリリース(R12S日本発表・価格・スペック詳細)
BMW R12Sの心臓部は、1170ccの空油冷水平対向2気筒エンジン(ボクサーエンジン)です。最高出力は109ps(80kW)を7,000rpmで発揮し、最大トルクは115Nmを6,500rpmで絞り出します。数字だけ見ると「109psならほかにも同等の車種はある」と思うかもしれません。ここが注意が必要な点です。
ボクサーエンジンの真骨頂は、その数字ではなくトルクの「出方」にあります。2,000〜3,000rpm付近からすでに力強いトルクが立ち上がり、中回転域でぐいぐいと押し出すような加速感が得られます。ちょうど満員電車でドアが開いた瞬間に後ろから押し出される感覚に近く、アクセルを開けた瞬間に即座に前に進む感触が非常に鮮烈です。回転数を上げなくても十分に速い、そういうエンジンです。
ダイナミック・モードに設定すると、スロットルレスポンスがさらにシャープになり、コーナー出口での加速がひと味違います。反対に、渋滞の多い市街地走行ではロード・モードが適しています。ロード・モードはスロットルレスポンスをなだらかにしてくれるため、ギクシャク感が少なくなるメリットがあります。これは実用性の面で大きなプラスです。
一方で、エンジンブレーキに関しては独特の強さがあります。クローズドスロットルから少しだけアクセルを戻しただけでも強めのエンジンブレーキがかかる場面があり、慣れないうちは市街地の低速走行で戸惑うことがあります。これはボクサーエンジン特有の特性であり、数時間乗れば自然と慣れてきます。
6速トランスミッションにはクイックシフターが標準装備されています。ただし、1速〜3速でのクラッチレス・アップシフトはやや「コツン」と振動が出ることがあり、3速以上になって初めてスムーズな変速感が得られます。ダウンシフトはスリッパー機能のおかげで非常に扱いやすく、下り坂でのシフトダウンも安心感があります。
| スペック項目 | 数値 |
|---|---|
| エンジン形式 | 空油冷DOHC水平対向2気筒 |
| 排気量 | 1170cc |
| 最高出力 | 109ps / 7,000rpm |
| 最大トルク | 115Nm / 6,500rpm |
| 最高速度 | 約215km/h |
| 0-100km/h加速 | 約3.6秒 |
エンジン性能が基本です。それを存分に活かすために、ライディングモードの使い分けを意識することをおすすめします。
BMW R12Sの車重は220kg(燃料90%積載時)です。一般的な中型バイクと比べると確かに重い部類に入ります。ところが実際に乗ってみると、「220kgのバイク」という印象がまったくありません。これはボクサーエンジン特有の低重心配置が生み出す効果です。
エンジンが左右に飛び出した水平対向レイアウトは、重量物の位置を車体下方向に集中させます。ちょうど重いバッグを肩で持つよりも腰で持つほうが安定するように、重心が低いほどバイクは安定して扱いやすくなります。この特性のおかげで、細い路地でのUターンや低速でのコーナリングでも、重さに振り回されるような感覚がほとんどありません。
サスペンションは前後ともフルアジャスタブルを採用しています。フロントには倒立式45mmフォーク、リアにはBMW独自のパラレバー機能付きモノショックが組み合わさっています。
🔸 フロントサスペンション:バネプリロード・リバウンド・圧側減衰をすべて調整可能
🔸 リアサスペンション:バネプリロード・リバウンド減衰を調整可能(圧側減衰は固定)
街乗りからワインディングまで、特にセッティングを変更しなくても十分な性能を発揮するバランスが絶妙です。ただし、体重や走り方のスタイルに合わせてセッティングを調整できるため、長距離ツーリングにも対応できます。
ブレーキはブレンボ製ラジアルマウント4ピストン・モノブロックキャリパー+310mmフローティングディスク(フロント)という構成で、制動力は文句なしのレベルです。BMWモトラッドABS Pro(コーナリング時もABSが機能するシステム)が標準装備されているため、雨天や荒れた路面での安心感も高いです。
タイヤはメッツラー・スポーテックM9 RRというスポーツ系タイヤが標準装備です。ハイシリカコンパウンドを使用したこのタイヤは、グリップ性能と耐摩耗性のバランスに優れています。深いバンク角でもしっかりとトラクションを確保でき、コーナーを攻める際の安心感につながっています。
ホイールベースは約1511mmとやや長めの設定で、直進安定性が高くなっています。ステアリングダンパーも標準装備されており、高速走行時の安定感はさすがのBMWクオリティです。
参考:海外専門メディアによるR12Sシャシーの詳細レビュー
2025 BMW R 12 S Review: 13 Retro-Sport Fast Facts | Ultimate Motorcycling
日本国内価格2,977,000円(税込)という価格設定について、「高すぎる」という声があるのも事実です。それは正直な感想です。ただし、標準装備の内容を確認すると、その価格の理由がある程度納得できます。
標準装備として注目すべきポイントをまとめます。
| 装備カテゴリ | 内容 |
|---|---|
| 電子制御 | ライディングモード(Rain/Road/Dynamic)、DTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)、ABS Pro |
| 快適装備 | グリップヒーター、クルーズコントロール、ヒルスタートコントロール |
| 安全装備 | タイヤ空気圧センサー(TPMS)、ダイナミックブレーキライト |
| 利便性 | コネクテッド・ライド・コントロール(スマホ連携)、ETC 2.0(日本仕様)、キーレスライド |
| スタイル | Option 719ビレットパック、Option 719ホイールクラシックII |
| 保証 | 3年保証 |
特に「コネクテッド・ライド・コントロール」は、BMW Motorradアプリとの連携機能です。ルートナビゲーションや音楽再生、通話機能をメーター内のディスプレイに表示できます。ただし、アナログ計器を主体とした設計のため、フルTFTディスプレイとは異なり表示情報量は限定的です。これは使えそうです。
ライディングモードは3種類(レイン・ロード・ダイナミック)で、各モードによってスロットルレスポンスとトラクションコントロールの介入度が変化します。ダイナミックモードではトラクションコントロールの介入が最小化され、よりスポーティな走りが楽しめます。路面状況に合わせてモードを切り替えるだけで、同じバイクでも全く異なる乗り味になる点は現代的な強みです。
ただし1点、強調しておきたいことがあります。この価格帯でありながら、燃料計・航続可能距離表示がありません。「ヴィンテージ感を演出するためのインテンショナルな設計」とBMWは説明していますが、実際に乗るライダーからは戸惑いの声が多く聞かれます。走行距離をこまめにトリップメーターで確認し、16リットルのタンク容量と燃費(概算19〜20km/L前後)から残量を計算する必要があります。残量3.5リットルでリザーブランプが点灯するので、200km前後を目安に給油するのが安全です。
BMW R12Sは日本国内において、2025年1月に限定200台での販売が決定し、専用ウェブサイトでの予約受付開始からわずか5日で完売しました。これは単なるマーケティング上の話題性にとどまらず、このバイクに対する国内ライダーの熱量を示しています。
興味深いのは、購入検討者の反応です。「価格設定が強気すぎる」「同じエンジンを積むR12 nineTと比べて約44万円高い」という声がある一方で、「Option 719ビレットパーツの質感、専用ペイント、限定台数を考えれば妥当」という意見も多くあります。実際、Option 719ビレットパーツだけを単体で購入すると、追加コストはかなりの額になります。
乗り心地については、前モデル「R nineT Racer」との比較が興味深いです。R nineT Racerは2019年に生産終了しましたが、低いクリップオンハンドルが原因でロングライドでの快適性が著しく低く、ディスプレイモデルになっているケースも少なくありませんでした。R12Sはフラットハンドルを採用することで、腰・肩・手首への負担が大幅に軽減されています。これはありがたい変更点です。
ライダーの体格については、シート高795mm(31.3インチ)という設定が参考になります。身長175cm前後であれば片足が問題なく着くレベルです。170cm前後の方は、つま先が地面に届く程度になります。車重220kgとの組み合わせを考えると、停車時のバランスキープには慣れが必要な場面もあります。シート高が不安な方は、オプションのローシートへの変更や、ディーラーでの試座を強くおすすめします。
乾式クラッチ(ドライクラッチ)についても知っておきたいポイントがあります。乾式クラッチはオイルに浸っていないため、湿式クラッチより動力伝達効率が高い反面、熱に弱いという特性があります。夏場の渋滞路や長時間の半クラッチ操作が続くと、クラッチが過熱してにおいや音が発生することがあります。渋滞が多い都市部での日常使いを想定している場合は、この点を頭に入れておく必要があります。
🔺 乾式クラッチに優しい走り方のポイント
🔺 半クラッチの多用を避ける(特に渋滞時)
🔺 発進は速やかにクラッチをつなぐ
🔺 渋滞時はなるべくエンジンブレーキ+前後ブレーキで調整
BMW R12Sは「見た目で買う」バイクではなく、「走りと見た目を両立して楽しめる」バイクです。結論はシンプルです。ただし、燃料計の非搭載や乾式クラッチの熱問題など、事前に理解しておくべき特性があることも事実です。購入前に必ず試乗し、自分の走行スタイルに合うかを確かめることが、長く愛車として付き合うための第一歩になります。
参考:BMW R12 nineTの日本ユーザーによる燃料計なし問題の実体験レビュー
BMW R 12 レビュー・評価 | 価格.com
参考:カフェレーサー専門メディアによるBMW R12S詳細ファーストライドレビュー
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