

125ccのダートトラックは、オフロードタイヤではなくオンロードタイヤを履いて走ります。
ダートトラックとは、土(ダート)の上に作られた単純な長円形のオーバルコースを、スライドさせながら周回するモータースポーツです。アメリカを発祥とし、かつてはハーレーダビッドソンやトライアンフといった大排気量マシンが主役を務めた歴史ある競技ですが、現在の日本では125ccクラスのミニバイクで楽しむスタイルが急速に広まっています。
公式競技としてのトラックは1周400m(ショートトラック)、800m(ハーフマイル)、1,600m(マイルトラック)の3種類が存在しますが、日本では200m〜400mの小規模コースが多く、これが125ccの小排気量バイクとの相性を高めています。小さいコースで低速スライドを繰り返す練習スタイルが、125ccという排気量にぴったりはまるのです。
そもそも、なぜ125ccがダートトラックに向いているのでしょうか? 理由は3つあります。
まず、車体が軽いためリアタイヤを意図的にスライドさせやすいことです。250cc以上のバイクでは、スロットルを開けた瞬間に強烈なトルクがかかり、スライドのコントロールが難しくなります。一方、125ccなら扱いやすいパワー特性のため、スライドの入り口・出口を自分でコントロールしながら学べます。
次に、維持費の安さです。小型限定普通二輪免許(AT限定不可)で乗れるため、免許取得コストも抑えられ、自賠責保険料も年間数千円レベルで収まります。コースを1日走り込んでも消費燃料はわずかで、ランニングコストが非常に低い点も大きな魅力です。
最後に、転倒してもダメージが少ないことです。ダートトラックはオーバルコースを反時計回りに走るだけの競技ですが、スライドをコントロールできなければ必ず転倒します。125ccなら転倒時の車体への衝撃が小さく、バイクの修理費用も比較的抑えられるため、初心者が「転んで覚える」サイクルを安心して繰り返せます。
つまり125ccが条件です。 入門から競技レベルまで、コストと技術習得の両面で125ccはダートトラックにとって理想的な排気量といえます。
📎 MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)によるダートトラックレースの公式競技説明ページ。コースの種類や走行ルール、競技概要がまとめられています。
125ccでダートトラックを始めるなら、どのバイクを選ぶかが成長スピードを大きく左右します。「とりあえずなんでもいい」という考え方は、この競技では通用しません。車両の特性がスライドコントロールに直接影響するため、最初から正しい道具を選ぶことが上達の近道です。
① ホンダ CRF125F(新車価格:約34万円)
ダートトラック入門車の定番として、国内外のライダーから長年支持されている1台です。全長1,855mm、車重88kgとコンパクトで、空冷4ストローク単気筒の扱いやすいエンジンを搭載しています。2018年モデル以降はインジェクション仕様に進化し、スロットルレスポンスが大幅に向上しました。セルモーター付きでエンジン始動が楽なのも初心者には嬉しいポイントです。
注意点は、毎年まとめて生産される限定販売モデルという点です。2019年モデルは170台が2月1日に発売開始され、6月時点ですでに完売というほどの人気ぶりです。発売アナウンスを見逃すと1年待ちになることもあるため、欲しい場合は販売店に早めに問い合わせておくことをおすすめします。中古車の相場は22万〜31万円程度で、中古で探すのも選択肢のひとつです。
② YCF FT124S(フランス製・新車価格:30万円台前半)
フランスのバイクメーカー・YCF(ワイシーエフ)が製造するフラットトラック専用設計マシンです。「裏庭の戦いに最適!」というキャッチコピーが示すとおり、最初からダートトラック走法に特化した車体設計になっています。ホイールベースが長めに設定されており、スライドがゆっくりと大きく始まるため、コントロールしやすいのが特徴です。
フロントブレーキも標準装備されているため、初心者でも安心して練習を始められます。専用マシンとしての完成度が高く、購入後すぐにコースへ持ち込める「ポンで始められる」仕様です。YCFのバイクは一部のバイクショップで取り寄せ対応しているため、まずは取扱店舗を探すことが第一歩になります。
③ ホンダ FTR223(中古車が豊富・相場10〜20万円台)
「ジャパニーズトラッカー」として長年親しまれた名車で、2000〜2016年に生産されました。中古市場に台数が豊富で、カスタムパーツも充実しているため、「安く始めたい」「自分でいじりながら仕上げたい」というライダーに向いています。
前後18インチのフルサイズホイールのため、ダートトラック仕様にする際は前後19インチホイールへの変更とSHINKO製ダートトラックタイヤへの換装が推奨されています。ホイール交換込みで合計3〜5万円ほどのカスタムで、本格的なレース仕様に近いセットアップが可能です。これは使えそうです。
| 車種 | 新車/中古 | 価格目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| CRF125F | 新車・中古 | 22〜34万円 | 入門定番。セル付き・インジェクション |
| YCF FT124S | 新車 | 30万円台前半 | フラットトラック専用設計。ポン乗りOK |
| FTR223 | 中古 | 10〜20万円台 | カスタムパーツ豊富。コスパ重視向け |
📎 LAWRENCE(ローレンス)掲載の「これから始めるダートトラック・エントリーマシン」記事。CRF125FやFTR223のセットアップ例と選び方が詳しく掲載されています。
ダートトラックは、タイヤ選びで走りの質が劇的に変わります。これが基本です。一般的にオフロードを走るバイクにはブロックタイヤが使われますが、ダートトラックでは「ブロックタイヤは使用禁止」というのが鉄則です。コースの土をブロックタイヤで掘り返してしまい、路面が荒れてしまうためです。フラットトラック場のルール上もブロックタイヤは認められていません。
では、何を履けばいいのでしょうか? ダートトラック用のタイヤとして定番なのが、SHINKO(シンコー)製のSR241やSR267です。溝が適度に切られているため、土の上でもグリップしながらスライドを引き出せる特性があります。
CRF125Fの場合、純正タイヤサイズはフロント70/100-19、リア90/100-16です。このサイズにSHINKO SR241を前後に装着するだけで、手軽にダートトラック仕様になります。タイヤ代はフロント・リア合わせておよそ1〜2万円程度です。前後同時に交換することで前後バランスが整い、スライドのコントロール性が向上します。
カスタムについては、最低限やっておきたいポイントがいくつかあります。
まず、リアブレーキペダルの位置調整です。ダートトラックではフルバンク中にもリアブレーキを踏めることが非常に重要です。ペダルをフットペグより低い位置に設定することで、バンク中でもスムーズにブレーキ操作ができるようになります。次に、シフトレバーの可倒式化です。転倒時にシフトレバーが曲がって走行不能になるトラブルを防ぐために、社外品の可倒式レバーへの交換が推奨されています。CR85R純正レバーが流用されるケースも多いです。
FTR223の場合は、前後ホイールを19インチに変更し、SHINKOのSR267(またはDUNLOP DT3)を装着するのが定番のスタートアップ仕様です。ノーマルのエアクリーナーをK&Nフィルターに変更し、マフラーを社外品に替えるだけでエンジンのレスポンスも改善されます。
また、フロントフェンダーを取り外すのもダートトラッカーの定番スタイルです。見た目だけでなく、路面からの情報をより多くつかめる効果があるとされています。意外ですね。大規模なエンジンチューニングやフレーム改造は、基本的な走り方を習得してから少しずつ進めていくのが正解です。
📎 CRF125Fのフラットトラック仕様への仕立て方、タイヤ選び、おすすめカスタムパーツをまとめたレビュー記事。実際に乗った感想も掲載されています。
ダートトラックの走り方は、一般的なオフロード走行やモトクロスとは根本的に異なります。もっとも大きな違いは、「スライドを積極的に使ってコーナーを曲がる」という点です。オンロードライダーがコーナーでタイヤをグリップさせてラインをトレースするのとは正反対の発想で走ります。
基本的なコースの走り方は、反時計回りのオーバル(左回り)です。これはアメリカのダートトラック文化に由来するもので、左コーナーのみで構成されたコースを繰り返し周回します。
コーナリングの基本シークエンスは次のとおりです。直線で十分に加速した後、スロットルをオフにしながら車体をフルバンクさせます。すると不思議なことに、リアブレーキで意図的にロックさせているわけでもないのに、リアタイヤがスライドし始めます。これは、オンロードタイヤがダートの上に乗ったときに生まれる「グリップの限界を超えた滑り」の現象です。
スライドが始まったら、ハンドルの向き・バンク角・リアブレーキの踏み加減でスライド量をコントロールします。クリッピングポイントに近づいたら車体を起こしながらスロットルを開け、パワースライドに移行して直線加速へとつなげます。
初心者がよく誤解しているのは、「カウンターステアを当ててコントロールする走り方」だという思い込みです。実際には、入り口での荷重移動とフルバンクによってスライドを引き出すのが正解で、カウンターステアは結果として当たるものです。左に曲がるのに右にハンドルを切る感覚は、理屈よりも身体で覚えるしかありません。
スライド走法をより早く習得するためにいくつかの練習段階があります。
- Step 1:低速でのバンク練習 ── コース入門初日は低速でバンク角を深めることに集中する。スライドは引き出そうとしなくていい。
- Step 2:スロットルオフでのスライド体験 ── 加速から緩やかにスロットルオフ+バンクを繰り返し、スライドが始まる感覚を体感する。
- Step 3:リアブレーキのコントロール ── スライド中のリアブレーキの踏み加減でスライド量が変わることを意識しながら練習する。
- Step 4:スロットルとの連携 ── クリッピングから立ち上がりにかけてスロットルを徐々に開けながらスライドを維持する練習をする。
スライドの感覚が分かると一気に楽しくなります。 多くの経験者がこのスポーツにハマる理由がここにあります。最初の数回は転倒が当たり前であり、転んで上手くなるという感覚を楽しめるかどうかが、続けられるかどうかの分かれ目です。
📎 LAWRENCE掲載のダートトラック走法解説「あわてるな 滑るタイヤがブレーキだ」。スライドの基本シークエンスとブレーキング走法の仕組みが詳しく説明されています。
ダートトラックを安全に楽しむためには、適切な装備の準備が不可欠です。ここで意外と見落とされがちなのが「鉄スリッパ(ホットシュー)」の存在です。オンロードや林道ツーリングでは見かけることのないアイテムですが、ダートトラックでは「鉄スリッパなしには始まらない」といっても過言ではありません。
鉄スリッパ(ホットシュー)とは何か?
鉄スリッパとは、バイクブーツのつま先に取り付ける金属製のカバーです。コーナーでバンクが深くなった際に、左足を地面に擦りながらコーナーに侵入するためのアイテムです。足がコースの土の上に接地することで、バンク角の目安になるとともに、車体の安定感が増します。価格は市販品で5,000〜15,000円程度。ブーツに合わせてオーダーメイドで製作してくれるショップも存在します。
鉄スリッパがないと、バンクが深まったときに足が持っていかれる危険性があります。また、深いバンク中に地面からの衝撃を逃がす場所がなく、転倒リスクが高まります。これは痛いですね。
その他の必須装備
| 装備 | 内容 | 目安価格 |
|------|------|---------|
| ヘルメット | オフロード用が快適。オンロード用でも可。 | 1.5万円〜 |
| ゴーグル | 砂ぼこりが激しいため必須。 | 3,000円〜 |
| プロテクター | 胸・背中・肘・膝を守る。コミネなどリーズナブル品でも可。 | 1〜3万円 |
| ブーツ | オフロードブーツが理想。オンロードブーツでも走行可能。 | 1〜3万円 |
| 鉄スリッパ | フラットトラック専用ブーツカバー。必須。 | 5,000〜15,000円 |
一般的なモトクロス装備を持っているライダーであれば、鉄スリッパを追加するだけで始められます。装備面のハードルはそれほど高くありません。
注意点として、ブーツ選びには少し気を使う必要があります。硬すぎるオフロードレーシングブーツは足首の可動域が狭く、鉄スリッパ装着時にブーツカバーとの干渉が起きることがあります。比較的柔らかめのブーツ(アルパインスターズのエントリーグレードなど)の方が、鉄スリッパとの相性がよい場合も多いです。
また、ダートトラックを体験できるコースや施設は全国的に限られています。埼玉県川越市のオフロードヴィレッジ、三重県のいなべモータースポーツランドなどが代表的な練習場として知られており、初心者向けの体験走行や定例練習日(オープンプラクティス)を開催しているところもあります。事前に施設のウェブサイトや問い合わせで走行ルールと必要装備を確認してから訪れることをおすすめします。
📎 鉄スリッパ(ホットシュー)の構造と使い方、取り付け方についての解説ページ。ダートトラック専用ブーツカバーの基礎知識が学べます。
ダートトラックのトレーニングは、実はオンロードライダーの走りの質を大幅に向上させる手段として、世界中のプロライダーが積極的に取り入れています。MotoGPやスーパーバイクのトップライダーたちも、シーズンオフにダートトラックで基礎トレーニングを行うことで知られています。
なぜダートトラックがオンロードのスキルアップにつながるのでしょうか?
最大の理由は、「意図的にタイヤを滑らせてコントロールする」という経験が、グリップの限界を肌感覚で理解させてくれるからです。アスファルトの上でタイヤのグリップが突然失われると、ほとんどのライダーはパニックになります。しかし、ダートトラックで何度もスライドを経験し、「滑り出してもコントロールできる」という感覚を体得したライダーは、オンロードでも余裕を持ってラインを選べるようになります。
実際に、アメリカン・スーパーキャンプというダートトレーニングスクールでは、長年ホンダXR/CRF100Fや125Fを教習車両として使用してきた実績があります。世界的なプロライダーを数多く輩出したこのプログラムが125ccクラスを採用している理由は、「扱いやすいパワー特性こそが正しいスライドコントロールの習得を最速にする」という考え方があるからです。
さらに、ダートトラックで養われる「車体の向きと荷重の感覚」は、林道ツーリングや雨の日の公道走行にも応用できます。125ccのダートトラックバイクで半日練習するだけで、公道でのコーナー侵入時のブレーキング精度が上がったという声は、経験者の間では珍しくありません。
つまりダートトラックです。 単なるオフロード遊びではなく、バイク全般の運転技術を底上げするトレーニングとして捉えると、125ccという「非力に見える排気量」がいかに理にかなった選択であるかがよく分かります。
125ccのダートトラックバイクを手に入れて週末の数時間コースを走るだけで、オンロードライダーとしての引き出しが確実に増えます。初期費用を抑えながらバイクの楽しさを2倍にしたいライダーにとって、ダートトラックは費用対効果の高いオプションです。